第5回Adobe Analyticsユーザー会2023セッションレポート①: Adobe Analytics 稟議マーケティング(パナソニック コネクト株式会社様)

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先日、オフラインにて第5回Adobe Analytics ユーザー会が開催されました。今回は、東京都港区新橋にあるパナソニック コネクト株式会社様の本社オフィスを会場としてお借りし、20名以上のユーザーの方々にご参加いただきました。オフライン開催は、前回(6/30)の第4回に引き続き2回目となります。

また当日のセッションでは、パナソニック コネクト株式会社の赤川様、パーソルキャリア株式会社の小林様のお二人にご登壇いただきました。本記事ではセッションレポートの第一弾として、赤川様によるセッション「Adobe Analytics 稟議マーケティング」の内容についてお届けいたします。

スピーカー:

パナソニック コネクト株式会社 デザイン&マーケティング本部

リードコミュニケーションデザイナー

赤川 美帆 様

赤川様のご経歴

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赤川様は、2019年にパナソニック コネクト株式会社(以下 パナソニック コネクト社)に入社され、コミュニケーションデザイナーとして日々Adobe Analyticsをご活用されています。またAdobe Analyticsとの出会いは2007年(当時の製品名は ”Site Catalyst”)まで遡り、転職等で途中使用していない期間を除き、それ以降の約13年間にわたりAdobe Analyticsを活用されてきました(2008年からは、Adobe Targetもご活用)。今回のセッション内では、社内のステークホルダーにAdobe Analyticsの導入価値を納得してもらえるか、継続する価値を納得してもらえるかという悩みに対する対応策について、赤川様ご自身の経験を基にお話しいただきました。

Adobe Analyticsの稟議を通すのが大変な事情

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Adobe Analyticsの導入価値が問われる際、よく以下の様な問いかけをされるのではないでしょうか?

『なぜAdobe Analyticsなのか?』

赤川様もやはりこの問いかけを社内でよくされるそうです。そしてこの様な問いかけをされる頻度/Adobe Analyticsと競合製品との比較議論が起こる頻度は、企業ごとのビジネスモデルやwebサイトの機能によっても左右されると考えられます。

『ウサギ属性』と『カメ属性』

上図は、企業が行うデジタルコミュニケーションが売り上げとどの程度相関しているかどうかを縦軸、そして顧客体験に対してどの程度力を入れて投資しているか(“UX成熟度”と定義)を横軸として4分割にした4象限のポジショニングマップになります。この中でまず着目すべきなのが、一番の花形ポジションである右上に位置するセグメントです。ここに属するのは、デジタルで提供するサービスや機能と売り上げの相関が高く、なおかつUX成熟度も高い企業になります。

この花形ポジションを、仮に『ウサギ属性』と名付けます。この『ウサギ属性』に該当する企業の場合、データによる顧客理解の重要性やデジタルコミュニケーションによる価値提供が収益になるということを、現場から上層部までが理解しているケースが多いため、データ分析に関して最上位の製品(Adobe Analytics)を使用することは普通のことであり、競合製品との比較議論自体がそもそもあまり起こらないのではないかと予想されます。

一方、ウサギ属性とは対極に位置するのが、先ほどのマップ左下にポジショニングするセグメントです。ここに属するのは、ユーザーに提供しているデジタル体験がまだ発展途上の企業になります。そしてこの発展途上の段階にいるセグメントを、『カメ属性』と仮に名付けます。

一般的に『カメ属性』に該当する企業は、『ウサギ属性』と比べてデジタルコミュニケーションによるビジネス効果がまだ感じづらい段階であると考えられます。

カメ属性の企業が稟議を通しづらい背景

提供しているデジタルサービスと売上相関度が高いケースが多い『ウサギ属性』の企業では、Adobe Analyticsを継続利用するための稟議がスムーズに通りやすいと思われるのに対し、『カメ属性』の企業は同じようにはうまくいかない可能性が高いです。その背景としてはやはり、先ほどのポジショニングマップで示されていた通り、以下2つの理由が挙げられます。

  1. デジタル施策と売上相関が弱い
  2. UX成熟度(顧客体験に対してどの程度力を入れて投資しているかの度合い)が低い

説得前の事前準備:『目的逆算型』説得手法

では『カメ属性』企業の方が、社内のステークホルダーを説得し、Adobe Analyticsの稟議を通すためには、どのようなことが必要になってくるのでしょうか。

まず、人を説得する際の手法としては『危機感煽り型(例:「競合はUXに力を入れていますよ」と煽る)』と、『目的逆算型(例:「収益貢献するためには○○が必要ですよ」と説明する)』という二つの方法があります。そしてそれぞれの手法を、相手の行動の動機付けが『リスク回避』なのか『目的達成』なのか、どちらの傾向が強いのかを見極めたうえで使い分けることが重要になります。

しかし、例えば過去に強烈な成功体験を持つ企業の場合、「これまでマーケティングに力を入れなくても売り上げが立っていたから、デジタルマーケティングに投資をする必要がない」といった考えが根強く、危機感を醸成しづらいカルチャーがあると推測されます。また、デジタル上の顧客体験を考えて施策を実施するよりも、製品の機能価値向上や工場の最適化に力を入れた方が、短期的に見れば経営指標に数値が反映されやすいため、どうしてもプロダクトアウト思考が強くなってしまう点も、危機感を煽れない要因の一つかもしれません。

この様に、成功体験が大きい+プロダクトアウト思考が根深い組織の場合、『リスク回避』することは行動の動機づけになりづらい・自分事化しづらいため、『危機感煽り型』の説得手法はあまり適しません。こういったケースではそれよりも、結果としてより自分事化しやすいであろう『目的逆算型』で説得する方が、説得相手にもこちらのメッセージが伝わりやすくなると考えられます。

説得前の事前準備:アナリティクス製品導入の目的を明確化する

目的から逆算してアナリティクス製品の導入を説得する際には、「そもそも何のためにアナリティクス製品を導入するのか?どういうメリットがあるのか?何を実現したいのか?」ということを明確化する必要があります。

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例えばこれが個人の買い物(BtoC購買)の場合、『論理』はスキップして個人の欲望のままに買い物をすることが可能です。しかし会社(BtoB購買)の場合は必ず『決裁』が存在するため、どんなメリットがあってその買い物(アナリティクス製品導入)が必要なのか大義名分を、『理論的』に『経済的合理性』を『組織で協議』して考えなければなりません。

説得前の事前準備:アナリティクス製品の必要性を部門計画に落とし込む

一般的に、デジタルマーケティングツールが必要な理由を考える際、それを部門計画に落とし込んで考えることが多いのではないかと思います。

例えば上図のように、まず『デジタルマーケティングの目的』があって、そこから『部署の目的』→『アナリティクスの導入目的』に落とし込んでいく、といった流れだと仮定して、まず「デジタルマーケティングの目的が何か」を遡って考えてみます。

前提として、マーケティングの定義に関しては人によって様々な考え方がありますが、例えば「顧客が価値を見出す商品やサービスを提供し続けること。価値を作って、価値を伝えて、価値を維持すること。」という定義だとします。その上で次にデジタルマーケティングの目的や役割を考えてみます。これについても、定義同様いろいろな考え方があります。例えば、仮に以下3つを挙げてみます。

  1. 売上貢献
  2. 体験価値を提供すること
  3. そしてブランディングで、価値を維持して、ステークホルダーとのつながりを強化すること

こういった目的がどの程度実現/達成できているかを判断するためには、部署の目標を定める必要があります。その際、デジタル上のユーザーの行動が評価指標となることが多いのではないかと思います(上図参照)。そしてこれらの目標値を計測するためにはデジタル上のユーザーの行動や属性をトラッキングすることが必要になってきます。ここでようやくアナリティクス製品導入の必要性が明確になります。

アナリティクス製品を使えば、以下のことが可能になると言えます。

・デジタル施策のビジネス貢献度の計測

・企業本位なコミュニケーションを防ぐためのUX最適化

説得前の事前準備:ステークホルダーの「主観的な目的」も落とし込む

ここで更に踏み込んで、ステークホルダーの「主観的な目的」も落とし込んで考えてみます。

全員が共通して持つ本来の目的(客観的な目的)は「顧客に価値を提供すること」であり、その目的の達成度を見極めるために目標をセットしますが、ステークホルダーはそれとは別に、主観的で自己都合的な目的を持っていると考えられます。例えば「残業を減らしたい」「手柄が欲しい」というような目的や思惑は誰しもが持っていて当然ですし、実際にはおそらくそういった自己都合的な目的の方がサイズとしては大きい可能性もあります。そういった事情も踏まえて、ステークホルダーを説得する際はステークホルダーごとの自己都合的な目的/インサイトを考慮に入れて話すことが重要になってきます。

説得前の事前準備:ステークホルダーごとに攻略法を考える

ではここで、決裁時に登場するステークホルダーをおさらいしてみます。

登場するステークホルダーは大きく分けて4タイプ(『お金を出す人』『検討する人』『実装する人』『使う人』)と考えられます。そしてこの4タイプのステークホルダーはそれぞれに異なる視点(自己都合的な目的)を持っているため、それぞれの関心ごとを抑え、訴求ポイントや説得方法を変えていく必要があります。

この4タイプのステークホルダーをさらに、『お金を出す人』と『実装する人/使う人』という二つのグループに分けます。そして『検討する人』に関しては、導入価値を説得する側になることが多いと思いますので、ここではこの『検討する人』の立場になって、他2つのグループの説得方法を考えていきます。

説得方法①:お金を出す人を説得する

先に、『お金を出す人』の説得方法についてです。訴求ポイントや説得方法を考えるにあたり、相手の関心事を抑えておく必要がありますので、まず『お金を出す人』が製品導入時に考えていることを洗い出してみます。

部署共通関心事としては、例えば「製品導入したら組織にどんなメリットがあるのか」「目標に貢献できるのか」といったことが挙げられます。これはどのステークホルダーにとっても共通の関心事になるかと思います。そこからさらに、製品導入によって『お金を出す人』自身にどんなプラスがあるかを説明する必要があるので、個人的な関心事も同時に考えてみます。『お金を出す人』はマネージャーレベルの人であることが多いと予想されるので、個人的な関心事としては「お金と人のコントロール」「コンプライアンス」などが挙げられるでしょう。

そしてこれらの関心事に対して「期待していること」や「不安なこと」など、行動の元になりそうな心理的要素も併せて書き出します(例:「期待していること」⇒チームの評価が上がる / 「不安なこと」⇒せっかく導入したのに活用されず、宝の持ち腐れになってしまう)。

では、お金を出す人を説得するにはどの様なポイントを攻めれば良いのでしょうか。一番効果があるのは当然、『お金』で説得する方法だと考えられます。競合製品と比較してAdobe Analyticsの方が収益貢献できるうえに、コストカットもできるということを説明すると良いでしょう。

この際、ウサギ属性の企業の場合は、収益アップ貢献にかけたコストがどのようなリターンを生むのかをアピールしやすい傾向があります。しかし一方でカメ属性企業の場合、デジタル施策と売り上げとの相関性が低いため、同じように収益アップ貢献の話をしてもあまり説得力がありません。そのため、カメ属性の場合はコストカット面を強調した方が得策です。

なおここでいう『コスト』とは、ライセンス費などの表面的な『金銭的コスト』以外にも、『心理的コスト』や『時間的コスト』が存在します。この3つのコストに関して、競合製品とAdobe Analyticsとでどの程度の金額差があるかを考えていきます。

目に見えるコスト(金銭的コスト)を比較

まずは、目に見えやすい『金銭的コスト』を、とある競合製品と比較してみましょう。上図は、パナソニック コネクト社におけるAdobe Analyticsと競合製品のコスト比較表の抜粋になります。実際に見てみると、表中の全項目に関してコストが発生している競合製品(左側 /実際の金額が記載してある部分はグレーアウト)に対して、Adobe Analyticsはライセンス費用とコンサルティング費用以外がすべて0円だということがわかります。

上図は、実際の差額イメージです。パナソニック コネクト社の場合、既述の通り競合製品のライセンス費用が非常に安いということもあり、競合製品の方が年間で400万安くなっています。しかし、これは製品導入2年目以降の話であり、導入1年目に関しては競合製品の方が約2,000万高くなるそうです(スイッチングコストに2,000万かかる)。つまりパナソニック コネクト社の場合、『金銭的コスト』に関しては、5年以上使用しない限りは競合製品の方が安いと言えないということがわかります。

目に見えにくいコスト(時間的コスト/心理的コスト)を比較

次に、目に見えにくいコストである『時間的コスト』、つまり生産性の違いをお金に換算し、比較してみましょう。例えば、データ出力にかかる時間を競合製品とAdobe Analyticsで比較してみます。何かしらデータアウトプットのお題を作り、それぞれの製品で出力までにどのくらい時間がかかるか計測したうえで、それに利用ユーザー数と時給を掛け算することで、その差を測ってきます。

なおデータアウトプットのお題を作る際、ユーザーのレベルによってやりたいこと/できることが違ってくるため、レベル別にお題を分けると良いでしょう。例えばパナソニック コネクト社の場合は、休眠ユーザーを計算から除外したうえで、上級/中級/初級の3つのユーザーレベル別にお題を分けているそうです(上図参照)。

続いて、実装にかかる時間もお金に換算してみます。こちらも先ほど同じように、何かしらデータ実装のお題を作り、それぞれの製品でかかる時間を計測します。実装に関しては、競合製品の場合はネイティブなJavaScriptでコードを書く必要があることが多いため、エンジニアの力量によって実装にかかる時間は異なってきます。それに対しAdobe Analyticsの場合は、再利用性やスケーラビリティの高い機能が多いため、エンジニアではなくとも実装が可能です。そのため、webプラットフォームが乱立していて情報構造が複雑なwebサイトであっても、生産性高くそれをリカバリーできると言えます。

また、心理的な負担(心理的コスト)に関しても、競合製品の方が大きくかかってくるという例があります。パナソニック コネクト社の場合、500ほどあるカスタムレポートに対し、競合製品で作成できるカスタム変数、セグメントや計算指標といったスケーラビリティ機能に関して作成可能な個数に制限があるため、省エネ工夫や運用ルールを考えなければならず、それが大きな心理的負担として、データ分析する現場の利用ユーザーにまでのしかかってきます。

そしてここまで挙げた様な目に見えないコスト(時間的コスト/心理的コスト)を試算し、Adobe Analyticsと競合製品とで比較すると、結果的に年間で競合製品の方が約3,000万高くなることがわかりました。

トータルコスト(金銭的+心理的+時間的)を比較

最終的に、トータルコストでの差額はどの程度になるのでしょうか。

結果は、Adobe Analyticsの方が約2,600万安い という試算になりました。

説得方法②:実装する人&使う人を説得する

では続いて、『実装する人』『使う人』の説得方法を考えてみましょう。まずは『お金を出す人』のケースと同様に、それぞれの「個人的な関心事」や「期待していること」、「不安なこと」を洗い出してみます(例:「期待していること」⇒データ出力の時間は短くして分析時間に多く時間を取りたい、残業を減らしたい / 「不安なこと」⇒思いついた仮説をデータ出力できない )。

なお『実装する人』『使う人』を説得するには、機能的ベネフィットによる「時短、生産性」 、情緒的ベネフィットによる「イライラの軽減」を強調すると良いでしょう。例えばデータ出力にかかる時間について話をする際、「データ出力時間が競合製品の半分になります」ということだけでなく、それによって「プライベートの時間が増える」ということも想像させることが大事になってきます。

上図は、Adobe Analyticsと競合製品の機能比較表になります。まずはこの様な表を作ることがおすすめですが、その際、各機能が誰にとって役立つのかをステークホルダー別にフラグ付けしておくと、後々説明する際に説明しやすくなります。

そして比較表に基づいて機能ベネフィットを説明する際、機能の優劣を並べるだけでなく、「その機能を使って何を解決できるのか」「どんなインサイトに効くのか」ということを併せて伝えるのが重要です。上図は、生産性を爆発的に向上させてくれるAdobe Analyticsの各機能と、それらの機能がどんなインサイトに効くのかをまとめたものになります。この様に、「機能ベネフィットに紐づく情緒的ベネフィットは何か」ということをわかりやすくしておくと、より説得しやすくなります。

≪Adobe Analyticsユーザーグループについて≫

Adobe Analyticsユーザーグループ(AA UG)は、日本国内のAdobe Analytics、Adobe TargetおよびData Insightsに関連する製品のユーザーコミュニティです。 ユーザー同士のベストプラクティスの共有、問題解決、ネットワークの構築を行うことで、製品の知識や活用を高めましょう。各回では業界のリーダーであるユーザーの方々にお越しいただき、様々なトピックを取り上げ、専門知識を共有いただきます。

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