【イベントレポート】B2B製造業向けミートアップイベントを開催。ものづくりを支えるデジタルマーケティングのあり方を示す。
6月13日、アドビプロフェッショナルサービス主催による「Adobe Customer Experience Meet Up for Manufacturing」が、コンラッド東京にて開催された。ミートアップイベントには、国内のB2B製造業企業にてデジタルおよびITに従事するマーケティング担当者の他、アドビ社員が参加。アドビのクライアントパートナーによる、日立建機株式会社(以下、「日立建機」と表記)とのパートナーシップに基づいたデジタルメディアのあるべき姿の実現に向けた取り組みについての紹介が行われた後には、日立建機の推進リーダーも交えたパネルディスカッションが行われた。その後には、軽食およびネットワーキングの場も設けられた。
目次
- 日立建機におけるデジタルメディアづくりの変遷とアドビとのパートナーシップ
- 4つのテーマで語る、日立建機のグローバルCMSプロジェクト
- テーマ1:ビジョン あるべき姿に向けて様々な部門を巻き込みながら歩んでいく
- テーマ2:リーダーシップ キーワードは、傾聴、理解、承認そして相互
- テーマ3:戦略 5年先を見据えて長期ビジョンがポイント
- テーマ4:実行 コミュニケーションを通じて信頼関係を築いていく
日立建機社におけるデジタルメディアづくりの変遷とアドビとのパートナーシップ
この日の講演では、アドビ カスタマーソリューションズ クライアントパートナーの権平 康祐(ごんだいら やすひろ)が、日立建機におけるデジタルメディアのあるべき姿の実現に向けた取り組みについて、そこに至るまでの経緯やアドビとのパートナーシップなどについて解説した。
冒頭で権平は、グローバル製造企業である日立建機の事業内容や業績などを紹介した。同社の事業ポートフォリオは、建設機械や鉱山機械を扱うコンパクト・コンストラクション、マイニングの製品事業とバリューチェーン事業の大きく分けて2つからなる。
「バリューチェーン事業は新車販売以外の事業であり、近年では目覚ましい成長を遂げており、売上収益全体の4割を占めている。その背景には、社会や技術そして経済環境の変化がある」(権平)
1990年以降のグローバル展開フェーズにおいて、特に21世紀に入ってから日立建機の海外売上収益は急激に拡大した。さらにデジタルデータの活用フェーズに入り、デジタルメディアのあるべき姿をつくりあげていく背景へとつながっていく。
ここで権平は、デジタルメディアのあるべき姿の実現に向けた変遷を振り返った。2019年10月にステアリングコミッティが設置され、それから1年後の2020年10月に戦略策定フェーズに入るとアドビがパートナーとして参加。その後は共に取り組みを進めてきている。
取り組みの当初に抱えていた課題は、以下の3つであった。
1. デジタルメディア戦略に基づく実行
2. グローバルWeb運用ガバナンス
3. 制作者が情報発信に集中できるセキュアでフレンドリーな環境
これらの課題をどのように解決したのかについては、後のパネルディスカッションで語られていった。
4つのテーマで語る、日立建機のグローバルCMSプロジェクト
パネルディスカッションには、ゲストスピーカーである日立建機ブランド・コミュニケーション本部宣伝部デジタルメディアグループの山路 雅義氏が登壇し、講演に引き続き権平、アドビのビジネスコンサルティング本部の部長 冨田 洋平とともに、4つのテーマについて日立建機の取り組みが語られた。
テーマ1:ビジョン あるべき姿に向けて様々な部門を巻き込みながら歩んでいく
冨田:日立建機のデジタルメディアにおけるビジョンすなわち“あるべき姿”つくりとはどのようなものか。
山路氏:今回は、“伝えるシステム”をつくるプロジェクトであったが、あるべき姿であるゴールをプロジェクト準備メンバーと設定し、それを社内に示すことから始めた。
冨田:あるべき姿との距離を埋めるため、どのように設定したのか。
山路氏:最終ゴールとともに、そこへと至る各フェーズのマイルストーンや小さなゴールを設定した上で、プロジェクトを進めた。プロジェクトの進行の過程でブレたり不安になることが生じた際は、一旦、あるべき姿に自ら立ち返ったり、プロジェクトメンバーに伝えている。
冨田:コーポレート部門でありながら、マーケティングをはじめ様々な部門をどう巻き込んでいったのか。
山路氏:当社グループでは、建設機械や鉱山機械の事業が、設計から製造、販売、アフターサービス事業までが一本につながっており、元々コーポレート部門も製品と切り離せない存在であることから違和感はなかった。ただ、コーポレート部門主導で全グループ的なプロジェクトとしてやるには無理やり押し通す「ゴリ押し」は良くないと思い、同じ課題に共感しているマーケティング部門やIT部門などの部門長に当初から入ってもらうようにした。
冨田:部門を巻き込む重要性はどこにあると考えるか。
山路氏:どこから情報を得て、それをどう誰に見せていくというときに、グローバルで統一したwebシステムによる情報発信が課題となった。グローバルでの事業展開とデジタルを活用した情報発信の重要性が増したのは同じ時期であった。過去にはそれぞれの地域の連結子会社が個別最適で情報発信を進めてきた。その時期においては悪い方法ではなかったが、現在は、グループ全体で統一したイメージをステークホルダーに持ってもらい、共感してもらうのが大事であることから、グローバルでのCMSの統一へと歩みだした。
テーマ2:リーダーシップ キーワードは、傾聴、理解、承認そして相互
冨田:グローバルでのリーダーシップをどうやって発揮したのか。自分自身のやりたいことと、各社の事情とのバランスをどうとったのか聞かせて欲しい。
山路氏:キーワードは「傾聴」と「理解」、「承認」であり、そこに「相互」も加わってくる。グローバルで使用する情報発信の器なので、まず、巻き込むために連結子会社の課題感などにしっかりと耳を傾け、それをきちんと取り込むことに注力した。また、こちらが進めたい方向をしっかり示し、理解してもらうようにした(相互)。まずは理解し合うことに重きを置くとともに、今回のようなシステム構築について、自分自身は素人なので社内外のプロフェッショナルに質問をしながら、知識を蓄え、段々と自分自身を承認してもらうようにしていった。
冨田:自分がわかっていないことをちゃんとさらけ出して相手に理解してもらうというのは、プロジェクトリーダーにとって弱い部分を出すことになり信頼されなくなるという側面もなかったか。
山路氏:当社の社風もあるかもしれないが、独りよがりでは駄目で、チームが大事だという意識をしっかり持ってもらうことが重要だった。自分がリードするための信頼よりも、プロジェクトをチームとして進めることを共通認識してもらうことの方が大切だと思う。
冨田:山路さんと同じようなミッションを抱える人々にアドバイスを。
山路氏:いきなり大きなチームは組めないだろうから、少人数でいいので週に1時間は打ち合わせの場を設けることをお勧めしたい。その際に参加メンバーの所属する部門長からそのミーティングを認めてもらうことが重要。早い段階でオーナーとなる部門長の理解が得られていれば、その後もスムーズに進むと考えている。我々は、現在、開発からWebサイトを連結子会社へと移行するフェーズに入っているが、そこではアドビのサポートにも入ってもらいながら週4回以上も打ち合わせを行っている。
テーマ3:戦略 5年先を見据えて長期ビジョンがポイント
冨田:今回のプロジェクト(デジタルメディアのあるべき姿の実現に向けた取り組み)では、まず何から取り組み始めたのか。
山路氏:これまでやった経験のないことをグローバルで進めなければならないため、まずは先述したあるべき姿=ゴールを設定することから始めた。それと合わせて、実現のための戦略を策定し、異なる部門や組織間で共通の会話をするための基盤とした。
権平:アドビも戦略フェーズからパートナーとして参加しており、日立建機ではどういった課題があるのか半年ぐらいかけて社内や競合調査、未来像の策定を行った。いきなりシステムをつくり始めてしまうとモノ優先となり、どこめざしているのか見えなくなりがちだが、日立建機では、戦略策定にしっかりと時間を掛けてくれたのがスムーズなプロジェクト推進につながっている。また、社内でコミュニケーションをしっかりしてきた印象も強い。
山路氏:最初はプロジェクトの準備チームのメンバーで課題の整理を行った。ステアリングコミッティでは、「ほとんど社内でできるのでは?」という意見があったが、社内ではリソースや工数などが足りない部分を明確にして、そこは社外からの叡智と協力が欠かせないことを理解してもらい、外部の力を取り入れるようにできた。
権平:(日立建機のように)まずは社内でできることを明確化した上で、足りないところは社外のリソースを用いるというのが重要で、いきなりすべてを外部に任せてしまったのでは自分ごとにはならない。
冨田:戦略におけるロードマップをどのように策定したのか。
山路氏:めざすべきあるべき姿に、2020年度の時点から見ていつまでにならないといけないのかについて検討した結果、2025年度からグローバルであるべき姿になるべきだという結論に達し、そこから逆算してロードマップに落とし込むようにしていった。
冨田:グローバルサイトとローカルサイトで役割を明確に分けているようだが、それはどのように決めたのか。
山路氏:戦略を示す上で、顧客や証券アナリストなどにヒアリングしてカスタマージャーニーマップを作成して、それに基づいてそれぞれのサイトの目的と役割を定義していった。それに基づき、中のコンテンツについてはそれぞれがやりたいことをできるようにしている。ただ、デザインがバラバラだといけないので、そこはデザインガバナンスを効かせている。
権平:ここでビジョンが活きると思う。ビジョンの視野が狭いと、コーポレートブランディングとマーケティングが両立できないデザインガバナンスやコンテンツマネジメントになる。
テーマ4:実行 コミュニケーションを通じて信頼関係を築いていく
冨田:グローバルでのプロジェクトを始めるうえで不安はなかったか。
山路氏:むしろ不安しかなかった。予算が取れていざ進めるとなった時には、計画には自信があっても本当にこれ進められるのかという不安は常にあった。そこで、アドビにコンサルティングをしてもらいながら、不安を払拭していった。そこでは、アジャイル開発についての説明や、その開発を管理運用する仕組みについての提案もしてもらった。
権平:自分たちのやり方に固執せずに我々の提案に耳を傾けてくれたのが大きかった。信頼関係がなければ、アジャイルのような新しいアプローチはなかなか受け入れてもらえない。そのマインドセットを持っていただいたため、その後もすごくやりやすかった。
山路氏:プロダクトマネジメントと言えばアメリカが先進であるため、米国発のアドビからの提案は素直に受け入れた。フルスクラッチだったらこう順調にはいかなかったはず。あくまでアドビのソリューションのライセンス契約があり、あとはコンサルティングでサポートというかたちにしたからこそ、スムーズに進められたのだろう。
冨田:あらゆるステークホルダーをどう動かしたのか。
山路氏:まず、ITやDX、UX/UIのデザイン部門からなる社内プロジェクトチームを作り上げ、参画してもらった。そうすることで、機能や非機能双方について、どういうデザインのどんなサイトにしていこうかと最初に話し合うことができた。また、海外連結子会社のマーケティング部門等の巻き込みも最初から行っていった。つくった後に使いにくいとならないように、自然に“自分事化”するためには、早い段階でなるべく仲間を増やしていくのが大事だろう。
冨田:プロジェクトの旗振り役としてどのようなことに配慮したか。
山路氏:さまざまな部門と組織を巻き込むとなると当然コミュニケーションも増えていくので、そうしたコミュニケーションを通じて信頼関係を築いていくように心掛けた。
冨田:最後に、次のステップへと向けた意気込みを語っていただければ。
山路氏:まずは2025年度までに連結子会社のサイトをグローバルCMSに統合して運用できるよう取り組んでいく。あくまでそこがスタートなので、現地で自律的に情報発信してもらえるよう、サイトデザインのガバナンスを効かせながら促していきたい。そこから先は、日立建機グループとしてのグローバルでの情報発信について、オウンドメディアやSNSなどとしっかり組み合わせ、そこにグローバルCMSを取り入れてコーポレートブランディングの展開を図っていくことをめざしていく。
パネルディスカッション後は、隣の部屋に会場を移してミートアップが開催された。参加者同士、それぞれの抱える課題を共有し、情報交換を行なった。アドビのコンサルタントも参加し、Adobe Experience Cloudなどのアドビ製品や、アドビプロフェッショナルサービスが提供する組織や戦略設計支援の最新情報も、参加者に提供された。
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