レコメンデーションエンジン

レコメンデーションエンジンとは、webサイトやモバイルアプリの利用者や、デジタルチャネルを通じてやり取りしている顧客に対して、適切なオファーや製品、コンテンツを特定し、顧客体験をパーソナライズするためのソフトウェアのことです。

ポイント

AmazonやNetflixなどの企業では、レコメンデーションエンジンを利用し、特性や行動をもとに顧客が興味を示す可能性が最も高い製品やコンテンツの種類を表示することで、ターゲットを絞ってパーソナライズされた顧客体験を利用者に提供しています。

効果的なレコメンデーション手法とツールでは、購入件数が最も多い製品や、アクセス数が最も多いコンテンツ以外にも目を向けて、個々の顧客のニーズに最適なコンテンツを特定します。

レコメンデーションエンジンには、コンテンツベース方式と協調フィルタリング方式のふたつの仕組みがあります。また、それらを組み合わせたハイブリッド方式もあります。

成功指標を適切に設定していないと、課題に直面する可能性があります。
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レコメンデーションエンジンに関する様々な疑問に、Rob Hornickが回答します。Robは、Adobe Targetの製品マネージャーを務め、レコメンデーションシステムであるAdobe Target Recommendationsを含む、Adobe Targetのマシンラーニング(機械学習)を利用したパーソナライゼーション機能を担当しています。

もくじ

  • 現代の小売業界では、なぜレコメンデーションエンジンが不可欠なのですか?
  • コンテンツベースのレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?
  • 協調フィルタリング方式のレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?
  • ハイブリッド方式のレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?
  • 顧客の好みをどのように判断すればよいですか?
  • 課題は何ですか?
  • それらの課題にどのように対処できますか?
  • レコメンデーション戦略を効果的に導入するにはどうすればよいですか?
  • マシンラーニングは、レコメンデーション手法にどのように影響しますか?

現代の小売業界では、なぜレコメンデーションエンジンが不可欠なのですか?

レコメンデーションの問題には、長い歴史があります。小売業の歴史を見ると、かつてはセールス担当者が顧客とその行動に関する知識を有していました。そうしたセールス担当者が頭で考えて、顧客に推奨する製品やサービスを決めていました。製品やサービスを顧客に推奨するプロセスは、手動でおこなわれていたのです。

デジタルの世界では、いくつかの違いがあります。以前よりはるかに膨大な数の顧客が企業と接点を持ちます。そうした顧客がおこなうのは必ずしも対面式のインタラクションではありませんが、企業はそれでも顧客ごとにパーソナライズされたレコメンデーションを提供したいと考えています。その対象は、数十億のインタラクションにおける数百万の顧客にも上る可能性があり、とても手動で対応できる量ではありません。

また、推奨する製品やコンテンツの種類が大幅に増えていることも課題です。インターネットが生まれる前は、大規模な小売店が保管するSKUは1万個ほどでした。現在では、小売業者は数百万種の製品を扱う市場のようになっています。コンテンツ分野では、数百万に及ぶ選択肢が用意されています。映画や書籍、音楽について考えてみると、入手できるアイテムが大幅に増加しています。そのため、レコメンデーションエンジンは、データサイエンスを活用して、そうした数百万の顧客とのインタラクションや、数百万の選択肢を十分理解し、個々の顧客に適したものを見つけ出せる効果的な手段となります。

コンテンツベースのレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?

コンテンツベースのレコメンデーションシステムでは、アイテムの内容または特性を示すデータを分析して、利用者に推奨するアイテムを決定します。

例えば、書籍を推奨する場合は、各書籍の概要説明を利用します。『戦争と平和』の説明を分析した場合は、ロシアに言及していることがわかります。『カラマーゾフの兄弟』の説明を分析すると、こちらもロシアに言及しているので、両者は似たアイテムであるという結論が導き出されます。この知識を活かして、これらのアイテムは関連していると推測できるので、ある書籍を読んだ顧客に別の書籍を推奨できる場合があります。

アイテムの説明として、明示的にモデル化した属性を使用する場合もあります。例えば、あるシャツの色が黒で、男性のゴルフ愛好者向けであることがわかっているとします。これに加えて、男性向けの衣服を好んでいるか、白の衣服が好きか、ゴルフが好きかなど、利用者の好みも把握している場合は、そのデータを活かして、該当の利用者の好みに最も近いアイテムを特定できます。

例えば、男性向けのゴルフシャツがあり、その情報を活かして、好みが一致する利用者にそのアイテムを推奨するとします。この情報を活かしてレコメンデーションをおこなうためには、特に利用者の好きな色とスポーツを把握する必要があります。利用者に関する明確な特性が十分にわかっていれば、様々な特性を組み合わせ、さらにパーソナライズされたレコメンデーションのリストを用意できます。

協調フィルタリング方式のレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?

協調フィルタリング方式のレコメンデーションシステムでは、アイテムと関連する利用者の行動をもとに、推奨するアイテムを決定します。コンテンツベースの手法で想定される課題のひとつは、顧客の好みに関する詳細な知識と、アイテムの説明となる大量のメタデータが必要になることです。初めてサイトを訪問した顧客に関しては情報がないので、好みに関する詳細な知識を得ることが課題になります。アイテムがユーザー生成の場合や、頻繁に転用される場合は、適切な記述的メタデータを用意することが課題になります。

こうしたケースでは多くの場合、協調フィルタリング方式のレコメンデーションが推奨されます。群衆の知恵にもとづくこの技法では、基本的に、同じようなアイテムに関心を示す人々は、今後も同じようなアイテムに関心を示す可能性が高いと考えます。例えば、映画『Bourne Identity』を好きな人がふたりいて、どちらも『Mission:Impossible』を好きだとします。その場合は、ひとりが『Casino Royale』を好きであれば、もうひとりもその映画を気に入る可能性が高いという考え方です。

将来の好みは、過去の好みと同様のものになるという考え方もあります。協調フィルタリング方式では、基本的にこの類似性をもとにしており、ある人物の好きなものと嫌いなものに関する情報を活かして、類似する別の顧客の好きなものと嫌いなものを予測します。

ハイブリッド方式のレコメンデーションシステムとは、どのようなものですか?

ハイブリッドシステムでは、複数のレコメンデーション手法を組み合わせます。協調フィルタリング方式やコンテンツベースのレコメンデーションのほか、マーケティングドリブンのルールやマーチャンダイジングドリブンのルールを適用するその他の手法を組み合わせて、最適なアイテムを決定します。

ハイブリッド方式のレコメンデーションシステムでは、これらの手法をもとに、A/Bテスト多変量分析テスト(MVT)、強化学習を使用する場合もあります。推奨する複数のオプションを特定して、利用者ごとに別々のオプションを提示します。どのオプションのパフォーマンスが高いかを測定し、その測定結果をもとに、今後の利用者にはより優れたオプションを提示できます。

顧客の好みをどのように判断すればよいですか?

企業が顧客の嗜好や好き嫌いを把握する方法は、ふたつあります。ひとつは、星1から星5といった基準で顧客が映画を評価する際などの明示的なフィードバックです。

もうひとつは、顧客が何かに対して関心、無関心のシグナルを発する暗示的なフィードバックです。暗示的なフィードバックでは、顧客は具体的に評価をおこなうわけではありませんが、映画の視聴など、何かに反応するかしないかを選択することで、好みを示します。また、5つの製品を表示された顧客がいずれかをクリックした場合は、その5つの中で関心がある製品について、暗示的なフィードバックを送ったことになります。

企業は、Cookieを使用して好みを追跡することもできます。単一のセッション内で顧客接点を追跡し、その情報をレコメンデーションエンジンのアルゴリズムで活用することができます。Cookieを使用すると、複数のセッションをまたいで、そうした接点や好みを追跡できます。例えば、ある顧客が昨日10個のアイテムを閲覧し、今日10個のアイテムを閲覧したとします。この履歴データを利用すれば、10個ではなく、20個のアイテムとの接点に関する情報を取得できます。

課題は何ですか?

レコメンデーションエンジンの課題のひとつは、膨大な量の情報をすべて収集し、分析することです。SKUが数百万個に及ぶこともあるカタログ全体で、数十億もの顧客インタラクションイベントを処理することが求められます。適切なレコメンデーションをリアルタイムで判別し、配信する必要があります。1時間に顧客が数人であれば、リクエストをスピーディに実行することは比較的容易です。1日中その作業に集中できるなら、数百万件の結果を表示することも比較的容易です。その両方を同時におこなうのは困難です。技術的な課題は、スピードと規模に同時に対処することです。

また、そうした数百万のデータポイントを処理できる計算技術の多くは、100万のデータポイントを追加すると、費用が飛躍的に大きくなります。例えば、100万行×100万行の表を作成する場合は、製品を追加するたびにその表に100万行が追加されることになります。

コールドスタートの問題も課題として挙げられます。新規ユーザーの場合は、好みに関する情報がほとんどありません。新しいアイテムの場合は、他のアイテムとの関連性がわかりません。

収集したデータを分析しないと、問題が生じる場合もあります。購入数が最多のアイテムが、推奨するのに最適なアイテムではない場合もあります。信頼性の高い最適なモデルを特定するためには、多大な労力を要します。消費者の全体的な人気を表しているだけの質の低いレコメンデーションを生み出す、趣旨とは異なる顧客行動に左右されないモデルです。そうした質の低いレコメンデーションでは、大きな価値を付加できません。顧客は人気のある製品については、レコメンデーションがなくても購入するためです。

その他に想定される問題としては、ニーズに合わないレコメンデーションが挙げられます。これは顧客が興味のないものを提示するということです。それでは顧客体験に悪影響が及ぶ恐れがあります。

最後の重要な問題は、間違った指標を基準にレコメンデーションを最適化することです。何を重視して最適化をおこなうかを考えておかないと、ビジネス上の利益と相反するレコメンデーションが提示されてしまう可能性があります。例えば、利益率の低い製品を一貫して推奨しても、実際にはビジネスの全体的な利益は伸びないことがあります。

それらの課題にどのように対処できますか?

レコメンデーションエンジン関連のあらゆる問題を解決できる万能な手法や確実な方法はありません。複数の手法に対応できるツールセットを導入することが最適です。

レコメンデーション戦略と、レコメンデーションエンジンのROIを実証する取り組みには、レコメンデーションのA/Bテストが含まれます。提示するレコメンデーションをまとめてテストできる機能があれば、最適化の基準となる指標を改善できます。

レコメンデーション戦略を効果的に導入するにはどうすればよいですか?

企業がレコメンデーション戦略について最も考える必要があるのは、目的です。最終的にどのようなビジネス指標を高めたいのか、売上の向上が目的なのか、利益の向上が目的なのか、コンバージョンの増加が目的なのかといった点を考えましょう。

レコメンデーション戦略のふたつ目の重要事項は、実際に何を推奨するかです。小売業者の場合は非常にシンプルで、企業が推奨しようとするのは販売している製品です。他のビジネスの場合は、それほどシンプルとは限りません。B2Bのセールスでは、マーケティング対象として適格なリードの数を最大化することがレコメンデーション戦略になる場合もあります。見込み客に自社の製品ラインに興味を持ってもらうために、動画やブログ投稿、ホワイトペーパーなど、製品やサービスを紹介するコンテンツを推奨することが目的の場合もあるでしょう。

優れたセールス戦略は、優れたカスタマーサービス戦略に似ています。顧客とパーソナライズされたやり取りをおこなう場合でも、ニーズに最適な何かを顧客に推奨する場合でも、それは顧客を驚嘆させて喜ばせ、優れた顧客体験を提供することと同じです。それが企業に対する好印象につながります。また、その特定のセッションで、顧客が購入に踏み切る可能性も高まります。

顧客は、企業とのやり取りがパーソナライズされた適切なものであることを期待しています。あらゆる領域で様々な選択肢が用意されている現代で、顧客と接点を持つ機会が生まれたときには、その顧客のニーズに合ったものを特定することが不可欠です。

マシンラーニングは、レコメンデーション手法にどのように影響しますか?

マシンラーニングは、主要なレコメンデーション手法の中で重要性を増しています。広い意味では、あらゆるデータを活用し、気付くことができない隠れた関連性を見つけ出すために、マシンラーニングを利用する必要があります。

基本的な研究が多数おこなわれ、比較的成熟した様々な手法が生み出されています。しかし、そうした手法を洗練させるために、新しいマシンラーニングテクノロジーの開発も進められています。企業は新しいデータソースを生み出し続けており、それを利用すればレコメンデーションをさらに改良できます。新しいマシンラーニングテクノロジーの開発や新しいデータソースの誕生によって、レコメンデーションが継続的に改善されています。

参照トピック