LIXILのD2C運用の裏側 – 成果を出すEC戦略の進化
2025年7月、アドビの日本オフィスにて「成果を出すD2C運用の裏側 —先進企業の実例から学ぶ—」と題したイベントを開催しました。
ご登壇いただいたのは、5.6万以上のSKUを扱いながら、EC統合とD2C強化を同時に進めた株式会社LIXILの西脇彩氏と、Adobe Commerce導入実績においてトップクラスを誇り、開発パートナーとして携わった株式会社コウェルの菅原公雄氏、高山圭太氏です。公式通販サイト「LIXILストア」立ち上げの背景や、自社ECでしか購入できない浄水カートリッジを中心としたD2Cモデルの構築プロセスについて振り返っていただきました。多くのECサイト運用担当者様にご参加いただいた本イベントの模様をご紹介します。
LIXILの売上だけではないECサイトの役割とは
2011年に国内の主要な建材/設備機器メーカーであるトステム、INAX、新日軽、サンウエーブ工業、東洋エクステリアの5社が統合して誕生したLIXILは、世界中の人々の豊かで快適な住まいの実現を目指す、日本発のグローバル企業です。
現在は世界150カ国以上で事業を展開しており、約5.5万人の従業員を擁する同社は、INAX、GROHE、American Standard、TOSTEMに代表されるグローバル製品ブランド、EXSIORなどの日本における製品やサービスブランドまで、幅広いポートフォリオを持っています。こうした多様なブランド構成であることから、かつてのLIXILには多数のECサイトが存在し、顧客接点が分散するという課題を抱えていました。
この状況を打開するため、2021年からスタートしたのがEC統合プロジェクトです。まだ既存サイトである「LIXILオンラインショップ」と「LIXILパーツショップ」は残っているものの、2022年に公開した「LIXILストア」へと徐々に統合を進めている最中だと言います。
そんなLIXILストアで現在取り扱っているのは、浄水カートリッジやメンテナンス部品、スペアキーや浴室のドアなど、住まいに直結する商品、5.6万SKU以上。1日に約1200件の注文が入り、着実に売上高が拡大していると言います。
住宅設備は10年以上の長いライフサイクルであるため、その間のメンテナンスや部品交換などが大切なタッチポイントとなります。そのため、LIXILのECは「お客様との関係を維持し、次のリフォーム時にブランドスイッチを防ぐ」という重要な役割も担っているのです。
LIXILストアの中で大きな成果を上げているのが、2023年4月から販売経路をLIXILストアに一本化した「浄水カートリッジ」。この背景には、海外製の模造品や互換品と称する粗悪品がAmazonや楽天市場などの大手ECプラットフォームを通じて、市場に出回っていたという深刻な課題がありました。浄水はお客様の口に入るものになるため、LIXILとして見逃すわけにはいきません。
そこで同社は税関への差し止め申請を行うといった法的な対応を進める一方、社内で模造品や互換品と称する粗悪品をランダムに購入して水質検査を実施。基準を満たしていないことを証明した上で、検査結果を大手ECプラットフォームに提出し、出店停止や販売中止といった措置を講じてもらうよう協力を仰いだと言います。
こうした取り組みを通じて、安全性とブランド価値を守りつつ、直販への一本化を進めた結果、2024年の売上高は前年に比べ3割ほど増加。現在では、都度注文だけでなく、使用量に応じて選べる定期購入モデルも導入し、利便性と安全性を兼ね備えた販売モデルを構築しています。LIXILストアは、「製品の購入窓口」であると同時に、「長期にわたってお客様との関係を築く重要なチャネル」へと進化しているのです。
なぜLIXILはAdobe Commerceを選んだのか
LIXILストアはAdobe Commerceで構築されています。Adobe Commerceを採用した決め手として、LIXIL CX部門 カスタマーサービス統括部 D2Cビジネス推進部 リーダーの西脇彩氏は 「マルチサイトに強いこと」 と 「グローバル展開できること」 の2点を挙げました。
LIXILにはテストブランドやグループ会社の製品など、特定のお客様層にのみ販売している商品があり、同じショップ内で取り扱うのが難しい商品がありました。求めていた要件の1つが、マルチサイトで柔軟に展開できる基盤であること。そして、将来的にグローバル展開を見据えているため、各国の税制や決済方法、配送ルールにも対応できるAdobe Commerceが最適だったそうです。
また、コウェル エンジニアリング本部 Adobe Commerce 担当 プロジェクトマネージャーの菅原公雄氏は開発パートナーの視点から、「確かにAdobe Commerceはグローバルやマルチサイトに強いイメージがあります。加えて、複数サイトを統合するのか、マルチサイトで構築するのか、『状況やニーズに応じて柔軟に対応できる』のもAdobe Commerceの魅力です」と語ります。
実際に、レガシーシステムで構築されていた旧LIXILオンラインショップとLIXILパーツショップは、ターゲットが同じだったことから、マルチサイトではなく統合して運用コストを下げるほうを選択。まだ残っている他のサイトについても、随時検討しながら、最適な選択をしていきたいということでした。
他にも、Adobe Commerceの強みとして、「エクステンション(拡張機能)の豊富さ」を挙げた西脇氏。Adobe Commerceのマーケットプレイスには数千以上の拡張機能がそろっており、必要な機能を1からスクラッチで開発することなく、効率的に開発を進められます。例えばLIXILストアでは、特殊な仕組みが必要なスペアキーの購入や、浄水カートリッジの定期購入の仕組みを実装する際にエクステンションを活用されているそうです。
ちなみに、LIXILでは顧客情報をECとは別の共通ID基盤「MyLIXIL」で管理されています。そのため、MyLIXILの基盤と、Adobe Commerceで構築したLIXILストアを連携することで、旧サイトからの移行もスムーズに進められたのだとか。「Adobe Commerceの高い拡張性によって、クレジットカード情報といった個人情報の再登録も不要で、お客様に安心してご利用いただける環境を構築できました。また、開発側のチェック作業も非常に楽で、移行後しばらくは徹夜続きを覚悟していたのですが、何事も起きないままスムーズに完了できました」と菅原氏は笑顔を見せます。
最後に西脇氏は、「ECサイトは機能を増やせば増やすほど、メンテナンスが大変になります。本当に必要な機能だけをリリースすると決め、開発パートナーであるコウェルさんと綿密なコミュニケーションを図ることが大切だったと思います」と語り、本セッションを締めくくりました。
進化を続けるAdobe Commerceでレガシーシステムからの脱却を
続いて、アドビ シニアソリューションコンサルタントのバラハジャ ニコロより、Adobe Commerceのテクノロジーアップデートが紹介されました。
この中では、「標準機能を活用して、スモールスタートでECサイトを立ち上げられる」「単一のEC基盤でB2C/B2B/B2B2X、すべてのビジネスモデルに対応できる」といったAdobe Commerceの特長に加え、新たに提供開始となったSaaS版の「Adobe Commerce as a Cloud Service」についても共有。また、既存のバックエンドシステムを残したまま、フロントエンドで最新のパフォーマンスを実現できる「Adobe Commerce Optimizer」のリリースについても言及がありました。
そして本イベント終了後には、参加者の皆さんと懇親会を行いました。イベント内で名刺交換を行っていただく時間を設けていたこともあり、活発な意見交換が行われ、会場は熱気に満ちあふれました。今後はAdobe Commerceのユーザーグループも盛り上げていけたらと思っておりますので、ぜひ皆様ご参加ください。