生成AIを制作プロセスに組み込んだら何が変わる? 事例とデモから生成AI活用のポイントを学ぶ

2024年2月27日、アドビプロフェッショナルサービス主催のミートアップ「生成AIを制作プロセスに組み込んだマーケティングフローの変革 〜その実例と効果〜」が都内で開催された。本ミートアップは、生成AIをコンテンツ制作プロセスに組み込むことでどのような業務変革や成果が得られるのかをグローバル事例やデモを通じて体験し、今後の生成AIへの期待と活用について参加者同士が議論を深めるというもの。

参加者はアドビのクリエイティブ製品やマーケティングソリューションをご利用中の企業においてマーケティングやコンテンツ制作、DX推進などさまざまな業務に従事しているビジネスパーソン。それぞれの立場から生成AIの活用の可能性や挑戦について意見が交わされた。

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高まる生成AIへの期待、一方で活用への疑問や疑念も

昨年より生成AIへの関心が急速に高まっている。米Yahoo Financeによると、生成AIはこれまでのITサービスとは類を見ない速さで成長・活用が進んでいるという。たとえばInstagramが1億MAUに達するまでにかかった月日は30カ月、Google Translateに関しては78カ月だが、ChatGPTはリリース後わずか2カ月で1億MAUに到達した。ChatGPTを始めとする生成AIに対し、世界中からどれだけ強い興味関心が寄せられているのかわかる。

そんな生成AIだが、実際にどれほど業務で活用されているのだろうか。Forbesなどの調査によると「現在生成AIを使用しているマーケターは73%」「AI導入によるコスト削減を報告するリーダーは79%」との回答があるという。

本ミートアップ中、アドビコンサルタントが参加者に「業務で生成AIを使っているか」と尋ねたところ、挙手した参加者は約1割だった。このことから、生成AI活用への期待値は高いものの、一方で「どう活用すればよいかわからない」という疑問や疑念もあると考えられる。

アドビは2016年にAIプラットフォームである「Adobe Sensei」を発表し、その技術をAdobe Creative Cloudなどに搭載してクリエイターの業務を支援してきたAI先進企業だ。そのためAIに関するしっかりした倫理基準を持っており、それは「説明責任」「社会的責任」「透明性」という3つに集約されている。アドビはこの3つを基にChief Trust Officerを設置し、AIに関する倫理的問題を検証するイニシアチブを結成してさまざまな企業と連携しながらAIの活用を推進、さらにプロフェッショナルサービスのコンサルタントがさまざまな企業のAI活用を支援している。

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アドビのAI倫理 。説明責任、社会的責任、透明性、の3つのピラーから成り立っている。

本ミートアップではこうした実績を背景に、プロフェッショナルサービスのコンサルタントが制作プロセスにおいて生成AIが求められている意義とその活用領域について説明し、具体的な事例を経て、アドビの複数のソリューションを使ったキャンペーン実施のデモンストレーションが行われた。

生成AIの効果が期待できる6つの主要エリアとは? 生成AIで制作期間が1/8に

ミートアップで紹介された生成AIの活用事例とは、パーソナライズの実現のためにコンテンツを生成AIで制作・スケールアウトし、さらにパーソナライズされたエクスペリエンスの作成自体を自動化するというものだ。実施したのはグローバル展開するヘアケアメーカーで、顧客の髪質や髪の状態に最適化したシャンプーを定期的に届けるサービスを展開している。そのため、事業ミッションとして「パーソナライズされた体験を提供する」ということを重視しており、できるだけ人手や工数をかけずにパーソナライズされたキャンペーンを実施して、新規獲得・CVR向上・購入・ロイヤリティ化を実現していくかが問われていた。そこでコンテンツ制作からパーソナライズの設定に生成AIを活用することで効率化を図ったという。

生成AIへの期待が高いビジネス分野はマーケティング、特にパーソナライズ全般への期待値は非常に高い。2023年にアドビが世界14カ国で行った調査によると、マーケティングおよびCXに関するリーダー職の89%が「生成AIのパーソナライズへの寄与に期待している」という結果が出ている。実際、グローバル展開している企業が本格的にパーソナライズに取り組むとなると、商品別・コンテンツの種類別・リージョン別・ユーザーセグメント別に必要なコンテンツ量は膨れ上がり、数百万規模のバリエーションが必要になるという見方もある。まさにこうした状況を打破するため、多くのマーケターを始めコンテンツの企画・制作に従事するビジネスパーソンが生成AIに期待しているわけだ。

アドビでは生成AIのマーケティング活用に向け、生成AIがパフォーマンスを発揮できる6つの主要エリアを提唱している。

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生成AIを活用できる主要な6つのエリアをまとめた図。

  1. Marketing planning:AIの活用方針立案に加え、マーケティングの投資対効果の分析にAIを活用
  2. Content creation:コンテンツを新たに制作するプロセス
  3. Scaled asset variations:(2)で制作したコンテンツを基にバリエーションを広げて大量制作するプロセス
  4. Journey orchestration:カスタマージャーニーの改善
  5. Experience management:各チャネルでパーソナライズされたエクスペリエンスを自動設定
  6. Performance analysis:キャンペーンの成果分析ならびに意思決定

今回紹介したヘアケアメーカーは、(2)(3)(5)(6)のプロセスで生成AIを適用。全体プロセスをAdobe Workfrontで統制し、ブランドガイドに準じた画像を制作するため生成AIイメージテンプレートの標準プロンプトを作成して、髪の色や癖、髪型、着ている服などのバリエーションを変えることで大量のキャンペーン画像を生成した。

また、パーソナライズメールに使用するテキストサンプルも生成AIで作成し、CRMに登録されているユーザーの属性情報を基に最適なイメージとテキストを生成して送信した。

これにより、これまでキャンペーン準備からリリースまで4カ月間かかっていた工数が2週間と8分の1まで短縮。シャンプーの再注文も増加し、大きな成果を上げたという。

まずは業務全体を見直し、生成AIが必要なプロセスを洗い出してみよう

その後ミートアップではAdobe Fireflyの開発中の新機能の紹介や、Adobe Express、Workforntを組み合わせたキャンペーン実行例のデモなどを紹介。デモ終了後にパネリストとして登壇した参加者からは「この機能がリリースされたらぜひ使いたい」など期待する声が多く聞かれ、内容への満足度も非常に高いものとなった。

レストランでテーブルを囲む人々 自動的に生成された説明

セッション中の会場 。生成AI活用に取り組む多くの日本企業が集まり、実際に画面上で動くアドビの生成AIのデモを確認した。

一方で、生成AIを業務に組み込むに当たり「難しさがある」という声もあった。ある参加者は「現在現場が困っていないところに新しい取り組みを導入してもらうことは非常に難しく、単純に『こんなにすごいことができる』だけでは動いてくれない」という現実と向き合っているという。ただ、そうした難しさは感じつつも「1人当りの残業時間がこれだけ削減できるとデータで示し、それをグループ全体の人数に掛け合わせることで具体的なコスト効果が見えてくる。そうしたコミュニケーションを積み重ねることで、生成AIの活用に意識を向けていきたい」と前向きな姿勢を見せた。

そうしたさまざまな声を受け、アドビのコンサルタントからは、生成AIをマーケティングやコンテンツ制作に組み込む際のアドバイスがあった。

まず、生成AIの活用に向け業務全体を見直す必要があるということ。プロンプトを使い生成AIで何かコンテンツを生み出すには、品質を担保するためきちんと整理された情報が必要になる。

それには社内にあるさまざまな情報をラベリングして管理し、その品質を精査しなくてはならないため、まず業務全体のなかでどこがボトルネックかを見きわめて生成AIを適用していく戦略が必要だ。これは前傾した「生成AI活用の主要6エリア」の図にある(1)と(2)に該当する。まずはここを起点に、生成AIを業務に組み込むことをスタートしてみよう。

アドビプロフェッショナルサービスが業務プロセスへの生成AI適用を手厚くサポート

生成AIの活用に向け、業務全体を見直すといっても実際には難しい点があるかもしれません。まず自社の業務プロセスの成熟度はどれくらいで、どこを改善したら最も効果が高いのか、なかなか判断が難しいこともあるかと思います。

アドビプロフェッショナルサービスではコンテンツ制作プロセスの成熟度調査に加え、ワークショップ形式で(1)と(2)を簡易アセスメントするサービスも提供しています。もし生成AIを自社の業務プロセスに組み込むことをお考えならば、ぜひ一度ご相談ください。

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