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ハイブリッドCMSとは?従来型CMSとの違いやメリットを解説

企業は日々、膨大なコンテンツの更新に追われています。その更新規模は、企業の規模や業態によってまちまちですが、大企業では1日に数千もの更新量、という場合もあるでしょう。それほどの膨大なコンテンツを、ひとつのチャネルだけに向けて配信するだけでも、大変な作業量です。しかし現代は、次々と新しいチャネルが登場し、対応すべきチャネル数も増える一方です。この記事では、このような膨大なコンテンツの制作と配信のニーズに対応するために登場した、ハイブリッドCMSについて解説します。

目次

  • CMS進化の背景
  • CMS市場の拡大と選択肢の変化
  • ヘッドレスCMSのメリットとデメリット
  • ヘッドレスCMS移行で見過ごされていること
  • 企業がCMSを採用する理由は一元化
  • 組織全体で利用できるハイブリッドCMS
  • まとめ

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CMS進化の背景

CMS(コンテンツ管理システム)は、インターネット黎明期に登場して以来、進化を続けています。デジタル消費の加速にともない、コンテンツ主導の体験が注目されるようになったことが、その要因のひとつでしょう。新しいコンテンツを絶えず制作し、提供する必要性が高まったのです。

そこで企業のデジタルリーダーは、あらゆるチャネルでコンテンツを効率的かつ効果的に管理する方法を見出すことが、ますます求められています。

CMS市場規模は、成長を続けています。Allied Market Researchのレポートによると、2016年から2023年にかけて、世界のCMS市場規模は、659億2,900万ドルに増加すると予測されました。

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CMS市場の拡大と選択肢の変化

CMS市場の拡大により、従来型のCMSに加えて、ヘッドレス型、ハイブリッド型と呼ばれるカテゴリーのCMSが登場し、発展しつつあります。そのため企業にとっては、自社を取り巻く市場のニーズに対応するため、どのようなCMSを選ぶべきか、その選定方法も複雑になってきています。

従来型CMSの時代

従来型CMSは、webサイトを対象としたコンテンツ管理システムです。一般的に、フロントエンドとバックエンドのアーキテクチャが一体化されており、長きにわたり、コンテンツ体験を管理および提供する主流の方法となっていました。

しかし、デジタルの進展にともない、企業が対応すべきデジタルチャネルも、モバイルアプリ、スマートデバイス、デジタルアシスタントなど、増加の一途を辿っています。こうした新興チャネルを人々が使い始めると、そのチャネルに対応していない企業は、顧客にリーチする手段を持たないことになります。従来型CMSを利用したままでは、こうした新興チャネルには対応できないことになります。

ヘッドレスCMSの登場

そこで登場したのが、ヘッドレスCMSです。ヘッドレスCMSの最大の特長は、フロントエンドとバックエンドが切り離されたアーキテクチャ、ということです。Kentico Softwareのレポートによると、ヘッドレスCMSの普及率は、1年以内に2倍に増加すると予測されています。

人々は今日、一日日の1/3近くをデジタルコンテンツの閲覧に費やしており、複数のチャネルを頻繁に利用していることが、アドビの調査で明らかになっています。こうした状況を踏まえると、さまざまなチャネルで、魅力的なデジタル体験をより迅速かつ効果的に提供する方法を見出す必要があることは明白です。

ヘッドレスCMSは、開発者の注目を集めました。その一方で、ヘッドレスのみに特化したCMSは、必ずしも最適な選択肢であるとは言えません。

ハイブリッドCMSの登場

ヘッドレスCMSでは、開発者にさまざまなメリットをもたらす一方で、マーケティング部門にとっては、コンテンツを管理および更新する能力が制限されることになります。これは、顧客体験とビジネスの両方にリスクをもたらします。Harvard Business Reviewの論文では、多くの企業が革新的なテクノロジーを導入するタイミングを見誤っていることが指摘されています。そして、より優れたイノベーション戦略として、新興技術と既存技術を組み合わせた「プリウス式アプローチ」、すなわちハイブリッド型アプローチを提唱しています。

Accenture InteractiveのマネージングディレクターであるPaul McMahon氏は、CMSの導入においてもハイブリッド型アプローチを採用するべきであると主張しています。同氏はこう説明します。

「ハイブリッド型アプローチの強みは、従来型とヘッドレス型の両方の利点を生かしていることです。マーケターは、顧客体験を適切に管理して最適化できます。一方開発者は、アプリケーションのアップデートをより効率的かつ迅速に提供できます」

Paul McMahon、Accenture Interactive、マネージングディレクター

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ヘッドレスCMSのメリットとデメリット

ヘッドレスCMSのニーズは、従来型CMSの制約に捉われないため、モダンなフロントエンドのフレームワークとマイクロサービスアーキテクチャを求めている技術者を中心に、拡大し続けています。ヘッドレスCMSは、開発者やアーキテクトにより優れた柔軟性とスピードをもたらします。一方でヘッドレスCMSのデメリットは、マーケターをはじめとしたビジネスユーザーが、コンテンツを管理および最適化することが困難になる、という側面があります。

コンテンツを管理できるのが一部の人に制限されると、最終的には売上にも影響を与えることになります。実例として、ある米国のファッション小売企業の場合を紹介します。

同社は、コマースサイトを運営するとともに、マーケティング活動としてランディングページや施策ページも運営していました。同社のIT部門は、Amazonなどの競合他社に匹敵するスピードで、自社のコマースサイトに新機能をリリースすることができず、市場シェアを失っていると感じていました。そこで同社は、ヘッドレスCMSが、継続的な統合やアップデートの展開など、迅速な開発に役立つと考えました。その点においては、同社の判断は正しかったのです。

しかし同社は、ヘッドレスCMSを導入したことによる、デメリットの側面も実感しました。マーケティング部門はこれまで、従来型CMSでマーケティング活動用のページを管理していました。ヘッドレスCMSを導入してから1ヶ月も経たないうちに、マーケティング部門は、こうしたページの管理はヘッドレスCMSには難しく、webサイトへのトラフィックを促進する能力に影響を与えることに気がつきました。しかし、マーケティング部門がヘッドレスCMSの採用に反対したにもかかわらず、IT部門はそのまま強行しました。

その結果マーケティング部門は、フロントエンド開発業務を外部委託せざるを得なくなりました。部門の予算を使って、1回限りの施策ページの制作と運用を社外の代理店に依頼することにしたのです。しかし、これらのページは別のドメインで運用されているため、SEOの観点から見れば、効果的とは言えません。

このような分断された手法でコンテンツを制作および配信していては、サイトのトラフィック増加に対して悪影響をもたらすことになります。最終的に、同社のIT部門は、ヘッドレスCMSからハイブリッドCMSに移行する必要があると判断しました。

ハイブリッドCMSに関するIDCの調査レポートでは、「デジタルコンテンツの制作と配信に携わる個人とチームが能力を発揮できるようにする」ツールこそが、ビジネスの価値を高める最大の原動力である、と同社は分析しています。また、ハイブリッドCMSを利用すれば、CMSの運用管理に要する時間を節約し、コンテンツ開発のコストを最適化して、売上と生産性を向上させることができると指摘しています。

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ヘッドレスCMS移行で見過ごされていること

企業がヘッドレスCMSに移行する主な理由は、ReactやAngularといった人気の高い開発ツールを開発者が利用できること、そして、インタラクティブで魅力的なデジタルコンテンツを、迅速かつ効率的に制作できること、です。しかし、ヘッドレスCMSの導入において見過ごされがちなのは、コンテンツの継続的な管理と維持です。

純粋なヘッドレスCMSには、マーケターとビジネスユーザー向けのツールが搭載されていません。そのため、コンテンツの更新と管理は開発者に委ねられ、開発者の時間とリソースを浪費する可能性が高まります。一方、ハイブリッドCMSは、マーケターとビジネスユーザーがコンテンツを管理および更新するためのツールも提供しているため、開発者は、より価値の高い作業により多くの時間を費やすことができます。

コンテンツの制作と管理において、開発者とマーケターにそれぞれ適したツールを提供することで、顧客体験の向上にもつながります。IT部門だけでなく、社内の誰もが生産性と効率性を高めることができるからです。ハイブリッド型アプローチでは、開発者はヘッドレスCMSを通じて、任意のツールを使用してwebサイトやコンテンツの特定の部分を制作できます。一方マーケターは、SPA(シングルページアプリケーション)エディターを使用して、ヘッドレスコンテンツの制作と編集に携わることができます。

単一のページ内であっても、ハイブリッドCMSを利用すれば、ページを複数のコンポーネント(ヘッドレスのコンポーネントと従来のHTMLコンポーネント)に分割できます。例えば、ホームページ、バナー、プロモーション、商品レコメンデーションはすべて、ReactやAngularなどの開発者向けツールを使用して構築できます。一方、商品ページや施策ページなどの動的ではないコンテンツは、マーケティング部門が従来のHTMLを使用して管理および更新できます。制作されたコンテンツは、APIを通じて、SPAなどのさまざまなチャネルにおけるフロントエンドプロジェクトに活用できます。ヘッドレスコンポーネントと従来のコンポーネントを組み合わせた、ハイブリッド型のフロントエンドページも作成することが可能です。

企業は、適切なツールを必要とする担当者に提供することで、市場投入までの時間を短縮できるため、コンテンツを効率的に管理できるようになります。IDCによると、ある企業では、フォームに小さな変更を加えるのに、従来は1時間以上かかっていました。ハイブリッドCMSを導入したことで、同社は合計作業時間を65%短縮することに成功しました。

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企業がCMSを採用する理由は一元化

企業がCMSを採用するもうひとつの重要な目的は、コンテンツ管理の一元化です。Kentico Softwareによると、企業の48%が、ヘッドレスCMSを導入する主な動機として、コンテンツの一元管理を挙げており、次いで柔軟性(47%)、読み込みが速いwebサイトの構築(44%)の順となっています。

しかし、ヘッドレスCMSは多くの場合、社内の部門間のさらなる分断を招き、特定の機能に特化したツールを増やすことになります。実際、企業がヘッドレスCMSに移行すべきかどうかに焦点を当てたレポートにおいて、IDCは、「ヘッドレスCMSを導入しても、webサイト管理ツールに対するニーズがなくなるとは限らないことを認識すべき」であると指摘しています。IDCはさらに、従来のwebサイトの公開からヘッドレスのユースケースに至るまで、あらゆる配信ニーズに対応するように設計されたモダンなCMS、すなわちハイブリッドCMSなら、より優れたサービスを提供できることを示唆しています。

一元化されたアプローチは、コンテンツを制作する際はそれほど重要ではないかもしれませんが、継続的な変更管理では不可欠なものとなります。チャネル全体でコンテンツを一貫して更新するための単一基盤、すなわち「信頼できる唯一の情報源」がなければ、さまざまなバージョンが混在することになり、誤って不適切なバージョンを配信することになりかねません。

CMSの基盤となるアーキテクチャを構築することも、柔軟性を高めるうえで重要です。ヘッドレスCMSや従来型CMSでは、選択肢は限られています。一方ハイブリッドCMSなら、現在だけでなく将来にわたって、任意の方法でコンテンツを制作および管理できます。

開発者は、業務効率を最大化するフレームワークやツールを利用して、独自の魅力的な顧客体験を構築し、複数のチャネルで容易に提供できるようになります。また、より革新的なツールが将来登場した場合は、ツールを変更することもできます。同時に、マーケターは、SPAエディターを使用して、チャネルに依存しないコンテンツやJavaScriptを編集するなど、コンテンツを制作および管理できます。開発者は、マーケターが制作または編集したコンテンツを、チャネル全体のフロントエンドプロジェクトで再利用できます。ハイブリッド型アプローチは、CMS全体のイノベーションを促進し、より優れた顧客体験の創出につながるのです。

「ヘッドレスCMSを導入しても、webサイト管理ソリューションに対するニーズがなくなるとは限りません」

Melissa Webster、IDC、コンテンツおよびデジタルメディアテクノロジー担当プログラムバイスプレジデント

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組織全体で利用できるハイブリッドCMS

多くの企業は、ハイブリッドなビジネス環境に適応しています。しかし、従来型CMSや純粋なヘッドレスCMSでは、翻訳、電子メール、パーソナライゼーション分析などの用途に応じてそれぞれ個別のツールが必要になるなど、さらなる部門間の分断を招く可能性があります。

ハイブリッドCMSを導入すれば、コンテンツの配信と管理に関するさまざまな取り組みを管理できるだけでなく、IT部門とマーケティング部門の連携を強化し、翻訳や分析といった、コンテンツ管理に必要なあらゆる機能を利用できるようになります。

これにより、ビジネスユーザーとマーケターによるCMSの活用を促進し、部門横断的な取り組みを強化して、規模を問わずパーソナライズされた顧客体験を迅速かつ効率的に提供できるようになります。1日に何千ものコンテンツの更新を管理する場合であれ、顧客の記憶に残る体験を構築しようとしている場合であれ、誰もが使いやすいツールを利用して作業できる仕組みを構築できることが、ハイブリッドCMSの真の価値なのです。

このように、CMSは進化し続けています。ところがもし、用途に応じて個別のCMSを乱立させてしまうと、企業全体としての運用効率性の低下やコスト増、会社としてのブランド一貫性の欠如など、さまざまな課題を引き起こしてしまいます。そこで、未来を見据えてどのようにCMSを選べば良いか、以下のガイドが参考になります。

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まとめ

Adobe Experience Managerは、アドビの提供する、CMS分野をリードするハイブリッドCMSです。IT部門とマーケティング部門の連携を強化し、チャネルやデバイスを問わず、最適なコンテンツを制作して顧客に届けることができます。ヘッドレスCMSの能力と従来型CMSの能力をともに備えているため、マーケターと開発者が同時に作業でき、それぞれの管理能力と顧客体験を向上させることができます。搭載されている分析ツールとマシンラーニング(機械学習)を活用して、顧客一人ひとりに詳細にパーソナライズされた体験を常に提供するための、強力な基盤を構築できます。

また、最新のCMSのトレンドに応じたさまざまな資料をご用意しています。ニーズに応じてぜひご覧ください。

関連資料

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