ブランド構築:ステップバイステップガイド

A step-by-step guide to building a brand

ブランドをゼロから構築することは、大変な作業です。新規事業のブランドを立ち上げる、企業の合併後に新しいブランドを設立する、既存のブランドを再構築するなど、いずれの場合であっても、そのためには、膨大な時間、コスト、リサーチが必要となります。

しかし、優れたブランドイメージは、オーディエンスからの評判を高めるための重要な要素のひとつです。その構築は容易なことではありませんが、決して複雑ではありません。

次の10ステップに従うことで、ブランドを構築できます。

  1. オーディエンスの特定
  2. 競合調査
  3. ブランドの目的とポジションの定義
  4. ブランドパーソナリティとブランドボイスの確立
  5. ブランドストーリーの構築
  6. ブランド名の選定
  7. スローガンの作成
  8. ブランドロゴのデザイン
  9. ブランドの社内浸透
  10. リブランディング

本記事では、次の項目についても解説します。

ブランドとは?

ブランドとは、まとまりのあるイメージを形成するために組み合わされた、一連のリソース(ビジュアルアセット、スタイルなど)を指します。 ブランドには、ロゴ、名前、スローガンだけでなく、メッセージのトーンや従業員の服装規定など、企業の評判に影響するあらゆる要素が含まれます。すなわち、自社の認知度を高めるさまざまな手法は、ブランドを体現します。

強力なブランドイメージは、自社を差別化するのに役立ちます。オーディエンスに好印象を与えることができれば、見込み客を惹きつけ、既存顧客を維持することが容易になります。これにより、ロイヤルティの高い顧客が自社を支持し、自然なマーケティングが促進されます。

ブランド構築の必須要素

ブランディングは通常、ブランド戦略、ブランドアイデンティティ、ブランドマーケティングのいずれかに分類されます。これらは重複していますが、大きな相違点もあります。優れたブランドイメージを構築するには、これらすべてが必要です。

ブランド戦略

ブランド戦略では、ブランドイメージの全体像を決定し、目標に優先順位を付け、それに応じて計画を立てます。一貫性は、しっかりとしたブランドを構築するための基盤となります。そのため、ブランド構築に着手する前に、明確な計画を策定することが重要です。

ブランドにプロフェッショナルで威厳のあるトーンを持たせたいのか、それともカジュアルで口語的なトーンを採用するのかを検討しましょう。続いて、ターゲットにするデモグラフィック情報を決定します。これらの要素を明確にすることで、ブランド構築の最初の手順をスムーズに進めることができます。

ブランドアイデンティティ

ブランドアイデンティティは、基本的な概念を具現化するための取り組みです。これには、色の決定やブランドメッセージの作成など、さまざまな作業が含まれます。それらの作業を一貫性のある方法でおこなうことで、オーディエンスがさまざまなコンテクストやチャネルで自社を認識できるようにします。

ブランドマーケティング

ブランドマーケティングとは、戦略とアイデンティティを活用して、ビジネス成果につなげるための取り組みを指します。ブランドマーケティングでは、ソーシャルメディアのターゲティング、広告予算の配分などに焦点を当てます。マーケターは、メッセージの作成方法と施策の実践方法を把握している必要があります。

ブランドの構築方法

ブランド構築を10ステップで示すと、多くのステップがあるように感じるかもしれません。しかし、プロセス全体を細分化することで、管理しやすくなります。ここでは、それぞれのステップを具体的に解説します。

1.オーディエンスの特定

ブランドの構築に先駆けて、そのブランドが誰をターゲットとするのかを検討する必要があります。ターゲットオーディエンスを明確に特定することは、ブランド構築において省略されがちです。しかし実際には、さまざまなオーディエンスがそれぞれ異なるトーン、スタイル、パーソナリティに反応します。オーディエンスが何を求めているのかを事前に把握することで、オーディエンスとのつながりやエンゲージメントを促進するブランドを設計することが、はるかに容易になります。

Elements to building a brand: Identify your audience with user profiles

オーディエンスを容易に特定する方法のひとつは、ペルソナを作成することです。ペルソナとは、商品やサービスを売り込みたい見込客像を指します。年齢、居住地、収入などの基本情報だけでなく、政治的見解、ユースケース、購買履歴のある関連ブランドなど、より詳細な情報を考慮する必要があります。ブランドを構築し、ビジネスが成長するにつれて、オーディエンスをより詳細に理解できるようになります。

2.競合調査

競合調査を実施することで、独自の地位を構築する方法を見つけやすくなります。非効率な分野や、サービスが行き届いていない分野など、市場の課題をビジネスの機会として捉え、競争優位性を獲得する方法を模索しましょう。

webサイト、価格設定、ブランドボイスなど、競合他社をさまざまな角度から調査しましょう。優れたSEO施策は、オーガニック検索を通じて安定したwebトラフィックを生み出すことができます。また、競合他社のwebサイトを検証し、どのようなトピックをターゲットにすべきかを見極めましょう。キーワード調査ツールを利用すれば、競合他社がターゲットにしていないテーマを特定することもできます。

Elements to building a brand: Research your competitors

上図のようなスプレッドシートは、調査結果に優先順位を付けるのに役立ちます。これにより、競合他社と比較した際の自社のポジションが明確になり、差別化するためのより効果的な方法を見つけることができます。

3.ブランドの目的とポジションの定義

業界における自社の立ち位置を検討しましょう。まず、自社が達成したい目標を明確に伝えるために、パーパスステートメントまたはミッションステートメントを作成します。その際、ブランディング施策に役立つ情報を提供できるように、コアバリューだけでなくビジネス計画も考慮する必要があります。

ミッションステートメントの作成に苦慮している場合は、自社について、次のような基本的な質問に答えてみましょう。


ここで留意すべき点は、ミッションステートメントは、オーディエンス向けのマーケティング施策ではなく、主に社内の意識のすり合わせを目的としていることです。今後のステップでマーケティングメッセージを作成するため、ミッションステートメントの体裁にこだわる必要はありません。

例えば、ナイキは「Just do it」という印象的なスローガンを掲げています。一方、「すべてのアスリートにインスピレーションとイノベーションをもたらす」という同社のミッションステートメントは、奇抜なものではありません。ミッションステートメントの目的は、商品の設計および開発から、マーケティング、販売に至るまで、同社のあらゆる活動を適切な方向へ導くことにあるのです。

4.ブランドパーソナリティとブランドボイスの確立

ブランドパーソナリティは、ブランドの最も重要な側面のひとつです。自社の独自性を示すことで、ターゲット顧客を容易に惹きつけることができます。

webサイトのコピーからソーシャルメディアのプロフィール、電子メール、商品ページに至るまで、ブランドの活動全体で一貫性のあるブランドボイスが反映されるようにします。顧客とやり取りする際は、明確なブランドボイスとパーソナリティを常にアピールする必要があります。ブランドボイスの選定は、オーディエンス、ミッションステートメント、業界によって大きく異なります。例えば、Z世代のオーディエンスはスラングを頻繁に使用します。そうしたオーディエンスと接触したい場合は、スラングをブランドボイスに取り入れることを検討しましょう。

インスピレーションを得るために、ターゲットオーディエンスが自社の分野でどのようなパーソナリティに興味を持っているのかをリサーチしましょう。ここでは、独自のパーソナリティを概念化、定義、構築するのに役立つ、5つの基本的なブランドパーソナリティの特性を紹介します。

Elements to building a brand: Brand personality and voice


自社のブランドパーソナリティを把握したら、スタイルガイドを作成します。自社のブランドを実在の人物として捉え、その人物の話し方を想像しましょう。単語の選択や略語の使用まで掘り下げて、どの程度フォーマルまたはカジュアルなトーンにするのかを決定します。

Example of Harley-Davidson's rugged personality


例えば、Harley-Davidsonは、無骨で大胆なトーンを用いることで、顧客の共感を得ています。

5.ブランドストーリーの構築

ブランドストーリーは、オーディエンス一人ひとりとつながるための手段です。マーケティング戦略にストーリーを取り入れることで、顧客に対する訴求力を高めることができます。

Donald Miller氏は、自身の著書『Building a StoryBrand(ストーリーブランドの構築)』において、ブランドストーリーに含めるべき要素を解説しています。まず、ストーリーの主人公、すなわち顧客が誰なのかを明らかにします。続いて、課題を提示します。主人公は、将来の失敗を避けるための計画と行動を教示してくれるガイドに出会います。この単純なシナリオでは、ブランドをガイドとして、独自の価値提案を計画としてストーリーを構築します。

ストーリーテリングは、ミッションステートメントを補足する優れた方法のひとつです。ブランドの存在意義と信念を明確に伝えることができます。ストーリーを構築したら、広告やランディングページに組み込みましょう。

Burt's Bees creating a brand story

Burt’s Beesは、検索結果ページで優れたストーリーを展開しています。同社のストーリーでは、顧客がスキンケアの課題を抱えていることを前提としています。また顧客は、刺激の強い化学物質によって健康を損ないたくないというジレンマにも直面しています。そこで同社は、天然素材のスキンケアという最適な解決策を提案しています。

6.ブランド名の選定

ブランドの命名は、最も重要な決定のひとつです。多くの主要なブランドでは、略語またはひとつの単語やふたつの単語から成る、印象的で覚えやすい名前を採用しています。

ここでは、ブランド名を考案するときに役立つ、簡単なテクニックをいくつか紹介します。


ブランド名を決定する前に、その名前と類似するバリエーションを検索し、それらのバリエーションがどのくらい存在するかどうか確認しましょう。競合他社に類似した名前を選択すると、トラフィックが競合他社に流れてしまう可能性があります。

7.スローガンの作成

Elements to building a brand: Slogans

強力なスローガンは、ブランド構築に不可欠です。ソーシャルメディアのプロフィール、webサイトのヘッダー、電子メールの署名など、さまざまなスペースに容易に収まるように、要点をまとめる必要があります。スローガンは、簡潔で覚えやすく、他のブランディング施策との一貫性を維持している必要があります。スローガンがどれほどキャッチーかつ印象的であったとしても、それが他のブランディング施策と矛盾している場合、顧客の混乱を招くことになります。

簡潔でインパクトのあるものであることを除いては、スローガンの作成に関する絶対的な基準はありません。ここでは、いくつかの具体的なアプローチを紹介します。


ブランド名とは異なり、スローガンはいつでも変更できます。ターゲットオーディエンスとエンゲージメントする中で、どのアプローチがオーディエンスの心に響くのかを把握し、スローガンを調整しましょう。例えば、Wendy’sは、過去数十年にわたってスローガンを数回変更しました。1984年に同社が掲げた「Where’s the beef?(牛肉はどこ?)」というスローガンは、大きな成功を収めました。その後、同社はスローガンを「Give a little nibble(ひとかじり)」に変更しましたが、大きなインパクトを与えることはできませんでした。そこで同社は、スローガンの方向性を転換し、「never-frozen(冷凍されていない)」牛肉パテを使用していることをアピールすることにしました。

8.ブランドとロゴのデザイン

ロゴは、ブランドの第一印象を左右する重要な要素のひとつです。自社の顔となるため、優れたロゴをデザインする必要があります。

一般的に、ロゴにはさまざまなビジュアルが組み込まれているため、考慮すべき点がいくつかあります。特に、カラーパレット、タイポグラフィ、画像は、効果的なロゴデザインに欠かせない要素です。

Elements to building a brand: Color

ブランディングにおいて、色は特定のメッセージを伝えるのに役立ちます。ロゴをデザインするときは、色の心理的効果を考慮する必要があります。色彩理論を研究し、ブランドを通じて何を表現したいのか、人々にどのように感じてもらいたいのかを明確にしましょう。

フォント

ブランドボイスとパーソナリティを的確に表現できるフォントを選択しましょう。フォントは、色や画像と同様に、トーンやブランドアイデンティティを伝えるのに役立ちます。太字で幅広のフォントは、力強さを表します。セリフ体は、威厳のある印象を与えます。スクリプト体を使用すると、より遊び心のあるブランドイメージを表現できます。

ロゴにテキストを含める場合、プラットフォームや素材によっては、モノクロの小さいフォントで表示せざるを得ないことがあります。そのような場合でも、読みやすいデザインを心掛けるようにしましょう。

画像

ロゴに使用される画像には、いくつかの主要なタイプがあります。ビジネス目標やマーケティング目標に最適なものを選択しましょう。


ブランドを特定の要素に関連付けたい場合は、身近な情報源からインスピレーションを獲得し、独創的かつ容易に識別できるロゴを作成しましょう。例えば、多くの米国人は赤い標的のロゴを見ると、すぐにTargetを連想するでしょう。このロゴは、まさに同社と結び付いているのです。

9.ブランドの社内浸透

ブランドの基盤を確立したら、それを社内に浸透させ、全社を挙げて活用できるようにする必要があります。

スタイルガイドを作成し、あらゆるチャネルでブランドボイスとプレゼンスの一貫性を確保しましょう。スタイルガイドでは、ブランドが目指すサウンド、ルック、フィールについて詳細に説明しましょう。ソーシャルメディアの投稿、マーケティング施策、webサイトのデザインなど、自社のあらゆる活動を通じて、ブランドのパーソナリティを明確に伝える必要があります。

Example of a brand integration and style guide

Warby Parkerは、オンラインと実店舗の両方で魅力的な体験を生み出すことに重点を置いた、顧客中心のブランドを構築しています。家庭用の試着ボックスから、商品の陳列に至るまで、同社のあらゆる側面にわたって、すっきりとした洗練されたデザインが取り入れられています。ブランドボイスは率直かつミッションドリブンで、オーディエンスにわかりやすい言葉で自社の強みを伝えています。この一貫したメッセージにより、顧客とやり取りするチャネルを問わず、同様の体験を届けることができます。

10.リブランディング

一貫性は、ブランドの長期的な安定とエンゲージメントを実現するうえで欠かせない要素です。しかし、効果のない戦略を続ける必要はありません。場合によっては、リブランディングが、新たなオーディエンスを惹きつけながら、既存顧客にアピールし続ける最も実践的な方法となることもあります。

リブランディングとは、ロゴの軽微な変更から、配色、ボイスのトーン、ターゲット層の大幅な転換に至るまで、ブランド変革のさまざまな取り組みを指します。ビジネス目標によっては、ロゴのフォントを調整するだけで、ブランドイメージに大きなインパクトを与えることができます。

リブランディングを導入する前に、あらゆる角度から慎重に検証する必要があります。まず、既存顧客から直接フィードバックを収集し、自社にどのようなイメージを抱いているのかを把握しましょう。ここでは、見込客よりもロイヤルティの高い顧客の意見を重視することが大切です。新規のターゲットオーディエンスに類似する他の顧客グループから、有意義なインサイトを得ることも可能です。しかし、ロイヤルティの高い顧客は最も価値のあるオーディエンスであるため、軽視すべきではありません。

Elements to building a brand: Rebranding

リブランディングの成功例として、Dunkin’の例を紹介します。70年近くにわたって「Dunkin’ Donuts」として知られていた同社は、2019年、「Dunkin’」に改名することを発表しました。同社は、「America runs on Dunkin'(Dunkin’は米国の元気の源)」というスローガンを10年以上掲げてきたことを踏まえて、この変更を決断しました。短縮された新しい名前に対するオーディエンスの反応について、十分な時間をかけて検証したのです。

2018年後半に名称変更を発表したあと、同社は2020年、1株あたり106.50ドルの評価額で買収され、株式を非公開化しました。同社の株価は、わずか2年で約50%上昇したことになります。これは、リブランディングが大きな機会をもたらすことを示す例のひとつにすぎません。

ブランド構築を始めましょう

ブランド構築とは、ビジネス戦略、アイデンティティ、マーケティング施策を定義し、顧客にどのように認識してもらいたいのかを決定するプロセスです。ブランド名だけに注目するのではなく、目標、ビジュアル、トーン、施策の組み合わせを包括的に考慮する必要があります。これらの要素は、ブランドの可視性とオーディエンスの認知度を高め、望ましい方法でオーディエンスとやり取りするのに役立ちます。

幸いにも、顧客エンゲージメントの向上に役立つツールは数多くあります。これらのツールを利用すれば、ブランド構築を開始する前であっても、大きなメリットを享受できます。さまざまなチャネルで顧客とエンゲージメントする方法を把握し、優れた顧客体験を創出できます。

Adobe Experience Cloudは、インパクトのあるデジタル体験を通じて、魅力的なブランドを構築するのに役立ちます。優れた顧客体験の創出に必要となる、あらゆる能力とサービスを備え、顧客エンゲージメントの分析、ニーズの把握、ロイヤルティの強化など、デジタル体験の構築をエンドツーエンドでサポートし、ビジネスを成功に導きます。

Adobe Experience Cloudが、B2CとB2Bの両方で有意義な顧客体験を構築し、ブランドの優位性を確保するのにどのように役立つのか、概要ページをご覧ください。