アステラス製薬におけるAdobe Experience Cloudを活用したUI/UX最適化のケーススタディ
アステラス製薬株式会社(以下、アステラス製薬)様は、2021年に業界に先駆けてアドビのCXM(顧客体験管理)向けソリューションである「Adobe Experience Cloud」を導入し、同社の医療関係者向け情報サイト「Astellas Medical Net」を刷新、今日までに数多くのパーソナライゼーション施策を実行するなど、成功事例を積み上げてきました。今回は、アステラス製薬様における具体的なUI/UX最適化の施策を交えて、Adobe Experience Cloudによる顧客理解とデータ活用、コンテンツ管理(CMS)、マーケティングオートメーション(MA)を組み合わせた優れた顧客体験の創出のポイントや各ソリューションの役割についてご紹介します。
もくじ
- プロジェクト開始後2年でパーソナライズが大きく進化
- 大量のデータを多角的な視点から分析し、成果を出す
- UI/UX最適化のケーススタディ
プロジェクト開始後2年でパーソナライズが大きく進化
アステラス製薬様は、世界70カ国以上で医薬品の開発、製造、販売を行っており、MR(医薬情報担当者)の豊富な知識と経験に基づく的確な情報提供、また多領域にわたる製品ラインナップに強みを持つ日本最大規模の製薬会社です。最先端の研究拠点を日本、欧米、アジアに構え、主力の前立腺がん薬など数々の創薬を成功させています。デジタル活用では、医療従事者 (HCP)向けのオウンドメディアである「Astellas Medical Net」を運用。医療従事者への情報提供の顧客接点強化ならびに専門性の高い情報提供・収集活動に注力しています。
Adobe Experience Cloud導入前は、医療従事者の体験価値を最大化する上でデジタルチャネルの活用が大きな経営課題でした。軸となる医療関係者向け情報サイトを中心としたデジタル仕組みをさらに進化させようとしたのが今回のAdobe Experience Cloudの導入です。以前のシステムでは、顧客行動を十分に取得することができず、MRとの連携も不十分であったため、データ収集、データ統合、分析、データを活用した配信制御などの面でシステムの抜本的な見直しが必要でした。
Adobe Experience Cloudの導入において、医療従事者の体験価値向上のための医療関係者向け情報サイトおよび各種デジタルチャネル、MRの活動を結びつけるプロセス整備を行い、そのためのシステムの全体像を描く必要がありました。また、デジタルを活用して顧客体験管理を進化させる新プロセスを社内に定着させるための人材育成も重要なポイントでした。この点においては、アドビコンサルティングサービスを活用することでスムーズに進行することができました。
デジタル活用の中心になるのは、” 医療従事者の分析”と”パーソナライゼーション”です。データをもとに医療従事者の興味・関心を見極め、ひとりひとりに対して最適なコンテンツを提案することで、各製品の理解度の向上に代表されるナーチャリングを実施します。さらに、デジタルで実施したマーケティングとその反応をもとにスコアリングを行い、スコアが高まった医療従事者の情報を担当MRに即座に伝えることで、デジタルと人の両面からスムーズなアプローチが可能になりました。
また、数多くのコンテンツや資材を管理しているAdobe Experience Managerへの移行により、コンテンツ更新頻度が向上するとともに、Adobe Targetを組み合わせることで数多くのA/BテストやレコメンデーションによるUI/UX最適化を実現することができました。2022年度には、最適化施策を80本以上実施し、多くの成功事例を創出しています。
また、マーケティングオートメーションとしてのAdobe Marketo Engageを活用することで、ターゲティングメールの配信やスコアリングを活用しSNSによるMRへのプッシュ通知を行い、薬の処方に対するデジタルの貢献度を高めています。
大量のデータを多角的な視点から分析し、成果を出す
2年間のデジタルマーケティング戦略においては、データを活用し、いかにして卓越した医療従事者体験を提供するかが重要でした。そのためには、以前とは比べ物にならないほどの量のデータを扱い、分析の精度とスピードを高め、データをマーケティング施策に活用できる状態にする必要がありました。以前のオウンドメディアの分析においては、誰がどのページを何回閲覧したかは把握できるものの、コンテンツの満足度や読了率といった役に立っているかどうかを判断する情報が収集できていませんでした。
そこで、新たな医療関係者向け情報サイトでは、コンテンツ読了時に満足度アンケートを表示することで、コンテンツ毎の満足率を把握できるようにし、Adobe Analyticsによって満足率をモニタリングできるようにしました。また、医療関係者向け情報サイト以外の他のチャネルのデータもAdobe Analyticsに取り込み、多角的な視点からの分析を可能にしています。
分析環境としてAdobe Analyticsを活用することによって、ドラッグ&ドロップの直感的な操作でスピーディに深堀分析ができる上、予め各担当者向けのダッシュボードを作成、共有することで、誰でも最新のデータにすぐにアクセスできるようになりました。セグメントの高度化の面では、Adobe Audience Managerでクロスデバイスの行動データを統合し、Look-alike ModelのようなAI(人工知能)とマシンラーニング(機械学習)を活用した高度なセグメントを定義することで、分析の精度と質を向上しています。
これらのデータを配信ソリューションであるAdobe TargetやAdobe Marketo Engageに連携することで、高度なパーソナライゼーションを実現しています。
UI/UX最適化のケーススタディ
アステラス製薬様が活用するAdobe Experience Cloudは、顧客理解とデータ活用、コンテンツ管理(CMS)、マーケティングオートメーション(MA)といった、優れた顧客体験の創出に不可欠なツールを提供するCXMソリューションです。実際にアステラス製薬様が実行しているUI/UX最適化の事例についていくつかご紹介します。
“見てもらいたいコンテンツ”をおすすめ
オウンドメディアにおいては、来訪する医療従事者に応じて見てもらいたいコンテンツが異なるため、会員属性をもとにしたパーソナライゼーションが必要でした。また、一般的な閲覧相関のレコメンドエンジンでは会員属性を考慮したレコメンドが難しい中で、アステラス製薬様においては、様々なビジネスロジックを考慮し、レコメンド対象のコンテンツのルールを柔軟に制御したいといったニーズがありました。これらの課題を解決したのがAdobe TargetのRecommendationsです。Recommendationsをフル活用することで、ブラックボックスのレコメンドエンジンではなく、ビジネスロジックを考慮した上で、会員属性や行動傾向に応じて自動的におすすめのコンテンツをレコメンドできるような仕組みを実現しました。会員属性についてはAdobe Audience Managerを活用することで、Cookieに依存することなくクロスデバイスでのレコメンドを実現。複数のアルゴリズムを組み合わせ、数多くのページ上でのレコメンドを実行しています。また、レコメンドのために必要なメタ情報をAdobe Experience Managerから取得することで、医療従事者に対して最新の情報を提供し続けています。
メール配信の最適化
アステラス製薬様では、医療関係者向け情報サイトの会員へ配信するメールにおいて、ひとりひとりとの関連性を向上し、医療関係者向け情報サイトへの来訪頻度を高めることを目的として、メールの内容をパーソナライズしています。具体的には、Adobe Analyticsで医療関係者向け情報サイトの会員の行動を分析・把握し、その情報をレコメンドエンジンとなるAdobe Targetに連携。Adobe Targetで最適化した内容をAdobe Marketo Engageに引き渡すことで、完全にパーソナライズされたメールの配信を実現しました。また、配信時間帯や件名をA/Bテストすることで、配信するメール自体の最適化も進めることができました。
PDF上の医療従事者体験を最適化
アステラス製薬様では、資料の印刷のしやすさなどの観点から、重要なコンテンツの多くがPDFファイルとして存在しています。PDFファイルの場合、Webサイトにおいて直接開かれた際に、他のコンテンツへの導線が存在しないため回遊性が乏しい点や、SEO経由でのPDFファイルへのアクセス数が把握できない点などの課題がありました。そのため、Adobe Experience Manager.のPDF Viewer機能を利用してPDFを埋め込んだWebページを作成し、PDF ViewerのページにおけるインタラクションデータをAdobe Analyticsで計測することで、PDF文書内の検索やページ遷移、印刷の回数なども分析可能にしました。
また、Adobe Targetを利用してPDF ViewerページのUIをカスタマイズし、回遊導線を動的に設定したり、Recommendationsを利用しておすすめコンテンツをレコメンドしたりすることにより、サイト内の回遊性を向上しました。
外部データの取り込み
医療従事者との接点は、MRによる対面でのディテールだけでなく、講演会やWebシンポジウムのようなイベント、オンラインMRによるオンライン面談、オウンドメディアである「Astellas Medical Net」、医療従事者向けに配信しているメール、他メディア上でのコンテンツ視聴など、オンライン、オフラインを問わず数多くの接点があります。アステラス製薬様では、これらの外部データをAdobe AnalyticsやAdobe Audience Manager, Adobe Marketo Engageへ取り込むことで、医療従事者ひとりひとりのステージやセグメントをより正確に把握することができるようになりました。
このように、アステラス製薬様では、Adobe Experience Cloudの各ソリューションを組み合わせ、データをフルに活用することで、さまざまな施策をスピーディに実行しています。会員のプライバシーに配慮した上で、「正しいコンテンツを、正しい人に、正しいタイミングで、正しいチャネルを通じて提供する」ことを念頭に置きながら、高度な顧客体験管理を継続しています。この高度化を支えるアドビコンサルティングサービスでは、今後もさまざまな成功事例を創出しながら、アステラス製薬様の成功に貢献していきます。
Adobe Experience Cloudを活用した高度な「顧客体験管理(CXM)」を実現されたい場合には、ぜひアドビにご相談ください。