今、注目を集める「マーケティングオペレーション(MOps)」とは
2023年10月4日に開催された、ソフトバンク株式会社とSB C&S株式会社が主催する「SoftBank World 2023」の特別企画として、『マーケティングオペレーション(MOps)の教科書(翔泳社)』の著者であるゼロワングロース丸井達郎氏とAdobe Marketo Engage Champion(世界チャンピオン)のソフトバンク山田泰志氏による対談が行われました。テクノロジーの進化に伴い変化するマーケターの役割や、マーケティング組織のデータやシステムの活用を推進する新たなポジションとして、海外では一般化しているという「MOps」について、ディスカッションの模様をお届けします。
今、ソフトバンクがRevOpsを立ち上げた理由とは
丸井氏:「高価なシステムを導入しても、どう使っていいのか良く分からない」「データはあっても、使い方が分からない」「担当者が退職してしまい、どうにも対処できない」といったお悩みをお聞きします。実は、このデータとテクノロジーを活用してマーケティングの生産性を高める方法はかなり標準化されており、それをリードする専門チームが欧米には存在します。このファンクションは日本ではまだ一般的ではありませんが、欧米ではかなり普及しており、それがMOps(マーケティングオペレーション)です。
MOpsチームはマーケティングとIT部門の架け橋となり、データマネジメントやマーケティングテクノロジーツールの管理、キャンペーンマネジメント、マーケティングチームの教育などを担当します。マーケティングテクノロジーツールの数が年々指数関数的に増加し、マーケティングチームが取り扱わなければならないデータの量が膨大になっている現在、国内でもそのニーズが認識され始めています。
このMOpsの上位にはBig Opsという概念があり、様々なテーマのOps(オペレーション)が存在します。例えば、Sales OpsやCustomer Success Ops、そしてそれらを統合した概念として近年では「レベニューオペレーション(RevOps)」が注目されています。複雑で膨大なデータを有効活用するために、専門性のあるオペレーションを確立し、それらを統合しながら企業全体の生産性を高める取り組みが推進されています。
ちなみに山田さんは2023年10月から、RevOpsのチームを立ち上げられましたが、その背景を教えていただけますか?
山田氏:北米では、10年ほど前からMOpsは当たり前になっていますが、RevOpsの概念が広がってきたのは2018年頃からかと思います。「レベニュー(=売上)に関する機能を包括した組織をしっかり作り、お客様と向き合っていきましょう」というコンセプトでRevOpsがトレンドになっており、それに倣ってソフトバンクでもRevOpsの組織を立ち上げました。
ソフトバンクにはB2Bの事業組織があり、これまでいくつもの本部を兼任してきました。その中で、それぞれオペレーションモデルを仮想的に組んでいたのですが、そろそろ統合する頃合いなのではと思い、直属の上司である専務執行役員と一緒に、広い視野と広いカバレッジで効果を出せる組織体系や業務体系を組み上げていこうと考えました。
丸井氏:山田さんの場合、一つずつ積み重ねてきた結果、必要に迫られてRevOpsを立ち上げた、というのがすごくいいですよね。いきなり「RevOpsをやれ」と言われてもうまくいきませんから。地道に汗をかいてきたからこそ、具体的に物事を進めていけるのだと思います。
どうやってMOpsチームを作るのか
山田氏:私はソフトバンクに中途入社して丸4年が経つのですが、当時はマーケティングの組織はあってもMOpsはありませんでした。最初はあえて組織を作らずに、1年半ほど人材育成に費やしました。その後MOpsのチームを作り、私がリーダーも兼務。それからリーダーを別のメンバーに託し、機能として独立させた上で、さらに広げるというやり方で、かなり地道にやってきましたね。MOpsができる人を中途採用で引っ張ってきてチームを作るなんて無理です。会社としての実力がつきませんから。
丸井氏:今、山田さんのRevOpsのチームには、何名ほどいらっしゃるのでしょうか?
山田氏:15〜20名ほどですかね。
丸井氏:RevOpsの経験者を15〜20名も外から集めるなんて、絶対にできないじゃないですか。ということは、やはり教育のシステムや育成のプロセスが重要になりますよね。
山田氏:本当にド素人から育成しました。RevOpsの経験者は、そもそも日本にいませんから。今のメンバーでどう成長していくかを考えたほうが、確実にレベルアップできるでしょう。一つ誤解して欲しくないのが、日本では“オペレーション”というと「単純作業を引き受ける人」のようなイメージがあると思うのですが、MOpsやRevOpsでいうところの“オペレーション”には、そんな意味はまったくないということです。
例えばMOpsの役割の一つに、「数多あるマーケティングテクノロジーの中から、自社に最適なものを選定/導入する」というのがあります。このプロセスには細かく手順が決まっているので、それを知った上で正しく情報を集めて、ベンダーとネゴシエーションをしていく必要がある。この世界標準の作法を知っているMOpsが買い手側にいると、ベンダーの担当者も高い緊張感を持って接してくれますし、信じられないような好条件を引き出すことができます。山田泰志流なんて、一つもありません。世界にはオペレーションモデル構築について専門的に研究している優れた人たちがいますから、まずはベストプラクティスを学んだ上で、自社のコンディションに合わせて、上手に適用させていくことが大切です。
AIが普及した未来でも欠かせないMOpsの役割
丸井氏:MOpsの役割が重要性を増すもう一つの理由として、AIが挙げられますよね。今後はマーケティングをする対象が、顧客であるエンドユーザーではなく、AIのエージェントになることが想定されます。そうなると、自社のデータセット自体が最大のマーケティングチャネルになるということになってきますし、この辺りのテーマは欧米でも議論されています。要は、「AIに選んでもらえるような情報提供をしなければならない」ということですが、AIに学習させるデータマネジメントを設計するのは、マーケティングではMOpsの役割ですから、MOpsやRevOpsの役割は益々重要になると言えますよね。
山田氏:まさにそうですね。海外ではすでにAIがビジネスの中で当たり前のように使われるようになっており、日本の10倍ほどの強い突風でAIについて語られています。AIは、データをとりあえず放り込んだらおしまいだと思っていると大間違いです。業務プロセスも含めて、いかにきれいにデータが入っている状態を目指すのかが分かっていないと、ゴミ箱を大きくしていくだけになってしまう。AIにちゃんと学習させられる先生としてMOpsがしっかり活躍しないといけません。
丸井氏:そういう意味では、Adobe Marketo Engageを活用されている皆さんは、大きなアドバンテージを持っていることになりますよね。ベンダーは標準的なユースケースに対してAIの開発を進めていきますし、巨大なエコシステムにアクセスできるため、AIのメリットを最大限に享受できる。システムの本質的な使い方をしっかり理解して、そこに合わせた業務フローを敷いていくのが、一番簡単なキャッチアップの方法だと思います。
山田氏:そうですね。世界標準はとても大事です。型破りとは、型が分かった上での型破りですから。最初からオリジナリティを出そうと「いや、うちのやり方はこうなんだ!」と決めつけるのは、ただのデタラメです。これからのマーケティングは、型をしっかり理解できているかどうかで、大きく優劣の差が開いてくると思います。
丸井氏:本日はありがとうございました。
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