課題
煩雑な入稿業務の改善
データ取り込み時のトラブル
成果
データの受け渡しに要する時間が短縮
データの軽いPDFで入稿時の送受信がスピードアップ
原稿差し替えがスムーズに
オンライン入稿で修正したデータの差し替えが円滑に行えるように
データ読み出し時のエラーが激減
Acrobat ProのプリフライトチェックでRIP処理時のエラーを事前に防止
掲載日直前の出稿が可能に
入稿業務が効率化したことで急な広告の出稿にも対応可能
宮城県仙台市に本社を置く株式会社河北新報社(以下、河北新報社)は、東北6県で約45万部(朝刊)のブロック紙『河北新報』を発行する新聞社だ。1897年の創刊以来変わることのない題号で、地域に根差しつつ世界を広く見据える視点を貫いてきた。東日本大震災発生以降は防災・減災意識の啓発に力を注ぎ、津波による被害を受けた石巻市の小学校を題材にした長期連載企画で、2018年度日本新聞協会賞(編集部門)を受賞している。同社では紙面づくりにおける業務効率化も積極的に推進しており、広告用途に特化したPDF規格であるN-PDFをいち早く採用。オンラインによる広告入稿システムを構築するなど、先進的な取り組みを実施している。
「データ取り込み時のトラブルが激減し、入稿作業がスムーズに進みお客様の要望にも柔軟に対応できるようになりました」
株式会社河北新報社 営業局業務推進部 管理・調査チーム主任 佐々木耕一郎氏
データをPDFに変換することで煩雑な入稿業務をスムーズに
新聞に掲載される広告の印刷用データは、主に広告代理店や広告制作会社から入稿される。かつては製版フィルムを起こすため印画紙に焼き付けられた紙焼き原稿が持ち込まれていたが、1990年代後半になるとIllustratorなどで作成されたデザインデータをCD、MOなどのメディアで受け渡しされるようになった。その後ブロードバンドが定着してからは、メールやオンラインストレージなどを使った入稿スタイルへと変容してきた。
「インターネットによるやりとりは便利な半面、大容量のデータをアップロード・ダウンロードするには時間を要します。特に画素数の大きい写真を含む入稿データは時間がかかるため、安全で安定した入稿方法を確立する必要がありました」と、同社技術局システムグループ兼営業局業務推進部部次長の五井克浩氏は説明する。
それに加え、入稿用のEPSデータをRIP処理する際に広告枠外の不要データまで認識したり、Illustratorのバージョンの違いによってデータの一部が読み出せないなどのエラーが発生したりすることも少なくなかった。同社営業局業務推進部管理・調査チーム主任の佐々木耕一郎氏は次のように語る。
「これらを解決する手段として検討したのが、ネイティブデータをPDFに変換して入稿してもらうことでした。PDFにすればデータが軽くなり、データのやり取りもスムーズになります。会社を挙げて業務効率化を追求していたこともあり、入稿される広告データをPDFに標準化することを決めました」
「いずれ業界標準になる」との確信で新聞広告に特化した規格N-PDFを採用
PDFにもいくつかの種類があるが、河北新報社が選んだのは日本新聞協会と日本広告業協会が2012年に新聞広告に特化した規格として指定したN-PDFである。これは印刷用途に広く使われているPDF/X-1aをベースに開発された規格で、2008年にISOなど世界標準規格に採用されて以降、文書ファイルの標準フォーマットとして国際的に普及している。ただし同社が導入した2015年当時はN-PDFを採用している国内の新聞社はまだ少なく、日本新聞協会も普及促進に力を入れ始めたタイミングだった。
「広告データをN-PDFに統一してもらうためには、広告代理店や制作会社の理解が不可欠。まずN-PDFとオンライン入稿の説明会を開催してから、100社ほどある取引先の担当者に直接電話をかけて協力を依頼しました。『N-PDFは日本広告業協会が基準策定に携わっており、いずれ業界標準になる。オンライン入稿に最適なフォーマットで、メディアや見本ゲラの持ち込みも不要になり、緊急の原稿差し替えにも迅速に対応できる』と、お互いのメリットが大きな説得材料でした」(五井氏)
制作会社などには、N-PDFの作成に必要なAdobe PDFのプリセットとプリフライトプロファイルを日本広告業協会のWeb サイトからダウンロードしてもらい、同年8月からN-PDFによる入稿をスタート。当初はEPSの入稿も混在していたが、2016年初めには入稿データの9割以上がN-PDFになったという。
PDF のプリフライトチェックによってRIP 処理時のエラーが激減している。
完全原稿が入稿されるようになりデータ取り込み時のトラブルが激減
PDFの運用に切り替えた結果、EPSデータの際に見られたようなトラブルは皆無となった。Acrobat ProにはPDFの問題をチェックするプリフライト機能がある。出稿側も広告データが適切かどうかを事前に確認できるため、N-PDFフォーマットに準拠した完全原稿として入稿されるようになった。
「当社としては、出稿側で使われているIllustratorのバージョンを気にすることがなくなり、RIP処理時のエラーが減った上、送受信時間の短縮や申込情報との連携処理で、大幅な業務効率化が実現しました。出稿側にとっては、PDFの利点であるオンライン校正やペーパーレス化で仕事の自由度を高めることができます。出稿後の原稿差し替えも以前と比べてスムーズに対応でき、現在は入稿データの98%がPDFとなっています。短期間でこれほど普及したのは、広告を出稿する側もその利点を実感したからだと思います」(佐々木氏)
N-PDF導入とセットでオンライン入稿システムも構築
同社は今年、セキュアな全社ネットワークの再整備と足並みをそろえ、株式会社NTTデータ東北などのサポートを受けて、4年前から運用しているN-PDFを中心に据えたオンライン広告入稿システムをリニューアル。ウェブブラウザから利用できるこのシステムは、広告掲載の申し込みから入稿データのアップロード、そしてプリフライトチェックまで一気通貫で行える仕組みだ。出稿者側としては入稿作業が全てオンラインで完結でき、同社としてもプリフライトチェックまで完了しているデータを受け取れることから、双方にとって効率的な入稿業務が実現している。
株式会社河北新報社 佐々木 耕一郎氏(左)、五井 克浩氏(右)
Adobe Creative Cloud を活用した自社用広告の内製化も実施
同社は安全なネットワークインフラを構築したタイミングで、入稿システムのリニューアルに加え、Adobe Creative Cloudも導入し、IllustratorやPhotoshopなどのグラフィックデザインツールを用いた自社用広告の内製化も進めている。
「安定したシステム運用やAdobe Creative Cloudを利用できるようになったのはPDF 導入に向け、ネットワークインフラのセキュリティを高めたことの恩恵。今は過去に外注で制作した自社用広告データの一部修正といったレベルでの活用が中心ですが、可能な範囲で内製化を進めていくつもりです」(五井氏)
同社がPDFのウェブオンライン入稿を採用してから4年が経過し、現在では広告データのフォーマットとしてPDFを導入する新聞社も増えてきた。広告入稿業務の効率化や、それを支える新聞社のネットワークの安全性確立において、このように同社は先駆的な役割を果たしている。
※掲載された情報は、2019 年8月現在のものです。