マーケティング組織におけるデジタル人材の育成
昨今のコロナ禍において企業におけるデジタルトランスフォーメーション(以下DX)の必要性はますます強調されていますが、マーケティング組織においても例外ではありません。
アドビのコンサルティングサービスはこれまで多数のマーケティング組織におけるDXをご支援させて頂きました。その中でも、今回は組織のDX推進のお悩みとしてよくお伺いする「デジタル人材の育成」に焦点を当ててみようと思います。主にDX組織をリードしていくリーダー向けの内容となっておりますが、実際に業務を担当している方にも日々の業務を遂行するにあたって重要な内容が書かれておりますので、ぜひご一読下さい。
DX人材はいつも不足している
まず、一般的なDX推進における重要な課題は何でしょうか。総務省(2021)『デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究』において、日本におけるDXの最も重要な課題は「人材不足」とされています。
デジタル・トランスフォーメーションを進める際の課題
経済産業省より2020年9月に発表された『持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~』を始め、昨今では、企業価値の向上における人的資本の重要性が説かれ、人材に対する意識はこれまでにないほど高まっています。特にデジタル・トランスフォーメーションの領域においてこの課題意識は顕著であると言えます。
この人材に対する課題意識ですが、マーケティング組織においても同内容の調査結果が出ています。アドビが実施いたしました『アフターコロナに向けたデジタル戦略に関する調査』において、デジタル・マーケティングツール導入するにあたっての社内課題を確認したところ「デジタル・マーケティングツールを活用できる人材がいない」(24%)「デジタル化を推進する人材がいない」(23%)は共に上位に位置しています。やはり人材に関する課題はDXにおける共通の課題と言えそうです。
デジタル・マーケティングツールを導入する上での社内課題
ではマーケティング組織におけるDX人材不足を補うためには企業は何をすればよいのでしょうか。
成長のためには「育成」からは逃げられない
DX推進のために人材を獲得する方法は①外部に委託するか②採用するか③育成するかの3つしかありません。その中で今回はタイトルの通りに「③育成」に焦点を当てていきます。
上記3つ方法を、どのようなバランスで実施するかは企業文化、ビジネスの特性、組織の規模や予算などの様々要素から決まってくるかと思います。しかし、全てを外部に委託する、もしくは全メンバーを新規採用しチームを作り上げることができる企業はそう多くはないでしょう。どういった企業であっても一定程度、マーケティング組織内(もしくは自社内)からメンバーを集め、育成していくことが求められることになります。
では、DX人材の育成のためにはまず何をしなくてはいけないのでしょうか。
DX人材を育成する前に
マーケティングDXをやらないといけない。そのためにはまずはチームを作って人を集めてみる(もしくは外部に依頼する)という点に一足飛びに向かってしまう組織は少なくありません。DX人材の育成に入る前に、まずは決めておかなければならないことを明記しておきます。
- DXのゴールとマイルストーンを決める
- まずDXに取り組むにあたって、DXのゴールを決めること、そしてそのためのタイムラインを設定することが重要になります。ゴールの設定があいまいなままに「DXを推進する事」を目標にし、結果的に組織のDXが進まないケースは多くあります。
- アドビにてご支援をさせて頂く際にはPeople/Organization/Technologyといった軸を中心に下記のような成熟度のマップを作り、組織におけるDXのゴールやタイムラインをクリアにすることをプロジェクトのスタート地点とさせて頂くことが多いです。
- デジタルマーケティング成熟度マップ(イメージ図)
- まずは、ゴールの設定からすべてが始まります。
- 外部委託と内製化のバランスを決める
- 1にて述べさせて頂いたマーケティング組織におけるDXのゴール・マイルストーンを考える上で必ず考慮してほしい項目が外部ベンダーへの依頼と内製化のバランスです。
マーケティングDXを新たに始める際に外部ベンダーの知見やツールは非常に有用になります。しかし、外部ベンダーに無制約に頼りすぎることは、マーケティング組織としての能力の向上を阻み、高コスト化することで予算を圧迫することになります。そのため一定の期間を経て、(もちろん企業の戦略にもよりますが)一部業務を内製化していくことは中長期的な組織のDX観点から重要なポイントです。 - 外部ベンダーへの過度な依存による弊害
現実的には、マーケティング組織のDXを開始した当初は外部ベンダーに運用を依頼する事が手段の中心になると思います。その後一定の伴走期間を経て、最終的には自走する組織を作り上げていくことが理想です。ただ、この最終段階においても最新の事例の収集やツールの仕様に関わる高度な実装など一部外部ベンダーに依頼をしたほうが効率の良い業務もあります。外部委託ベンダーと連携しながらこういったポイントをすり合わせていくことが重要になります。
組織の自走化に向けたイメージ(アドビ例)
それではいよいよDX人材育成に向けた組織としてのアクションについてお話させて頂きます。
マーケティング組織におけるDX人材はどうやって育てるべきか
アドビのコンサルタントとして様々なマーケティング組織のDXを支援している中で、DX人材の育成に成功している企業は以下の3つのポイントを実践していることが多いと感じています。
- 一貫したDX全体方針と評価への反映
まず初めに、DX人材の育成に成功している組織において全体方針が一貫しており、その中で人材のDXにおける貢献が納得感のある形で評価に組み込まれていることが重要です。DXを推進していく際に、人材はアサインしたけれど評価制度が過去と変わっておらず、せっかく頑張っても、DXへの貢献が「アサインされた者負け」のような状況が散見されます。これではDXに向けて号令を出しても現場は動いていきません。リーダーはこの点を強く意識する必要があります。また、昨今のDX機運の高まりからDXを推進してきた経験は貴重です。適切な評価がなされていないとより良い条件を求めて退職してしまうケースも少なくありません。こういった人材を手放さないためにも納得感のある評価制度の導入は非常に重要なポイントになります。 - さらに、本項はあえて「一貫したDX全体方針」と記述しています。マーケティング組織のDXにおいては、途中でリーダーが変わることも多く、その瞬間から全体方針や評価基準が変わってしまうことも多々あります。方針が頻繁に変更になりいつの間にかプロジェクトが立ち消えになってしまう例は枚挙に暇がありません。リーダーが入れ替わってもブレることない全体方針と組織制度を持っていることが非常に重要になります。
- 育成に向けた全体像とマイルストーンの見える化
- 「DX人材を育成する前に」の章でも記述させて頂きましたが、育成のゴールを示すことが育成の最初のステップになります。その中で自分たちが何をやったらそのゴールにたどり着けるのか、を具体的に示すことが重要です。
経験上感じるいわゆる「育成失敗あるある」の一つが、途中でついていけなくなってしまった方がドロップアウトしてしまうケースです。担当者の方が全体像の見えていない中で作業が遅れ始めると、登る山がどんどん高くなっていく不安と戦うことになります。こういったケースでの離脱を防ぐためにもゴールに向かうまでの道程を示しておくことがポイントになります。 - また全体像と相まって必ず決めておきたいのが育成マイルストーンを定量的に示していくことです。本章No.1でもお伝えした評価基準にも関連しますが、何ができるようになれば育成の成功となるのか、を具体的に定義しないまま進み、進捗が見えなくなるケースも少なくありません。この点は評価制度作成時と合わせてしっかりと検討しておくことが育成成功のカギになります。
- 初期段階から自走に向けた取り組みを導入
- DXの初期段階においては外部ベンダーの知見を積極的に取り入れ、運用についてもベンダーが主体となり実施していくケースが多いと思います。前章にある「DX人材を育成する前に」にて述べさせて頂いた通り、プロジェクト準備段階から自社に知見を貯め内製化するための道筋を立てておくことは中長期的な人材育成の観点からも重要なポイントです。
- 具体的な施策として、アンバサダーの導入などがあります。外部ベンダーがマーケティング組織におけるDX推進時に全てのメンバーに対して同等のトレーニングを提供し、全体を底上げしていくことは社内のリソース配分やコストなど様々な観点から厳しいケースが多いと感じています。そんな中自走時に中心となってもらうメンバーをアンバサダーとして選定し、集中的にトレーニングを行い、他メンバーへのトレーニングはアンバサダーを中心に行って頂く仕組みが有用です。①外部講師によるアンバサダーへのトレーニング②アンバサダーから各メンバーへのトレーニング③不明点があればアンバサダーから外部講師に確認④アンバサダーが各メンバーにフィードバック、というループを繰り返し、社内に知見を貯めていくことが自走化に向けたポイントになります。この場合に本章冒頭に述べた「納得感のある評価制度」、そして後述する「メンバーのやりきる覚悟」が非常に重要になります。
DXは「覚悟」との戦い
マーケティング組織におけるDX推進のための人材「育成」に焦点をおいた方法論の概要を論じてきました。一方で本稿の最後にDXを推進させるために最も重要な要素は各リーダーおよび実務担当者の「覚悟」であることも述べておきたいと思います。
DXの推進には一定の投資が必要です。また組織の変革に伴う衝突など一定の成長痛が発生します。各リーダーと実務担当者が自らの役割を認識し、自分に与えられた役割をやりきる覚悟がなければ、マーケティング組織におけるDXは中途半端に終わり、それまでにかけたコストも時間も無駄になってしまいます。
逆に言えばマーケティング組織においてDXを成功させている組織は主要な役割を担うリーダー、メンバーが強いコミットメントを持って変革をやりきっています。この点を最も重要なポイントとしてお伝えした上で、本稿を締めさせて頂きたいと思います。お読みいただきありがとうございました。
アドビはマーケティング組織におけるDXを組織作りから各担当者のトレーニングまで様々な領域でご支援させて頂いております。アドビソリューションを導入していなくとも実施できるご支援プログラムも多く、ご興味ある方は以下よりお気軽にお問い合わせください。