競争優位の重要概念「アジャイルマーケティング」とは?CMOが押さえるべき5つのポイント

競争優位の重要概念「アジャイルマーケティング」とは?CMOが押さえるべき5つのポイント

耳新しい用語として「アジャイルマーケティング」が注目を集めている。ブログ、業界のカンファレンス、webセミナー、そしてビジネスマンの間でも話題だ。「アジャイル」には「機動的」「機敏」「迅速」というような意味合いがあるが、アジャイルとはどうあるべきことなのか、わかっていないマーケターも多く、実践が遅れる原因になっている。

プロジェクトマネジメントのソフトウェアを開発している米Workfront およびMarketingProfs.comによる300人のマーケターを対象にした最近の調査によると、アジャイルの導入を妨げている最も大きな障壁は、単純な「知識の欠如」だという。回答したマーケターの多く(43%)は、「アジャイルとは何か、どういうものなのか知らない」と答えており、その次に多かった回答(29%)は、「社内にエキスパートがおらず、アジャイルのトレーニングと導入ができる人材がいない」となっている。

この障壁はどちらも、CMOがコントロールできるタイプのものだ。しかし、CMO自身が上記の43%に入っていては、マーケティングで今一番注目されているアジャイルを部下たちに学ばせることは難しい。

もちろん、ほとんどのCMOには、アジャイルの何たるかをすべて理解する時間も必要もないだろう。CMOという役職においては、細かい仕組みを理解することまでは滅多に求められないものだ。しかし、CMO自身が障壁になってしまわないためにも、知っておくべき大局的なポイントを、以下5つにまとめてみた。

アジャイル実践のポイント1. アジャイルマーケティングの本質は「スピード」である

アドビのデジタルマーケティング事業におけるエグゼクティブバイスプレジデントおよびGMであるブラッド レンチャー氏は、「ブランド企業に対する消費者の期待値は、(ソフトウェアコンピューティングの進化と同様)18ヶ月ごとに倍増する」と述べている。

これは、かなりのプレッシャーだ。

しかし幸いなことに、マーケターもCMOも本質的にスピード重視の生き物だ。考えていることといえば、「同じ人数で4つのイベントではなく6つのイベントができないだろか?」「8つのコンテンツではなく12のコンテンツを作れないだろうか?」「いままで5週間かかっていたものを3週間で制作できないだろうか?」といった具合に。

こうした願望を実現するエンジンがアジャイルマーケティングである。しかし、単に速ければいいという話ではない。また、敏捷性や即応性の話だけでもない(もちろん、敏捷性や即応性が利点となることに変わりないが)。アジャイルマーケティングは、長期的/総合的なキャンペーンの連続ではなく、短距離ダッシュの思考形式をマーケターに植え付ける、完全なるパラダイムシフト(価値観の劇的な変化)だ。これは、失敗してもすぐに起き上がり、市場の変化と同時に素早く方向転換をする術をマーケターに教えてくれる。

アジャイル実践のポイント2. アジャイルマーケティングは競争力につながる

筆者らの調査によると、57%のマーケターが「仕事のプランニングプロセスは、あまり上手くいっていない」と回答している。つまり、この記事の読者のライバル半数以上は、効率の悪いプロセスに苦労していると言っていいだろう。非効率的なプロセスのツケを彼らがどう払っているかというと、他の仕事を遅らせる(56%)、または残業をする(20%)、などとなっている。

業務のあり方を見つめ直し、仕事の成果を出すスピードを上げることが、競合から抜きん出るためのカギとなる。また、会社の効率の悪さに辟易して離職を考えている競合他社の優秀な人材を、自社に引き込むこともできるかもしれない。

アンドレア フライリア氏のチームでは、アジャイルマーケティングの概念を実践したところ、始めてからわずか2ヶ月で、コンテンツの質は落とさずに制作アウトプットの4倍増を達成したという。また、あるランディングページのコンバージョンは810%も増加したという。フライリア氏によると、「チームメンバーは一度ならず障害にぶつかっている。仕事上のもの(客先から緊急対応を要請された)だったり、個人的なもの(飼い犬が病気になった)だったりと様々だが、障害が発生しても直ちにチームが集結し、影響が出そうなプロジェクトが大事に至らないように対応する」という。

「これはつまり、誰が病欠になってもメールの配信は遅れないし、編集担当者が会議中でもブログ記事の締め切りは守られ、誰が何回獣医のアポで早退しようと、我々の目標達成の邪魔にはならないということだ」。

アジャイル実践のポイント3. ほぼ半数のマーケターはアジャイルを理解していない

繰り返すが、43%のマーケターは、アジャイルとは何か、どんな仕組みなのかを理解していない。したがって、読者の企業がこの43%に入っていても、決して取り残されているというわけではない。

アジャイルが浸透していない理由はさまざまだ。ひとつは、アジャイルは大多数が慣れ親しんでいるプロセスとはまったく異なる複雑な方法論であり、とても140字以内のつぶやきで説明できるようなものではないということ。もうひとつは、仕事の「プロセス」に注意を払うマーケターばかりではないということ。上記の調査では、3分の1の回答者が、自分たちが使っている仕事の「方法論」がどういうものか知らないと答えている。

実際のところ、バックログ、ストーリーポイント、スプリント、ストーリーボードなどのアジャイルの方法を試してみない限り、アジャイルを実際に「理解」することはできない。したがって、アジャイルの体験談(上記アンドレア フライリア氏の例 参照)と、その理念と方法論の両方を説明する定義(下記参照)をある程度信じてみないことには始まらない。

筆者の好きなアジャイル定義のひとつは、Kissmetricsブログのものだ。それを引用してみよう:

「世の中のムードを絶妙なタイミングで捉え、ブランドに対する新たなグローバルトレンドを有利に活用するための、迅速で、小刻みな、かつ爆発的なコンテンツ開発」

マーケターなら誰でも、この定義には心惹かれるのではないだろうか。実際にアジャイルに触れ、ある程度時間が経たなければ、詳細を実感することはできないかもしれないが。

アジャイル実践のポイント4. アジャイル原理主義者になる必要はない

既存のプロセスをすべて投げ捨て、明確とは言い難い定義とオンラインの体験談をもとに、仕事のやり方を根本から変えるなど、想像しただけでめまいがするかもしれない。

しかし、あまり心配しなくてもよい。大部分のマーケティングチームでは、一気にアジャイルに完全移行しているわけではない。筆者らの調査では、40%のマーケターは複数の方法論を組み合わせて使用しているが、これは理にかなったやり方だ。アジャイルという概念は、ソフトウェア開発の世界から生まれた。伝統的なプロジェクト開発プロセス(いわゆる「ウォーターフォール」アプローチ)は、建設や製造といった業界から始まったもので、どちらもマーケターとは畑違いだ。何を使うにしても、マーケティング独自のニーズに合うように適応させていかなければならない。

従って、いろいろなアプローチのいいとこ取りをしてチームに合った方法を見つけても全く問題ない。どんなものであれ、業務プロセス管理の実験的な試みは良いことだ。筆者の直属のディレクターたちの中で、完全アジャイルを実践しているのは1名のみだ。数名は混合アプローチを取り、そして残る1人(イベントチームのディレクター)はウォーターフォールの世界にとどまっている。

アジャイル実践のポイント5. 組織のアジャイル教育はCMOにかかっている

CMOが犯しがちな最も大きな過ちのひとつは、仕事の結果にだけ注目し、完成に至るプロセスに目を留めないというものだ。つまり、「アジャイル? ウォーターフォール? どっちだろうと構わない。いい結果を出してさえくれれば、やり方なんてどうでもいい」という態度だ。

自分のクリエイティブチームは、一貫して高い共感を呼ぶ素晴らしいキャンペーンを生み出している、と思うかもしれない。しかし、その素晴らしいキャンペーンを完成させるまでに、スタッフが組織の効率の悪さやリソース不足に苦しんでいるのであれば、彼らは、いつかは疲弊してしまうだろう。

また、CMOが仕事のやり方に口を出しすぎてもいけない。CMOの役割は、イノベーティブな思考を推奨、促進することだ。CMOが個人的に好きな方法論を選んで、それぞれのチームリーダーに押し付ける存在であってはならない。カンファレンスやワークショップ、トレーニングセミナー、サードパーティサービスなどを通じて、部下たちにアジャイルに触れる機会を作るのが良いだろう。

ひとつのチームにアジャイルを試させ、社内的にアジャイルの伝道を行ってもらうという手もある。このアプローチは、社内感染力を持つ傾向にあり、他のチームにおいても、部分的に、または完全にアジャイルを受け入れるきっかけになる。筆者らの調査では、現在アジャイルを使用しているマーケティングチームの割合は、ほかのチームもアジャイルを使用しているという会社の割合とほぼ一致している。会社の中でアジャイルを取り入れているチームが存在しているのであれば、自分の部署のリーダーたちに紹介してもらい、話を聞いてみると良いだろう。

アジャイルが約束するもの

スピードの向上。より高い柔軟性。対応力の拡張。計画し、予測し、素早く方向転換を行う力。アジャイルは、「マーケターの注意を引く目新しい流行」以上のものであり、大きな変化の源となっている。しかし、筆者の言葉を鵜呑みにせず、すでにアジャイルプロセスを使用している、あるいは今から4年以内に使い始めるという41%のマーケティングチームに注目して欲しい。マーケティングという仕事がより複雑になり、顧客の期待値が上昇し続ける中、アジャイルを実践する組織こそ、目が離せない存在になるだろう。

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