コンサルティングは「共感力」なんです

連載

アドビのコンサルタントが語る“My Experience”

アドビのコンサルタントが語る“My Experience”

新しくデジタルマーケティングに取り組み始めた組織は、未知な分野に対する恐れや反発、そしてとっつきにくさといった課題が付きまといます。そうした課題に対し、ツールのノウハウだけでなく、お客様のメンバーをモチベーションをあげることもコンサルタントの大切な役目。目指すは「デジタルマーケティングの信頼される相談役」というエクスペリエンスサービス本部 エクスペリエンス コンサルティング部 部長の松原祐規が、組織をハッピーにするコンサルティング経験について語りました。

聞き手:フリーライター 岩崎 史絵

デジタルマーケティングの「何でも相談役」として

松原さんはアドビに入社されて6年目(2018年6月現在)だそうですね。それまでもずっと外資系企業でご活躍されていたとお伺いしました。

松原 新卒で入社したのがヨーロッパの通信機器メーカーでした。その後、米国系企業を経てアドビに入社いたしました。

外資系企業とはいっても、やはりヨーロッパの企業と米国企業ではカルチャーが異なりますか?

松原 そうですね。ヨーロッパの企業は、グローバル競争で勝ち抜くためにEUが市場や標準化をしっかり管理していますし、その枠組みのなかで会社自体が利益を生み出すシステムを持っています。ですので社員はバカンスをしっかり取りますし、下手をすると責任者の多くが同時に休みを取っているので、意思決定が進まないということもあり得ます。

米国企業はどちらかというと、半期やクオーターごとにマーケティングプランをしっかりと立て、目標達成をしっかり行うというカルチャーでしょうか。「やることはしっかり行い、休むときは休む」という感じで、自己管理、自己責任がより求められます

ずっとコンサルタントとしてキャリアを積まれたのですか?

松原 ビジネスコンサルタントとなったのはアドビからですね。

なるほど。具体的な業務内容を教えていただけますか?


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松原 エクスペリエンス コンサルティング部というチームを率いています。このチームは、デジタルトランスフォーメーションを目指す企業に対し、スキルやジョブディスクリプション、マインドチェンジを含めた組織改革、具体的なソリューションの導入企画と実行支援、業務フローの策定、運用でのデジタルマーケティング施策の実行などさまざまな面でコンサルティングを行う組織になります……と説明したところで、業務範囲が多岐にわたっているので、なかなかイメージできないですよね。

早くいえば、デジタルマーケティングおけるお客様の相談役 です。チームのみんなに伝えているのは「お客様に成果を届けるために、デジタルマーケティングに関して何でも相談できるような頼れる存在になってほしい」ということです。可能であれば、そこから一歩進んで、パーソナルな信頼関係を築ける相談役になってほしい。お客様としっかりしたリレーションシップを築いていけるコンサルティング部 になってほしいな、と思っています。

「CONSUL」という靴を履いている理由

松原さんがコンサルタントとして仕事を進めるうえで大切にしていることは何でしょうか。

松原 いろいろあります。わかりやすいところからいえば、ビジネスコンサルタントになってから靴を磨くようになりました。

よくいわれることですが、靴は意外と人目につきやすいんです。決して見た目だけを大切にしているということではなく、こういう 細かいところに気を配るようになったおかげで、仕事上での細かい気配りにつながった と思います。お客様の大切なデータを扱う仕事ですので、細かな気配りや心構えがミス防止や潜在課題の発見、そこから新たな解決策が生まれることもあると思っています。ちなみにいま履いているのはChurchというブランドの「CONSUL」という靴です。


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コンサルという靴ですか!?

松原 名前が面白いでしょう(笑)。Consulとは領事・執政官という意味なので、いわゆるコンサル(タント)とはちょっと違いますが、足元からも「誠実なコンサルタントでありたい」と思っているんです。

誠実さ、信頼といった価値観を大事になさっているんですね。

松原 そうですね、それが一番大事だと思っています。通常のコンサルティングの場合、お客様が思っている課題を抽出して整理し、優先度を付けていくものですが、そこからさらにお客様の思いに共感し、課題を整理し、解決していくコンサルティングが信頼につながると思います。

具体的にどういうことかといえば、たとえば お客様自身が気付いていなかった潜在的な課題を明らかにする。ここでも 高い共感力が求められる と思います。そこで明らかになった課題にどう対応したらいいか、何から手を付けたらいいかわからない時にコンサルタントがお客様にとって最適な道を指し示す。言われたからやる、ではなく、一歩先読みして行動する、そういう姿勢や行動がお客様の期待値を超えたコンサルティングになり、信頼感の醸成につながると思います。

一歩先、二歩先の提案力がお客様の信頼につながる

どうしたら、そうした潜在的な課題に気付き、信頼される提案ができるのでしょうか。

松原 まずは お客様の考えを聞いて、その一歩先二歩先を考える ことが必要です。そのうえで、「本当にそうなのか」「それだけなのか」という2点を追求する。例えば、お客様がいっていることは本当に正しいのか、それとも別の要因があるのかを考え、もし別の提案や指摘があれば、それを丁寧かつわかりやすく指摘します。

コンサルタントとは、いってみれば「ここに行きたい」というお客様を、その場所に連れていくことをサポートする人です。箱根に行ってくださいといわれれば連れて行きますが、その気持ちの裏には「温泉にゆっくり入りたい」「旅館でおいしい料理を食べたい」という本来の思いがありますよね。そういうことを汲み取って、「箱根ではなく、近場のこちらでも同じ体験ができますよ」など、予算に応じて最適な提案をすることが、やはりお客様の思いに共感し、一歩踏み込んだコンサルティング になると思います。つまり、本当に望んでいる欲求に対する解決策を出す ことですね。私自身、それが完全にできているかといえば、まだその自信はありませんが。


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そういうスキルはどのように身に付けるのでしょうか。

松原 私のチームに入った時にまず学ぶことに1つに、イシューツリーの作成があります。われわれは、Key Business Objective(KBO)ツリー と呼んでいますが、ある目的や課題を分解して考え、1つひとつに解決策や仮説を当てていくというフレームワーク です。たとえばECサイトの目的として「売上向上」があれば、「1人当たりの訪問回数を上げる」「単価を上げる」という施策が考えられ、その下にはさらに「商品閲覧数を上げる」「新規顧客を獲得する」……など細分化されていきます。これを必ず最初にやります。

そして、もう1つカスタマージャーニーのフレームワークがあります。お客様への共感力、さらにエンドユーザー様への共感力を磨くうえで、カスタマージャーニーのステップそしてそこからの課題や解決策を考えられるスキルはコンサルタントにとって重要だと思っています。

料理の経験から考える、組織のモチベート向上に必要なこと

いろいろなお客様の課題に対し、常に一歩先、二歩先の提案をしていくことは非常に難しいですね。

松原 コンサルタントの仕事とは、常に一歩先、二歩先を考え続けることなんです。また私の場合、昔からマルチタスクが苦にならず、どちらかというと得意なので、複数のお客様の案件や仕事が重なると、「やるぞ!」とエンジンがかかるのかもしれません(笑)

マルチタスクが得意というのは、昔からですか。それとも、何かトレーニングをなさったのでしょうか。

松原 どちらかといえば、もともと得意なことだと思います。訓練ということであれば、昔和風居酒屋の厨房でアルバイトをしていたことがあり、混雑時に大量に上がってくるオーダーをさばいていたんですよ。それはもう、本当に多様なオーダーが入るので、それをどうやって組み立ててつくっていくかを考えないといけません。ひょっとすると、そこで鍛えられたのかもしれませんね(笑)。

ちなみに料理はいまでも好きで、週末はじっくり料理することが多いです。イタリア料理店で修行した友人に家に来てもらってパスタづくりのコツを聞いて実践するなど、楽しいですよ。

料理男子なんですね! 話が飛んで恐縮ですが、料理を好きになるきっかけは何だったのでしょう?

松原 料理が好きになるかどうかの境目について、いろいろ見聞して感じるのですが、「自分がつくった料理を、周囲の人がほめてくれたかどうか」という要因があるように思います。私の場合、幼いころにつくった料理を家族がとてもほめてくれました。

いまコンサルティングチームのマネージャーになってみると、ほめ方やほめるタイミング1つが、組織・チームのモチベーションにとても影響がある ことがわかるようになりました。

たとえばデジタルマーケティングという取り組みのなかには、「データがきちんと取れていない」「しっかり分析したいができない」など現場の悩みもありますし、一方で組織の上の方になると、「能力のある人をモチベートして、そのノウハウを共有したい」「新しいことにチャレンジする精神を育てたい」と、立場によっていろいろな課題があります。そういう時、自分の経験や、私自身がチームをモチベートするために実践してきたエクスペリエンスを説明することもあり、「いろんな経験をしてきて良かったな」と、しみじみ思います。

お客様の組織をモチベートするに当たり、松原さんのチームはどのような取り組みをなさっているのでしょうか。

松原 かつて私の上司から教えられたことですが、「モチベートするには、記憶に残るような仕掛けをするべきだ」ということがあります。分析の発表をして、優秀な発表をした人に優秀賞を出すのでもいい。特別なロゴが入ったバッジをつくるのでもいい。成果が残るような認定証を作ることも構いません。動画や写真を撮影してフォトフレームをつけてプレゼントすると、机の上に飾ることで記憶に残りますよね。

主人公はお客様なので、「こういう体験をみんなでやったよね」ということを残す、そのきっかけづくりをする。成功体験を積み重ねることで、成果の出方も、組織の雰囲気や環境もまったく違ってきます

私たちがコンサルティングしているデジタル領域は新しい分野ですし、「これが最新のやり方です」とソリューションの導入だけを主眼に進めても、現場は混乱してしまいます。そうした、人の気持ちをどう察してフォローしていくかもコンサルタントの重要な役割と考えています。

お客様に対する「共感力」が良質なコンサルティングサービスにつながる

松原さんはExperience Cloudだけでなく、制作系ソリューションであるCreative Cloudも組み合わせたトータルなコンサルティングサービスにも注力なさっているそうですが、これまでどのような取り組みを進めてきたのか、そして今後はどのようなサービスを展開するのかを教えてください。

松原 2017年9月にリリースを出したのですが、新たな人材育成サービス「アドビ デジタル マスターズ ワークショップ」というサービスをつくりました。これは Creative CloudとExperience Cloud両方を活用し、デジタルの制作から配信、施策まですべてを学べるサービス です。

基礎講座の「ジェネラルトレーニング」ではHTMLやJavaScript、Adobe Analyticsの基本を学び、1つの単元が終わるごとに修了証を発行します。これも成功体験の積み重ねですね。基礎講座が終わると、より専門職のノウハウに特化した「プロフェッショナルトレーニング」に進みます。

いま打ちだしているのが、制作業務フローのワークプロセス改善や働き方改革につながるコンサルティングサービスです。デジタルマーケティングの施策や組織づくりだけではなく、制作側まで含めた形でもっと提案できる ことがあると考えていますし、それは アドビにしかできない強み です。

制作から施策、そして運用までトータルに支援していくわけですね。まさに、デジタルに関するあらゆる悩みや課題を解決する立場として、これからの活躍が一層期待されますが、そうしたなか、松原さんが考える「アドビのコンサルティング」の定義やモチベートの源泉は何なのでしょうか?

松原 先ほどもいいましたが、お客様に信頼されることですね。コンサルティングという仕事は「信頼」が重要ですが、その裏にはお客様の困っていることはなにか?課題はなにか?それを少しでも共感して発見し、解決することで貢献したいという思いがあるからでしょうね。そういう意味ですと、**コンサルティングは「共感力」**だと思います。


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「コンサルティングは共感力」、いいお話をありがとうございました!