舞台照明の最大手企業として、国内外の様々なコンサート、演劇、展示会、イベント等の照明デザインおよび照明操作を手掛けている株式会社 東京舞台照明。最先端技術を取り入れ、常に新しいアイデアに挑戦し続けている同社だが、文書業務のデジタル化が遅れていたことで、現場の業務に支障をきたしていた。問題解決の施策として、それまで紙ベースで行われていた図面のやり取りや管理を、Adobe Acrobatを使ってPDF化し、全体業務の大幅な効率化を実現した。現在、Acrobatの様々な機能を検証し、PDFのさらなる活用に取り組んでいる。
大量の紙の図面のやり取りが、現場スタッフの負担に
同社では、早い時期から積極的に業務のデジタル化を進めてきた。照明計画にいち早くCADを導入し、近年では3D化も進み、仮想空間で照明器材をコントロールできるシミュレーションソフトの利用も一般的になった。時代とともに照明器材の変化もめまぐるしく、同社では毎年、世界各地で開催される展示会に足を運ぶなど、常に最先端技術の情報収集や検証に余念がない。そうした中、文書に関する業務についてはデジタル化が遅れていたという。同社で長年にわたり照明デザインに携わりながら、業務のデジタル化を推進してきた岡山 貞次氏は次のように話す。
「ほんとにここ数年ですね、紙がデジタルに変わってきたのは。会場の図面とかはそれまでずっと紙ベースでやっていました。細かい図面や関連する資料を含めると、1つの案件で何百枚もの文書が発生します。それらを打ち合わせやリハーサルのたびに持ち歩かなければならない。終わると記録資料として紙で保管するのですが、その量は膨大です。スペースがどれだけあっても足りないし、1つの会場の資料を探すのに何時間もかかるわけです」
3年ほど前から、そうした資料をPDF化し、ファイルサーバーを使って共有するようになった。紙でしか残っていない資料はスキャナーで取り込み、PDFにしている。
「若いスタッフたちは、会社でも現場でも、タブレットなどを使っていつでも最新の資料にアクセスし、図面を好きな倍率で拡大したり、メモを書き込んだりしています。現場に大量の資料を持ち込むこともなく、急に別の資料が必要になった時でも、誰かに取りに帰らせる必要もありません」(岡山氏)
CAD 図面を誰でも見られるPDFに
岡山氏がPDFに注目し始めたのは、20年以上も前に遡る。当時、海外と図面をメールでやり取りしていた際に、使用しているCADソフトの種類が異なるためにファイルが表示できないというケースがあった。そこで送られてきたのが、PDFだった。
「ちょうど我々も共通フォーマットを探していた時でした。図面のやり取りがFAXからメールに変わる頃で、ソフトの種類やバージョンに関わらず、誰でも見られる共通フォーマットが必要だったのです。当時はまだPDFを作成するツールが他になく、Acrobatが日本で発売されてすぐに使ってみました。図面のレイアウトが崩れることもありませんでしたし、文字や線もくっきりと表示されました。以来、元のCADデータを送る時には、必ず出力イメージとしてPDFをつけるということを義務付けています。今では、Acrobat以外のソフトでも簡単にPDFが作れますが、やはり精度が違います。それは長年使ってきて感じることです。我々は図面を通して相手に正確に情報を伝えなければなりません。それにはPDFが必要不可欠なのです。それもAcrobatで作るPDFでなければ意味がありません」
Acrobatで作成するPDFはISO(国際標準規格)に完全準拠しており、Acrobat Readerを使った読み手の閲覧を完全に保証する。したがって、情報を正確に伝えるという信頼性を担保している点で他のソフトで作成したPDFとは圧倒的に異なる。
紙の書類をPDF に変換。入力の手間をなくす
コンサートの照明を手掛ける際に重要な資料となるのが、歌詞カードだ。歌詞のどの部分で、どの機械を動かすかといったことを歌詞カードに詳細に書き込む。しかし、ネット上の歌詞サイトなどでは、著作権保護により歌詞のコピー・アンド・ペーストができない。そのため、スタッフが歌詞を1曲ずつワープロ入力し、紙に出力していかなければならなかった。ライティング事業部の高橋 研一郎氏はその苦労を次のように話す。
「1回のコンサートで何十曲もの歌詞カードが必要です。数日間にわたって開催される場合は曲目が変わることもあります。また、フルバージョンではなく、ツーハーフだったり、独自に譜割してくるケースもあり、その度にワープロ入力を繰り返していては、本来の仕事以上に時間を取られてしまいます」
そこで、Acrobatモバイル版アプリのスキャン機能(Adobe Scan)を使い、アーティスト側から支給された歌詞カードをタブレットで撮影(スキャン)し、画像データをOCR処理しながらPDF化。それをスタッフ間で共有することで、作業の効率化を図った。
「この機能は本当に重宝しています。そのままタブレットで書き込みもできますし、ちょっとした歌詞の変更であればPDF上で簡単に直せてしまいます。僕の場合、歌詞カードだけでなく、打ち合わせ先やリハーサル現場で配られる紙の資料などもその場でスキャンし、PDFにメモを書き込んでいます。時間がない時などは、その場所からPDFをスタッフに送って共有したりもします。会社に戻った時には資料が出来上がっていたりして、だいぶ時間の節約になります」(高橋氏)