エネルギー業界が目指すべきデジタルトランスフォーメーションとは?
2021年3月、エネルギー業界でDXに取り組まれるみなさまに向けて「マーケティングテクノロジーが乱立する現状において考慮すべきポイントとは?」と題したオンラインイベントを開催。今回はその中から主要なトピックを抜粋してご紹介します。
2021年3月、エネルギー業界でDXに取り組まれるみなさまに向けて「マーケティングテクノロジーが乱立する現状において考慮すべきポイントとは?」と題したオンラインイベントを開催。今回はその中から主要なトピックを抜粋してご紹介します。
“Doing digital”から“Being digital”へ
基調講演にご登壇いただいたのは、EY ストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 エナジーセクター パートナーの細谷 友紀氏。2014年にEYに参画以降、日本地域における電力ガスセクター向けのコンサルティングサービスをリードされてきた細谷氏からのメッセージは、「エネルギー産業には長期の視点が必要であるものの、消費者行動の変容により、DXの文脈が喫緊の課題となっている」というものです。
続けて細谷氏は、「今の状態は“Doing digital”だが、これから目指すべきは“Being digital”だ」と指摘します。“Doing digital”とは、デジタル化のプロジェクトが組織の一部で実施されている状態のこと。そこから、ビジネス全体がデジタル化され、デジタルの活用が当たり前の状態になった“Being digital”へと向かっていく必要があるというわけです。
細谷氏がこう語るのは、「消費者のデジタライゼーションが進んだことにより、エネルギー業界でもデジタライゼーションへの期待が高まっているからだ」と言います。この期待の高まりは、顧客からだけでなく、投資家からも同様です。「昨年8月にダウ平均が古参の某オイルメジャーを含む3銘柄が除外され、新たに大手クラウドサービスを含む3社が組み込まれました。これは『環境への適応』とともに『デジタルへの適応』が求められている証であると言えるでしょう」(細谷氏)
では日本のエネルギー企業は、何に気をつけてDX化を進めれば良いのでしょうか。その解として細谷氏は、次の3つを挙げました。
・目的…DXを進める上で、目的設定は非常に重要。30年、50年といった超長期のエネルギー政策と照らし合わせながら、「なぜDXに取り組むのか」組織内でコンセンサスを醸成する必要がある。
・人材…貴重なDX人材を生かすも殺すも組織や経営者のリーダーシップ次第。エネルギー産業で従事してきた多くの人にとって、DX人材は異質な存在。異なる文化を受け入れる態勢が求められる。外部から登用するDX人材と、内部のエネルギー人材が尊重し合える文化づくりを。
・組織/仕組み…多くの組織にはレガシーが堆積している。レガシーによってDXが阻まれることのないよう、DX組織を分離するのが効果的だ。その際には、ただ新たな組織をつくるだけでなく、「人事評価制度の見直し」や「DXカルチャーを浸透させるための啓蒙活動」もあわせて行いたい。
「DXを推進するには、組織の動きや意思決定が萎縮しないことが最も重要です。適切なリスクマネジメントのもと、闊達にビジネスを促進する組織文化を重要視していただきたい」と語り、講演を締めくくりました。
顧客体験の変革を支えるアドビのプラットフォーム
続いてアドビ株式会社 デジタルストラテジーグループ プリンシパル 角田 浩平より、デジタルを活用した顧客体験変革の具体化についてご紹介しました。
「デジタライゼーションによって、エネルギー業界に対する顧客の捉え方が、“料金を徴収される会社”から“価値ある情報を提供してくれるパートナー”へと変化している」と語る角田。
- これまでは基本的に請求や不払いのときにだけの接触だったところから、パーソナライズされた情報提供やオファーをしてくれる存在へ。
- 顧客から質問/依頼があるときはしぶしぶ電話をかけていたところから、オンラインでの情報提供によってすぐに自分で解決できるように。
- 電力を受け取るだけだったところから、多様なエネルギーや料金プランの選択肢が与えられるように。
- 基本的なサービスだけを利用していたところから、生活を幅広くサポートしてくれる頼れる存在に。
こうした期待に応えるためには、顧客体験を抜本的にデザインしなおす必要があります。そのキーポイントとなるのが「Self Service」と「Outbound Communications」です。「Self Service」とは、デジタルによってお客様自身ができる環境を整えてあげること。そして「Outbound Communications」は、パーソナライズされた価値ある情報を届けることです。
この視点を持ってカスタマージャーニーを再設計した例は、次の通りです。
カスタマージャーニーを横断した再設計
「Acquisitionつまり顧客になるまでのところは、日本の多くのエネルギー企業で注力されている分野だと考えています。しかし、次に力を入れるべきは、継続利用に寄与する契約後のServiceとRetentionです」(角田)
アドビでは、こうしたデジタルの顧客体験を包括的にサポートするプラットフォームをご提供しています。
エネルギー業界の顧客体験進化を支えるプラットフォーム
特に、Adobe Experience Cloudでは、さまざまなソリューションを通じて「データの管理/分析」「コンテンツの管理」「配信の管理」まで網羅することができます。
Adobe Experience Cloudについて
パーソナライズされた情報提供を目指すなら、避けて通れないのが『コンテンツ制作の高速化&効率化』。さらに、その実現のために欠かせないのが『デジタルアセットの一元管理』と『内製化』です。
「すぐに膨大化する画像や動画などのデジタルアセットを一元管理しておかなければ、毎回つくりなおすことになってコスト効率が悪化します。また、テンプレート化されたフォーマットを使って、ある程度はコンテンツの内製化ができる体制を整えることも大切です」(角田)
事例で紐解く、顧客体験の向上が収益への貢献をもたらすまで
最後はアドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス営業統括本部 ストラテジック アカウント ディレクター プラブネ マニッシュより、米国のエネルギー企業 Constellation社の事例が発表されました。
消費者の70%がエネルギー業界に対してSelf Serviceを求めていることから、Constellation社では、高度にパーソナライズされた顧客体験の提供を目指したと言います。柱としたのは「Highly Automated Prosses:高度なプロセスオートメーション」「Go Digital:ペーパーレス」「Interactive Process “Show me how” with Video and Digital Assistants:動画とデジタルアシスタントによるインタラクティブなセルフサービス体験」「Information is Relevant to Context:個人のニーズに合わせた情報提供」の4つ。これらを実現のため、そしてどのチャネルでも一貫した顧客体験を実現するために導入されたのが、Adobe Experience Managerです。
「それまでは17のツールで分散したアセット管理をしていたところから、Adobe Experience Manager1つに集約したことで、一貫性のある顧客体験を提供できるようになっただけでなく、43%ものコスト削減に貢献できました」(マニッシュ)
さらにConstellation社では、Adobe Analyticsを用いて、月間2〜3億のデータポイントを分析。これにはスマートメーターのデータや、過去のエネルギーの利用履歴、オウンドメディアでの行動履歴など、あらゆるデータが含まれています。こうしたあらゆるデータを活用することで、お客様に寄り添ったサービスの向上を図ることができます。
たとえば機器の故障のアラートを出したり、予算の上限を設定しているなら上限に近づいているというアラートを出したり、過去の利用状況に比べて異常に使用量が増えているのを検知してアラートを出したり。このようなアラートをアプリのプッシュ通知で発信することで、お客様にとってConstellation社を利用する付加価値が高まり、ロイヤリティも高まることは間違いありません。
「大切なのは競合に勝つという視点ではなく、『お客様に満足してもらえる体験づくりに投資する』という発想を持つことです。お客様と効率よくコミュニケーションを図るために、いち早くデジタルに取り組むべきなのです」(マニッシュ)
Constellation社では、まずアドビ製品を導入して、コンテンツ管理/サイト運営の効率化の体制を整えてから、顧客の見える化(データ収集・分析)に着手していきました。効率性の改善によって生まれたお金によって、お客様のデータを収集・分析していったのです。そうして良質な顧客体験を提供できるようになったことで、顧客との関係性が強化され、ブランド価値が向上し、最終的には収益への貢献も果たすことができたそうです。