JAL:顧客との継続的な接点を通じて顧客体験価値の最大化を目指す
- 何らかの旅のきっかけを持った顧客は、その時々の状況に応じた期待を持ち、航空会社はそれに応える必要がある
- 多くの競合があるなかで顧客に選ばれるためには、デジタルによる継続的な接点の構築が不可欠
- 新しい顧客体験価値の創造にむけて、JALは5つの要件を持ち、Adobe Experience Managerによるコンテンツ管理を実装した
航空券の予約は、いまやオンラインが一般的だ。オンラインでの予約やチェックインは、スムーズな搭乗をサポートし、そこから旅の体験が始まる。
しかし、本当の顧客体験は、搭乗時のみに限らず、予約する前から始まっていると言える。
休暇なり出張なりの何らかの旅のきっかけを持った顧客は、その時々の状況に応じた期待を持ち、航空会社はそれに応える必要がある。接触時に的確な対応や情報が得られれば、顧客は満足した体験に価値を感じる。もはや航空会社は価格だけで選ばれる時代ではない。
そのような流れに先駆け、国内の大手航空会社である日本航空株式会社(以降JAL)は、デジタルを活用した顧客体験価値の最大化に向けた取り組みを2015年にスタートさせている。「Eコマース 3.0」と銘打たれたその取り組みと、今後のビジョンはどのようなものなのだろうか。
Webサイトを、「顧客体験価値を最大化する」ための場へ
JALは、インターネットの黎明期からEコマースに取り組んできた企業の1社だ。1995年にwebサイトを開設すると、翌96年には早くもインターネットを使った予約サービスを開始している。
同社 Web販売部 企画グループ アシスタントマネジャー 岡本 昂之氏によれば、JALはデジタル化の進歩を段階的に定義しているという。
webチェックインや、それを一歩進めたタッチ&ゴー(チェックインをオンラインで完結し、保安検査場へ直行できるサービス)などを完成させた2008年ごろまでを「JAL Eコマース 1.0」と定義。その後、One to Oneマーケティングのさらなる加速をはじめ、モバイル対応、SNS施策、多言語化などを推進した2014年ごろまでを同2.0としている。
そして2015年以降、まさにいま取り組んでいるのが、「JAL Eコマース 3.0」の世界だ。より優れた顧客体験を提供することに注力している。
これまでも、JALがインターネットの世界で提供してきたサービスは一貫して、顧客の利便性を向上させるという方向性を持っていた。しかし今回の3.0推進においては、「顧客体験を向上させる」という基軸を打ち出した。「世界で一番お客様に選ばれ、愛される航空会社」であり続けることを目指したデジタル戦略であることを明確化したのだ。世界各国の航空会社との競争は激化しており、そのなかで顧客に選ばれるためには、デジタルによる継続的な接点の構築が重要と考えられた。
では、その推進には何が必要になるのか。同社の答えは次の3つだ:
- 豊富かつ魅力的なコンテンツ
- 大量の顧客データ
- 適切なときに、適切な相手にそれらを届ける仕組み
すでに、JALのwebサイトは膨大なアクセスを誇っている。13言語で展開され、1日に100万人が来訪し、年間売上高は4,000億円。この巨大なビジネスインフラを、顧客体験価値を最大化するための場へと進化させるのだ。そのためにJALは、それにふさわしいデジタル基盤が必要だと判断した。
「JAL Eコマース 3.0に必要な3つの要素のうち、まず取り組まなければならないのはコンテンツ面でした」と岡本氏は話す。
「これまでのように担当者がHTMLレベルで個別に管理していては難しいと考えました。予約から予約確認、問い合わせ、電子メール、SNSなど、お客様はさまざまなタッチポイントで私たちと接触することになります。そのすべてにコンテンツが必要です。そこで、将来必要になる3つの要素の管理を含めたパートナーとして、ソフトウェアとサービスの提供能力を評価し、アドビを選定しました」(岡本氏)
Adobe Experience Managerによるコンテンツ管理
こうしてJALにおいて、アドビのCMS製品であるAdobe Experience Managerを使ったコンテンツ管理実装プロジェクトがスタートした。導入に当たっては、5つの「大切なこと」を要件として定めている。
- webサイトとしてのパフォーマンスについて、予算内で最大の成果を出すこと
- 管理の手間を削減するために、可能な限りレスポンシブ化を進めること
- 業務プロセスを効率化するために、ワークフローを実装すること
- 膨大な数のページを管理するのではなく、パーツやコンポーネントとして管理すること。ページはそれらを組み合わせて生成すれば良い
- 適切なトレーニングにより、高いレベルのスキルをすべての担当者が身につけること
2019年5月、約1年半をかけたプロジェクトは無事に完了し、Adobe Experience Managerが稼働。その後、ワークフローをより良くする作業を進めているほか、レスポンシブ化も段階的に進めている。
制作面でも大きな進展があった。新規のwebページはすべてレスポンシブ化され、デザインコンポーネントを選んで制作することで、短期間かつ低コストに大量のコンテンツを作ることが可能になった。また、デザインの元になる「素材」の段階からAdobe Experience Managerで管理したことで、素材と派生パーツを紐付けて一元的に管理できるようになった。タグ付け意識も徹底したことで、コンテンツ制作チームの作業効率は飛躍的に高まっている。
「ページをレスポンシブ化できれば、業務効率は30%程度アップすることがわかりました。そのため、すべてのwebページのレスポンシブ化を進めています。現時点でも6万ページを安定して管理し、コンテンツ更新スピードを高めてくれたAdobe Experience Managerの効果を十分に感じることができています。今後は、これをさらに発展させて3.0のその先へつなげていきます」(岡本氏)
デジタルの顧客体験をよりリアルへと近づける
今後、Adobe Experience Managerによって効率化できた時間とコストは、顧客データのさらなる活用や、パーソナライゼーション領域へと振り向け、新しい顧客体験価値の創造へとつなげてゆく。すでにA/Bテストの増加などに取り組み始めているという。
「私たちの強みでもあり、お客様から評価されるポイントは、機内や空港でのおもてなしかもしれません。そこに、デジタルを使って少しでも近づいていきたいのです」(岡本氏)。
関連資料
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デジタルチャネルに配信されるべきテキストや画像、動画や音声などを集中管理するのが、コンテンツ管理システム(CMS)の役割です。チャネルと期待の爆発的な高まりに応えるCMSに求められるデジタルエクスペリエンス管理の要件と、Adobe Experience Managerのもたらす価値についてご紹介します。