旅行を愛するミレニアル世代に、旅行観光業界はどう応えるべきか

抽象的な幾何学形を眺める人物

ミレニアル世代への対応を真剣に考えるべき時が来た

MGM Grand Hotel & Casinoは、ゲーム体験スペースに、ビデオゲーム「パックマン」と「コネクト4」の巨大バージョンを新たに導入した。Starwood Hotelsは、ソーシャルメディアのインフルエンサーを起用して、彼らのお気に入りの写真を自社のフォロワーに配信している。Princess Cruisesは、自社のwebサイトで360度バーチャルリアリティ体験を立ち上げた。そして、世界中のホテルが、内装を新しくしたり、24時間営業のカフェやフルサービスバー、ヨガクラス、コンシェルジュアプリ、無料Wi-Fi、スマホ対応ルームキーといったサービスの充実を図っている。

これらの企業は、ミレニアル世代(一般的には、1982年から2000年の間に生まれた世代)が、旅行するたびに業界を変える力を持っていることを理解している。そのため、世界を飛び回り、モノより体験を求める世代とどう関わるべきかをよりクリエイティブに考え始めた。

最初のデジタルネイティブ世代であり、人口でベビーブーマーをしのぐミレニアル世代を理解し、どのようなテクノロジーとチャネル、顧客体験が彼らを魅了するかを把握することは、今や旅行観光業界のマーケターの必須事項となっている。課題は、彼らを市場としてリーチするではなく、いかにして彼らの体験を求める感性に語りかけるかだ。

「2020年までに、ミレニアル世代が保有する流動資産は7兆米ドルに達する」

アメリカ国勢調査局調べ

Julie Hoffman、Adobe、旅行観光業界戦略およびマーケティング部長

「まさに今、ミレニアル世代を理解することに大きな価値があります。彼らの興味関心は、この世代に特有というわけではありません。ゆくゆくは、ミレニアル世代と同様の興味関心や期待を持つその他の世代も現れるでしょう」

Julie Hoffmann

Adobe、旅行観光業界戦略およびマーケティング部長

旅行は顧客体験そのもの。まさにミレニアル世代が抱く期待

ミレニアル世代と旅行の画像

旅行とミレニアル世代は親和性が高い。2017年のAdobe Digital Index米国ミレニアル世代労働者層の調査によれば、ミレニアル世代の70%、特に18歳から24歳の若い世代は、モノより体験に価値を置き、86%が人生体験を逃したくないと回答している。また、ミレニアル世代は他の世代に比べて旅行の頻度が高く、行先も海外を選ぶ傾向が強い。

「ミレニアル世代の70%が、モノより体験にお金を使う」

— Adobe Digital Index米国ミレニアル世代労働者層の調査(2017年)

ミレニアル世代は、旅行に魅力を感じるだけではなく、体験を提供してくれるブランドとの関わりを積極的に楽しむ傾向がある。これは、この世代の70%が、ソーシャルメディアで旅行観光ブランドをフォローしている理由のひとつでもある。彼らにとっての旅とは、エンゲージメント、インタラクション、コラボレーションそのものなのだ。

「ミレニアル世代は、企業やブランドとのコラボレーションを楽しみます。顧客とブランド、顧客とマーケター、顧客とサービスプロバイダーの間に明確な境界線を引きません」(Forbesのカスタマーサービス専門家、Micah Solomon氏)。

旅行観光業界の企業は、ミレニアル世代の共感を呼ぶ顧客体験を創出し、旅の本質である体験やアドベンチャーを提供する大きなチャンスを手にしている。ミレニアル世代の考え方にもとづいて、本物を提供する必要がある。

Dan Vinh氏、Marriott International、グローバルマーケティング担当副社長

「ミレニアル世代はマーケティングを感じさせる企業からのアプローチを嫌うので、ブランド体験をどう提供するべきか、よく考える必要があります」

Dan Vinh氏

Marriott International、グローバルマーケティング担当副社長

Marriott International系列の体験を重視したブランド、Moxy Hotelは、ミレニアル世代の期待にどう応えるべきかを示す好例だ。昨年秋、同ホテルは、ベルリンの豊かなナイトライフを楽しむパーティーを開催し、都市の原動力であるミュージックやダンス、アートをショーケースして見せた。Moxy Hotelのリビングルームやゲームルーム、バーなどの共用スペース「NOW + WOW」は、自然と人が集まりやすいようにデザインされている。若い旅行者や地元の人たちが、友人同士、または新しい友人と一緒に過ごせる空間を提供している。

ミレニアル世代と旅行の画像2

Moxyの体験ブランドが成功できた理由は、マーケターがミレニアル世代の考え方を理解するためにデータを活用しただけでなく、健康好きやパーティー好きな人々、芸術家の卵、映画ファンを含む旅行好きな若者をターゲティングして、この世代を惹きつける顧客体験を創出できたことだ。ミレニアル世代は、最終的にいつ、どのようにして企業と関わるかを自分でコントロールしたいと望んでいる。

「ミレニアル世代は、欲しいものを自身でコントロールしたいと考えます。ブランドが何を提供してくれるのかを知りたいので、透明性は非常に重要なポイントになります。彼らは、様々なデバイスやコンテンツをまたぎ、便利でシームレスな顧客体験を期待しています」(Adobe Digital Insightsのプリンシパルアナリスト、Tamara Gaffney氏)。

ミレニアル世代にダイナミックな顧客体験を提供する6つの方法

ミレニアル世代と旅行の画像3

ミレニアル世代が、最も価値の高いオーディエンスとしてベビーブーマーを凌駕するようになるにつれ、旅行観光業界の先進的な企業はこの転換に対応する準備を急いでいる。こうした企業は、体験と自らコントロールできることを重視するというミレニアル世代の基本的な特徴を理解し、それ以上に、分析やプログラマティック広告、クラウドベースのマーケティングツールの能力を有効に活用している。これらのツールを使用して、ミレニアル世代の顧客一人ひとりを理解し、積極的にサービスを提供したり、顧客と共同でサービスを創出しているのだ。

このような企業がミレニアル世代と長期的な関係を築くために実施している、幅広いトレンドや個別のインサイト、デジタルテクノロジーを組み合わせた6つの方法をご紹介しよう。

1: モバイルを第一に考える

ミレニアル世代は誰もがモバイルを使用し、モバイルを信用している。Googleによると、ミレニアル世代の旅行者の3分の2が、旅行の全工程をスマートフォンで予約することに抵抗がないと回答したが、35歳以上ではたった3分の1だった。また、eMarketerによれば、ミレニアル世代の方がジェネレーションX(1960~70年代に生まれた世代)よりもモバイル決済を歓迎する傾向がずっと強い。

こうした傾向をもとに、Starwood ResortsやMarriott Internationalは、モバイルでチェックインして部屋番号を取得し、Apple Watchを使用して部屋に入るという、モバイルチェックインの可能性を探っている。また、HiltonやHyattは、Twitterにデジタルコンシェルジュサービスのアカウントを持ち、24時間モバイルで対応できるようにしている。

このような、モバイルと連携したサービスをシームレスに提供するためには、動的なデジタル基盤が必要になる。しかし、こうしたツールをいちど導入すれば、モバイルを最大限に活用し、カスタマージャーニーのあらゆる接点でミレニアル世代にリーチできるようになる。

2: 一人ひとりに合わせてパーソナライズする

ミレニアル世代は、他の世代以上に、パーソナライズされた魅力的なコンテンツを好む。この世代はパーソナライズされた顧客体験を期待するだけでなく、今日ではそれを当然のことと考えている。旅行観光業界の先進的な企業は、すでに簡単なパーソナライゼーションに効果があることは知っているが、顧客一人ひとりに合わせた顧客体験を実現できる、デジタル的な新しい手法を見つける必要があると考えている。

ミレニアル世代を想定した、旅行観光業界における最も大きなトレンドは、パーソナライゼーションと接続性だ。分析を通じて顧客の全体像を把握することにより、旅行観光業界の企業は、特定の顧客のために最適化された動的なクリエイティブを、適切な場所でタイミングよく提供できる。その効果は大きい。

「効果は絶大です」(Adobe Targetの商品マーケティング責任者、Kevin Lindsay)。例えば、モバイルを使用するゲストがチェックインしたとたん、「ゲストの居場所と今後のプランに関する詳細情報を得ることができます」(Lindsay)。つまり、企業は顧客の体験をスムーズかつ楽しいものにするため、よく考えられてカスタマイズされたオファーや対応、アイデアを迅速に提供できるようになるのだ。これこそが、押し付けがましい宣伝的な印象を与えることのない、パーソナルで有意義な顧客エンゲージメントである。

3: ソーシャルネットワークを利用する

eMarketerによれば、米国のミレニアル世代のFacebookユーザーの61%が、毎日1時間以上をFacebookに費やしている。また、AmpとBlitzは、この世代の実に84%が、ソーシャルメディアに投稿された他者のバケーション画像や投稿を見て次の旅行を計画する可能性が高い、または非常に高いとしている。

ミレニアル世代の旅行は、ネットワークでシェアされ、追体験されている。旅行者はリアルタイムにコメントしたり、質問したり、アイデアを投稿できる。つまり、企業がこれを利用すれば、旅行者のネットワーク上で自然な形でのやり取りが可能になる。

旅行観光業界の企業は、ソーシャルメディアをマーケティング戦略に取り込み、プログラマティック広告の本来の力をその領域で発揮させるべきだ。これにより、自動化や透明性、データにもとづく意思決定などが可能になる。そして、その効果はターゲットした顧客の旅行全体だけでなく、他の顧客の旅行計画にも及んでいく。

4: ミレニアル世代が好むチャネルを把握し、利用する

eMarketerのレポートによれば、ミレニアル世代の63%が、ブランドとやり取りするチャネルとして電子メールを好む。電子メールは手軽で、いつ、どこででも使用できるパーソナルなチャネルだ。また、ミレニアル世代は日常的にオンライン検索を頻繁に利用しているので、企業は検索連動型広告によって顧客をターゲティングし、カスタマイズすることも可能だ。

動画もまた、ミレニアル世帯にリーチするのに有効なチャネルである。Animotoのレポートによれば、ミレニアル世代の70%がオンラインショッピングで動画を視聴しており、動画を共有する確率は他の世代の2.5倍も高い。一方、eMarketerの調査では、旅行観光業界の動画広告は、他の業界のそれに比べて視聴完了率が高いこともわかっている。

以上のデータは、ミレニアル世代がよく利用するメディアを有効活用することにより、ビジネス機会が広がることを意味している。クロスチャネルのデータを使用して顧客を詳細にターゲティングし、共感を呼び、感動的で、共有したくなるような(そして簡単に共有できる)動画コンテンツを提供しよう。

5: 可能な限りシームレスに

ミレニアル世代は常にデジタルツールを使用しているため、企業はデバイスをまたいでシームレスな機能を提供する必要がある。MGM Hotelsでは、顧客が自社サイトを訪問する頻度が少なく、アプリのダウンロードがあまり見込めないことがわかったため、モバイルを重視するミレニアル世代向けに新しいアプリを開発することは断念した。その代わり、便利でモバイルレスポンシブなサイトを構築し、特定のアプリを使用しなくても、ホテルの予約や、イベントやショーなどの検索、レストランへの問い合わせを容易におこなえるようにした。このMGMの取り組みは、純粋に顧客の利便性を考慮して実施されたものだったが、見事に成功した。

格好良く見せようとしても、ミレニアル世代には響かない。柔軟にかつ自然体で対応する方が得策だ。MGMの事例は、テクノロジーをシンプルに生かして実用性を追求したことが功を奏した好例といえる。

6: イノベーションを進める

デジタルネイティブな第一世代は、新しいテクノロジーを容易に受け入れる。旅行観光業界の企業も、この世代と歩調を合わせるべきだ。それにより、クリエイティブに考え、新鮮で魅力的な顧客体験を創出できる機会が得られる。例えば、Marriottは、顧客が実際にいる場所をはるかに超えて旅ができるバーチャルリアリティ(VR)を利用した顧客体験の提供を開始した。「VRoom Service」と呼ばれる体験ヘッドセットは、ホテルの客室に届けられる。宿泊客は部屋でくつろぎながら、世界中の名所への仮想旅行を楽しめるわけだ。

顧客はこのヘッドセットを装着し、複数の「VRポストカード」の複数のオプションから行き先を選ぶ。アンデス山脈や北京の街、ルワンダのアイスクリームショップなどを、360度の映像と音で体感できる。

Marriott Hotelsのバイスプレジデントを務めるMatthew Carroll氏は、「旅はマインドを解放し、想像力を高めてくれます。顧客は、創造性と思考力を高めてくれる画期的な空間を望んでいるのです。VRoomでは、次世代の旅行者が求める2つの重要な要素、ストーリー性とテクノロジーの融合を目指しました」と語っている。

旅行観光業界のマーケティングにおける世代交代

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旅行観光業界におけるマーケティングは、かつてないほど活気づき、ミレニアル世代の期待もこれまで以上に高まっている。適切なツールをすれば、モバイルに対応し、かつパーソナライズされたソーシャルメディアとつながる顧客体験を提供することは難しくない。

旅行観光業界の企業は、今日の課題に対応するための有効なツールを手にすることができる。分析によってビジョンを獲得し、クロスチャネルのプラニングで顧客にリーチし、メディアの最適化によって予測と自動化をおこない、クリエイティブの最適化によって成功の可能性を高めることができる。

ミレニアル世代の顧客の全体像を構築し、この世代の台頭を受け入れ、その心をつかむコンテンツや顧客体験を提供することにより、旅行観光業界のマーケター自身も、ミレニアル世代の旅行者と共に冒険を楽しむことができるのだ。

ミレニアル世代の価値によってマーケティング機会を広げる

顧客体験の画像

顧客体験

一方的なマーケティングメッセージを送るのではなく、顧客と双方向のやり取りを促進するために、動的なクリエイティブとプログラマティックな機能を提供。

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透明性

詳細な分析を利用して、ブランド固有のインサイトをモバイルデバイスやアプリにシームレスに提供。

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ソーシャル

ソーシャルチャネルでのディスプレイ広告の最適化に投資。ソーシャルメディアにおける日々のエンゲージメントに人員を配置。

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パーソナライゼーション

分析とオーディエンス管理により、1対1のインタラクションを大規模に展開。

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モバイル

モバイルチェックインやデジタルコンシェルジュサービスなど、モバイルデバイス上で革新的かつ密度の濃いデジタル体験を構築。

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チャネル

チャネル分析に注目し、最も効果の高い場所にリソースを配置。電子メールや動画は、ミレニアル世代に歓迎される。

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イノベーション

常に最新のテクノロジーを探究し、楽しく意表を突く方法で適用。

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スムーズな顧客体験

オーディエンスのカスタマージャーニーで障害となるポイントを見つけ、排除。

Adobe Digital Index 米国ミレニアル世代労働者層の調査(2017年)

Felicia Greiff、「Millennials, Now Bigger than Boomers, Offer Hotels Challenge」、Advertising Age(2015年7月24日)

「Five-Star Digital Marketing Results.Book Today」、Adobe Industries Video、旅行観光業界

Julie Hoffmann、個人インタビュー(2017年4月28日)

Kevin Lindsay、「Targeting the Hyper-Connected Summer Traveler」、Adobe Digital Marketingブログ(2015年7月9日)

「Marriott Hotels Introduces the First Ever Virtual Reality Room Service」、Marriott News Center(2015年9月9日)

Megan O’Neill、「Millennials Love Video (And Why You Should Too)」、Animoto(2015年7月23日)

「Millennial Travelers: Mobile Shopping and Booking Behavior」、Think with Google(2016年12月)

Pete Kluge and Megan Estrada、「DCO: Programmatic’s Evolution from Ads to Experiences」、Adobe Summit 2017

Stephanie Overby、「MGM Resorts’ Tomovich: There’s No Substitute for Experience」、CMO.com(2017年3月6日)

Tamara Gaffney、個人インタビュー(2017年4月24日)

Yory Wurmser、「US Millennial Shoppers 2017: How a Digitally Native Generation is Changing Retail」、eMarketer(2017年1月)