Adobe Experience Managerはどこまで進化するのか。アドビ本社の開発者が語るソリューションの歴史とこれから

講堂にいる人たち 自動的に生成された説明

2024年10月9日に開催した「Adobe Tech Meet up - Adobe Experience Manager Innovation Road Map​」。本イベントでは、アドビ本社からAdobe Experience ManagerのProduct EngineeringのVPとディレクターを迎え、スイスのバーゼルで生まれたAdobe Experience Managerの設計思想や開発背景、今後の製品ロードマップなどをご紹介。また、アクセンチュア株式会社の導入/提案事例をもとに、ベンダーから見たAdobe Experience Manager as a Cloudの活用メリットについてもお話しいただきました。当事者にしか語れない貴重なお話を、どうぞお楽しみください。

Adobe Experience Managerの進化の過程をたどる

まずはアドビのAlexander SaarとAdam Pazikのプレゼンテーションからスタート。15年以上アドビに在籍するAlexanderは、オンプレミス時代からAdobe Experience Managerに携わってきており、ここ7年間はマネージドサービスからCloudへの変革を主導してきました。他方、11年間アドビに在籍するAdamも、入社以来Adobe Experience Managerに携わっており、多くの挑戦や成功をお客様と共に経験してきたと言います。

そんなAdobe Experience ManagerのプロフェッショナルであるAlexanderは、2000年に始まった本ソリューションの歴史を振り返り、「お客様やパートナーから学んだことをすべて取り入れ、標準化することで、色々なお客様が独自の体験構築やビジネス推進に集中できる環境を整えてきた」と語ります。そして、顧客体験を構築し、ビジネス全体にわたって、多様なチャネルで迅速に提供できるソリューションへと進化したことから、最近ではAdobe Experience Managerを「エクスペリエンス サプライチェーン ソリューション」と呼んでいると明かしました。

20年にはAdobe Experience Manager as a Cloudを、23年にはEdge Delivery Servicesをローンチ。クラウドネイティブなグローバルSaaSになったAdobe Experience Managerは、23年のThe  Forrester Wave誌でトップリーダーに選出されるなど、さまざまな調査結果において高く評価されています。「フロントエンド体験の提供(ベンチマークは2.5秒以下)」「Microsoft 365およびGoogle Workspaceによるコンテンツオーサリング機能」「モジュラーコンテンツのインスタントパーソナライゼーション」といった画期的なイノベーションの中心となっているのが、アーキテクチャです。

インフラストラクチャとプラットフォームサービスのすべてをAlexanderの率いるチームが統括しており、オンプレミス版であっても、マネージドサービス版であっても、クラウド版であっても一貫性が保たれています。これにより、すべてを再構築することなく、クラウド版への移行をスムーズに進めることができるのです。

ダイアグラム が含まれている画像 自動的に生成された説明

続いてAlexanderはこれらの高度なイノベーションについて、混乱をきたすことなく管理するための考え方に言及しました。そのうちの一つである「3つの水平アプローチ」についてご紹介します。

3つの水平アプローチとは、イノベーションを起こすための取り組みを、「直近1年以内」「2〜3年後」「3年後以降」という3つの時間軸に分けて計画することです。

・直近1年以内:アドビと親密に連携している一部のお客様にいち早くご利用いただき、近いうちにすべてのお客様が利用できる状態になるよう検討を進めています。

・2〜3年後:2〜3年後に高確率で起こり得る変化に備えて、投資を行います。今、私たちが大々的に投資しているのは、生成AIです。

・3年後以降:大きな賭けであり、ムーンショット(達成されれば大きな影響や成果をもたらす大胆なプロジェクト)と呼べるものです。ここにも予算を確保して、どんな未来が来てもお客様にとって価値あるものを提供できるよう努めています。

「私たちは常に複数のアイデアやプロジェクトを同時並行で実験的に進めています。その中で最も大切にしているのは、“お客様への提供価値”に焦点を当てることです。だからこそ、私たちは最終的にすべてのお客様がAdobe Experience Manager as a Cloudによって最高のパフォーマンスを享受していただきたいと考えています。ですが、それを押し付けることはありません。お客様ご自身の優先順位に基づき、お好きなタイミングで、お好きなイノベーションを採用していただけるようにしています」(Alexander)

モニターの前に立っている男性 低い精度で自動的に生成された説明

絶対に止められないマスメディアの大規模webサイトを移行させた成功事例

続いてAdamより、Adobe Experience Managerのオンプレミス版からマネージドサービス版、そしてクラウド版へと移行した成功事例として、英国の大手新聞社であるTelegraph社が紹介されました。

Telegraph社は17年にオンプレミス版からマネージドサービス版へ移行。そして数年前にマネージドサービス版からクラウド版へと移行を果たしています。

同社は世界中に記者を抱え、日々大量のコンテンツを作成しています。最新ニュースを常に発信し続けなければならない大規模なwebサイトであることから、移行の計画には細心の注意を払う必要があり、Adamのチームは何年にもわたってTelegraph社と連携しながら、準備を進めたと言います。

「プロジェクトの中で最も印象的だったことの一つが、英国王チャールズ3世の戴冠式の前にAdobe Experience Manager as a Cloudを稼働させたことです。このイベントが分かったとき、Telegraph社のチームはごく当たり前のように、『これは今年(23年)英国で起こる最大のイベントの一つ。webサイトが落ちることは、絶対に許されません』と言いました」

コンピューターの画面を見ている男性 低い精度で自動的に生成された説明

結果的に、戴冠式に関するページは、最大5000万PVを獲得。記者たちもライブ配信をしていたことから、表示の遅延は常に5秒以内に抑えなければなりませんでした。その後、戴冠式よりもさらに多くのトラフィック量となった英国総選挙の際にも、Adobe Experience Manager as a Cloudは常に安定稼働して、サービスを提供し続けています。

また、同社がAdobe Experience Manager as a Cloudへの移行により実現できたことが、もう一つあります。それは、「加入者数を100万人にする」という、同社が掲げた目標を達成するまでの時間を短縮できたことです。その理由について、「プライベートな環境で管理していたスタッフの努力を、Adobe Experience Managerによって付加価値を生む活動に充てられたからだ」と同社から伝えられたとのことでした。

「Telegraph社の移行が成功した背景には、『ベストプラクティスアナライザー』や『コンテンツ転送ツール』などをうまく活用できたことが挙げられます。そして本稼働後には、アドビのサポートプラン『Ultimate Success』とCloud SMEチームを活用していただくことで、Adobe Experience Manager as a CloudのROI最大化に集中できるようになっています」とAdamは語りました。

Adamのプレゼンテーションを受け、「Telegraph社は私たちが抱える最もチャレンジングなお客様の一社であるが、彼らと協働したことでAdobe Experience Manager as a Cloudがほぼすべてのお客様に対応できる状態になっていると自信を持つことができた」と言うAlexander。最後に、Adobe Experience Managerの展望について、次のように述べました。

「Edge Delivery Servicesで提供している高いパフォーマンスは、もはやオプションではなくなります。また、生成AIをビジネスで本格的に活用するために解決しなければならない、正確性や安全性といった課題と向き合い、お客様の目的に応じた顧客体験を継続的かつ迅速に提供することで、ビジネス成果の創出に貢献してまいります」(Alexander)

パートナー視点で見たAdobe Experience Manager as a Cloudのメリットとは?

最後に登壇したのは、02年からアドビのパートナーとして数々のソリューション導入実績を誇るアクセンチュア ソング プリンシパル・ディレクターの胎中康幸氏です。

「Adobe Experience Managerのオンプレ版は、カスタムができる点は良いのですが、逆にバージョンアップやセキュリティ対策などの足枷になってしまう可能性があるといったデメリットもあります」と述べた上で、パートナーの視点からAdobe Experience Manager as a Cloudを利用する4つのメリットを挙げました。

・常に最新バージョン/機能を利用することができる。

・稼働状況に応じて、柔軟にインスタンスを増減できる。

・トータル的に運用コストを低減できる。

・アドビのソリューション群だけでなく、他社のSaaSとの連携コネクタがオンプレ版よりも充実している。

電話をしている男性 中程度の精度で自動的に生成された説明

「こうしたメリットを最大限に享受するためには、Adobe Experience Managerが提供する標準コンポーネントを活用して、サイト全体を標準化することが肝要です」と語る胎中氏。「アドビの提供するCloud Acceleration Managerを活用したサイト診断を行うことが、クラウド版への移行を検討する一歩となります。Adobe Experience Manager as a Cloudへ移行することで、浮いたコストや工数をさらにマーケティングの施策実行に振り分けていただければと思います」と語り、セッションを締めくくりました。