調査から読み解く、人工知能とパーソナライゼーションの関係
「パーソナライゼーションにおける人工知能の利用に関する調査」の結果から
今年の初め、Adobe Targetチームは、パーソナライゼーションにおける人工知能(AI)の利用状況、方針、利用上の課題、今後の計画、予算などについての調査をおこなった。
顧客と会話し、その声に耳を傾け、意見を真摯かつ的確にとらえた結果、人工知能は顧客体験の最適化に未来をもたらすという結論に達した。
ここでは、調査結果から得た今後の動向とともに、関連するヒントや情報を紹介する。
いくつかのケースでは、Adobe Experience CloudのパーソナライゼーションエンジンであるAdobe Targetによって、人工知能を利用したパーソナライゼーションをいかに容易に始めることができるか、また、得られるメリットについても解説する。
企業は現在、何をパーソナライズしているか(人工知能の利用に関しては不問)
調査では最初に、人工知能を利用している、していないに関わらず、企業が現在、どのようなパーソナライゼーションを実践しているのかというベースラインを定めた。次に、その取り組みにどの程度自動化を取り入れているかを確認した。
自社において、現在、顧客体験のどの領域をパーソナライズしていますか?(複数回答可)回答者の割合
図1 人工知能の利用に関わらず、現在パーソナライゼーションをおこなっている部分
図1を見ると、パーソナライゼーションが最もおこなわれているのはwebサイトである(回答者の66%)。これはおそらく、それほど驚くことではないだろう。続いて、ほぼ半数がコンテンツをパーソナライズしていると回答している。
オファーやモバイルサイトをパーソナライズしているとの回答は、それぞれ全体の3分の1を少し上回っている(36%)。
もう少し詳しく見ていくと、パーソナライゼーションがほとんどおこなわれていない重要な部分が2つ見えてくる。
モバイル
昨年、モバイルから企業のwebサイトを訪問した人の数が、デスクトップPCから訪問した人の数を上回った。このことを考えると、企業がモバイルサイトのパーソナライゼーションにかなり遅れを取っていることは驚くべきことだ。
モバイルアプリは何年も前から存在しているが、パーソナライゼーションとなると未開の地のようで、モバイルアプリをパーソナライズしている回答者はわずか12%にすぎない。
モバイル、具体的にはモバイルアプリは、おそらく顧客と企業を最もパーソナルなレベルで結ぶものだ。顧客がモバイルアプリを利用して何らかの処理をおこなう時、企業は通常、顧客の人物像を明確に把握している。
それは顧客がアプリで認証を済ませているからだ。モバイルは大きなチャンスだ。最低でも、使用しているデバイスの種類と場所のデータによって、モバイルに届ける体験のパーソナライゼーションを検討すべきだろう。
エキスパートからのアドバイス:モバイルアプリの開発が難しすぎる?Adobe Targetを使えば、技術に詳しくないマーケターでも、技術者のサポートを頼ることなく、そしてアプリのリリースサイクルに影響されることなく、ネイティブモバイルアプリのテストやパーソナライゼーションをこれまでになく簡単かつ直感的におこなえる。
現在ベータ版で提供されており、この夏一般リリース予定の モバイルアプリ用 Visual Experience Composerも利用可能だ。
レコメンデーション
今回の結果は他の調査と一致するものの、商品やコンテンツのレコメンデーションをパーソナライズしている回答者がわずか17%だということは衝撃的だ。そのうち、31%は小売およびEコマース業、15%は金融サービス業である。
しかし、ここで注目すべきは、商品やコンテンツのレコメンデーションをパーソナライズしている回答者のほぼ半分が、年商10億ドルを超えているということだ。
レコメンデーションは、エンゲージメントや収益を押し上げる手段として長く使われてきた。それは、Adobe Targetのユーザー企業によって実証されている。実際、Adobe Summitにて、ドイツの旅行会社Der Touristikは素晴らしいプレゼンテーションをおこない、同社がレコメンデーションをいかに活用しているかを説明した。
現在、パーソナライゼーションにどのようなアプローチを使用しているかという質問に対しては、42%が手動でコンテンツを集めていると回答した。これは大変な作業だろう。
より詳しく見ていくと、手動でコンテンツを集めている回答者の27%は、商品やコンテンツのレコメンデーションをパーソナライズしていると答えている。おそらく、これも手動でおこなっているのだろう。
エキスパートからのアドバイス:レコメンデーションする商品がない?小売業じゃない?大丈夫。Adobe Target Recommendationsを使って、記事や動画、メディアなどのリコメンデーションを自動化してみよう。
テクニカルサポートやヘルプ関連の記事でもかまわない。B2Bに携わっているのなら、訪問した人が何を閲覧したか、何をダウンロードしたかをもとに、ホワイトペーパーやブログ投稿、動画などのコンテンツをリコメンデーションしよう。
現在のパーソナライゼーション方法の限界
現在用いているパーソナライゼーション方法の限界に関する質問では、半数以上が以下を挙げている。
- 1対1の深いレベルでのパーソナライゼーション
- 顧客に関して保有しているデータの利用
- 最大限のパーソナライゼーションを最大限の分野でおこなうこと
しかしながら、Adobe Targetは1対1レベルのパーソナライゼーションに長年の経験がある。Recommendations機能が商品やコンテンツのリコメンデーションを、Automated Personalzation機能がオファーのパーソナライゼーションを可能にする。
昨年、アドビはAuto-Targetをリリースしたが、これはAdobe TargetのA/Bテストワークフローにある機能で、人工知能を利用して顧客体験全体をパーソナライズすることができる。
エキスパートからのアドバイス:Adobe TargetのどのAdobe Sensei 人工知能機能が適切かわからない?この便利なインフォグラフィックを読めば、どのような人工知能によるパーソナライゼーションが自身のケースに適切かがわかるだろう。
また、「Beyond A/B Testing」ホワイトペーパーも併せておすすめしたい。A/Bテストについて詳しく説明し、各ケースで得られるROIの相対的レベルを例として挙げている。
多くの企業は、顧客データの活用に苦労しているようだが、アドビは最近、顧客データを利用してパーソナライゼーションに重要なオーディエンスを特定する方法とデータをAdobe Targetに取り込む方法と取り出す方法についてのガイダンスを発行した。
エキスパートからのアドバイス:よく理解しているデータ、すなわちファーストパーティデータから使い始めよう。ファーストパーティデータをパーソナライゼーションに使用することに慣れたら、セカンドパーティーデータ、サードパーティデータの利用へと進もう。
Adobe Targetでは、いつでもニーズに合わせたパーソナライゼーションが可能だ。直感的なビジュアル体験コンポーザーや3つのステップに従うワークフローで、技術に詳しくないマーケターでも、ひとりでテストやパーソナライゼーションが可能である。
また、Targetはクライアント側とサーバー側の両方に実装できるため、パーソナライズできる分野が限定されない。利用者の好みに合わせたフレーバーを提供する自動販売機から、Alexaの反応、webリクエストおよび応答を含めたあらゆるwebサイト上の顧客接点をカスタマイズできる。
エキスパートからのアドバイス:パーソナライゼーションはどのような領域でも可能だ。このブログ記事では、webリクエストおよび応答を含めた、あらゆるwebサイト上の顧客接点をAdobe Targetでパーソナライズする方法を説明している。
人工知能をパーソナライゼーションに利用することで得られるメリット
人工知能をパーソナライゼーションに利用することでどのようなメリットが得られるかという質問には、「顧客体験の向上」(82%)を筆頭に、「効果の高いコンテンツの提供」(64%)、「評価指標の改善」(57%)などの回答が挙げられた。「競合性の維持に役立つ」とほぼ3分の1が答え、「作業の質が上がる」(26%)、「反復的かつ手間のかかる作業を削減」(25%)と回答したのは約4分の1だった。(下記、図2参照)
自社において、パーソナライゼーションの自動化に人工知能を利用したいと考えている理由を教えてください(複数回答可)回答者の割合
図2 人工知能をパーソナライゼーションに利用したい分野
人工知能をパーソナライゼーションに利用するメリットはないと答えたのはわずか1%で、これはすなわち、メリットがあると99%が考えていることを示している。この回答は、次の質問「現在、どの程度の回答者が人工知能に投資しているのか、または将来投資する予定なのか」につながる。
下記の図3が示すように、認識されているメリットと人工知能への投資は結びついていないようだ。現在多額の投資をしているのはわずか9%で、今後18カ月の間に多額の投資を計画している回答者も20%に留まっている。投資を踏みとどまらせているものは何だろう。これについては、後ほど詳しく見ていこう。
パーソナライゼーションをおこなうために、人工知能にどの程度の投資をしていますか?
図3 パーソナライゼーションを目的とした人工知能への現在の投資と今後18カ月間の投資予定
回答者が人工知能をどのように利用したいかに関わらず、知りたかったのは、「パーソナライゼーションの自動化に人工知能を利用することで企業がどのような機会を得ることができるのか」ということだ。
全体の3分の2にものぼる多数の回答者が、オーディエンスの特定とセグメンテーションを機会としていた。「クロスチャネルにおけるパーソナライゼーションの自動化」(51%)、「コンテンツ、オファー、顧客体験のパーソナライゼーション」(49%)、「パーソナライズするコンテンツの自動生成」(45%)がこれに続いた。
ここでも、人工知能を利用して商品やコンテンツのレコメンデーションをパーソナライズすることにビジネスの勝機があると見ている回答者が、わずか32%であったことには驚きだ。
人工知能をパーソナライゼーションに利用することの障壁
自動化や人工知能が人間の仕事を奪ってしまうという不安もよく聞かれる。この不安は解消されていないのだろうか?人工知能のパーソナライゼーションへの利用を踏みとどまらせている考え方や状況とは?下記の図4は、企業をためらわせているのは何かという洞察を示している。
自社および従業員は、人工知能をパーソナライゼーションに利用することに関してどのようなリスクや懸念を抱いていますか?また、どのような障害がありますか?(複数回答可)回答者の割合
図4 人工知能をパーソナライゼーションに利用することに関するリスク、不安、障害
最多回答として、回答者の45%が人間の作業プロセスを人工知能に組み込むことの不確かさを挙げ、複雑な作業と受け止めている。
エキスパートからのアドバイス:人工知能の利用を始めることは、複雑だとは限らない。A/Bテストは、ワンクリックで人工知能を利用したパーソナライゼーションに利用できる。
Adobe Targetは昨年、A/Bテストを実施できるユーザーが何の制限もなく人工知能を利用できるようにする機能、Auto-Targetを発表した。
「複雑性」(45%)と並んだのは、「予算がない」というありがちな回答だ。Adobe Targetの顧客、Swisscomが使用したのは、Auto-Targetのワンクリックパーソナライゼーション。これをwebサイトと顧客センターのバナーに使用したところ、クリックスルー率が40%向上した。
このような収益やコンバージョン率の大幅な上昇が、予算の増加を正当化できる場合もある。
エキスパートからのアドバイス:人工知能を利用するとあらゆる作業プロセスに変更が生じると思っていないだろうか?そんなことはない。先ほども登場したAuto-Targetを試していただきたい。
A/Bテストを設定し、考慮する経験を2、3入れて、A/Bテストの設定中にAuto-Targetをクリックすれば、あとは自動的に実行してくれる。
人工知能テクノロジーの成熟度に対する不安や、アルゴリズムのトレーニング方法がわからないという回答が同点3位となっている。
エキスパートからのアドバイス:アルゴリズムのトレーニング方法がわからない?人工知能テクノロジーが成熟しているかどうか不安?アルゴリズムにフィードするデータの質が高ければ高いほど、構築するモデルの予測精度は高まる。
人工知能の結果を解釈したり、応用したりする能力に不安を示しているのはわずか30%で、これは人工知能の「ブラックボックス」問題として知られている。
これを支援するツールはほとんどないが、これを理解すれば今後のテストやパーソナライゼーションに活かせるし、なぜ人工知能が役に立つのかを関係者や経営陣に説明するために、実はとても重要だ。
エキスパートからのアドバイス:「New Personalization Insights(パーソナライゼーションの新たなインサイト)」レポートは、現在ベータ版が発行されており、この秋にAdobe Target Premiumの顧客向けにリリースされる。
このレポートは、Adobe Targetが構築したマシンラーニングモデルにおいて訪問者のどの属性が最も大きく影響していたか、さらに、マシンラーニングモデルが顧客をオーディエンスセグメントへどのように分類したかを紹介している。
人工知能に仕事を奪われる不安を挙げたのは、わずか17%だった。これは、おそらく、人工知能に対する懸念が和らぎ始めていること、そしてそのような懸念がこれまで誇張されていたことを示している。
では、人工知能をパーソナライゼーションに利用するためには、どこから始めればよいのだろうか。
人工知能を利用した、パーソナライゼーションを始めるために必要な行動
課題を克服し、人工知能を利用したパーソナライゼーションを始めるために必要なのは何かという質問に対して、最も多かった回答は、「人工知能で使用するデータソースの集中化」(53%)だった。(図5参照)。
これは、顧客に関して保有しているあらゆるデータを活用する能力が限られているという先程の回答と関係しているようだ。
自社で人工知能をパーソナライゼーションに利用するためには、どのような行動が必要だと思いますか?(複数回答可)回答者の割合
図5 人工知能をパーソナライゼーションに利用するため必要な行動
エキスパートからのアドバイス:データソースの集中化にまず必要なのは、データレイヤーの構築である。これには、Adobe Launchの業界をリードするTag Management機能が最適だ。
人工知能に関する同意やサポート、啓蒙なども、克服しなくてはならない大きな課題だ。人工知能を利用するために必要なこととして、半数以上が「経営陣に対する人工知能の啓蒙」を挙げ、「従業員の啓蒙」(47%)、「人工知能の利用を受け入れる組織文化」(47%)、「人工知能に対する組織全体のサポート」(38%)が続いている。
エキスパートからのアドバイス:人工知能に関して、手軽に啓蒙活動をおこなうためには、Adobe Summitで行われた2つのセッションを聴講することをすすめる。
まず、Adobe TargetがAuto-TargetやAutomated Personalizationで使用しているアルゴリズムについ,て、さらに、Adobeが考える将来のパーソナライゼーションと顧客体験の最適化についてである。
どこに人工知能を利用すべきか、という知識の欠如を挙げているのはわずか30%(図4)だが、どのような行動が必要かという質問に対しては、人工知能の利用に適切なケースやプロジェクトの特定であると47%が回答している。
エキスパートからのアドバイス:世界のトップブランドは、人工知能をいかに利用してパーソナライゼーションの強化を図っているのだろうか? Adobe SummitでのSwisscomやSkyのセッションにヒントがあるだろう。また、Swisscom顧客体験談も参考になるだろう。
人工知能へのパーソナライゼーション利用計画
Harvard Business Reviewによれば、パーソナライゼーションを実施している企業は、顧客獲得にかかる費用を50%削減し、収益を最大15%増やし、マーケティングの効率性が10%から30%も向上しているとのことだ。
パーソナライゼーションが重要なのは明らかである。人工知能が重要である、将来のパーソナライゼーション計画に極めて重要である、と回答者の3分の2が答えているのも納得できるだろう。
先ほどの質問で、今後18カ月の間に人工知能へ多額の投資をする計画があると答えたのは、わずか20%だった。
もちろん、多くの企業は、人工知能に取り組む前に様子をみたいと考える傾向があるが、「中程度の投資」(38%)と「多額の投資」(20%)を合わせれば、58%の回答者が人工知能をパーソナライゼーションに利用する動きが確実にうかがえる。
これは、現在、中程度または多額の投資を計画している企業が37%であることを考えると、特筆すべきすべき増加だろう。
下記の図6は、企業が現在、どの領域に人工知能を投資しているか、どの領域に投資する計画があるかを示している。
パーソナライゼーションへの人工知能の利用計画 回答者の割合
図6 パーソナライゼーションへの人工知能の利用または利用計画
「現在利用している」と「利用する計画がある」を合わせると、80%が人工知能をオファー、顧客体験、コンテンツのパーソナライゼーションに利用している、または利用する計画がある。
また、79%がパーソナライズするコンテンツの自動生成に人工知能を利用している、または利用する計画があり、78%が商品やコンテンツのリコメンデーションのパーソナライゼーションに利用している、または利用する計画がある。
オーディエンスの特定は、現在、人工知能が最も多く利用されている分野(21%)であるが、現在の利用と利用計画を合わせると僅差で4位(76%)となっている。
パーソナライゼーションを次のレベルへ引き上げよう
パーソナライゼーションを次のレベルへ引き上げたいけれど、どこから手を付けたらいいかわからない?簡単な方法をいくつか紹介しよう。
人工知能を利用した顧客体験のパーソナライゼーションについては、「AI-Powered Personalization — Above Expectation, Beyond Imagination」(人工知能を活用したパーソナライゼーション―アドビの期待、想像を超えて)で詳しく解説している。
調査背景(ビジネス属性要因の選択を含む)
アドビは2カ月以上かけて、この調査を世界各国で実施した。大部分(72%)の回答者は、Adobe Targetを顧客体験の最適化やパーソナライゼーションの主要ソリューションとして利用している。
3分の1は北米の回答者で、残りはヨーロッパ(7%)とアジア太平洋地域(17%)であった。また、84%はB2C(37%)もしくはB2CとB2Bの両方(47%)に携わる企業である。業種別では、金融(22%)の回答者が最も多く、小売(18%)、テクノロジー(13%)、旅行および観光(9%)と続く。
回答者のほとんどは大きな成功を収めている企業に務めており、63%の回答者が所属する企業は年間収益1億5,000ドルから10億ドル(25%)またはそれ以上(38%)である。
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