組織横断的な取り組みでBtoBビジネスを強化。「新生VAIO」のブランディングを実現
VAIO株式会社
課題
法人サービスの強化
成果
目標リード数を大きく上回る成果を達成
1997年、ソニー株式会社から誕生し、ノートPCブランドの代名詞ともいえる「VAIO」。薄型、軽量のモバイルノートの先駆けとなった「VAIO NOTE505」など、先進的なモデルを次々と市場に投入し、PCユーザーの支持を集め続けています。
そのVAIOが、ソニーを離れ、VAIO株式会社として新たなスタートを切ったのは2014年7月のことでした。創業当初こそ、赤字を計上したものの、PC事業にEMS事業を加えた2本柱を主軸に、売上を拡大。2015年には見事、V字回復を果たしています。
"新生VAIO"の行く末に注目が集まる中、同社では新たな取り組みとして、BtoCを主軸とするビジネスモデルに加え、BtoB強化への転換を図っています。
そのマーケティングツールとして、2017年3月末よりAdobe Marketo Engageを導入。PC事業のさらなる成長を目指しています。
今回は、同社のチャレンジを深堀りするべく、東京オフィスにてVAIOのブランディングを担う、3名の方々にお話を伺いました。
同社 執行役員としてセールス・マーケティングを統括する花里 隆志氏、PC事業部 営業企画マーケティング課 課長の福島 嗣雄氏、マーケティング・広報セクションとなるMARCOM課 課長・椎木 由美氏です。
経営目線と、現場(営業・マーケティング)の視点から、どのような戦略の元、BtoBマーケティングを推進しているのか。具体的な施策、現時点での成果、さらに今後の課題に関しても伺いました。
生き残りを賭け、"ものづくり"の姿勢に共感してくれるファンを増やしていく
VAIOの特徴といえば、徹底したものづくりへのこだわり。多くのPCメーカーが、コスト削減のために海外に製造拠点を置く中、同社では長野本社の安曇野工場にて、設計から製造ライン、最後の品質チェック、出荷までをワンストップで実施。
高品位、高品質な"MADE IN JAPAN"のPCを世に送り出し続けています。
その分、単価は他社よりも、高価格帯となるものの、「PC業界の将来を鑑みても、もはやシェアや価格での勝負には限界がある」と花里氏は指摘。
「そうではなく、長期スパンで丁寧なコミュニケーションを継続していくことで、弊社の"ものづくり"の姿勢に共感いただけるお客様、ファンを増やしていくことこそに、活路があると判断しました」と言います。
そこで、個人の顧客向けのEコマースサイト開設や家電量販店への商品展開を実施すると同時に、法人サービスの強化を経営戦略の主軸に据えます。
まずは、顧客の声を吸い上げ、設計にフィードバックしていく上で、技術営業というポジションを設け、安曇野工場のエンジニアからのコンバートも実践。
社員数240名、そのうち、東京オフィスは30名と、人的リソースも限られる中、「マーケティングと営業がクロスする形で、多層にわたるお客様と、長期的かつ効率的にコミュニケーションを継続していくためのツールとして、マーケティングオートメーションに注目しました」と福島氏は言います。
その中でも、Adobe Marketo Engageは、機能が充実しており、既に導入していたSalesforceとの連携がスムーズだったこと、手厚いサポート体制が導入の決め手になったそうです。
実際の技術的な導入サポートに関しては、弊社パートナー企業のワンマーケティング株式会社と協業。3月末より導入、具体的な施策がスタートします。
「営業+マーケティング」のワンチームでコンテンツマーケティングを実践
まず、新たな施策として着手したのが、VAIOのブランディングと、リード獲得の間口拡大を担うコンテンツマーケティングへの取り組みでした。
制作会社と協業し、約3カ月という短期間でローンチしたサイトは、その名も「Work×IT」。
今、国を挙げて取り組みが推進されている働き方改革に関する事例のほか、情報セキュリティに関する基礎、ITコストの削減など、情報システム担当者が気になる内容も広く網羅。「働くをITで心地よく」をキャッチに、ワークスタイル変革を支援するサイトとなっています。
「VAIOとしてのブランディングも意識しつつ、世の中の時流、関心事も盛り込み、VAIOに直接、興味を持っていない方にも、広く読んでいただける内容の提供に注力しています」と椎木氏は語ります。
また、マーケティング部門と営業部門のリレーションをスムーズに実践していくために、業務フローを整備し、連携を強化。
コンテンツを作成、獲得したリードをホットになったタイミングで営業に渡すのは、椎木氏が所属するMARCOM課のミッションですが、「一貫して、お客様とコミュニケーションを継続していくためにも、コンテンツマーケティングの方向性、ターゲットとするペルソナの設定など、営業企画の福島と連携し、ワンチームで進めています」と語ります。
こうして、webサイトのほか、セミナーや展示会などで獲得したリードを元に、Adobe Marketo Engageのエンゲージメントメールの仕組みを使って、VAIOの紹介を含めたリレーションを継続しながら、ナーチャリングを実践。顧客の関心が高まったタイミングで営業がアプローチする取り組みが、スタートします。
明確なKPIの設定が、社員の意識、行動にも変革を起こす
実際には6月から本格稼働を開始し、約4カ月。現時点での成果としては、どのようなものが挙げられるのでしょうか。
まず、経営サイドの視点として、花里氏が挙げるのが、"営業→マーケティング"の現場の動きが、定量的な形で"視覚化"されたことです。
「現在のリード数、醸成の進捗状態から、営業にわたって、実際には何件アポが取れて、お客様を訪問したのか。これまでブラックボックスだったプロセスが可視化されたことで、強化すべきチャネルや予算の配分がしやすくなりました。将来を予測し、戦略を立てやすくなったのは、マネジメントサイドから見て、大きなメリットと言えます」と花里氏は語ります。
椎木氏はプロセスごとのKPIや施策の見直しがスピーディーに実践できるようになったことを挙げます。
「リードの獲得、育成、営業への受け渡しという流れの中で、一連の係数を試算し、プロセスごとにKPIを設定していますが、即、結果が定量的な形で見えるため、見直しもしやすいです。施策や目標数値の調整がスムーズにできるのは、ありがたいですね」(椎木氏)
また、福島氏は、実際にお客様にアプローチする営業の立場から、「渡されたリードが、どのチャネルから来て、どのような行動を経て、今に至るか。お客様の行動がクリアに見えるため、商談も進めやすいです。スコアを見つつ、有望なリードに効率よくアプローチができるようになったのも、以前との大きな違いです」と言います。
現状、掲げた目標リード数を大きく上回る成果を挙げつつあるといいますが、それには現場の社員の意識が変わったことも功を奏しています。
「KPIが明確に設定されているため、これまで展示会やイベントで商品説明に終始していたエンジニアも、リード獲得を意識するようになり、お客様に対する姿勢が大きく変わりました」と福島氏。
コンテンツ作成に携わる椎木氏も、「目標リード数を達成するには、どんなコンテンツが必要なのか。どう打ち出していくか。社内全体で目標へコミットする姿勢の高まりを感じます」と語ります。
今後の目標は、蓄積したリードに対し、確実にナーチャリングを実践し、いかに案件につなげていくか。
「リード数はとれてきていますが、今後はそこをどうホットにしていくか。コンバージョンの係数をどう確度を上げていくか。まだまだ取り組む余地は大きい」と椎木氏。
花里氏も、「まだ取り組みはスタートしたばかり。人的リソースが限られる中、パートナー企業のお力も借りながら、コンテンツの質、内容にもこだわり、数字にコミットした形で、目標を達成していきます」と、力強く語ります。
一般的に先行きが厳しいと言われるPC業界において、独自の戦略でブランディングを実施し、顧客企業との長期的なエンゲージメント強化を目指す同社。
常にPC業界に新たなトレンドを生み出してきたVAIOが、BtoB市場において、いかに新境地を開いていくのか。今後のチャレンジ、その行く末に要注目です。