Adobe Digital Trends 2022年版:金融業界編
新たな視点で見つめ直す:金融業界の新時代の幕開け
顧客や市場のニーズが急速に変化し続けています。そのため、ビジネスの成功を左右する、パーソナライズされた顧客体験を提供するためには、複数のチャネルをまたいで獲得した顧客インサイトを統合し、大規模に活用する必要があります。アドビの調査レポート「Digital Trends 2022年版:金融業界編」では、そうしたデジタルマーケティングのトレンドを解説し、それが今後の金融業界にどのような影響を及ぼすのかを明らかにします。
金融業界:デジタル化が加速
今日の消費者は、金融機関がより優れた顧客体験を提供することを期待しています。「Digital Trends 2022年版:金融業界編」では、そのことが明確に示されています。
言い換えれば、金融サービス企業が、顧客を失いたくないと考えるのであれば、急速に変化している顧客のニーズを的確に把握し、それにしっかりと適応した顧客体験を創出する必要があるのです。
86%
当面の間、現在の変化のペースが続くと予想している金融サービス企業の経営者の割合
金融業界では、顧客のデジタル化が進み、デジタルを活用したやり取りが急速に増加しています。多くの金融機関では、パンデミック以前からデジタル変革に取り組んでいましたが、今もなお、パーソナライズされたデジタル体験が強く求められており、その緊急性は高まるばかりです。
「新規顧客の獲得と既存顧客の維持を目指す当社の目標は、あらゆる顧客接点をまたいで、シームレスな体験を構築することです。そのためには、常に施策を最適化し、改善を続けなくてはなりません。それこそが、クリエイティビティを発揮し、ビジネスを成長させるために不可欠な要素です」
Clifford Stevens氏 (Liberty Mutual、VP、マネージングディレクター、クリエイティブオペレーション)
金融業界に押し寄せるデジタル化の波
「Ditial Trends 2022年版:金融業界編」で明らかにされている現在のデジタルマーケティングトレンドの中で注目すべきは、金融サービス企業の8割近くが、既存顧客と新規顧客の両方でデジタルチャネルの利用が急増し、カスタマージャーニーが変化して、新たなカスタマージャーニーが生まれていると述べていることです。
既存顧客によるデジタルチャネルの利用が急増したと回答した金融サービス企業の割合
デジタルチャネルを介した新規顧客が急増したと回答した金融サービス企業の割合
新しいカスタマージャーニーが生まれた、または既存のカスタマージャーニーに変化が生じたと回答した金融サービス企業の割合
従来の認識を改める
デジタル化の進展に伴い、デジタル体験への期待も高まっています。そのため、顧客は、金融サービス企業が提供した顧客体験を、金融業界の他の企業の体験と比較するだけでなく、デジタル体験に先進的に取り組んできた他の業界の体験とも比較するようになっています。これにより、2022年は、金融業界における顧客体験の水準が急速に引き上げられることとなります。
「顧客は、当社の提供する体験を他の銀行や決済ソリューションと比較するだけではなく、たとえば、Netflixによる体験と比較してるのです」
HSBCが支援するモバイル決済企業PayMeの経営者
12%
自社の顧客体験が、顧客の期待を上回っていると
回答した金融サービス企業の実務担当者の割合
30%
金融業界の「デジタル体験」が顧客の期待を下回っていると考える金融業界の実務者の割合
買収によるリポジショニング
デジタルネイティブの新興企業やIT業界から参入した企業は、少数のチャネルにおける取引から、多数のチャネルをまたいだ取引へと移行することを、まるで容易なことのように見せていますが、実際には多くの苦労が伴います。ディスラプターとも呼べる、それらの企業では、初めから、そのために必要となるテクノロジースタックを備えているのです。そのため、多くの伝統的な金融サービス企業では、戦略的買収を推進し、その地位を高めています。
「これは欧州におけるオープンバンキングへの取り組みを支えるものであり、顧客がどこにいてもサービスを提供できるようにするものです」
Craig Vosburg氏(Mastercard 最高製品責任者)、
Mastercardによるデンマークのオープンバンキング企業Aiiaの買収に関するコメント
影響の波紋
McKinseyによると、金融業界における顧客体験に関する先進的な企業とは、Amazon、Spotify、Netflixといった消費者向けの顧客体験をリードしている企業のモデルを取り入れている企業のことです。それらの企業と同等の優れた顧客体験を提供していれば、同等のマーケティングの成果を収める可能性が高まりますが、逆にそのような顧客体験を提供できなければ、同等の成果を上げることができないのは必然です。
新たな脅威の出現
AmazonやMercedesのようなスーパーブランドが金融業界への参入を進めているように、従来の金融機関以外の企業が潜在的な挑戦者となっています。特に、規制の状況をうまく切り抜け、既存のデジタル体験を金融業界で再現することができれば、その脅威は計り知れないものとなるでしょう。
人材を重視
顧客がどこにいても、エンゲージメントすることのできるデジタルテクノロジーが登場し、それなくして、ビジネスを成功させることが難しくなってきています。このため、主要な金融機関では、マーケティング関連の技術者などの役割を、より重視するようになっています。また、主要な金融サービス企業では、適切なツールを利用して、従業員のスキルアップと新たなスキルの習得に注力しているようです。金融サービス企業の約2/3(63%)が、生産性を高めるためのトレーニングや学習プログラムの導入を検討していますが、それは他の業界では47%にとどまっています。
ただし、自社のテクノロジースタックと人材が顧客の要求にどのように適応できるのか、またそれとは逆に、全社を挙げてテクノロジーをどのように活用していくのかを明らかにすることも重要です。
「顧客体験、テクノロジー、人材を変革する必要がありましたが、人材の変革が最も困難です」
Kate Marx氏、State Street Global Advisors、デジタルトレーニング部門責任者