Adobe Targetによって実現するパーソナライゼーション戦略
現在のビジネスにおいては、B2C, B2B問わず、顧客とのすべてのタッチポイントにおいてパーソナライズされた最適な体験を提供することが重要である点は既にご認識いただいている方が多いかと思います。しかしながら、多くのケースにおいて、顧客が求めているパーソナライゼーションと企業が提供しているパーソナライゼーションには大きなギャップが生じています。
その要因には、1) 顧客のニーズや志向性を理解するためのデータが不足している、2) パーソナライズといいつつも運用効率面などからセグメント毎のオファー配信に留まっている、3) 顧客が求めている情報よりも、企業が発信したい情報の方が強調されている といった点が挙げられます。
このような課題を解決し、真にパーソナライズされた体験を提供するためには、リアルタイムに収集される莫大なデータを統合し、人工知能とマシンラーニング(機械学習)を活用することで、顧客ひとりひとりに対して今この瞬間に最適な商品・コンテンツを届けることが重要です。
顧客体験の提供においては、企業が発信したい情報を多くの顧客へ届けることも重要ですが、データを活用し、誰に対してどのチャネルを用いてどのタイミングでどんなオファーをするべきかを常に最適化し、顧客視点での顧客体験管理を実現できるよう努めましょう。
このような高度な顧客体験管理を実現しようとした際に、最初に気になる点が運用コストの高さです。パーソナライゼーションを手作業で実現しようとすると、コストと時間がかかりすぎることから、結果としてCRMデータなどを利用したセグメンテーションした顧客に対する非リアルタイムのターゲティング施策やUI改善のためのA/Bテストの実行に留まってしまうことが多く、得られる成果も大きくありません。
今回は、マーケターが自律的に数多くのA/Bテストを実施でき、人工知能と機械学習を活用したリアルタイム性の高いパーソナライゼーションが実現できるソリューションとして業界を牽引し続けているAdobe Targetに搭載されているAdobe Senseiの人工知能と機械学習の機能と、パーソナライゼーションの効果を最大化するためのポイントをご紹介します。
もくじ
- Adobe Targetとは
- 人工知能と機械学習とは
- Adobe Targetに搭載されている人工知能と機械学習
- 学習データのチューニング
- パーソナライズされた顧客体験を提供する企業へ
Adobe Targetとは
Adobe Targetは、Web、スマートフォンアプリ、メール、IoTなど、顧客とのあらゆる接点における体験の最適化を実現します。
単一のインターフェイスで、A/Bテストや行動ターゲティング、レコメンデーションなど、幅広いパーソナライゼーション機能を実行できるビジュアルワークフローを提供しているだけでなく、エンタープライズ向けの権限および環境に関するガバナンス機能を備えており、拡張性の高い顧客体験最適化プログラムを構築することができます。
また、Adobe Targetは、Adobe Experience CloudソリューションやAdobe Experience Platformと数多くのデータ・機能が統合されているため、Adobe AnalyticsやAdobe Audience Manager、Adobe Real-time CDPからの価値の高いオーディエンスの取得や、Adobe Experience Managerのエクスペリエンス/コンテンツフラグメントを活用することによって、スピーディーにインテリジェントかつダイナミックなパーソナライゼーションを実現することができます。
人工知能と機械学習とは
人工知能(AI)は、人間のように機能し、反応するインテリジェントなシステムを構築することに重点を置いたコンピューターサイエンスの一領域です。マーケティング分野では、ユーザーの行動や属性にもとづいた、ひとりひとりに対して最も適合するコンテンツの提案などの役割を担っています。
機械学習は、データモデルの構築を自動化したデータ分析手法であり、明示的なプログラミングをしなくても、より多くのデータに触れることで自動的に関係性を学習し、改善を続けていく点が特徴です。
機械学習アルゴリズムには、さまざまなビジネス上の問題に適用できるものが数多く存在します。そのひとつが、ニューラルネットワークの一種であるディープラーニングです。その他にも、Adobe Targetに採用されているランダムフォレスト、トンプソンサンプリング、遺伝的アルゴリズムなど、様々な機械学習アルゴリズムがあります。
Adobe Targetに搭載されている人工知能と機械学習
Adobe Targetに搭載されている人工知能と機械学習を活用した機能は以下の4点です。
- Auto-Allocate(自動配分)
- Recommendations(レコメンデーションズ)
- Auto-Target(自動ターゲット)
- Automated Personalization(自動化されたパーソナライゼーション)
この4点の機能の特徴と利用する上でのポイントをそれぞれご紹介します。
1つ目はAuto-Allocate(自動配分)です。通常、A/Bテストはテストを開始してから勝者が特定できるまでの間エクスペリエンス毎の配信比率を変更しませんが、このA/Bテストの短所は、効果が低いオファーがテストに含まれている場合に、顧客に対して悪い顧客体験を提供し続けてしまうリスクがある点です。A/Bテストはマーケターの仮説にもとづいて、テストパターンがより良いUI/UXであることを願い実施されますが、テストの結果、デフォルトのエクスペリエンスよりもコンバージョン率が下がってしまうケースが少なくありません。
Auto-Allocate を利用することで、最も効果の高いエクスペリエンスにトラフィックを早めに自動的に割り当てることができるため、手動で勝者判定をすることにより発生する機会損失を最小化し、ROIを向上することができます。
Auto-Allocateでは、総合的な勝者のエクスペリエンスを選択するマルチアームバンディットアルゴリズムが動き、訪問者の80%に対しては勝者を優先し最適化された表示を、残りの20%に対しては変化する訪問者の行動に合わせるためにランダムにエクスペリエンスが割り当てられます。これにより、変化する状況に対応する能力を維持しながら、より多くの新規訪問者に対して優れたエクスペリエンスを配信できるよう最適化が実行されます。最新のデータを反映するために、これらのモデルは少なくとも 1 時間に 1 回更新されます。
Auto-Allocateのメリット
- A/B テストの正確性を保持する
- 統計的に有意な勝者を手動の A/B テストよりも早く見つける
- 手動の A/B テストよりもコンバージョン率の上昇率を高める
2つ目は、Recommendations(レコメンデーションズ)です。Adobe TargetのRecommendationsは、数百、数千、数百万のアイテム、ビデオ、コンテンツ、記事などを、人工知能と機械学習を活用して大規模かつインテリジェントにパーソナライズされたレコメンドを実現することができる機能です。直感的なインターフェイスにより、IT担当者の手を借りることなく、個々のブラウジングやショッピングの親和性、前のセッションおよび現在のセッション行動、ユーザープロファイルのコンテキストに基づいて、すべての訪問者に対して最適なアイテムのリストを生成することができます。
A/Bテストツールとレコメンデーションツールに関して異なるツールを採用されているケースもあるかと思いますが、両方の仕組みを備えているAdobe Targetに一本化することで、レコメンデーション施策を含んだマーケティング施策のテスト手法や評価手法を統一することができます。
適用できるアルゴリズムには、行動ベース、協調フィルタリング、コンテンツ類似性、ユーザーベース、人気ベース(ランキング)、カスタムアルゴリズム(外部データの取り込み)など多種多様な選択肢が用意されています。例えば、協調フィルタリングを使用すれば、行動が類似する他の顧客の行動にもとづいて商品のレコメンデーションを実践することができます。また、コンテンツの類似性を利用すれば、メタデータにもとづく商品のレコメンデーションが可能です。このアルゴリズムを利用することで新商品のレコメンデーションも容易になります。さらに、それらのアルゴリズムに対して、プロモーションコンテンツの設定や特定の条件にもとづく重み付け、在庫数や価格帯などのビジネスルールを設定することで、アルゴリズム全体を自在に制御することができます。
Recommendationsのメリット
- 数百から数百万のアイテムの中からレコメンドすべきアイテムのリストを提供できる
- 協調フィルタリングやコンテンツ類似性、ユーザーベース、人気ベースなどの様々なアルゴリズムを利用することができる
- IT担当者の手を借りることなくレコメンドに対するビジネスルールが設定できる
3つ目は、Auto-Target(自動ターゲット)です。この機能は、高度な機械学習を利用して、類似したプロファイルを持つ顧客の行動から、各顧客に最適な体験を提供する機能です。訪問者のプロファイル、現在のコンテキスト、以前のセッションのコンテキストなどのデータをすべて使用して、2〜10種類のエクスペリエンスから各訪問時に最適なエクスペリエンスを決定することができます。
Auto-Targetのアルゴリズムとしては、ランダムフォレスト、トンプソンサンプリング、マルチアームバンディットを採用しています。ランダムフォレストは、訪問者と訪問の属性に基づいて多数のデシジョンツリーを構築することで機能するアンサンブル分類(回帰手法)であり、特定の訪問者がコンバージョンに至る可能性が最も高い(または訪問あたりの売上高が最も高い)と予想されるエクスペリエンスを決定するために使用されます。
トンプソンサンプリングは、パーソナライズされていないエクスペリエンスの配信を最小限に留めながら、最適なエクスペリエンスを見つける「コスト」を最小限に抑えるために利用されます。トンプソンサンプリングでは、2つのエクスペリエンスに統計的な差異がない場合でも、必ず勝者が選定されます。
マルチアームバンディットは、少数のトラフィックによりすべての期間において常に学習を続け、以前に学習した傾向の過度の活用を防ぐために使用されます。
Auto-Targetは訪問者の行動の変化に対応できるので、恒久的に実行して上昇率を高めることができます。これは、「常時稼動」モードとも呼ばれます。
Auto-Targetのメリット
- 訪問ごとにパーソナライズされた最適なエクスペリエンスを提供できる
- 訪問者の行動の変化に柔軟に対応できる
- ワンクリックでパーソナライズできる
最後に、Automated-Personalization (自動化されたパーソナライゼーション)です。Auto-Target と同様に、類似のプロファイルを持つ顧客の行動にもとづいて、各顧客に最適なコンテンツやオファーを提供することができます。Auto-Targetと異なるのは、各オファーが独立してモデル化され、数十のオファーの数百、数千の組み合わせによる最適化が可能な点です。訪問毎に最適なパーソナライズドオプションを提供するためにランダムフォレストアルゴリズムを使用して、各訪問に対してパーソナライズされた最適なオファーの組み合わせを配信します。Automated-Personalizationは、トップページのプロモーションコンテンツ/カテゴリーや、パーソナライズされたナビゲーションリスト/アイコン、ファーストビューのパーソナライゼーションなどに向いています。
Automated-Personalizationのメリット
- 各訪問に対してパーソナライズされた最適なオファーの組み合わせを判断できる
- 数十のオファー、数百から数千の組み合わせの中から選択できる
- 訪問者の行動の変化に柔軟に対応できる
学習データのチューニング
機械学習モデルは、取り込むデータの量、種類が増えれば増えるほど予測の精度が向上します。Adobe Targetでは、人工知能と機械学習による意思決定の精度を向上させるためのデータ収集として、以下の機能およびデータを活用することで、より適切かつリアルタイムなパーソナライゼーションを実現することができます。
- ページ表示時に取得可能なデータ
- ランディングページや、広告やメール経由での来訪といった流入元、OS情報やブラウザ情報など、ページ表示時に取得可能なデータを学習データとして利用することができます。
- Profile Script(プロファイルスクリプト)
- Adobe Targetにて訪問者のプロファイル情報を管理することができる機能です。訪問者の行動に合わせてリアルタイムに収集・加工したデータを学習データとして利用することができます。
- Profile Update API(訪問者プロファイル更新API)
- APIを利用して訪問者プロファイルの情報を更新することができます。これにより、BIやCRMなどの他の分析ツールによって得られたデータをAdobe Targetへ取り込み、学習データとして利用することができます。
- Adobe Audience Manager / Adobe Real-Time CDP
- Adobe Audience Managerや Adobe Real-Time CDP を活用することで、予測にもとづく高度なセグメントやクロスチャネル・クロスデバイスでのデータを学習データとして利用することができます。
- 顧客属性
- 顧客属性の機能を利用することで、会員IDなどの顧客を特定できるキー情報をもとに、CRMなどのデータベースから取り込んだデータを取り込み、学習データとして利用することができます。
また、人工知能と機械学習を活用して優れた顧客体験を提供するAuto-TargetやAutomated-Personalizationにおいて採用されているランダムフォレストアンサンブルアルゴリズムをより活用するために、Adobe TargetのModels APIを利用することにより、施策毎に学習データを細かく調整することができます。提供する顧客体験のビジネス目標にもとづき、学習データをチューニングすることで、自動最適化の効果を最大化することができます。
パーソナライズされた顧客体験を提供する企業へ
優れた顧客体験を見出すためにはじめに有効な手段はA/Bテストですが、A/Bテストの繰り返しのみでは、すべての来訪者あるいは特定のセグメントに該当した来訪者においてコンバージョン率が最も高い顧客体験を見出すことに留まってしまい、趣味嗜好や目的、ロイヤルティが異なる顧客毎のパーソナライゼーションは進みません。
人工知能と機械学習を活用して真にパーソナライズされた顧客体験をあらゆる顧客に対して提供することができるAdobe Targetを利用して、A/Bテストとパーソナライズを大規模に展開し、従来の手作業によるルールベースのアプローチ中心の企業から、自動化とルールベースのターゲティングの最適なバランスを保ちながら優れた顧客体験を提供する企業への変革を進めましょう。
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