カスタマージャーニーを有益に活用してマーケ活動につなげるには?

カスタマージャーニーマップ,カスタマージャーニー,マーケティング

より良い顧客体験の提供と顧客への理解を深めるために有益なツールがカスタマージャーニーマップ

テクノロジーの進化や昨今の外部環境の変化によってデジタル化が急速に進み、私たちの生活も数年前とは変化しています。アドビの調査によると、アメリカでは2021年のホリデーシーズン(11月1日〜12月31日)におけるオンライン消費額が前年比8.6%増の2,040億ドル(約23兆5,348億円)と過去最高を記録しました。また、経済産業省が2021年7月に公表した「令和2年度 電子商取引に関する市場調査」によると、国内のEC市場(物販)は伸長率21.71%増の12兆2,333億円と成長しています。

このように顧客側のデジタルへの寛容度が上がりデジタルを中心とした態度変容が進む中で、企業は製品中心型のアプローチや、過去と同じような活動をルーティンワークのように進めるのではなく、顧客中心型の思考に切り替え、顧客の行動を360度の視点で捉えることが重要です。そして、顧客一人ひとりのモチベーションに注視しながら、最適なタイミングで最適なコンテンツを提供する重要性が高まっています。なぜなら、顧客の感情は、企業との関わり合いを持ち、コミュニケーションを重ねていく中で常に変化していくからです。

例えば、雑誌で見つけた洋服が気になり、スマートフォンでそのブランドについてウェブ検索を行い、ブランドのウェブサイトへ訪問している途中で別の商品が気になり、最初探したかった商品とは別の商品を買った、という経験がある方は多いのではないでしょうか。この時系列に沿った顧客の動きを、企業視点で見たものが「カスタマージャーニー」と呼ばれているものです。企業が選ばれるコンテンツを提供するために、顧客がどのような「旅」を進んでいるのか、顧客をあらゆる角度から深く理解し共感する必要があります。企業が顧客との良好な関係を構築・維持するための顧客体験を管理し、顧客の理解を深めるために有益なツールが「カスタマージャーニーマップ」になります。

なぜカスタマージャーニーマップが必要か?

企業側もリアルチャネルだけではなく、インターネット広告、オウンドメディア、アプリ、ソーシャルメディアなど新しいデジタルタッチポイントから顧客とのコミュニケーションを図ろうとしています。その結果、取得したデータから顧客行動を把握できるようになりました。しかし、一方でどのくらいコンバージョンしたか、どの程度売り上げがあったか、効率の良いメディアバイイングができたか、などボトムファネル側のデータ分析が先行してしまい、企業側が数字に捉われすぎて顧客を置いての会話が進み、認知から購買までの顧客行動を踏まえず議論を始める「企業視点での分析」を無意識におこなっているケースがあります。ですので、顧客中心の思考に切り替えるためにも、カスタマージャーニーマップを作ることは有意義です。顧客行動の全体像を把握し可視化することで、新しいタッチポイントの発見や、既存の顧客コミュニケーションを振り返り、顧客の期待に寄り添う活動に向けた第一歩を踏み出すことができます。

さまざまなチャネルやタッチポイントから顧客は情報を収集している

カスタマージャーニーマップは顧客理解を深める羅針盤

カスタマージャーニーマップを作成する目的は大きく3点あります。

  1. 顧客行動や感情、モチベーションとなったタイミングなどを網羅的に俯瞰できる
  2. マーケティング活動の優先度が明確になる
  3. 組織内で同じ文脈で顧客理解を深められる

目的の一つ目は、自社の製品やサービス全体を顧客視点で可視化することです。カスタマージャーニーマップを作成することで、顧客が認知するきっかけや、どのようなタッチポイントで製品/サービスに触れて、購入したいと思ったか、顧客の行動の裏にある感情や状態を浮かび上がらせることができます。カスタマージャーニーマップを作成するにあたり、一人のユーザー(仮に鈴木花子さんとしましょう)を思い浮かべ、彼・彼女の行動をとらえながら「このタイミングでこの広告を見た鈴木さんはどう感じたのだろうか」「鈴木さんは商品を検索するためにX Xというキーワードで調べたけどなぜだろう」など、鈴木さんに憑依しながら行動や思考、モチベーションの変化を可視化、行動の裏側にある顧客インサイトを探り、顧客体験をカスタマージャーニーマップに描いていきます。このユーザーのことをペルソナと言います。ペルソナを設定して、ユーザーの感情やモチベーションの上下、インサイトを可視化していきます。

目的の二つ目は、カスタマージャーニーマップをベースに、自社のマーケティング活動の質や量を振り返るきっかけとして活用することです。顧客のジャーニーのステージの行動や感情、モチベーションから、マーケティング活動が顧客に自社製品・サービスがどう見えているか、態度変容を起こすことができているかなど、カスタマージャーニーマップで可視化されたタッチポイントにおけるポジティブな要素と課題を洗い出すことができます。これらを重要度と緊急度の二軸で整理・比較検討を行い、マーケティング活動の優先順位の明確化や、短期的・中長期的なロードマップ策定を作成していきます。

目的の三つ目は、組織全体でカスタマージャーニーマップをマーケティング活動における共通の理解を深めるツールとして使うことです。できるだけ多様な関係者を集め、カスタマージャーニーマップを一緒に作りましょう。マーケティング部門だけではなく、営業部隊、エンジニア、ITなど、顧客に最高の体験を提供しているワンチームとして関係者を巻き込むことが重要です。組織横断でカスタマージャーニーマップを作成することで、自社の顧客がどのような期待をしていそうかという共通認識と、マーケティング活動への理解を深めることができ、同じ文脈で製品/サービスを良いものにしようという気持ちが生まれます。さらには施策の計画や要件定義も同じ文脈を共有することで、より検討の深度が深くなり、施策の明確なゴールや目的を立てやすく、合意形成もしやすくなります。

カスタマージャーニーマップ

カスタマージャーニーマップを有益に活用するために気をつけたいこと

カスタマージャーニーマップを作成した方はご経験があるかもしれませんが、一つのジャーニーを作成するのには多くの関係者を巻き込み、意見の擦り合わせや認識を合わせていく必要があるため、多くの労力がかかります。そのため、カスタマージャーニーマップを作ることが目的化してしまい、作成し終わって満足して、せっかく作っても活用しきれないという話を聞きます。カスタマージャーニーマップを有意義に活用いただくために、ここからは、カスタマージャーニーマップ作成にあたり、落とし穴となる「あるあるネタ」を共有します。

  1. 自社にとって都合がいいように妄想や願望でカスタマージャーニーを描いてしまう
  2. 一人のペルソナのリアルにフォーカスするのではなく、抽象的に設定されている
  3. タッチポイントごとに指標/KPIを設定しないため、施策の評価ができない

一つ目は、顧客中心思考ではなく、企業視点やプロダクトアウトの発想からマインドチェンジできてない場合に起こりがちです。顧客行動を「こういうふうに動いてくれたらいいのにな」という、企業本位の妄想でカスタマージャーニーを組み立ててしまうため、実際の顧客行動と乖離が発生し、顧客のパーセプションチェンジやモチベーションの変化を掴みきれません。もし想定していたカスタマージャーニーマップと実態にギャップが生まれた場合は、もう一度顧客視点に立ち戻り、自分自身が一人の顧客としてどういう行動をするか、どんな感情の変化があるか、見直します。この時はすでに顧客行動データも蓄積されているので、Adobe Analyticsなどの分析ツールを活用しながら定性・定量の両軸でカスタマージャーニーマップをブラッシュアップしましょう。

二つ目は、ペルソナが適切に設定できていないことから発生します。そのペルソナ設定した顧客の顔や家族構成、住んでいる場所、好きな作家、最近ハマっている音楽など、具体的に解像度が高く見えているでしょうか。このペルソナ設定が抽象的になってしまうと、一つ目のように企業の都合が良いペルソナを描いてしまい、本来は存在し得ない「自社にとっての最高のお客様はこういう人だ」という妄想で作り上げてリアリティがなくなってしまいます。そうすると、描いたカスタマージャーニーも絵に描いた餅となってしまい、マーケティング活動に有益に使えなくなってしまいます。例えば、身近な人をモデルにして、その人ならこういう行動をするだろう、というようなリアルなイメージを持ちながら、ペルソナを作り上げていくことが重要です。

三つ目は、カスタマージャーニーマップを作成した後に、描いた各タッチポイントについて評価するための指標を明確化しないため発生することがあります。カスタマージャーニーマップは施策ごとに設定したタッチポイントでアクションが効果や知見を得られたかどうか、評価すべき指標/KPIを設定しておくことが重要です。設定すべき指標/KPIがないと、カスタマージャーニーマップがそもそも有益かどうかの評価も行うことができません。顧客行動、感情、モチベーションの変化とタッチポイントを検討した後は、必ずタッチポイントを評価するための指標/KPIも合わせて決定できると望ましいです。

ペルソナ作成とカスタマージャーニーマップ作成の流れ

カスタマージャーニーマップはマーケティング活動の振り返りに活用する

カスタマージャーニーマップの作成後は、顧客行動、感情、モチベーションの変化を想定し、各タッチポイントで実施しているマーケティング活動が適切かどうかを見直し、改善していくことが重要です。よりリアルに修正していくために、実際の顧客へのデプスインタビューを行ったり、顧客行動データを活用したり、定性・定量両方のデータを活用してさらに顧客理解を深めていきましょう。

区切り線

アドビのプロフェッショナルサービスでは、カスタマージャーニーマップ策定ワークショップをはじめ、デジタル戦略策定からKBO/KPI設定支援、マーケティングアクティビティ実行支援まで、「顧客体験管理(CXM)」を実現するためのコンサルティングサービスもご用意しております。ご興味ある方は、以下よりお気軽にお問い合わせください。