営業パフォーマンスの低迷に「マーケティング発想」で向き合う
去る2021年12月8日に「Digital Shift EXPO 2021 winter」が開催されました。アドビ マーケティングスペシャリストの虻川稜太もこのオンラインイベントに登壇し、2BC株式会社代表の御手洗友昭氏と「マーケティング発想で取り組む『営業DX』」と題した対談を実施しました。
虻川はアドビの DXマーケティング本部でマーケティングの成果を担う立場にあります。当時のマルケトに入社しインサイドセールスを経験して以降、アドビとマルケトの統合を経てマーケティングを担当しています。製造機器メーカーの営業経験もあることから、営業、インサイドセールス、マーケティングといった各領域で多くの変化を感じています。
2BC株式会社代表の御手洗友昭氏も同様に、外資系ベンダーやリクルートでの営業経験があり、マーケティングコンサルタントとして現在も多くのクライアントワークを担っています。その中で、昨今の特に営業に訪れている変化には並々ならぬ思いがあるとのことです。
この両者による「営業DX」というタイトルでの対談は、大いに盛り上がりました。デジタル対応の次にくる「営業DX」のポイントである「顧客中心」「マーケティング発想」について、両者の対談をまとめましたので、ぜひ、これからの営業とマーケティングに関するヒントとしてはいかがでしょうか。
もくじ
- なぜ アドビ が営業 DX について語るのか?
- 調査結果から見る「営業パフォーマンス低迷」という事実
- 営業パフォーマンスの低迷の原因を探るアプローチ
- 繰り返し訪れてきた「売り方改革のパラダイムシフト」を変化のチャンスと捉えるべし
本セッションの対談動画をアーカイブ公開中です。
なぜ アドビ が営業 DX について語るのか?
アドビは「世界を動かすデジタル体験」をミッションに掲げて、様々なアプリケーションを提供しています。その中の、営業やマーケティングという領域においても、デジタルの力を使ってお客様の動きを可視化して、検討を進めるための優れた顧客体験を提供する、実現するといったアプリケーションを提供しています。その中でも、B2Bビジネスの営業マーケティング領域で活用が進むMA(マーケティングオートメーション)のAdobe Marketo Engageは導入数が世界で5000社以上、国内でも500社以上にのぼり、お客様を支援する中で様々な知見や営業、マーケティングのノウハウを身につけてきたという経緯があります。
また、虻川が考える「マーケティング発想」について下図で示しました。売り手が買い手(お客様)に向き合いコミュニケーションを考える際には3つの重要なポイントがあると語ります。
- お客様の課題を理解する
- お客様の検討のプロセスを理解する
- お客様との接点を理解する
「マーケティング発想」とは、3つのポイントを考える際に、営業側がお客様に寄り添って理解をするスタイルにあると述べました。
調査結果から見る「営業パフォーマンス低迷」という事実
B2B企業を取り巻く状況
次に、昨今「営業パフォーマンスが低迷している」という、「アフターコロナに向けたデジタル戦略に関する調査(2021年12月、アドビ実施)」の結果を受け、御手洗氏がコメントしました。
これはB2B のマーケティングツールを活用する企業、もしくは活用検討しているといった売り手の立場にある企業を調査対象者にしたものです。その内容は、主にデジタルマーケティングツールの活用が、業績や商談、様々なマーケティング施策の実行などにどのような影響を及ぼしているのかを各方面から調査したものです。
御手洗氏はこの調査結果をインパクトのある数字だと受け止める一方で、「コロナ以降の業績は横ばい以下」と回答した売り手企業の、下記の調査結果について注目していることを述べました。
- デジタルマーケティングツールを「導入している」:約80%
- デジタルマーケティングツールを「導入していない」:約90%
これは「導入済み」と「導入なし」の差が生まれているという言い方もできるが、「10%しか差がない」ととらえるべきだろうと御手洗氏は語ります。「コロナによる」という前置きが必ずしも正しいかどうかは議論が必要ですが、営業パフォーマンスが低迷しているという事実については原因を探る必要があると指摘しました。
営業パフォーマンスの低迷の原因を探るアプローチ
営業パフォーマンス低迷の原因を探るに当たり、2BC御手洗氏は、下図の方程式に当てはめて探索するアプローチをすべきと提唱しました。
つまり、営業パフォーマンス(多くは売上や利益に設定される)は、分母を「商談期間」、分子を「商談の件数」「商談の規模(商談単価)」「商談の成約率」にすることで説明できるとする方程式です。当然、どこかの数値が落ちれば、結果である営業パフォーマンスが下がることになり、どの因子に異常値が表れているかを探ればよいということになります。
調査結果に見る売り手の実務課題について
次に御手洗氏は虻川に、ここで挙げた方程式の分子である「件数」×「単価、規模」×「成約率」と、分母である「商談期間」それぞれの因子が、近年、どのように変化しているのか、その実態を聞きました。虻川はそれぞれの因子について、次のように述べました。
(1)「商談件数」について
- 顧客企業の経営層へのアプローチ件数の減少:
例えば高額商材の場合、これまでは顧客企業の経営層に対して関係構築をオフラインで行うことができましたが、対面でのアプローチが減少してきている現状があります。 - 経営課題をつかむ機会の減少:
対話が少なくなると、経営トップの方々が何を課題として考えているのか的確につかみにくくなり、解決策を提示することも減っています。 - 対策はアプローチの相手、役職を変えること:
商談件数減少への対策としては、対象となる顧客企業の役職レイヤーを変えること、アプローチの方法や切り口を変えることが考えられ、模索しているところです。
(2)「商談規模」について
- 顧客課題に注目すべき:
商談規模が拡大、縮小したという話よりも、顧客の課題をどれくらい特定できているか? そこにどれくらいの必要性があるか? に注目すべき。本当に顧客の課題を把握できているのか?が問われると考えられます。 - 企業を取り巻く課題は多種多様化している
自社内でも体感していますが、コロナ禍、コロナ後の対策も含めて、企業を取り巻く課題は増えているし変化しています。これは、顧客企業も同様と思われ、顧客の課題を特定しにくくなっています。 - 顧客の課題をつかめないことによる商談単価の低下
これまでは、特定の課題やニーズがある顧客をターゲットにして商談創出を目指すのが一般的でした。しかし現在は、オンラインでのリード獲得がしやすい状態※になった反面、課題やニーズが明確ではないケースが増えました。リードが増えても、多様な課題にマッチした提案ができないと商談単価が下がり、結果、規模が小さい商談が増えているのが実情ではないでしょうか。
(3)成約率について
- web経由での流入は増加傾向:
web経由での流入数が増加しました。これは、テレワークなどの環境下で、「なにかしないと」という課題を多くの人が抱えて、その結果、オンラインでの情報収集が盛んになり、ウェビナーへの参加も増えたものと考えています※。 - 購買関与者かどうかの特定が困難に:
リード数が増えても、その課題特定と必要性の確認に加えて、検討への本気度や決裁権の確認が難しくなっています。ステークホルダーかどうか、最終意思決定者が誰なのか、リモート会議だけでは、その感触をつかむことが難しくなっています。また、RFPなどにもとづかない検討も多く、時期、予算、権限、必要性が曖昧な状態のまま成約につながらないケースもあります。
※:アドビのオンライン手段でのリード獲得数の増加に関しては具体的な数字が示された。ウェビナーの参加者数は月当たり自社のセミナールームでの開催と比べて約10倍に、webサイトのアクセス数も2019年のあるタイミングと比べ3倍のアクセス増となっているという。
(4)商談期間について
- ステークホルダーの増加
購買までのステークホルダーが増加して、色々な人と対話する必要があります。場合によっては、1社から獲得したリード情報が複数人(10人や15人)になることもあります。 - 商談を進める上での難易度が高まる
顧客のオフィスに行って対面すると、社内の様子や話した感じなどでわかる部分もありますが、全部リモートで商談だけでは判断が難しい部分があります。
また、ステークホルダーを見誤ったまま商談を続けてしまうこともあり、誰が何をどうやって決めるのかわからないまま、商談が停滞してしまう場合もあります。顧客のオフィスに訪問するなど、活動の量や質で進捗させにくいのが現状ではないでしょうか。
虻川が挙げたこれらのケースについては、実際に御手洗氏も直面することが多いと語り、肌身に感じる課題感や体験談を互いに共有された。 より深い話は実際の対談動画もぜひ参照していただきたい。
まとめへと向かう中で、現状を嘆くのではなくマーケターやセールスは勇気を持つべきだと次の話題に移りました。
繰り返し訪れてきた「売り方改革のパラダイムシフト」を変化のチャンスと捉えるべし
社会や環境の変化に応じて、売り方も変革が必要...これは、いまに始まった話ではないと御手洗氏は次のように述べています。
「そもそも、買い手の変化に応じた売り手の変化は、今までも求められてきました。その一因はコロナかもしれませんが、私たちは今、売り方改革のパラダイムシフトの中にいると考えます。」
そして、次の図に示されるような社会的変化の例は、「今までも」私たちの売り方を変えてきたという事実を今いちど押さえるべきだと付け加えています。
これまでの売り方の変化を振り返ると、明らかに製品の差別化要素は減少し、「モノからコト」への移行が進みました。その過程で、製品コンセプトは「コモディティからソリューション」、「経験が価値」、「変革が価値」と言われるようになり、次第に「モノ」が見えなくなってきたという経緯をたどっています。つまり、コロナ禍以前からビジネスを取り巻く環境の変化は始まっていたと御手洗氏は解説します。
そして現在、タイトルでも述べた「マーケティング発想」で、売り手はどのように変わっていくべきかが問われる時代になっています。マーケティング発想とは、「売れるモノづくり」と「売れる仕組みづくり」の観点から売上を伸ばしていくことだと御手洗氏は語ります。また、「売れるモノづくり」と「売れる仕組みづくり」は、いずれとも前述の虻川の説明にあったように「売り手が買い手(お客様)に寄り添って理解をすること」から始めるべきだとの見解を示しました。
御手洗氏はまた、営業パフォーマンス向上と、これからの買い手の姿勢について次のように語っています。
「現在、営業パフォーマンスを上げるための方程式の因子が不安定になっているかもしれませんが、それはそもそも買い手側の購買に至るまでのプロセスを推し進めるフローが変わっていることが理由として挙げられます。その変化はコロナ禍以前から始まっていたものです。
購買に関与する登場組織や人物の変化も含め、主購買組織や購買関与者をすぐに示すことができなくなっているということは多くの「買われ方」が変わったからに他なりません。このような現状を嘆くのではなく、売り手として自社の製品、サービスが、買い手にどう検討されるのか、どう買われるのか、どう使われるのかを考えていくべきです。」
その具体的な方法として、「現場経験と課題感を持った営業を集めて、買い手が製品・サービスをどのように購買しているのかをディスカッションして、実際にお客様に聞いて確かめて、現在の買われ方のプロセスを作成すれば、自然な向き合い方が生まれるはず」と御手洗氏は提案し、さらに詳しく述べました。
「購買プロセスを推し進めるフローの再整理を通じて、ターゲットをより精緻に明確化することの重要性や、顧客がオンラインにもオフラインにも触れていることへの対応の重要性に気が付くことでしょう。このような考察が進められると、顧客ターゲティング精度の向上への取り組みや、デジタルの活用検討がテーマとして挙がることになると思います。こうした思考で売り方を考えていけば、デジタルマーケティングツールの導入を検討することになったとしても、プロジェクトゴールとビジネスゴールが不一致となるような状況は生まれにくく、結果としてスピーディーにビジネスの成功をもたらすでしょう。」
最後に御手洗氏は、「いま、私たちは売り方改革の過渡期を迎えています。このような時代の中、勇気をもって強くなっていくべき」でと述べて対談を締めくくりました。