バンドー化学:産業材部品メーカーが挑戦するデジタルB2B営業とは
B2B事業において、デジタルの果たす役割は年々大きくなっている。法人顧客は、デジタル上で膨大に流通する情報の中から、調達に必要な判断材料を集めたうえで購買を決定し、オンラインで容易に調達したいと考えるようになった。
購買行動の主導権を顧客が持ち、商材提供元へ問い合わせるよりも前に、商材についての情報をきちんと収集することから、B2B企業には、デジタル上で、より顧客起点の体験価値提供をすることが求められている。
その一歩としてデジタルシフトを進め、事業部横断のIT営業支援に取り組んでいる企業がある。兵庫県神戸市本社を構えるバンドー化学株式会社(以下、バンドー化学)だ。同社はグローバルでデジタル変革(DX)に取り組み、欧州で先行してコマース基盤を稼働させた。
Marketo Engage を導入し、社内の考え方を変革するところからスタート
バンドー化学は、1906年に創業したゴム/プラスチック製品メーカーだ。年間売上は約900億円。動力伝達ベルトが主力製品で、自動車のVベルト、バイクのベルト式CVT、土砂や貨物を搬送するコンベヤベルトなど、同社の製品はさまざまな場所で使用されている。1969年にグローバル展開を開始し、いまでは米国、欧州、アジアの10数カ国に拠点を置き、全世界に約4,100人の従業員がいる。
自動車産業で鍛えられていることもあり品質基準に厳しく、「真面目で勤勉」という気風を持つ一方、事業変革のために大胆な買収に打って出るなど、新しいことにもチャレンジしている。
「DXの推進は、チャレンジの部分に当たります」
IT営業支援の推進を担う、同社 産業資材事業部 営業部の小林 義正氏は、このように話す。
小林氏によると、デジタル化については前任の営業担当役員が土壌を築いてくれたという。20年前に「社用車を廃止してでもPCを導入するべき」と、当時としては先進的な考えを持ち、彼の指揮下で国内外のECサイトやSFAの走りとなる営業情報基盤を整備。コンテンツ整理にも力を入れた。
ただ、当時はクラウドという概念すらない時代。すべてがオンプレミスで、ネットワークも弱かった。時代が追いついておらず、さまざまな施策の中で完全に社内に定着したものはわずかであったが、リーダーが「デジタルで業務を効率化する」という意思を示し続けたことは、同社のデジタルに対する考え方の根幹となった。
小林氏は、海外勤務時代からSFA、EC、SNSマーケティングなどに携わる機会が多く、その経歴を見込まれて帰国後に営業企画部に着任。2017年に営業情報共有基盤や名刺管理ツールを導入するなど、複数の営業改革プロジェクトを担当した。なかでもデジタルマーケティングの推進は、最も大きな変革を必要とするプロジェクトになった。まず、導入したマーケティングオートメーションMarketo Engage (2019年3月よりAdobe Experience Cloud に統合)に合わせて、社内の営業活動の考え方を根本的に変えるところから始めた。
「当初、コーポレートサイトは本社広報部門主管であり、各事業部の製品情報は掲載しているものの、営業は掲載内容の修正には積極的に関与できていませんでした。そのため、積極的にオンラインでリード創出することや、リードの興味関心を測定し営業活動に活用しようという活動につながっていませんでした。また展示会を実施する際の、集客や来場後のフォローもプロセス化できていませんでした。」(小林氏)
これを大きく変えた。コーポレートサイトにおける情報発信に現場部門がコミットするようになり、掲載位置や順位などをより戦略的に組み立てられるようにした。顧客の業種別ランディングページの立ち上げや、事例コンテンツの開発などにも取り組む。ナーチャリングでは名刺管理ツールと Marketo Engage を組み合わせ、メールマーケティングなどの施策も実施した。
グローバル統一のEC基盤を導入
こうしてデジタルマーケティングの土台を整えたところで、2019年にグローバルなEC基盤のリニューアルを実施。当初は地域ごとに別のECツールを導入することも検討したが、グローバル統一のEC基盤採用に踏み切り、Adobe Commerce Cloud の中核である、Magento Commerceを採用することになった。
「Magento Commerceの導入により、ECの取引データをMarketo Engageと連携し、さらにデジタルマーケティングを加速させたいと考えました」(小林氏)
導入は欧州からスタートさせた。同社は欧州2拠点で50ヵ国をカバーしており、対応する必要のある言語は32にものぼる。一方で欧州における人件費は高く、営業リソースも限定的であるため、ECのニーズがことのほか高いという事情があった。2014年からECツールは利用していたが、EC運営会社がEC部門を急遽事業売却することを決めた。そのため、旧ツールの契約期限までに新たな仕組みを稼働させることが求められた。
旧ツールは、担当分野に詳しい代理店の利用を想定しており、「プロが見てわかれば良い」というスタンスで作られ、情報が羅列されているのみ。そこでMagento Commerce に求めたのは、旧ツールの機能を継承した上で、デザイン性を向上することだ。
「新サイトではビジュアル表現を増やし、当社のベルトに詳しくない人が見ても理解できるものにしました。日本メーカーは欧州では“アウェイの戦い”を強いられますが、絞り込み検索等の機能を増やすことで、十分に戦える仕様にすることを目指しました」(小林氏)
E Cリニューアル後の商品一覧画面
さらに将来的な発展を見越し、以下の3つの機能も追加開発した。
(1)コンテンツのグローバル活用機能
コンテンツをグローバルで統一して活用できるようにし、情報を拡充。商品の詳細ページには、商品カタログ情報に加え、商品の使用シーンの写真も掲載するなど、代理店だけでなくユーザーが見ても理解しやすいようにした。
(2)多言語翻訳機能
詳細ページ内のコンテンツが増えても、自動的に多言語へと翻訳できるようにした。
(3)集客/リレーション機能
Marketo Engage と連携してページ利用率をリアルタイムにモニタリングし、利用率が低下した際に自動的にメールマーケティングを実施して集客を促すなど、コミュニケーションを活発化できるようにした。
また、欧州においては個人情報保護に対する考え方が厳しく、GDPRに準拠した仕組み作りが求められた。Magento CommerceはGDPRに対応していたこと、また日本の開発企業が前向きに協力してくれたことにより、開発の壁を乗り越えられたという。
お客さまとのデジタル接点を増やす
今後はこの仕組みを横展開してアジアや日本でも活用し、グローバル共通のEC基盤へと育てていく計画だ。しかし、欧州でのEC稼働開始時期とCOVID−19の世界的な感染拡大の時期が重なり、プロジェクトの進捗も大きな影響を受けた。本格的に展開を進めるのはこれからとなる。
ただ、そのような状況下で全世界の営業活動が制限されるなかでも、商品詳細ページの改善は営業活動の大きな支援となった。そこで、商品詳細ページだけを先行してグローバルに展開することも検討中だ。 Marketo Engage とMagento Commerceを活用し、全世界に適切に届けたい考えだという。
「この状況をきっかけに、動画コンテンツの制作やウェビナー、SNSでの活動なども積極的に行っています。今後は、全世界の営業およびマーケティング担当者が、デジタルマーケティングにつなげることを意識したコンテンツ制作をしながら、お客さまとのデジタル接点を増やせるように強化していきたい」と小林氏は語った。
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