イオン銀行リーダーに聞く顧客中心戦略:日経金融機関ランキングにて「顧客満足度 第一位」。デジタルシフトの加速でより一層のサービス向上へ
- 「お客さまのためかどうか」を検討してから、さまざまな施策を立案/実行
- 「スマホファースト」を推進するために、経営陣にもデジタル化の重要性をさらに理解してもらうように努める
- アドビのコンサルタントによる成熟度評価により、組織に踏み込んだ指摘を得て改善に活かしている
イオン銀行は、「商業と金融の融合」および「リテール フルバンキング」を事業コンセプトとし、2007年に開業した新しい銀行だ。イオンモールやGMS(総合スーパー)にあるインストアブランチ(店舗)は年中無休で原則21時まで営業、ATMは24時間365日手数料無料とこれまでの銀行の常識を覆すサービスでイオンの顧客を中心に支持が広がっている。顧客満足度調査で1位を獲得した同行は、どのようにデジタルをとらえ、ビジネスに生かしているのだろう。執行役員 チャネル統括部長 山本 洋一郎氏とチャネル統括部 ネットバンキング推進部長 橋部 智之氏に話を聞いた。
親しみやすく、便利で、わかりやすい銀行
―2017年10月に、開業10周年を迎えますね。「第13回日経金融機関ランキング」で「お客さま満足度1位」を獲得するなど、ブランドイメージも定着したようです。
山本氏:
イオンの基本理念は、「お客さまを原点に平和を追求し、人間を尊重し、地域社会に貢献する」というものです。実際に、私たちも判断に迷うと、「お客さまのためか」と自身に問いかけてから、さまざまな施策を立案/実行しています。そうした姿勢をお客さまに評価いただけた結果ととらえており、本当にうれしいです。
株式会社イオン銀行 執行役員 チャネル統括部長 山本 洋一郎氏
橋部氏:
たとえば、住宅ローンを契約いただいているお客さまに「イオンセレクトクラブ」という特典を用意しています。これは、イオングループでのお買い物がおトクになる制度です。グループとしての総合力を活かし、商業と金融を融合させた好例です。今後は、こうした数々の施策だけでなく、あらゆる面でお客さまにとって「親しみやすく、便利で、わかりやすい」銀行を目指していきたいと考えています。
株式会社イオン銀行 チャネル統括部 ネットバンキング推進部長 橋部 智之氏
―お二人は、イオン銀行の成長をずっと見てこられたわけですが、創業時のエピソードで何か印象的なことはありましたか。
山本氏:
私は地方銀行出身で、ローンの審査モデル構築が業務の中心でした。イオン銀行には、私のような金融機関でキャリアを重ねてきた人だけでなく、元アパレルの店長やテーマパークダンサーだった人など、さまざまなバックグラウンドの人が集まっていて驚きました。皆が、“今までにない、新しい銀行を作る”という夢を持っていて、わくわくする環境でしたね。
橋部氏:
イオン銀行入社前はIT系の企業にいました。そのときのお客さまに金融機関があり、将来は金融に携わりたいと考えていたため、イオン銀行立ち上げ前の準備会社に入社しました。イオン銀行は、当時、今までにない商業と金融を融合させた新しい銀行を目指していて、そこに共感できる人が集まった印象です。
スマホ普及を追い風にデジタルシフトを加速
―橋部さんはIT出身で、開業当時からweb全般を担当されていたようですが、当時のデジタルはどのような位置づけだったのでしょう。
橋部氏:
ホームページとインターネットバンキングがとりあえず「あればいい」という程度で、期待されている分野ではありませんでした。インターネットバンキングも用意していましたが、デジタルを使って利益を出そうというモデルではありませんでした。ネットを使いたい一部のお客さまに対するサポートという位置づけ、と言えばわかりやすいでしょうか。
―その風向きが変わってきたのはいつごろのことでしょう。
山本氏:
イオングループの2014~16年の中期経営計画で、「4つのシフト」が出てきたことが大きかったですね。アジアシフト、大都市シフト、シニアシフトと並んで、デジタルシフトがうたわれました。4つの成長領域に積極的に取り組んでいく決意表明で、その1つがデジタルだったわけです。そこに銀行としてどうやって取り組むか、という流れが来ました。
橋部氏:
変化の1つはスマートフォンの普及です。2013年ごろからPCと携帯向けのサイトだけでなく、「スマホ用サイトも用意しておいた方がいいのではないか」と地道にページや機能を追加していき、早くから運用を始めていたのです。すると、2014年あたりに、スマホサイトのPVや各種申込件数が明らかに伸び始めました。その翌年の2015年度には、社長の渡邉から「スマホファースト」という号令が下り、アプリの開発などスピード感を持ってデジタルに取り組めました。
山本氏:
スマホファーストは、UIやサービスをシンプルにすることで、スマホを中心にチャネルをつなげ、銀行関連手続きをお客さまが簡単に完結できるようにするという方針です。この考え方は、組織内に浸透しています。私も経営会議などの場でデジタル化の重要性をさらに理解してもらうように努め、進捗についても逐一報告しています。
―いまでは社内の期待も大きいと聞きます。
橋部氏:
はい、デジタル分野でやるべきことはまだまだたくさんあり、新しい取り組みも始めています。試験的にデジタルマーケティングを使ったプロジェクトを実施し、成果を上げたケースも出てきました。アドビのソリューションを活用してプライベートDMPを構築、それを使って対象エリアに在住のお客さまだけに地域限定キャンペーンの案内をするようにwebサイトのパーソナライズを行い申し込みにつなげたり、お客さまのwebサイトの閲覧状況を店舗に還元したりしています。いまはノウハウを蓄積している段階で、今後はスキームを構築しながら積極的に展開していきたいです。
山本氏:
ネットバンキング推進部では、webサイトだけでなくアプリも見ています。たとえば「通帳アプリ」は好評です。イオン銀行には紙の通帳はありません。お客さまから「ないの?」という声は昔からいただいており、そこをアプリでカバーすることができました。2017年スタートの中期経営計画では、「スマートフォンを中心に、お客さまに“イオン銀行は新しいな、楽しいな、便利だな、簡単だな”と体感していただく」ことを目指す「Channel for Customer Experience」構想をまとめました。今後、さまざまな企画を生み出していきますので、期待してください。
ネットとリアルを連動させて分析したい
―顧客体験=Customer Experienceという言葉が入っていますね。
山本氏:
Customer Experienceについてはアドビとの交流から、いろいろな刺激を受けています。確かに私たちはアドビ製品を使っていますが、ソフトウェアを使っているというより、コンサルタントの方に一緒に汗をかいていただいているという思いが強いです。最近では、アドビの米国本社を訪れたときに、同社の金融専門コンサルタントの方が「顧客体験がブランドを作る」という話をされて、共感しました。
橋部氏:
その際に会わせていただいた米銀行の担当者から聞いたCenter of Excellence(CoE)の話は、山本さんもぜひやりたいと乗り気でしたね。実際に弊社でも、アナリティクスセンターのような部門横断型の中央組織を作れないかと検討しています。アドビを通じて、さまざまな人に出会い、刺激を受けられるのは、ありがたいです。コンサルタントの方が定期的に組織の成熟度評価をしてくれて、社内のデジタルに対しての成長度を見る上でも参考になります。
山本氏:
成熟度評価では、組織に踏み込んで指摘してくれるのがありがたいですね。自社を客観的に見るのはなかなか難しいので、私たちの通信簿のようです。これまでさまざまなプロジェクトを経験してきましたが、成功するプロジェクトは人を育てながらうまく回っています。アドビのコンサルタントの方は、単なる技術支援にとどまらず、そういうところまで見てくれます。
―最後に、今後やっていきたい取り組みなどについてお聞かせください。
山本氏:
本当の意味で顧客満足度ナンバーワンの銀行を目指します。常に「お客さまのためか」と自問自答し、お客さまにとって「親しみやすく、便利で、わかりやすい」商品/サービスを拡充していくことで、必ず実現させます。
橋部氏:
そのためにも私のチームでは、ネットの動きとリアルの動きをきちんと連動させてオムニチャネルで分析し、お客さまごとに最適な提案をできる仕組みを作っていきます。社内的には、店舗のスタッフがAdobe Analyticsを使ってデータの共有や分析ができるようになり、本部と店舗が一体となって最適な顧客体験を提供できるようになるのが理想ですね。
―本日はどうもありがとうございました。
関連資料
アドビは2017年6月、小売/銀行分野における消費者の購買行動に関する調査を実施しました。現代の消費者を取り巻く情報環境や消費行動を把握し、カスタマージャーニー、提供している顧客体験のあり方を見つめ直すヒントとしてぜひお役立てください。