デジタルマーケティングを成功に導くために、まず始めるべき組織作り「L3PS」とは?

デジタルマーケティングを成功に導くために、まず始めるべき組織作り「L3PS」とは

デジタルマーケティングを社内で推進していくにあたって、組織の壁に悩むマーケティング担当者は多い。

あなたの会社ではどのような部署がデジタルマーケティングの運用を行っているだろうか。マーケティング部門? もしくはサイトの制作や編成を行っているチーム、またはシステム部門かもしれない。

デジタルマーケティングはその範囲が多岐にわたる。広告やコンテンツの作成、アプリの作成、システム開発…。そしてそれらを管理するのは、広告は広告宣伝部、サイトはWeb事業部、コマース部分はシステム部など、それぞれを違う部門が請け負っていることが多いのではないだろうか。

スマートフォンなどの普及によって、急速に顧客と企業のタッチポイントが増えてきた現在、「デジタルマーケティング」という言葉のカバーする範囲も広がっている。この動きに呼応せねばと、バラバラと各部署で他の業務と兼任での対応が始まり、結果として先述のように、広告宣伝部、WEB事業部…と、関係部署が増加するという事態に陥っている企業があまりにも多い。

「いやいや、それに何の問題が? うちはツールも導入し、各部門も順調に最適化が進んでいるよ」といった声もあるかもしれない。確かにうまく進んでいるケースも沢山ある。しかし、関係部署が多く、自然発生的に始まっている場合、部署間のコミュニケーションは細かい施策や結果などは共有されておらず、お互いの部門のKGIやKPIといった数字だけが共有されているケースがほとんどだ。

結果、各部門が最適化施策を実施し、一見それがうまく行っているように見えても、実際は個別に最適化しているだけで、全体最適につながらないケースが数多くある。獲得効果の高い広告への最適化、サイト内部の動線の最適化、社内のニーズを整理しただけのメール配信など、それぞれのポイント、部署の数字に対して最適化が行われていたとしても、ビジネス全体をみた時に、その最適化は全体を統合したものにはなっていない。

だから、顧客の立場からすると、「あれ、この会社からのメルマガは昨日も来てた気がするけど…」「広告のメッセージに惹かれてクリックしたけど、サイトで見つけられない…」といった事態が起こる。これも、管理している部門が異なることで起きていることがほとんどだ。

また、顧客の行動も変化してきている。アドビが行った調査では、9割近くの人が「テレビ・新聞・雑誌を見て気になった商品の関連情報を、Web サイトで調べる」と回答しており、ライフスタイルが変化してきていることが見て取れる。

これからのデジタルマーケティングでは、このようなタッチポイントの増加、ライフスタイルの変化に対応し、顧客とのタッチポイントを一貫して考え、コミュニケーションを組み立てていく必要がある。いわゆるカスタマージャーニーを意識したコミュニケーションである。

そしてこのカスタマージャーニーを意識したコミュニケーションを実現するにあたり、これまで個別の部門で運用されていたものを統合し、一貫した戦略に基づいた施策を実施、その結果を共通のナレッジとして貯めていく必要があるのだ。

では、それを具体的に実現するためにはどうしたらいいか?

その手法について触れる前に、まずデジタルマーケティングを推進していくために整備しておくべき「組織作り」について説明したい。

システムを導入する際には Product(製品)Process(プロセス・組織)People(人) の3つのPをバランスよく整備していくことが非常に重要であると言われている。アドビではこの3つのPに、Leadership(リーダーシップ)Strategy(戦略) を加え L3PS としてデジタルマーケティングの推進を行っている。

Digital driven.

L3PSの5つの要素には、それぞれを構成する詳細な評価項目があり、デジタルマーケティングを推進していく中でバランスよく伸ばしていく必要がある。

そしてこのL3PSを実現していくために、まず優先して着手すべきなのが中央組織を作ることだ。デジタルマーケティングを推進するために必要な戦略、ナレッジの集約、トレーニング(人の育成)などを推進していくチームになる。最近ではこのような専門組織はCenter of Excellence(CoE)とも呼ばれている。

この中央組織は主に下記のような役割を担う。

このような機能をもった中央組織を作ることで、L3PSの項目をバランスよく成長させることができ、結果としてデジタルマーケティングを組織全体で推進することが出来るようになる。

ここからは、この中央組織を作っていくためのポイントについて、そのいくつかを紹介してみたいと思う。

組織横断的であること

前述した通り、デジタルマーケティングは各部門でバラバラに推進されていることが多い。それはサイロ化された状態であり、それぞれの部門においてスキルにばらつきがある状態がほとんどだ。また、実施した施策、そこから得られたベストプラクティスなども共有されていない事が多い。

ある程度までの成長なら、そうした組織でも達成できる。しかし、その先に進むためにはサイロ化している組織を、組織をまたいで整理する必要がある。中央組織は、横断組織として広告、サイト内、アプリ、メールといったデジタルタッチポイントに関わる部分の情報を集約できる必要があるだろう。

専門家を集める

デジタルマーケティングのための中央組織では、知識がマーケティングだけに寄っていても、システムだけに寄っていてもうまくいかない。これは、デジタルマーケティングはこれまでのマーケティングと違い、テクノロジーが非常に大きく関わる部分であり、かつ、増加するタッチポイントや多様なカスタマージャーニーの各局面に対応するには、コンテンツを作る要素も非常に重要になってくるためだ。

このため、中央組織はビジネス、コンテンツ、技術、それぞれの専門家の能力が生かされるよう、編成していく必要がある。また、メンバーは、革新的で新しいものが好きであったり、コミュニケーションに長けていたりする方が、より大きな推進力を持つことができる。

エグゼクティブスポンサーを得る

中央組織ができあがり、専門家メンバーが集まったとしても、組織の活動に基づいた施策が現場で実行されないと意味がない。現場へのトレーニング実施によるスキルアップはもちろんのこと、スムーズに関係部署に依頼をかける鍵は、この組織がエグゼクティブのスポンサーシップを獲得しているかどうかだ。

役員などのエグゼクティブのスポンサーシップを得ることによって、横断組織はその効力を最大限に活かすことが出来るようになってくる。裏を返すとエグゼクティブスポンサーを得ていない専門家集団は、組織の調整といった壁にその活動を阻まれることが多くあり、本来の機能を果たす前につまずいてしまう。そのためにも、早めにエグゼクティブのバックアップを得ることを進めたい。

Adobe.comでの例

ここで1つの事例を紹介しよう。WEBサイトAdobe.comの運用を行っているチームでは、売上の向上を軸として、日々さまざまなテストを行っている。

このAdobe.comの運用チームではグローバルのテストを統括する最適化組織(テスティングカウンシル)を持っている。グローバル全体で実施するような最適化戦略は全てこの組織で決定され、各地域のメンバーと共にテストを実施する。

このテスティングカウンシルは、役員も加わることで、思い切ったテストなども舵が切りやすくなっている。また、情報集約されることでローカル側にて実施したテストなどもシェアされ、そこからの新たな改善なども進んでいる。

まとめ

デジタルマーケティングは、非常に急速に伸びてきている分野と言える。それ故に誰しもが適切な対応を取れているとは限らない。まずは中央組織を作り、戦略の統一、ナレッジを集約、トレーニングによる運用チームのボトムアップなどを行っていくことで、バランスの取れた顧客コミュニケーションを実施し、ビジネスを大きく躍進させてほしい。