ユーザーストーリー:実例とテンプレート
開発チームでアジャイルプロジェクト管理のフレームワークを検討中であれば、おそらくユーザーストーリーについてはよくご存知だと思います。しかし、自身でユーザーストーリーをいくつか作成したことがあっても、他社や他の開発チームでどのように作成しているかについて調査することで、貴重なインスピレーションをもたらし、創造性を高めることができます。
これを念頭に、ここでは15のユーザーストーリー例をリストアップしました。
主な内容:
- ユーザーストーリーとは?
- ユーザーストーリーの例
- さまざまな媒体でのユーザーストーリーの例
- アジャイルフレームワークにおけるユーザーストーリーの例
- カスタマージャーニーの各ステージにおけるユーザーストーリーの例
- ユーザーストーリーに取り組むには
ユーザーストーリーとは?
ユーザーストーリーとは、顧客またはエンドユーザーの視点から、平易な言葉で書かれた、特定のソフトウェアのフィーチャー(機能)に関する簡潔で包括的な説明のことです。ユーザーストーリーの目的は、カスタマージャーニーについてより詳細に把握し、消費者がどのように製品と接するかについてより深く理解することです。ユーザーストーリーを利用する主な利点のひとつは、開発するものの文脈、つまり「なぜ」開発するのかを開発者に提供できることです。
一般的に、ユーザーストーリーは短く、通常は1文程度の長さで、ユーザー、アクション、望ましい結果を記述します。ユーザーの視点から、シンプルかつ日常的な言葉で書かれています。
たとえば、次のように例のように記述します。
読者として、このアドビのガイドを読んで、ユーザーストーリーの成功例を見つけたい。
この例は、豊富な経験からたどり着いた、次のユーザーストーリーテンプレートに従っています。As a [insert user type], I want to [offer a specific action] so I can [identify a value or objective]. ([ユーザータイプ]として、「具体的な行動」を実行し、「価値や目的」を達成したい)。
例からわかるように、ユーザーストーリーではプロジェクトの技術的な詳細には踏み込みません。したがって、ユーザーが製品とどのように接するかについて考えるとき、できるだけ創造的であるべきです。
ユーザーストーリーの作成を堅苦しく考える必要はありません。各ユーザーストーリーをインデックスカードや付箋に書くだけでよいのです。あるいは、Microsoft Word、PowerPoint、Excelなどのデジタルツールを使って作成し、整理することもできます。
アジャイルチームのメンバーであれば誰でもユーザーストーリーを作成することができます。しかし、ユーザーストーリーを決定し、アジャイルプロダクトバックログの優先順位を付ける最終的な責任を負うのはプロダクトオーナーです。
3つのCで、ユーザーストーリーを活用しましょう。
誰がユーザーストーリーを作成するかに関係なく、次の3つのCに従います。
- Card(カード)
- Conversation(会話)
- Confirmation(確認)
カードは、ユーザーストーリーを書くところです。これは、ユーザーのニーズを把握する最初の段階、つまり最初の C を表しています。カードには、アジャイルチームがユーザーストーリーを理解し、関連アクションや関連作業の計画を立てるのに十分な情報が含まれていなければなりません。ストーリーカードには、ユーザー、アクション、結果を必ず盛り込みます。
カードを作成したら、アジャイルチームは2番目の C である会話に移行します。創造力を発揮して、消費者の立場に立ち、彼らのニーズをさらに探ります。
3Cモデルの最終段階は確認です。このステージでは、関係者が受け入れ基準を用いてストーリーを評価します。3Cモデルを利用することで、顧客の視点を効果的に表現し、より優れたユーザーストーリーを作成することができます。
INVESTによる効果的なユーザーストーリーの作成
INVESTは、インパクトのある優れたユーザーストーリーを作成するのに役立つ頭字語です。INVESTの意味は次のとおりです。
- Independent(独立している): 独立したストーリーは、他のフィーチャーへの依存度が低いので、テストがしやすくなります
- Negotiable(交渉可能である): これはフィーチャーの交渉可能性のことで、プロジェクトオーナーとチームの間で交渉をおこなうことができます
- Valuable(価値がある): ユーザーストーリーに記述されたフィーチャーは、エンドユーザーに明確な価値を提供する必要があります
- Estimable(見積もり可能である): 漠然としていたり、範囲が広すぎるフィーチャーを説明するストーリーは、作業を見積もることができません
- Small(小さい): ユーザーストーリーは、開発チームが1回のスプリントで完成させることができるものでなければなりません
- Testable(テスト可能である): ストーリーは、その成功を判断するためにテスト可能でなければなりません。受け入れ基準はシンプルかつ客観的で、明確な合格/不合格シナリオを設定すべきです
INVESTや3Cモデルのような手段を活用することで、コラボレーションの促進、バックログの優先順位付け、フィーチャー作成中のリスクの最小化など、ユーザーストーリーを作成することの数多くの利点を引き出すことができるようになります。
ユーザーストーリーの例
ユーザーストーリーは、アジャイルプロジェクト管理手法をより効果的に活用するための、非常に汎用性の高いツールです。この汎用性を説明するために、15個のユーザーストーリーの例を3つのカテゴリーに分類して解説します。
- 媒体
- アジャイルフレームワークの要素
- カスタマージャーニーのステージ
アジャイルワークフローにユーザーストーリーを組み込む場合、プロジェクト固有の要求に最もよく合致する例をモデル化することができます。
さまざまな媒体でのユーザーストーリーの例
インデックスカードやポストイットノートは、ユーザーストーリーを書き起こすための従来的なアナログ媒体です。しかし、最近では、デジタルテンプレートも役に立ちますし、チームの作業方法よっては、より効果的かもしれません。デジタルのユーザーストーリーカードは、リモートチームやハイブリッドチームに特に有効です。
インデックスカード
シンプルなインデックスカードは、ユーザーストーリーを作成するための伝統的なフォーマットです。インデックスカードは、閲覧や編集のためにグループ内で回覧したり、壁に掲示したりすることができます。ストーリーがひらめいたときに書き留めるのにも適しています。
アプリケーションを起動したり、Microsoft Wordのテンプレートを探したりする時間が必要なく、ペンと紙があれば、アイデアを忘れていしまう前に書き留めることができます。
インデックスカードに書く場合のユーザーストーリー例を次に示します。
プロジェクトマネージャーとして、ワークフロー管理ソフトウェアを評価して、自身のチームのために新しいプラットフォームを選択したい。
受け入れ基準を記載したインデックスカード
ユーザーストーリーには、多くの場合、受け入れ基準が含まれています。受け入れ基準は、基本的には、ユーザーの目標を達成するために必要なものです。ユーザーストーリーにインデックスカード方式を使う場合、カードの裏面に受け入れ基準を記載することができます。
上記の例の沿うと、カードの表にはユーザーストーリーを記載し、カードの裏には次のような受け入れ基準を記載します。
- ユーザーレビューや体験談が製品サイトで公開されていることを確認する
- 第三者フォーラムで、製品のユーザーレビューが公開されていることを確認する
- 現在のユーザーや過去のクライアントにフィードバックリクエストを送ることで、新しいユーザーレビューを積極的に獲得する
これらの受け入れ基準に従うことで、製品に関するレビューに容易にアクセスできるようになります。
Microsoft Word文書
物理的なインデックスカードはオフィスで作成する場合に適しています、共有ドキュメントは、ユーザーストーリーの書き起こし、編集、閲覧などをリモートでおこなう場合に適しています。Microsoft Wordのテンプレートをダウンロードして、ユーザーストーリーを簡単に作成することもできます。自身でテンプレートを作成することもできます。
テンプレートやテーブルの用意ができたら、次のような簡潔で効果的なユーザーストーリーを作成することができます。
製品の加入者として、セルフサービスツールを使って、月極のメンバーシップをキャンセルしたい。
Microsoft Excelシート
Microsoft Excelを使用すると、ユーザーストーリーを簡単に整理し、一元的に管理することができます。上記のユーザーストーリーは、次のようなものでした。
製品の加入者として、セルフサービスツールを使って、月極のメンバーシップをキャンセルしたい。
Excelスプレッドシートにストーリーと受け入れ基準を記入するだけでなく、他の情報のセルを追加することもできます。たとえば、次のようなセルを追加することができます。
- 遅延コスト
- 利点に関する仮定
- 時間的な重要性
この製品加入者のユーザーストーリーに遅延コストを含めると、たとえば、加入キャンセル用のセルフサービスツールを速やかに実装しなかった場合、ビジネスにどのようなコストが発生するのかについて記述することができます。たとえば、次のように記述できます。
新しいセルフサービスツールの導入が6カ月遅れると、何百人もの無料トライアル加入者のオポチュニティが失われる可能性がある。
このユーザーストーリーの利点に関する仮説は、次のように記述することができます。
セルフサービスツールでユーザーがキャンセルできるようにすれば、「閉じ込められた」と感じることがなくなるので、無料トライアルに申し込む傾向が強くなるかもしれない。
このユーザーストーリーの時間的な重要性は次のようになります。
セルフサービスツールの実装が遅れるほど、質の高いリードが無料トライアルファネルから脱落することになる。
PowerPoint
Microsoft PowerPointは、ユーザーストーリーを作成し、紹介するためのもうひとつの優れた方法です。PowerPointは、関係者などのオーディエンスにユーザーストーリーをプレゼンテーションする予定がある場合に役立ちます。
PowerPointで最も実用的なアプローチは、ユーザーストーリー、受け入れ基準、その他の情報をひとつスライドに配置することです。また、同じスライドにストーリーの種類(例:発見、購入)や重要度のスコアも含めるとよいでしょう。
ユーザーストーリーは数値で評価することもできますし、単に重要度の低、中、大などで評価することもできます。ユーザーストーリーを完成させるのに必要な労力を見積もる測定単位であるスクラムポイントを割り当てることもできます。
ユーザーストーリーは、対応するカスタマージャーニーの段階や、影響を与えるカスタマージャーニーの段階もとづいて分類することもできます。この一般的なユーザーストーリーの種類には、次のようなものがあります。
- 登録またはサインアップストーリー
- 購入ストーリー
- 維持ストーリー(ユーザーを引き留めるためのアプリのフィーチャー更新など)
上記のソフトウェアのサブスクリプションのキャンセルについての例は、登録ストーリーや購入ストーリーで利用することができます。どちらにしても、このユーザーストーリーは、見込み客の購買意欲に大きな影響を与えるので、重要度の基準で高く評価されるでしょう。
アジャイルフレームワークにおけるユーザーストーリーの例
ユーザーストーリーは、プロジェクト管理や製品開発のためのアジャイルフレームワークのスコープの一部です。アジャイルフレームワークには、技術的なストーリーだけでなく、エピック、製品フィーチャー、ユーザーストーリーが含まれます。ユーザーストーリーのフォーマットは、ワークフローにおけるこれら要素に適用することができます。
ユーザーストーリーのフォーマットを、これらの各要素にどのように適用できるかを見てみましょう。
エピック
エピックは、アジャイルフレームワークの中でも大きな単位のプロジェクトです。エピックを完成させるには、途中で複数のプロジェクトフィーチャーやいくつかのユーザーストーリーを完成させる必要があるかもしれません。
ユーザーストーリーと同様に、エピックはユーザー、アクション、望ましい結果を含む汎用的なフォーマットに従っています。また、比較的短いものです。しかし、エピックのスコープはより広範囲であるため、ストーリーを複数作成する必要があります。
次はエピックの例です。
プロジェクトマネージャーとして、堅牢な作業管理プラットフォームにより、チームがアジャイル手法を活用できるようにしたい。
エピックができたら、目的を達成するために、より具体的なユーザーストーリーを作成することができます。たとえば、特定のチームメンバー、ツール、およびそれらのツールで達成したいことを特定するためのユーザーストーリーを作成することができます。
フィーチャー
プロジェクトマネージャーのエピックを達成するために、開発チームは複数のフィーチャーを構築する必要があります。お気づきのように、フィーチャーを説明する次の各例は、ユーザー+アクション+期待のフォーマットに準拠しています。
- プロジェクトマネージャーとして、詳細なレポートや視覚化要素にアクセスして、チームの進捗状況を把握したい
- プロジェクトマネージャーとして、ワークフロー自動化ツールを導入して、生産性と効率を高めたい
- プロジェクトマネージャーとして、コラボレーションを促進して、測定可能なビジネス成果を達成したい
これらのフィーチャー重視のアイデアは、プロジェクト管理プラットフォームの開発チームが、ターゲットユーザーのニーズをより詳細に把握するのに役立ちます。プロジェクト管理ソフトウェアのフィーチャーやツールについては、これらの概念にもとづいて説明することができます。
ユーザーストーリー
ユーザーストーリーは、スコープに関しては製品フィーチャーと同じレベルにあります。しかし、ユーザー体験に重点が置かれ、アクションを技術的にどのように実現するかについてはそれほど重点は置かれません。
次のストーリーと上記のフィーチャー中心のアイデアとの微妙な違いに注目してください。
- プロジェクトマネージャーとして、意思決定プロセスの指針となる詳細なレポートにアクセスし、情報の透明性を高めたい
- プロジェクトマネージャーとして、従来の手間のかかるプロセスを自動化し、チームの仕事量を減らして士気を高めたい
これらのストーリーでは、プロジェクトマネージャーはまだユーザーの立場にいますが、行動と望ましい結果については、チームや仕事を管理する際にポジティブな経験をすることについてより深く考察しています。
テクニカルストーリー
テクニカルストーリーは、エピック、フィーチャー、ユーザーストーリーをサポートするためのもので、機能的ストーリーに分類されます。
テクニカルストーリーは、いくつかのカテゴリーに分類することができます。
- スパイク:このストーリーは、顧客の機能的なニーズを達成するための調査を必要とします
- リファクタリング:このストーリーは、コードを維持するために記述されます
- インフラストラクチャストーリー:このストーリーは、機能的なユーザーストーリーをサポートするために必要な修正または追加について説明します
次はテクニカルストーリーの例です。
プロジェクトマネージャーとして、マシンラーニングやAIを利用したツール(インフラストラクチャ)を含むプラットフォームにより、自動化を達成して管理効率を高めたい。
バックログ
ユーザーストーリーのフォーマットは、プロダクトバックログにも適用できます。このアプローチを利用する場合、新しいストーリーを作成する必要はありません。その代わり、優先順位の高い順にグループ化します。
たとえば、あるシナリオで、レポートツールを求めるプロジェクトマネージャーに関するユーザーストーリーには3ポイントを割り当て、自動化ツールを求めるプロジェクトマネージャーに関するストーリーには4ポイントを割り当てるものとします。
このシナリオでは、時間とリソースの節約につながるレポートツールの開発に最初に集中することになるでしょう。
カスタマージャーニーの各ステージにおけるユーザーストーリーの例
ユーザーニーズは、カスタマージャーニーが進むにつれて変化します。ユーザーストーリーは、顧客やユーザーがライフサイクルのどの段階にいるのかという観点で構造化することができます。
カスタマージャーニーのさまざまな段階に対応するユーザーストーリーの例を見てみましょう。
情報収集
この段階では、ユーザーはジャーニーに出発したばかりです。そのため、ユーザーからの質問には、技術的な専門用語がなく、一般的なものになる可能性があります。
情報収集のユーザーストーリーは、次のようになります。
ソフトウェア開発者として、同僚とより効果的にコラボレーションできるソリューションにより、重要なプロジェクト情報を一元化したい。
比較検討
この段階では、ユーザーは製品やソリューションに興味を持ち、購入することを真剣に検討しています。しかし、ユーザーが購入に踏み切る前に、その目的、期待、ニーズに適切に対応しなければなりません。懸念事項は、価格、使いやすさ、デプロイの容易さ、セキュリティなどに関連しているかもしれません。
比較検討のユーザーストーリーは、次のようになります。
ソフトウェア開発者として、すぐに使い始めることができるプラットフォームにより、生産性とプロジェクトの成果に測定可能な影響を与えたい。
購入
高いコンバージョン率を望むなら、購入や契約のプロセスはスムーズなものでなければなりません。ユーザーストーリーは、こうした課題を積極的に特定するのに役立つので、カート放棄を最小限に抑え、売上を高めることができます。
たとえば、購入のユーザーストーリーは、次のようになります。
プロジェクトマネージャーとして、ユーザーごとのカスタム価格設定により、自社ビジネスにより優れた価値をもたらしたい。
運用開始
顧客がプラットフォームへの加入や無料トライアルへの登録を決めたとき、スムーズなオンボーディングプロセスを提供することが重要です。そうすることで、ユーザーの定着率を最大化し、離脱を最小限に抑えることができます。
次のようなユーザーストーリーを作成することで、顧客の視点からオンボーディングを眺めることができます。
プロジェクトマネージャーとして、ワークフロー管理ソリューションの製品ツアーに参加することで、ビジネスプロセスにどのような価値をもたらすかをより深く理解したい。
継続
製品の成功は、顧客を獲得し維持する能力にかかっています。高い維持率を達成し、それを維持することは、消費者基盤に価値を提供していることを示しています。
顧客維持志向のユーザーストーリーは、次のようになります。
コマースのビジネスオーナーとして、拡張性のあるソリューションにより、デジタルストアの長期的な成長を促進したい。
ユーザーストーリーに取り組むには
ユーザーストーリーは、ユーザーが製品にどのように接するかについて考察するのに役立つ方法です。ここまでの例で示したように、ユーザーストーリーのフレームワークは、どの媒体にも適応可能です。
これらのマイクロストーリーは、製品開発サイクルやカスタマージャーニーのどの部分や段階にでも適用することができます。
これらの例を活用する準備ができたら、自社の製品、サービス、または会社自体に関するコンセプトを書き出してみてください。この記事をチームや部門内で共有し、ユーザーストーリーが自分たちの仕事にどのように役立つかを話し合いましょう。
また、ユーザーストーリーを現在のワークフローにどのように組み込むことができるか、ユーザーストーリーに対応し活用するために何らかの調整が必要かどうかを考えてみてください。
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