UX/UI設計におけるデータ活用とAIの関係

UX/UI設計におけるデータ活用とAIの関係

UX/UI設計や改善を担うデザイナーやエンジニアにとって、「データ活用」の理解を深めることは重要な課題だ。多くの企業におけるweb制作は、勘と経験にもとづく計画立案から、データ中心に企画を立てる方法に変わってきており、データに対する理解促進は急務である。

クリエイティブファーム「THE GUILD」は、業界全体の意識の底上げと高度なナレッジを共有できる場として勉強会「THE STUDY by THE GUILD」を主催している。2018年8月に開催されたその第3回は「データ×UXデザイン」がテーマに据えられた。若手のwebデザイナーやエンジニアを中心に会場は満席となり、テーマへの関心の高さを伺わせる。

勉強会の第一部では、「データ×UXデザイン」という異なるトピックが交差する領域について造詣の深い講師陣が、それぞれの知見を披露した。この記事では、講師の1人として登壇したアドビのエクスペリエンス クリエイション部 マネージャー 山田 智久の講演内容より、UX/UIの設計や改善担当者が抑えておくべき、データとAI活用のポイントを紐解く。

データにもとづいたUX/UI改善には、AI活用が効果的

データにもとづいたUX/UI改善には、AI活用が効果的

「(クリエイティブを担う人が多い)会場の皆さんにとって、アドビはAdobe Creative Cloudのイメージが強いかもしれません」。山田は、自身が企業向けマーケティングプラットフォームAdobe Experience Cloudのコンサルティングサービス部門所属であることを前置きした上で、解説を始めた。

「企業のweb制作において、私たちコンサルタントはUX/UIの改善から関わることが多く、そのために定量データを⽤いた分析を行っています」。

定量データを分析する課程では、人工知能(AI)の利用が極めて重要だ。分析とAIを組み合わせると、膨大なデータに埋もれている情報を深掘りしやすく、より効果的な改善が期待できるという。ただし、AIはあくまで手段であり、活用イメージを適切に描いておかなければ効果は出ない。そのためには、AIを利用する前に、次の3つを明確にしておかなければならない。

UX/UIの改善プロセスの図

図はUX/UIの改善プロセスを示している。webの改善に定量データを使っても、昔ながらの勘と経験にもとづいたものであっても、大枠では同様のプロセスになるだろう。ここで気をつけなければならないのは、AIに任せる範囲を見誤ってしまうことだ。AIに過大な幻想を抱き、本来は人間がやるべき仕事までAIにやらせようとするケースが見られるのだ。

「改善目的をAIに考えてもらおう、というアプローチでは絶対に成功しません。“AIに任せられること”と、“人間だからできること”に、明確な線を引いておきましょう」(山田)

UX/UIの改善プロセスの図

つまり、AIを使う前提として、AIの役割を正しく評価する必要がある。AIは、創造性や発想力のような人間の能力を凌駕する存在ではない。現状のAIにとって実現可能なことは、「施策の実施」や「分析と改善企画」である。一方で、「目標の設定」や「仮説の定義」などは人間の役割となる。結果を評価するのも人間の役割で、AIはその判断をサポートする情報を提供してくれる存在、という位置づけだ。

AI活用の領域を「分析」と「施策」に分けて発想する

AI活用の領域を「分析」と「施策」に分けて発想する

このようにAIの役割を明確化し、次に、「指標」と「ディメンジョン」についてもAIに任せる範囲を決める。指標とは、ページビューや購入数、離脱率など、webサイトやアプリの成果を評価する項目だ。一方のディメンジョンとは、セグメントという言葉に置き換えることもできる。こちらは、流入経路やユーザーの利用デバイス、男女、年齢など、指標に影響する要素である。指標もディメンジョンも数字として表現される要素ではあるが、AIの使い方は変わってくる。前者は、善し悪しの判断や予測のためにAIを使う。後者は、指標に影響を与える要素を発見するためにAIを使うのだ。

「ある特定のパターンを発見し、予測したり分析したりするためにAIを使うのか、それとも施策立案のための情報をAIによって入手したいのか。AIにはさまざまな機能がありますが、どの機能を、何のために使うのかについて整理しておくことが大切です」(山田)

このようにAIの用途を規定すれば、AIを活⽤する領域を「分析」と「施策」に分けて発想できるようになる。たとえば、異常値の根本原因を知りたい場合は分析、ユーザーの行動にもとづいた情報を配信したい場合は施策、といった具合に切り分けて発想し、それぞれに最適な機能を適用する。AIという概念は幅広いが、利用目的ごとに使う機能は異なるのだ。

改善目標と改善仮説の言語化が重要

改善目標と改善仮説の言語化が重要

講演の締めくくりに山田が挙げたのは、ヘルプガイドサイトの例だった。企業のヘルプガイドサイトには、「ユーザーの困っていることを解決する」という使命がある。そこを訪問したユーザーは、何かに困っているわけだ。彼らを適切に誘導し、抱えている課題を解決できれば、ユーザーは満足してくれる。それは顧客体験がネガティブな状態にあるユーザーに対して、コンタクトセンターの手をわずらわせることもなく、顧客体験を少しでもポジティブな状態に持って行くことができるということだ。つまり、必要な回答ページに素早くたどり着けるようにUX/UIを改善することが求められる。

ここにAIを適用するにあたって、まずやるべきは、改善⽬標と改善仮説をどのように定義するか、徹底的に言語化することだ。例えば、「サイトを検索しても回答ページに到達できず、問い合わせ電話番号掲載ページで離脱してしまう訪問者を減らしたい」ことを改善目標とする。それをもとに、「検索結果に満足していないのではないか」という仮説を立て、「検索ゼロ件となるヒット率」(検索しても何も出てこなかった)や「検索結果からのクリックスルー率(CTR)」(検索結果の一覧に欲しい情報がなかった)といった指標を特定する。そして、AIを使ってこれらの指標をモニターしながら、ゼロ件ヒット率を下げることを想定した回答コンテンツの整備や、検索結果に表示されやすいよう⽂章を⾒直す、などの施策を実行する

「UX/UIの改善にAIを利用する場合、その前提として、AIの能力を正しく評価する必要があります。その上で、AIを活用できる領域と、活用のやり方について発想するようにしましょう。AIの機能を分解し、目的に応じたAIを利用する、とシンプルに発想することが理想です」(山田)

今回の勉強会「THE STUDY by THE GUILD」の第二部となるパネルディスカッションでは、「社内にデータ活用の意識をどう広めたらよいか」など、参加者から活発な質問が寄せられた。顧客体験を改善するには、どの部門であるかに関わらず「誰もがデータを活用できる」ことが重要であると、多くの担当者が感じていることがわかる。「誰もがデータサイエンティスト」となるのは現実的ではないかもしれないが、「誰もがデータを手軽に扱える」ように仕組みと風土を整えることは、すぐにでも始められるだろう。

そして、「データを手軽に扱う」ことを支えてくれるAIの活用領域を把握しておくことは、適切なデータ活用の助けとなるだろう。

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