Adobe Digital Economy Index:Eコマースは新たな節目を迎え、オンライン価格は継続して上昇

2021年も後半戦となり、引き続きCOVID-19の影響でオンライン消費が増加しています。ホリデーシーズンを前に、今年の米国オンライン消費がどのように着地するのか。2014年からオンライン上の消費行動を追跡するアドビのAdobe Digital Economy Indexにより見えた最新のオンライン価格のトレンドを紹介します。

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COVID-19のパンデミックは、Eコマースへの劇的なシフトをもたらしました。数か月にわたり、消費者が実店舗を避け、食料品からフィットネス機器まであらゆるものをオンラインで購入したからです。その総額は、2020年末には最終的に8,440億ドルに達し、前年のオンライン消費額を42%も上回るという驚異的な数字を記録しました。

2021年、このEコマースの伸びがどのように着地するかという点に、多くの関心が寄せられています。消費者は日常的な定番商品をオンラインで注文することに慣れ、多くはこの方法を手放さないと考えられます。また、家具やスポーツ用品など、従来は対面で買い物をしていたカテゴリーもデジタルにシフトしました。一方で、小売全体におけるEコマースの比率が増加つれ、需要とサプライチェーンへの圧力となり、価格の上昇が観測されています。

アドビは、米国のホリデーショッピングシーズン(11月~12月)を前に、新たなデータを発表しました。米国の小売サイトへの1兆回以上の訪問と、18カテゴリーにわたる1億個以上の製品SKUを分析したアドビのDigital Economy Indexは、Eコマースに関する唯一のリアルタイムバロメーターです。

2021年もオンライン消費が増加

消費者は、2021年1月から8月までの8か月間ですでに5,410億ドルをオンラインで消費しており、これは前年同期比で9%、2019年比で58%の増加です。2020年には多くの人が外出できなかったことを考えると、この前年同期比での増加はパンデミックの間に形成された習慣の持続力を示すものといえるでしょう。

小売業者は、ショッピングカートを放棄せずに「購入」ボタンを押す買い物客の増加を観測しています。2021年の最初の8か月間におけるコンバージョン率(訪問者のうち購入した人の割合)は、デスクトップPC経由で4.1%(前年同期比1%増)、スマートフォン経由で1.9%(同3.7%増)でした。また、彼らはより大きな買い物をするようになっており、平均注文額は前年同期比で13%増の169ドルとなっています。さらに、自宅で過ごす時間が増えているにもかかわらず、1月から8月にかけてはスマートフォン経由の売上シェアが41%(前年同期比8%増)、訪問シェアは59%(同2%増)と、モバイルの比率も増えています。

これらの数値の向上は、パンデミックの間にオンラインのショッピング体験が消費者にとってより洗練され、離脱しにくいものとなってきたことを示すと考えられます。アドビは、11月1日からのホリデーシーズンを待たずに、今年のオンライン消費総額が2019年全体の5,750億ドルを上回る大きな節目を迎えると予測しています。

オンライン価格の上昇

オンラインの成長により、Eコマースは消費額全体の1/5に近づいています(2017年の1/6から上昇)。オンラインショッピングがあらゆる場面で利用可能になり利便性が向上する一方で、失われたものもあります。アドビが追跡している18カテゴリーの価格は、Eコマースの歴史上初めて上昇に転じました。これは、パンデミックによるサプライチェーンの混乱に加え、消費者需要の急増(かつ高止まり)をマージン確保の機会として小売業者が捉え、値引を抑えていることが原因と考えられます。

2021年8月のオンライン価格は、前年同月比で3.1%、前月比では0.1%上昇しています。前月(2021年7月)は、前年同月比で3.1%増、前月比で0.7%減でした。オンライン価格が年間ベースで上昇したのは、これで15か月連続です。これは、オンライン価格が2015年から2019年まで毎年平均して3.9%下落していたのと対照的な動きです。

Adobe Digital Economy Indexが追跡する18カテゴリーでは、パンデミック前(2015年から2019年の平均)と比較すると、1つ(書籍)を除いて2021年8月に価格が上昇しています。注目すべき点は、山と谷が予測できる季節的な性質を持つアパレルの価格が7月(15.3%上昇)と8月(15.5%上昇)の両方で上昇していることです。通常7月と8月は、新学期シーズンに向けた大規模なプロモーションや夏物商品の値引きなどにより最も価格が低下する時期です。直近数か月のアパレルのオンライン価格の上昇ペースは、オフラインの価格を表すCPI(消費者物価指数)をむしろ上回り始めています。

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パンデミック前には通常、平均で1.1%の価格下落が見られた 医療機器・用品 は、2021年8月に3.2%の上昇を記録しました。これもCPIを上回っているカテゴリーで、最近のCOVID-19デルタ株の急増が一因となっています。例えばマスクのオンライン販売は、2021年5月から減少していましたが、2021年7月の最終週(7/21~7/27)には24%も跳ね上がりました。その後、翌週(7/28-8/3)には51%、その次の週(8/4-8/10)には40%の売り上げ増となりました。

家具・寝具 は、パンデミック前には平均で2.58%の価格下落が通常でしたが、2021年8月には上昇(2.6%)に転じました。これまで実店舗での買い物が多かったカテゴリーですが、現在、消費者はオンラインで家具を注文することに慣れてきており、高い価格設定もあって小売におけるEコマースのシェア拡大に大きく貢献しています。このことが、2.6%の価格上昇をより顕著なものにしています。家電製品も同様の傾向を示しており、パンデミック前には通常2.7%の価格下落があったのに対し、8月には2%の価格上昇が見られました。

Adobe Digital Insights担当の主席アナリスト、ヴィヴェク パンドゥヤ(Vivek Pandya)は、こう述べています。「アパレルや家具・什器などの注目すべきカテゴリーに加え、食料品、ペット用品、パーソナルケアなどの日用品についても、オンライン価格の上昇が続いています。今年のEコマース消費額はホリデーショッピングシーズン前に2019年の消費額を上回る見込みですが、これはオンラインの世界のダイナミクスが消費者、政策立案者、ビジネスリーダーにとってより大きな意味を持つ、新たな領域に突入することを意味します。かつてEコマースではマイナーな存在だったカテゴリーが今では定番となり、インフレ傾向がいまや全体に及ぶ、前例のない価格傾向を示しています。」

Eコマースで小売店が成功を収めるには優れたカスタマーエクスペリエンスが不可欠です。ホリデーシーズンのトレンドとEコマース戦略についてまとめた「ADI Holiday Ecommerce Playbook」も是非ご覧ください。

分析方法について: Adobe Digital Economy Index(DEI)では、Eコマース世界の価格を追跡するにあたって、Fisher Ideal Price Index(フィッシャー理想物価指数)を使用しています。これは、基準時(例:ある月)と比較時(例:その前月)それぞれで購入された同一商品の数量をもとに、カテゴリーごとに価格変動を算出するものですが、アドビの分析では、前後する2つの月に購入された製品の実際の数量によって重み付けをしています。Adobe DEIでは、Adobe Analyticsを使って測定した小売サイトへの1兆回の訪問と、18の製品カテゴリーにおける1億以上のSKUを分析しています。商品分類は、CPI Manual(消費者物価指数マニュアル)で定義されたカテゴリーに準拠し、機械学習と手作業を組み合わせてアドビが行っています。この分析手法は、シカゴ大学ブースビジネススクール経済学教授であるオースタン グールズビー(Austan Goolsbee)氏と、スタンフォード大学経済学部教授であるピート クレノー(Pete Klenow)氏という2名の経済学者の協力を得て開発されました。

※本記事は、2021年9月15日にアドビが投稿したブログの抄訳版です。