キャンプ場運営のDX裏側に迫る
カスタマーサクセスチームで定期開催している「Marketo Studio(通称Mスタ)」。本ウェビナーでは、毎回ゲストのユーザー様をお招きし、Adobe Marketo Engageの活⽤実践例を存分に語っていただいております。今回はキャンプ場運営のデジタルトランスフォーメーションの取り組みについて特定非営利活動法人 Nature Service 共同代表理事 (マーキュリープロジェクトオフィス株式会社 代表取締役)赤堀哲也氏に語っていただきました。アドビ 松井真理子よりご紹介します。
設立直後のNPO法人がAdobe Marketo Engageを導入した2つの理由とは
特定非営利活動法人 Nature Service様は、「自然(Nature)に入ることを、もっと自然(Naturally)に。」をコンセプトに、都会に住む人々と自然をつなぐ事業を展開されています。具体的には、環境省とパートナーシップを締結した国立公園のPR活動支援、自然をテーマにしたキュレーションサイト「NATURES.」や3つのキャンプ場の運営などを行っておられます。現在の会員状況は、年会費を支払う正会員が33名、キャンプ場利用者などの賛助会員が10,260名、ソーシャルメディアのフォロワーが20,698名いるそうです。
「日本では都市部に全人口の約70%の人が住んでおり、人工物に囲まれた生活を送っています。主観的幸福度は先進国の中で最下位。都会の人たちと自然をつなげることで、都会の人たちがより活躍できる社会を作りたいと思っています」(赤堀氏)
今回、Adobe Marketo Engageの活用事例としてお話しいただいたのは、Nature Service様が2016年から手掛けているキャンプ事業についてです。長野県信濃町にある「やすらぎの森オートキャンプ場」、長野県伊那市にある「千代田湖キャンプ場」、長野県売木村にある「星の森オートキャンプ場」の3つのキャンプ場があり、すべてを合わせると東京ドーム13個分の敷地面積を誇り、1日最大約700名が宿泊することができると言います。
Nature Service様では、NPO法人を設立された16年からAdobe Marketo Engageを導入していただいておりますが、設立当初からAdobe Marketo Engageの導入を決めた理由は2つあったそうです。
1つ目は、当初Nature Service様には常駐職員がおらず、赤堀氏が実質ワンオペでキャンプ場の運営をしなければならなかったからです。Nature ServiceというNPO法人は、赤堀氏が代表取締役を務めるマーキュリープロジェクトオフィスの社会貢献活動として設立されており、当初、常駐職員は0名の状態でした。キャンプ場の顧客を増やすよりも、入ってきてしまった予約をどう回すかが何よりも大きな課題になっていたと言います。
「チェックインの日が近づいたお客様からの『現地で炭や薪は買えますか?』『ガソリンスタンドは近くにありますか?』といった問い合わせを減らせるよう、お申し込み内容に応じたメールをAdobe Marketo Engageから送ることで、キャンプ場周辺の情報をインプットしながらナーチャリングしようと考えました」(赤堀氏)
そして2つ目の理由は、DXを強みにスケールアウトしたかったから。キャンプ場を再生して自然体験をする人を増やすには、キャンプ場のオペレーション業務を自動化し、無人でも運用できる経営の仕組みを整えたいと考えた赤堀氏。現在、キャンプ場の運営に関わるメンバーは5名まで増えたものの、キャンプ場が2つ、3つと増えていき、予約数も以前の5倍近い20,000件まで伸びている中では対処しきれないことから、どんどんDX化を進めてきたのだと言います。
上記図が現在のシステム構成図です。ライブチャットを通じて東京・八丈島に住むメンバーが在宅でのサポートや、エントランスゲートに設置されたカメラにQRコードをかざすとSalesforceにチェックイン履歴が残ることで、Adobe Marketo Engageとtwilioを経由しチェックイン完了のSMSを飛ばしたりするなどで、小さなキャンプ場なら無人運営できるまでになっているとのことです。
最近では、ChatGPTを活用した回答生成エンジン「Symphony Base」を独自開発。このエンジンは、企業内部にある既存のFAQ記事や情報をフルに活用し、チャットボットやサービスロボットに適切な回答を提供。また、様々なシステムと柔軟に接続でき、生成された回答の出力も、自社webサイトのチャットボットやLINE、SMS、サービスロボットなどとの同時連携を可能にしています。実際にNature Service様自身も「Symphony Base」を活用し、キャンプ場のサポートに役立てているそうです。
次からは、より具体的なAdobe Marketo Engageの活用法について見ていきましょう。
キャンプ場利用者の顧客体験を充実させるAdobe Marketo Engage活用
ここからは、申し込み前の「マーケティング段階」、申し込み後からチェックインまでの「サポート/離脱防止段階」、チェックイン後の「利用中(滞在中)」の3つに分けて、どのようにAdobe Marketo Engageを活用されているかをご紹介していきます。
マーケティング段階
Adobe Marketo Engageは、主にリピート獲得施策を行っており、自然をテーマにしたキュレーションサイト「NATURES.」にある500本以上の記事を活用していると言います。キャンプ場の申し込み時に取得した情報をもとに、ソロキャン/グルキャン/ファミキャンといった利用構成を推測して、それに応じたコンテンツを出し分けている他、反応したコンテンツの種類によってスコアリングを行い、ワーケーションなどの法人向けのネタに反応してくれる人には、Nature Service様が運営する法人向け貸し切り型リモートオフィス「ノマドワークセンター™」の紹介を送り、B2C2Bにつなげる試みもされているとのことです。「実際の利用履歴をもとにターゲットを決めることで、成果を上げやすくなっている」と赤堀氏は語ります。
サポート/離脱防止段階
申し込んでから実際にチェックインするまでの離脱(キャンセル)を防ぐために、ここでも申し込み時に取得した属性情報をもとに「NATURES.」の記事を配信してワクワク感を醸成する他、家族構成やペットの有無に応じて注意喚起のメールをAdobe Marketo Engageから配信し、リスク低減に努めていると言います。
また、メールの開封やクリックの有無、FAQの閲覧履歴などの情報をもとに、「学習スコア」を測定。チェックイン時に、その学習スコアをスタッフの端末に表示することで、現場での補足説明の度合いを調整されているそうです。
もう1つ、Adobe Marketo Engageが重要な役割を果たしているのが、ブラックリストに掲載された顧客に対する自動キャンセルメールの送信です。過去の利用時にマナーが酷かった方はSalesforceでブラックリストに登録されており、その方から次回の予約が入ったら、即座にAdobe Marketo Engageで検知し、お断りのメールが飛ぶようになっているとのこと。できるだけ他のお客様に快適に使ってもらえるよう、十分な注意を促した上で、それでも利用したい場合は許可する流れにしていると言います。「この自動キャンセルメールが、申し込み後すぐに飛ぶところがポイントです。数日後に気付いて連絡しても『今さら言われても予定を変更できない』と言われてしまうので、早急にメールを送るようにしています」(赤堀氏)。
利用中(滞在中)
事前に配信されたメールに記載のURLからセルフチェックインを行うと、「チェックインありがとうございました」というSMSがAdobe Marketo Engageとtwilio経由で送られるようになっています。滞在中のコミュニケーションは、基本的にすべてライブチャットやSMSで行い、現場のスタッフ以外も遠隔でサポートできる体制にしていると言います。また、チェックアウトした際には「Googleフォームでアンケートに回答してください」というメールがAdobe Marketo Engageから送られるようになっているそうです。
Adobe Marketo Engage以外にも様々なツールを駆使しながら、データドリブンなキャンプ場運営を実践されているNature Service様。その結果、キャンプ場運営を始めた初年度から黒字化を達成されており、24年度は増収増益見込みが立っているとのことです。Nature Service様が手がけるキャンプ場は、公共のキャンプ場を再生されているため、税金から支払われる指定管理料を下げることにつながり、税金の節約にも貢献されているそうです。
このように積極的なDX推進を進めておられるNature Serviceの職員の皆様は、「Adobe Marketo EngageもSalesforceもtwilioも、“退職しない仕事仲間” だと捉えている」とのことでした。加えて、今では「自然 × DX」に強い関心と共感を持って応募してくれる若者が増えていると言い、採用にも役立っているとのことでした。
「日本は国土の67%が森であり、国境の100%が海という、自然豊かな先進国です。この資源を生かしてDXありきのオペレーションを横展開しながら、日本全国に持続可能なキャンプ場を増やしていきたいと考えています」と赤堀氏は語っておられました。