株式会社ミキモト 事例インタビュー:グローバルプラットフォームにMagentoを選んだ理由

新型コロナウイルスの影響により、リアル店舗からデジタルへと、かつてないスピードで変革が進む小売業界。そんなデジタルシフトが加速する小売業界のマーケティング担当者を対象に、アドビは2020年11月26日にオンラインイベント「Magento Commerce Insiders」を開催し、特別インタビューとして株式会社ミキモトの野村謙一郎氏をお迎えしました。

アドビ ソリューションコンサルティング本部 マネージャー 兼 プロダクトエバンジェリストの安西敬介が株式会社ミキモトWEBマーケティング部 部長 野村謙一郎氏に伺った同社のグローバルコマース戦略についてレポートします。

グローバルなEコマースプラットフォームにMagentoを採用

東京・銀座を始め、ニューヨーク五番街やパリのヴァンドーム広場、ロンドンのボンド・ストリートなど世界高級ブランドがひしめく一等地に店舗を構えるミキモト。創業者の御木本幸吉は、1893年に世界で初めて真珠の養殖に成功すると、当時宝飾産業の先進地だったヨーロッパに職人を派遣し、欧州の製作技術やデザインと日本の伝統技法が融合した「ミキモトスタイル」を生み出しました。1899年には銀座に御木本真珠店を構え、1913年にはロンドンに支店を開設してグローバル展開を開始。

そんな同社が、グローバルで統一されたコマースプラットフォーム「Magento Commerce」(Magento)を導入し、Webサイトをリニューアルしたのは、2020年5月のこと。野村氏は、「もともと1年前から進めていたプロジェクトでしたが、新型コロナによるEコマース需要もあり、リニューアル後の売上は順調に伸びています」と話します。

株式会社ミキモト WEBマーケティング部 部長 野村謙一郎氏

そんなミキモトのEコマースは、そもそもいつからスタートしたのでしょうか。野村氏は「かつて、紙のカタログを使って通信販売を行う『通信販売課』があり、Eコマースは新規顧客獲得を目指す補完的なチャネルとして、2003年にスタートしました。ブランドとしては比較的早かったと思います」と説明します。

安西は「店舗がメインだと思っていたのですが、オンラインにも早くから取り組んでいるんですね」と、少々驚きを隠せない様子。当初は補完チャネルだったEコマースですが、8年前の2012年、それまで「オフィシャルサイト」と「ネットショップ」と別々だったサイトを統合し、「以降、ECの強化を続けています」(野村氏)といいます。

「なぜ、オフィシャルサイトとECを統合したんですか?」と安西が聞くと、野村氏は「お客様の利便性のためです」と、きっぱり。商品カタログが二重になっていたため、ネットショップで商品を見た人が、後日購入しようと思ってオフィシャルサイトで商品を見ても買えないということがあったそうです。「これでは、お客様の利便性を損ねてしまう」、それがオフィシャルサイトとEC統合の大きな理由でした。また、海外高級ブランドも、ECとオフィシャルサイトを融合するスタイルが増えていたことも後押ししたそうです。

そんな同社が、グローバルでコマースプラットフォームをリニューアルすることになり、いくつか検討したプラットフォームのなかから選んだのが、Magentoでした。

デザイン・機能の自由度の高さが導入の決め手に

リニューアルのきっかけは、大きく2つあります。1つは、グローバルで利用しているプラットフォームがバラバラであり、デザイン面でブランドとしての統一感は出していたものの、「仕様のため、よく見ると若干異なる点もあり、フェイクサイトと間違えられるリスクがありました」(野村氏)といいます。もう1つは、規模が小さく、専任のWeb担当者がいない海外拠点に対し、日本の本社側で更新をコントロールすることで、運用負荷を下げる狙いもありました。

「そこで、なぜMagentoを選んだのでしょう?」という安西の問いに対し、野村氏は「まずはグローバル対応しているプラットフォームということが大前提で、そのなかからMagentoを選んだのは、3つの理由がありました」といいます。

第1に、自由度が高い点です。同社の場合、ECの機能よりも、むしろブランドのイメージを損なわないよう、デザイン面の要件が非常に厳しいのが特徴ですが、「Magentoは別途CMSを使うことなく、Eコマースのプラットフォームで対応できる点が大きなポイント でした」(野村氏)といいます。

第2に、トータルコストがリーズナブル だった点。同社は現在、世界9拠点でECサイトを展開していますが、多言語対応しているため、運用しているのは14サイト。このうち、中国を除く13サイトをMagento Commerce Cloudで開発できたので、イニシャルコスト・運用費共に、非常にリーズナブルに抑えることができました。契約後2年間は費用が固定という点も魅力だったそうです。

第3に、旧バージョンのMagentoを導入している海外拠点が複数あったため。データマイグレーションがしやすい という点も評価されました。

開発に当たっては、国内外でブランド戦略やマーケティング、コマースなどを支援するグローバル企業をパートナーに選定。米国では必須となるWebアクセシビリティ勧告であるWCGAへの準拠、欧州のGDPR対応など、地域ごとの要件を踏まえ、そのうえで機能要件を定義して進めました。

そんな時、新型コロナウイルスが世界中に広がり、リニューアル前になって、新たな要件が各拠点から寄せられたそうです。

コロナ前後で起こった顧客行動の変化

「確かに、コロナ前と後で、お客様の行動やニーズは大きく変化しました」と野村氏は語ります。

たとえばコロナ前は、ECで商品を見ても、購入は店頭というスタイルが圧倒的でした。ECはむしろギフト需要が多く、ギフト購入したい方に向けてのユーザビリティを担保していたそうです。

コロナ後はEC自体の売上が伸びており、店頭で実物を見て購入するというスタイルから、「カスタマーズ・サービスセンターには『なるべく店舗に行く回数を減らしたい』『店頭ですぐ商品を受け取りたいが、どうしたらいいか』などの相談が寄せられるようになりました。店舗接客で求められるような、アドバイス的なコミュニケーションが増えています」と野村氏は説明し、「なるべく人やものとの接触を避けるようになっており、情報収集の段階でオンラインの重要性は高まっています」と、断言します。

そうした消費者の心理や行動変化に伴い、リニューアル前に寄せられた新たな機能要件に、ミキモトはどう対処したのでしょうか。

「そこは、Magentoが持つ カスタマイズ性の高さ、自由度の高さ により、対処することができました。さまざまなベンダーから多様なエクステンションがリリースされており、非常に助かりました」と野村氏。これを受けて安西も、「Magentoはカスタマイズ性の高さがポイントですが、もともと開発思想にアジリティを掲げており、そこが役に立った のでしょう」と答えました。

リニューアル後、Eコマースの売上や店舗への送客が向上

Magentoでグローバルサイトをリニューアルした2020年5月、日本では緊急事態制限がようやく解除されました。しかしEC需要は高まり、「グローバルすべてのサイトで、ばらつきはありますが、ECの売上が月15〜50%伸長しており、店舗予約率も向上した」と野村氏はいいます。「もちろん、リニューアル効果なのか、コロナの影響なのかは、これから分析する必要があります」(同)とも。

確実なリニューアル効果としては、モバイル経由のコンバージョンが増えた こと。以前はレスポンシブでモバイルからのアクセスに対応していましたが、読み込みが遅く、「モバイル経由のアクセスは8割もあったものの、その後のコンバージョンまでなかなか至らないという課題がありましたが、リニューアル後は目に見えてコンバージョン率が改善しており、「Magento導入効果だと実感しています」と、野村氏はいいます。

運用管理面も格段に向上しました。CMS機能では、言語が同じであれば1つのページを複数のサイトに展開できるので、「14サイト運営していても、実際は3つほどの負荷で運用できています。CMSには正直、期待していなかったのですが、グローバルで運用するうえで、非常に重宝しています」(野村氏)とのこと。

コマース部分もカスタマイズ性が高く、たとえば日本と欧州で異なる「カートに商品が入ってからのフロー」や「住所表示項目」などの細かな仕様も吸収できたため、顧客の利便性を担保しながら、バックエンドの管理業務の負荷を削減 できたそうです。

最後に安西が「Magentoの導入を検討している方にアドバイスを」と促すと、野村氏は「個人的には、要件定義時にあまり先のことまで盛り込まず、確実に使う機能だけに絞るのがいいと思います」と答えました。これには理由があり、「8年前のリニューアル時に、数年後に使いそうな機能をかなり盛り込んだのですが、そのなかで結局使ったのはごくわずかでした。withコロナの時代、デジタル変革のスピードは加速しており、今回も要件定義時とはまったく状況が異なったので、『いま確実に使うもの』に絞った方がいいと思います」(野村氏)といいます。

これは裏を返せば、「まずカスタマイズ性に優れたプラットフォームを選ぶこと」につながります。完成度が高く、カスタマイズする時に膨大なコストがかかるよりも、自由度が高くて変化に柔軟に対応できるプラットフォームこそが、グローバル戦略に欠かせません。

アドビ ソリューションコンサルティング本部 マネージャー 兼 プロダクトエバンジェリスト 安西敬介

安西も、ミキモトのグローバルブランド力を保ちつつ、「店舗の力、そしてデジタルの力を生かして、今後どのようにコミュニケーションを進めていくか、私たちも全力でサポートしていきたいと思います」と述べ、インタビューを終えました