花王のDXを支えるデータハブ基盤
DXの実現に向けて多くの企業が様々な取り組みを進めています。その1つが社内に散在するデータの統合です。個別最適によって各部門システムに分散してしまっているデータを、いかに全社的な視点で活用していくか。そのためにIT環境を見直しているのです。DXという言葉が登場する以前から、このテーマに取り組み続けている企業があります。清潔・衛生用品や化粧品などで私たちの暮らしを支えている花王です。プロジェクトの中心的な役割を果たしている、DX戦略推進センター マーケティングプラットフォーム部の後藤亮様、田中剛様にお話を伺いました。
■全社を挙げてDXに取り組む
──全社を挙げてDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいますね。
後藤 デジタル技術を活用してビジネスの変革や業務の効率化などを図る。数年来、花王はDXに戦略的に取り組んでいます。2030年に向けて、よりモノと情報が一体となったビジネスモデルや業務プロセスにビジネスをシフトしていくことを目指しています。
DX戦略推進センター マーケティングプラットフォーム部 部長
後藤 亮氏
──DX戦略推進センターは、どのような役割を担うのでしょうか。
後藤 花王のDXチームは、先端テクノロジにより社内の生産性向上を担う「先端技術経営改革部」、既存事業のDXから新たなUXの創造を進める「DX戦略推進センター」、新規事業創出を担う「デジタル事業創造部」の3つに分けられています。DX戦略推進センターの中でも、私たちのMKプラットフォーム部は、デジタルアセット管理、オウンドメディア、EC、カスタマーサクセス、カウンタービジネスのための基盤の設計、開発から運用を業務としています。
■製品カタログに関する業務プロセスを見直し
──オウンドメディア、およびデータに関する取り組みとして、製品情報の集約に取り組んだそうですね。経緯をお聞かせください。
後藤 蓄積したデータをいかに活用していくかはDXの中心となる取り組みです。製品情報はメーカーである花王にとって重要な資産。今回の取り組みで、この製品情報を戦略的に活用していける体制が整いました。
ベースとなっているのは2000年に入ってから長年をかけて取り組んでいるデジタルプラットフォームの再構築です。普及したスマートフォンに対応するためのマルチデバイス対応、ビジネスのグローバル化を受けた統合とリニューアルなど、コーポレートサイトの改革を中心にデジタルプラットフォームの変革を進めてきましたが、その一環としてwebの製品カタログの改修に取り組んだのです。
花王株式会社
DX戦略推進センター マーケティングプラットフォーム部 プラットフォーム開発1室 室長
田中 剛氏
田中 当社は全ての製品に関する情報を検索、閲覧することができるwebの製品カタログを運用しています。各製品の用途や成分、使用上の注意、さらにはお役立ち情報などを紹介し、お客様に安全・安心かつ便利に製品を利用してもらうためです。
しかし、製品情報は開発、生産、マーケティングなど、様々な部門に分散しているため、製品カタログの作成と運用は非常に工数を伴う作業でした。製品カタログに新製品を追加したり、情報を更新したりするには、各部門から必要な情報をそれぞれ収集して、テキストや画像の編集・加工、入力をしなければなりません。この作業を全て人手で行っていたため、担当者の負担が大きいだけでなく、簡単に情報を更新できるような状況ではなかったのです。そこで、製品情報の集約を前提として製品カタログの制作プロセスと仕組みを大きく見直すことにしました。
■製品情報を自動収集する新システム
──どのように見直したのでしょうか。
後藤 各部門と連携して別々に運用されている複数の基幹システムから、様々な製品情報を自動的に収集するシステムを構築しました。この収集システムを介して、製品カタログの基盤となっているCMS(Contents Management System)に情報を自動入力しています。各部門システムとCMSを直接つながなかったのは、製品カタログに掲載するかどうかに関係なく、より多様な情報を集約するためです。そうしておけば、将来、製品カタログ以外の情報活用ニーズが発生した際にも柔軟に対応できるからです。つまり、製品カタログのためだけに製品情報の集約するのではなく、全社的なデータ活用を支える基盤として新システムを位置付けたのです。
田中 全社で1つの統合製品マスタを構築するという方法も考えられますが、現場の業務を支えている各部門システムの全てに手を加えるのはリスクが大きいと判断して、この方法を選択しました。このハブシステムは、現在Adobe Experience Manager Assets(AEM Assets)を利用しています。
製品データ収集の仕組みイメージ
■データ活用組織に変化
──成果をお聞かせください。
田中 自動化によって製品カタログの作成と編集を効率的に行なえるようになりましたが、それ以上に大きな成果と言えるのが製品データを全社で活用できる環境が整ったことです。例えば、現在、製品カタログには「取扱店を探す」というリンクがあり、ここをクリックすると利用者の近隣のどの店舗で購入できるかがマップ表示されますが、これは販売情報を応用した新しい仕組みです。
「取扱店を探す」画面例
後藤 製品データが集約されたことでコールセンター業務にも活用されています。以前、オペレーターは問い合わせに対応するために様々なソースから情報を探す必要がありましたが、現在は基本的に1つのソースで対応しています。
──まさにデータによる新サービスの創出、ビジネスプロセス変革ですね。
後藤 これまではデータが欲しいと思っても、それがどこにあるのかが判然としないことから二の足を踏む場面も多かったようです。それが今は、データ活用を前向きに検討する姿勢が根付きつつあります。これからも全社を挙げて積極的なデータ活用を後押ししたいですね 。
例えば、webでは、最近、こんな情報がよく見られているという情報をお取引先様に提供すれば、それを受け取ったお取引先様が店舗の品揃えに反映するなど、情報で売上向上のご支援につなげられます。他にも、製品ごとに検索されているエリアや時間帯のデータを抽出し、データ分析担当と連携すれば、マーケティング施策の最適化など、データによるビジネス支援を加速できると考えています。
──長年をかけて取り組んできた製品データの連携が、DXを後押ししているのですね。ありがとうございました。