自社のワークフローを定義することが、AI活用の第一歩

——「AI時代のコンテンツオペレーション最適化ワークショップ」開催レポート——

アドビは、AIで業務を自動化させるには、自社のワークフローを可視化し、課題を顕在化させることが不可欠だと考えています。そこで4月15日、マーケティング業務のワークフローを整理し、課題を共有するワークショップを開催しました。企業のマーケティング変革を支援するNudge Experience合同会社 代表の安西敬介氏による講演と、ワークショップが一体化したイベントの模様をレポートします。

AIによる業務自動化は、ワークフロー設計から始まる

最初のセッションは、アドビが考える、AI時代のワークフローのあるべき姿について説明を行いました。

現在、生成AIは単なるチャット型から、自律的に業務を遂行するエージェント型へと急速にシフトしており、働き方そのものに大きな変革が起き始めています。

この変革期において、人間の役割はこれまでの単なる作業者から、複数のAIエージェントに仕事を与えて指揮を執る「オーケストレーター」へと変化していくと、アドビは考えています。

昨今、プログラミング環境では思考の構造化が急速に進んでいます。しかし、企業におけるビジネスプロセスは、コーディングよりもはるかに複雑です。

特にマーケティングの現場は、画像や動画、テキストといった多様なアセットが存在し、マーケティング担当者やクリエイター、決裁者など多くの人々が関わります。そして、企画から制作、レビュー、承認、公開、配信に至るまで多岐にわたる工程が絡み合っています。そのため、コーディングのように単にAIへすべてを任せるというわけにはいきません。

従来のように、タスクをブラックボックスの中に抽象的に丸投げし、何となく良い結果が返ってくるのを待つような使い方では、AI時代において真のビジネス価値を生み出すことはできません。

これからのエージェント型AIを活用していくためには、人間が自身の頭の中にあった暗黙知を形式知へと転換し、明示的にプロセスや手順を示しながら連携させていくことが不可欠となります。

個々のタスクに関する小さなスキルをAIに教え込み、それらをどのように連携させ、スケールさせていくかという全体図となるブループリントを人間が自ら描く必要があるのです。

ワークフローの再構築によってAIを効果的に使う企業も登場しています。マリオット・インターナショナルは、すべてのフローとプロセスを書き出すことから始め、全体のプロセスを俯瞰することで、45あったマーケティングプロセスを1つに集約しました。また生成AIによってコンテンツのバリエーションは年間150万に増加、最終的には収益目標の600%増を達成しています。

また、医療機器のZEISS(ツァイス)ではBtoBの複雑なマーケティング業務の流れを整理して、Adobe Workfront上にプロセスを再構築しました。それにより顧客エンゲージメントを大きく改善し、AIによるキャンペーン成果は12カ月前と比べ3倍に拡大しています。

オムニコム・グループは、データ駆動型コンテンツ管理のワークフローを新たに構築し、動的に生成したコンテンツの効果を属性単位で細かく分析し、自動的に次のコンテンツ制作にフィードバックするという、最も進んだ取り組みをしています。

これらの事例でも分かる通り、「ワークフローの設計そのものが、AIを活用するためのアーキテクチャー設計である」と言えます。

自社の業務プロセスがきれいに整理されていない限り、AIの適切な部分にタスクを任せることは極めて困難です。本格的なAIのエンタープライズ導入に先駆けて、まずは、「スキルは非常に高いがまだ仕事のやり方を知らない新人の育成」と同じように、業務を教える前提で自社のコンテンツオペレーションをしっかりと可視化し、最適化を進めていくことが重要です。

ワークフローが「詰まる」3つの要因を排除する

次に、ゲストスピーカーでありワークショップの講師を務めるNudge Experienceの安西敬介氏が、ワークフロー整理の実践的アプローチについて解説しました。

企業がデジタルを通じて継続的に良質な顧客体験を提供するためには、お客様の目に見える表側の体験だけでなく、裏側にあるワークフローやAIの活用といった土台が両輪として成り立っている必要があります。実際にワークフローを整理するための重要な点について、安西氏が具体的なポイントを紐解きました。

まず、「ワークフロー」の定義ですが、これは単なる個人レベルの作業手順ではありません。仕事が生まれて判断されて実行され、振り返るまでの一連の流れのことを指すと、安西氏は説明します。

「例えば、新商品の発売に伴うコンテンツ制作のように、企画の準備から始まり、様々な部門の担当者が連携しながらタスクを実行し、最終的に公開されるまでの、始まりと終わりがあるプロセスのことです」(安西氏)

複数の人や部門が関わり合うからこそ、誰が次に何をするのか、現在の状況がどうなっているのかを可視化することが重要となり、それによってプロジェクト全体がスムーズに動くようになります。

しかし実際の現場では、何となく習慣化された作業を含め、ワークフローの“詰まり”が頻発しています。安西氏はこれを「ワークフローを阻害する3つの要因」と言い、次のように分類します。

1つ目は「情報が見つからない」ことが挙げられます。共有フォルダにあるはずなのに探せない、誰の素材か分からない、フォーマットやバージョンが不明、モデルの利用期限など、使っていい素材なのか判断がつかない状態です。これはアセットが分散し、ライフサイクルも管理されないことと、作業を人手で行っていることに起因します。

2つ目は「状況が見えない」こと。依頼や承認のどこかで作業が止まり、“誰待ち”なのか分からない、確認作業が口頭やチャットに分散して履歴が把握できない、さらには修正理由が共有されないまま差し戻しが発生し、何を直していいか分からない状態です。二重作業によるロスや、スケジュール上の優先順位がわからず、担当者も不明といった状況に陥ります。

3つ目は「判断ができない」ことです。依頼がメールやチャット、口頭などバラバラの経路で飛び交い、思いつきで突発的な横槍が入ることで、混乱が生じます。複数の意見や要望が並立して現場で優先順位を決められない状況や、特定の担当者でないと判断、承認ができない属人化により、意思決定の妨げとなります。

素材の場所が分からず、誰が判断するのかも決まっていないような状況でAIを導入しても、うまく機能することはありません。

役割が明確であり、再利用を前提とした環境が整っているからこそ、的確にAIに任せることができると、安西氏は説明します。これまでのフロー整理では、機械的に条件やルールを決めないとシステム化が困難でしたが、生成AIは人間の依頼の揺らぎを汲み取り、多少ファジーな指示でも適切に判断してくれる特徴を持っています。

「AIの高度な能力を引き出すためには、判断の基準となる土台がしっかりと整理されていることが前提です。まずは自分たちのワークフローの“詰まり”を見極め、理想のプロセスへと整理していくアプローチに取り組みましょう」と、安西氏は語りました。

ワークショップでフローの設定と整理を体験

イベント後半は、参加者が自社のワークフローを設定し、その課題をディスカッションするワークショップを実施しました。

安西氏はまず、ワークフローを整理する際のポイントとして、可視化する“箱”(粒度)も重要だと参加者にアドバイスします。「箱が大きすぎると“詰まり”のポイントが見えなくなり、逆に細かすぎると単なる個人の作業手順になってしまいます。『〇〇を△△する』『〇〇の△△を承認する』といったように、1つの箱で判断や関係部門が2~4部門ぐらいの、見えやすい粒度を意識することが大事です」と説明しました。

次に、参加者はワークフローの課題について、前述した「情報が見つからない」「状況が見えない」「判断ができない」の3つの詰まり要因を意識して、議論を深めていきました。課題を挙げて付箋を貼っていくなど、活発な意見が出され、他のグループとも行き来しながら、課題観を共有。安西氏は、「これからの企業は、AIエージェントを扱うことが当たり前になります。今日挙げられた課題を持ち帰って、社内でワークフローについて話し合ってほしいと思います」と語り、ワークショップは終了しました。

本イベントの参加者アンケートでは、次のようなコメントをいただきました。その一部をご紹介します。

「同業他社の運用フローや課題を聴くことができて、大変勉強になりました。また、自社の課題を明確化でき、何が必要か、何をしないといけないかがクリアになりました」

「本日の内容を社内に展開し、できれば他部門も交えて同様のワークショップを実施したいと思いました」

「実際に手を動かして整理し、アドビの社員や他社の方とディスカッションすることで、今まで見えていなかった課題を見つけることができました」

ワークフローとその課題は1社ごとに異なり、1つの正解はありませんが、本イベントにご参加いただいた方は、AIを導入していく際の土台であるワークフローの可視化に向け、一歩を踏み出すことにつながったようです。アドビでは今後も、お客様の課題解決につながるワークショップを開催していきますので、ぜひご期待ください。

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