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アドビの調査レポート「AI and Digital Trends 2025年版」

AIを活用して、企業と消費者に大きな機会をもたらす

アドビの調査レポート「AI and Digital Trends 2025年版」では、AIを活用するビジネスリーダーや消費者が増えていることが明らかになりました。また、AIは、顧客エンゲージメント、統合されたインサイト、リアルタイムのジャーニー、運用効率を再定義しています。これにより、顧客とより深い関係を築くための、新たな可能性が生まれています。

レポートを読む

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主な調査結果

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エージェンティックAIは、顧客体験とワークフローの両方を強化する新たな機会を提供

自律型AIエージェントが連携することで、マーケターには効率向上とよりスマートな支援を提供し、消費者にはコンシェルジュのような利便性、スピード、パーソナライズされた顧客体験をもたらします。この新たなソリューションが定着するにつれ、エージェンティックAIは、マーケターの取り組みの拡張、品質向上、コンバージョンの促進のあり方を再構築していくでしょう。

#D4F4F7

企業は顧客のニーズを理解するだけでなく、それを予測するようになりつつある

かつては優れたサービスであったものが、今では当たり前のものになっています。顧客は、簡単で有意義なインタラクションを期待しています。その一方で、多くの企業は、ジャーニー全体にわたって適切でタイムリーな体験を提供することに苦慮しています。2024年は、AIと予測分析が最重要課題として認識されるようになり、企業はこれらの課題に対処できるようになりました。

#D4F4F7

連携や相互運用に対応する統合型プラットフォームが、リアルタイムのインサイトを獲得する鍵に

企業がデータの分断を解消して統合する上で、リソースの分配が大きな課題となっています。データ接続に対する漸進的なアプローチは、分断されたシステム、不明確な戦略、そしてデータを戦略的資産として活用できない結果を招くことがよくあります。

#D4F4F7

カスタマージャーニーのオーナーシップに格差があると、一貫性のある顧客体験を提供できなくなる

カスタマージャーニーに対する責任は、顧客体験(CX)の専門家、技術者、マーケターをまたいで分散されることが多いです。このような構造では、多様な専門知識が手に入る一方で、摩擦を生み、連続性のない体験やリソースの浪費につながる可能性があります。

#D4F4F7

企業は生成AIの可能性を引き出すために、大規模な施策を推進

売上増加の加速、生産性の向上、より効率的なコンテンツ制作の実現など、生成AIは様々なメリットをもたらし、ビジネス変革を促進しています。明確なROI指標を確立することは、このような施策を拡大するために不可欠です。その出発点となるのは、データの統合と部門を超えた強力なコラボレーションの推進です。

#D4F4F7

プライバシーへの懸念とAI導入の複雑さが大きな課題に

顧客データを統合するには、プライバシー、セキュリティ、ガバナンスの優れた枠組みが必要です。企業がAIの導入を進める中、こうした複雑な枠組みを管理するために、AIへの投資を強化し、リソースを増やす必要があります。早い段階でAIを導入している企業は、明確な目標と指標を設定しています。

AI and Digital Trends 2025年版

レポートを読む

各ソリューションの主なトレンドを学びましょう

#F8F8F8

概要

ビジネスは2025年に大きな変化を迎えます。企業はこれまで重要な課題への取り組みとテクノロジーの変革を両立し、真にパーソナライズされた顧客体験を提供しようとしてきました。高度なツールやデータをスマートに活用することで、以前は見つけられなかったインサイトを発掘できるようになったのです。最も注目すべきことは、先進的な企業が顧客とのつながり方、業務の合理化、イノベーションの推進方法を再定義する中で、AIの導入が試験段階を越えて、測定可能な成果をもたらしつつあることです。

セクション1

AIを活用してビジネス成長を促進

2025年は、AIと予測分析によって、マーケターがビジネス成長を促進する方法が大きく変わるでしょう。顧客のニーズを予測し、測定可能なビジネス成果をもたらす、詳細にパーソナライズされた戦略を策定できるようになります。

インサイトからイノベーションへ:パーソナライゼーションの加速

上級管理職の3分の2近く(65%)が、AIと予測分析の活用が、2025年のビジネス成長に大きく貢献すると考えています(図1)。これらのテクノロジーは、これまで以上に迅速かつ効率的なパーソナライゼーションを大規模に実現できる可能性を秘めています。上級管理職の61%が、パーソナライズされた体験による顧客エンゲージメントの向上が、ビジネス成長に不可欠であることを認識しています。こうした取り組みへの投資が、最重要課題となるでしょう。

2025年のビジネス成長をけん引すると予測される、マーケティングおよびテクノロジー施策を示す棒グラフ
AIへの投資は賭けではありません。企業は実際にメリットを享受し始めています。例えば、生成AIを使用している上級管理職の53%が、チームの生産性が大幅に向上したと回答しています。また、50%が、アイデア創出とコンテンツ制作を迅速化できたと回答しています(図2)。
過去1年間で生成AIがもたらしたメリットに対する上級管理職の評価を示す棒グラフ

テクノロジーは目的ではなく手段:戦略の中核を担うのは人間

上級管理職が2025年の予算計画で、テクノロジー、データ、デジタル戦略を最重要課題として挙げているのは、当然のことであると言えます。

上級管理職の80%が、新しいテクノロジーへの投資を増やす予定であると回答しており、そのうちの31%が「投資を大幅に増やす」と回答しています。また、79%が顧客データと分析への投資を強化することを検討しており、78%がデジタルメディア予算を増やす予定であると回答しています。

しかし、テクノロジーへの投資は、機械が人間に取って代わることを意味するものではありません。企業は、人員削減に慎重な姿勢を見せています。実際、上級管理職の69%が、むしろ人材への投資を増やすことを計画しています。先進的な企業は、テクノロジーは人間の能力を代替するものではなく、強化するものであると考えています。

そうした企業は、成功には新しいツールを導入するだけでは不十分であることを認識しています。

#F8F8F8

「生成AIは、ワンクリックするだけであらゆる問題を解決するようなものではありません。企業のニーズやオーディエンスの期待を詳細に理解している、コピーライターのような熟練した専門家のサポートが必要です」

Christen Jones氏(Inizio Evoke、エグゼクティブクリエイティブディレクター)

AIの導入を測定可能な成果に変える

人間から業務を奪うのではなく、人間をサポートするためにAIを活用することが重要です。

Mattel Future Labなどの企業は、明確なワークフローのメリットを享受しています。しかし、多くの企業は、こうした日々のメリットを測定可能なビジネス成果に転換することに依然として苦慮しています。実際、明確なROIを実証できるソリューションを導入している企業は、わずか12%にとどまっています(図3)。

マーケティングとCXにおける生成AIの導入状況を示す棒グラフ
#F8F8F8

「生成AIをアイデア創出の『副操縦士』として活用し、アイデアのテストや見直しを迅速に行えるようにしています。これにより、概念をすばやく具現化し、フィードバックループを確立して、コラボレーションを促進できるようになります」

Ron Friedman氏(Mattel Future Lab、バイスプレジデント)

多くの企業にとっての課題は、ソリューションを試験段階からPoC(概念実証)に移行することです。幸いにも、企業の半数以上が適切な方向に舵を切っています。27%が生成AIを試験導入しており、27%が生成AIを本格導入し、その効果を評価しています。

試験段階から本格導入へと移行し、ROIを測定するには、組織変革と財政投資に着手する必要があります。そのため、マーケティング部門へのプレッシャーはさらに高まることになるでしょう。

試験段階から本格導入へと移行し、ROIを測定するには、組織変革と財政投資に着手する必要があります。そのため、マーケティング部門へのプレッシャーはさらに高まることになるでしょう。

マーケティング需要の高まり

AIを導入している企業とそうでない企業の間に広がる格差は、特にマーケティングにおいて顕著です。マーケティング責任者の4分の3以上(78%)が、新しいツールがワークフローに統合されつつあるにもかかわらず、データとAIを活用してビジネス成長を実現することを期待されていると回答しています。

マーケターは、2024年に比べて、2025年にはより多くの成果を提示することが求められるようになり、説明責任はますます強まるでしょう。本調査では、実務担当者の44%が、エンゲージメントとコンバージョンを促進するプレッシャーが高まると予想しています。43%は、パーソナライゼーションを強化し続けながら、コンテンツ量を増やすことへの要求が高まると予想しています。

Vanguardの個人投資家公開サイト責任者であるAmanda Forte氏は、そうした努力は報われると述べています。「コンテンツ制作のスピードが向上したことで、製品リリースまでの期間を短縮し、webサイトで更新およびパーソナライズされたコンテンツを提供できるようになりました。これにより、新しいwebサイトのエンゲージメントが大幅に向上し、オーガニックトラフィックが264%、質の高いエンゲージメントが176%増加しました」Vanguardの事例を読む

マーケターは、より多くのコンテンツをより迅速に制作しなければならないというプレッシャーに直面しています。しかし、品質を犠牲にするわけにはいきません。Deloitte DigitalのクリエイティブディレクターであるHelen Wallace氏は、次のように指摘しています。「コンテンツサプライチェーンに注力することは、コンテンツをより速く、より効率的に提供することだけではありません。個人レベルで人々を魅了するコンテンツを制作し、活性化させる必要があります。当社はテクノロジーを使用して、インサイトの獲得、ビジネスの改善、顧客対応を推進しています」

セクション2

卓越した顧客体験は、データの統合から生まれる

企業は、顧客体験のギャップを埋める必要性を痛感しています。しかし、AIを駆使しても、記憶に残る体験を提供することは難しくなっています。驚きや感動を与える、卓越したデジタル顧客体験を提供できると回答した実務担当者の割合は、わずか14%にとどまっており、前年の25%から急減しています。

パーソナライゼーションとは、単に件名に名前を入れることではなく、深いつながりを生み出すことです。企業は、関連性の高いコンテンツをタイミングよく提供することで、ブランド認知度を向上させ、顧客ロイヤルティを構築できます。

HanesBrands Inc.のコンシューマーテクノロジー担当バイスプレジデント兼グローバル責任者であるLeo Griffin氏は、次のように述べています。「パーソナライゼーションを通じて、顧客は当社が自分のことを理解してくれていると感じることができます。パーソナライゼーションにより差別化を図れるほか、欲しいものを見つけられる、効率的で、願わくば楽しい購買体験を実現できるのです」HanesBrands Inc.の事例を読む

しかし、多くの企業にとって、大規模なパーソナライゼーションは現実的なものではありません。図4が示すように、顧客の71%が、企業がパーソナライズされたオファーや有益な情報によって自分たちのニーズを予測してくれることを望んでいます。一方、それを実現している企業の割合は、わずか34%にとどまっています。また、顧客の78%が、デジタルチャネルと物理的なチャネルをまたいだシームレスな体験を期待していますが、この期待に応えている企業の割合は、45%にとどまっています。

実際、多くの企業は、業種を問わず、バーチャル試着や製品デモのようなインタラクティブなツールの提供や、AIやデータの使用に関する透明性の確保といった課題に対処できていません。

顧客の88%が、自分の個人データが責任を持って安全に取り扱われることを期待していますが、この期待に応えている企業は49%にとどまっています。これは憂慮すべきことです。パーソナライゼーションの実現は、顧客が積極的にデータを共有してくれるかどうかにかかっていることを考えると、こうした信頼性の欠如は看過できない問題です。

顧客の期待と企業の現状のギャップを示す折れ線グラフ

こうしたギャップを鑑みると、顧客エンゲージメントで顧客の期待を上回っている企業の割合が、わずか15%にとどまっていることも、当然のことであると言えます。この溝を埋めるには、企業はデジタル投資とオーディエンスの最重要課題を一致させて、大規模なパーソナライゼーションを実現する必要があります。

パーソナライゼーションへの投資を強化する企業は、大きな利益を得ることができます。デンマークの電気通信プロバイダーであるTelmoreは、AIを活用したパーソナライゼーションにより、売上を11%増加させることに成功しました。

TelmoreのCMOであるFrederik Scholten氏は、次のように述べています。「当社は、オーディエンス全体に対して顧客体験を最適化するのではなく、顧客一人ひとりが望むものを提供する方針に移行しています。顧客に見合ったオファーを目にすることで、顧客はサービスを付け足したり、競合他社から切り替えたりします」Telmoreの事例を読む

パーソナライゼーションの取り組みが不十分な理由

パーソナライゼーションの実現のギャップは、リアルタイム機能の欠如に大きく起因します。実務担当者の47%が、顧客のセグメントやペルソナごとにニーズを予測するために、分析を活用しています。一方、webサイト体験のパーソナライゼーションを日常的に行っている実務担当者の割合は、わずか39%にとどまっています。顧客の直近の行動にもとづいてオファーを更新している実務担当者の割合もまた、31%にとどまっています(図5)。

デジタルコンテンツを日常的にパーソナライズするための実務担当者のアプローチを示す棒グラフ

TSB Bankは、こうしたギャップを埋めることによる変革を実証しています。リアルタイムのデータを使用して、最近の顧客の行動にもとづいてローンの提案をパーソナライズすることで、モバイルローンの売上が300%増加しました。また、アプリ内での申込件数は、売上全体の24%から75%に急増しました。

TSBのCMOであるEmma Springham氏は、パーソナライゼーションの重要性について次のように述べています。「銀行業務は本質的に個人的なものであり、他の多くの分野よりも顧客に大きな影響を与えます。当行に資金管理を任せてくれる顧客に対してパーソナライズされたデジタル体験を提供することは、より深く有意義なつながりを築くのに役立ちます」TSBの事例を読む

データの分断がリアルタイムのパーソナライゼーションを妨げる

シームレスなデータは、顧客が閲覧中であろうと購入中であろうと、リアルタイムのパーソナライゼーションの基盤となります。データの分断に関する課題の深刻度は、企業ごとに異なります。実務担当者の4分の3が、リアルタイムでパーソナライズできないと回答しています。これは、顧客行動の把握、一貫性のあるメッセージの提供、重要な局面における顧客とのエンゲージなど、パーソナライゼーションのあらゆる側面に及びます(図6)。

データの分断がパーソナライズされた顧客体験の提供に与える影響に関する、実務担当者の見解を示す棒グラフ

セクション4で説明しているように、多くの上級管理職は、顧客データの統合における最大の障壁として、データプライバシー、セキュリティ、ガバナンスに関する懸念を挙げています。しかし、顧客にとってデータの安全性と透明性が依然として重要であることは間違いないものの、顧客が期待する体験を提供できるかどうかは、データへのリアルタイムのアクセスにかかっています。

競争に打ち勝つためには、企業はデータ統合に投資しなければなりません。それと同時に、ビジネスニーズに対応しながら、安全にデータにアクセスできるようにする必要もあります。

データサイロを解消し、連続性のある体験を実現

シームレスな顧客体験を実現するための課題は、データの分断だけではありません。多くの企業は、主要な業務の一部だけを自動化しているか、まったく自動化していません。例えば、パーソナライズされたレコメンデーションの74%が、完全には自動化されていません。また、カスタマーサポートの76%が自動化されていません。リテンションの80%、休眠顧客の再活性化の83%が自動化されていません。購入後のエンゲージメントにおいても、状況はさらに悪化しています(図7)。

カスタマージャーニーとアクティベーションシステムが、リアルタイムで顧客の行動に対応し、活性化できている割合を示す棒グラフ

企業は、こうした課題に取り組み始めています。テクノロジー投資を促進するトレンドについて質問したところ、上級管理職の62%が、AIと機械学習の進化、特にワークフロー、意思決定、詳細なパーソナライゼーションを、今後12〜24か月の最重要課題として挙げています。その他の重要課題には、データ統合とリアルタイムのインサイト(55%)、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスガバナンスの強化(55%)が挙げられます。

これらの重要課題に対処するには、統合ツールの導入、データの分断の解消、チームのコラボレーションの改善が不可欠です。

経済的に厳しい状況が続いているにもかかわらず、企業はこうした目標の達成に向けて、投資を強化しています。上級管理職は、2025年までにマーケティング予算が増加すると予想しており、30%が10%以上の大幅な増加を見込んでいます。

以降では、AI主導のビジネス成長をサポートするために、企業がどのように進化する必要があるのかについて掘り下げます。その前に、セクション3では、生産性を高め、複合的な利点を引き出し、継続的な改善と価値創造を促進するために、生成AIを活用する方法について解説します。

セクション3

生成AIの成果指標は、効率性からエンゲージメントへ

生成AIによる変革は本格化しており、人々の期待や興奮は高まり続けています。しかし、分断されたアプローチが、生成AIの導入や実践を遅らせています。

本調査では、2024年に生成AIを導入した企業とそうでない企業の間で、格差が拡大していることが明らかになっています。生成AIを導入した先進企業は、競合他社を上回る成果を上げています。一方、生成AIを導入していない企業は、後れを取っています。先進企業の半数近くが、すでに実用的なAIソリューションを導入しています。一方、生成AIを導入している後進企業の割合は3分の1弱にとどまっており、ROIを実証している可能性も3割強低くなっています。
パフォーマンスグループ(先進企業と後進企業)別のマーケティングとCXにおける生成AIの導入状況を示す棒グラフ

競争力を維持し、市場をリードするためには、より速く、より踏み込んだ対応が必要です(図8)。

ユースケースを見つけることや、必要な予算を確保することの難しさといった課題(両方とも47%)は、生成AIのジャーニーをまだ始めていない上級管理職が最も頻繁に挙げる2つの課題です(図9)。

企業がAIの導入を進めるにつれて、課題はより複雑化していきます。AIソリューションに取り組んでいる企業は、イノベーションと倫理的配慮のバランス、ブランドの評判の保護、社内の文化的シフトの管理に重点を置いています。もはやAIを導入するかどうか、どこに導入するかという問題ではなく、いかに効果的かつ責任を持って導入するかという議論になっているのです。

生成AIの拡大における最も重要な課題に関する上級管理職の見解を示す棒グラフ(導入レベル別)

AIで成功を収めるには、俊敏性と正確性が必要

厳格なROIフレームワークをいち早く採用した企業は大きな成果を上げる一方で、そうでない企業は後れを取ることになります。実績のあるAIソリューションを導入している企業の3分の2近く(64%)が、ROI測定のフレームワークを確立しています。一方、試験段階にある企業のうち、ROIを追跡するための強固な指標を開発している割合は、わずか34%にとどまっています(図10参照)。

こうした必要な基盤を整えることができなければ、企業はさらに後れを取ることになるでしょう。AIの導入を効果的に拡大するために、規制の枠組み、ROIの追跡と測定基準、変更管理プロセスに並行して取り組む必要があります。下図が示すように、先進企業はこの同期化されたアプローチを採用しています。

AIの目標達成における成果に関する上級管理職の評価を示す棒グラフ

AIの導入を拡大するためには、人間に関する課題にも取り組む必要があります。本調査では、ROI実証済み企業の52%が、従業員の幅広い支持を得るために必要な文化的転換と、業務のバランスを取るのに苦慮していることが明らかになりました。

それでも、楽観的に考えられる理由はたくさんあります。AIは、テスト段階や導入の初期段階ですでに成果を出しています(図11)。試験段階にある企業の半数近く(48%)、AIを導入している企業の半数以上(53%)が、チームの生産性が向上したと回答しています。

上級管理職が過去1年間に享受した生成AIのメリットを示す棒グラフ(導入レベル別)

AIの活用に成功している企業は、変革の可能性を実証しています。ROIが実証されたと報告している企業の64%が、コンテンツ制作の迅速化と生産性の向上を挙げています。また、64%が、意思決定の改善、戦略のためのリソースの解放、売上の増加を報告しています。

iHeartMediaのデザインハブ担当バイスプレジデントであるEric Perez氏は、次のように述べています。「ラジオのような変化の激しい業界にとって、AIは革新的なテクノロジーです。ブレーンストーミングやコンセプト開発、イテレーションを加速させて、品質や効率性を犠牲にすることなく、高まり続ける需要に応えることができます」

スピードも重要ですが、正確性も同様に重要です。その両方を達成するには、明確な優先順位付け、的を絞った投資、AI導入を拡大するための集中的な施策が必要となります。成功するには、技術の進歩だけでは不十分です。チームを編成し、責任者が変化に適応できるように支援するとともに、組織全体の適応力を育むことも重要です。

バーチャルアシスタントによるAI導入の加速

ROIが実証された生成AIを使用している実務担当者は、今後12~24か月で、より質の高いインタラクション(58%)や、より一貫性のあるコミュニケーション(50%)といった2つのメリットを期待しています。これらの能力は、ブランドエンゲージメントに対する顧客の主な期待に応えるのに役立ちます(セクション2、図4参照)。

実務担当者は、チャットやカスタマーサポートツールに焦点を当てた生成AIの取り組みを進めており、すでにユーザーの5人に1人(19%)がROIを達成しています(図12)。一方、パーソナライズされたカスタマージャーニーとコンテンツ生成(動画と静止画像)が、高成長の機会として浮上してきています。これらの分野でROIを報告している実務担当者は、13%にとどまっています。しかし、生成AIを導入していないと回答した実務担当者の割合は、それぞれ22%および29%となっています。

様々な分野における実務担当者の生成AIの導入状況を示す棒グラフ

エージェンティックAIの台頭

生成AIの進化に伴い、顧客はより適応的で自律的なAIによるサポートを求めるようになっています。顧客調査では、回答者の半数近くが、スケジュール管理やトラブルシューティングなどのタスクについて、静的なweb体験よりもAIアシスタントを利用すると回答しています(図13)。

顧客が情報やサポートを求める際に好むチャネル:AIを活用したチャットボットやアシスタントと、webサイトやFAQ(よくある質問)の比較を示す棒グラフ

2024年のサイバーマンデーでは、チャットボットとのやりとりによる小売サイトのトラフィックが前年比1,950%増となりました。この急速な普及は、「エージェンティックAI」や「AIエージェント」を含む、より高度なツールを受け入れる消費者の準備が整っていることを示しています。

エージェンティックAIは、バーチャルアシスタントの機能を再構築しています。注文の追跡やアカウント詳細の更新といった単純なタスクにとどまらず、製品のバーチャル試用、パーソナライズされたレコメンデーション、プロアクティブなサポートの提供を実現します。

エージェンティックAIは自律的であるため、業務を効率化し、優れた顧客体験を提供できます。ここで、企業は消費者のニーズを単に理解する段階から、先回りして予測する段階へと本格的に移行します。

特に、若年層のオーディエンスは、こうした高度な機能を積極的に使用しています。図14が示すように、45歳未満の顧客の半数近くが、自身の好みや過去の購入履歴にもとづいて、先回りして商品をカートに追加してくれる、バーチャルショッピングアシスタントのアイデアを歓迎しています。

バーチャルショッピングアシスタントを通じた企業とのやりとりに対する顧客の感情を示す棒グラフ(年齢層別)
エージェンティックAIの導入を成功に導くためには、信頼と透明性という課題に正面から取り組まなければなりません。本調査に参加した顧客の半数近く(45%)が、企業とやりとりする際に、自分のデータに対する可視性と制御を重視すると回答しています。一方、3分の1(33%)が、AIがどのように「おすすめ」に使われているかを明確に説明してほしいと考えています。

セクション4

イノベーション、信頼、組織変革の両立

生成AIは企業の成長を後押ししますが、試験的な導入から本格的な導入へと拡大するには、テクノロジーだけでは不十分です。適切な人材配置、プロセス、組織のマインドセットを変革する必要があります。AIツールは、こうした要件に対応し、ワークフローを洗練させ、成果物の量と質を高めることができます。

需要の高まりとリソースの不足:運用型エージェンティックAIの必要性

上級管理職は生成AIに計り知れない可能性を感じており、86%がコンテンツのスピードと量が大幅に向上することを期待しています。一方、マーケティング部門やCX部門にとっては、状況はさらに複雑です。56%が、生成AIの導入はワークフローに負担をかけると考えています。

生成AIは、コンテンツ制作において大きな効果を発揮するものの、人間による監督が必要です。チームはより多くの作業を行い、カスタマージャーニー全体の運用上のギャップに対処しなければなりません。

そこで、エージェンティックAIの出番です。反復的なタスクを自動化し、意思決定を最適化することで、マーケターやCX部門は戦略的な成果に集中することができます。

アシスタントやコパイロットに組み込まれたエージェンティックAIは、データ収集、データベース管理、コンテンツ配信といった時間のかかるタスクを処理してくれます。例えば、オーディエンスのセグメンテーション、アウトリーチのパーソナライズ、タスクのスケジューリングを合理化することで、チャネルマーケティングキャンペーンを強化し、ワークフローを効率的に保つことができます。

生成AIとエージェンティックAIを組み合わせることで、企業はパーソナライゼーションをより迅速かつ効果的に、大規模に提供できるようになるのです。

しかし、これらのシステムは、AIが効果的に動作し、意味のある結果を提供してくれる統一された堅牢なデータシステムという適切な基盤がなければ、それ以上進めません。強力なデータインフラストラクチャーがなければ、どんなに先進的なシステムでも不十分なわけです。

強固なデータ基盤の構築

データはAIの成長を支える重要な要素ですが、技術的な課題がその妨げとなることがよくあります。分断されたシステムやサイロ化したチーム、不十分な統合が障壁となり、リアルタイムのパーソナライゼーションを制限し、顧客の信頼を損ないます。これにより悪循環が生じます。ー 信頼がなければ消費者はデータを共有せず、しかしAIの発展にはデータが不可欠です。その重要性は非常に高く、88%の顧客が「責任ある安全なデータ管理が重要」と考えており、そのうち60%は「極めて重要」と評価しています。

Adobe Digital Experienceのマーケティング戦略/パフォーマンス/イノベーション担当バイスプレジデントであるMax Cuellarは、次のように述べています。「特定の組織でAIを試験的に導入する場合、狭いデータ領域を扱うことが多く、それをより広範なデータ戦略にどうつなげるかを考えなければなりません。大規模なデータシステムの構築に前もって時間をかけることで、効率性を引き出し、相乗効果を生み出し、データ管理においてより良い結果を導くことができます」

セクション2でも焦点を合わせたように、経営幹部は大胆な動きを見せています。その多くが2025年にはテクノロジーとデータ変革の予算を2024年と比べて10%以上増やすことを計画しているのです。企業がデータの分断を解消して統合する上で、リソースの分配が大きな課題となっています。

図15は決定的なギャップを示しています。例えば、上級管理職の33%が、必須のテクノロジーやツールの予算が不足しているため、データ統合が妨げられていると回答しています。AIのポテンシャルを完全に活用するためには、企業はAI技術(多くの場合、多額の投資を必要とする)への資金調達と、顧客データを統合する取り組みに優先順位をつけなければなりません。

さらなる障壁が、こうした努力をさらに複雑にしています。断片化したITシステム(32%)と不明確なデータ戦略(30%)が前進を妨げており、企業(経営幹部)の24%が、データを戦略的資産として認識すらしていません。

上級管理職が考える、部門横断的な顧客データ接続の障壁を示す棒グラフ

また、パーソナライゼーションやデータに対する企業のアプローチについて、上級管理職を対象に調査を実施しました。つまり、部門間のデータベースを徐々に連携する方法か、ビジネス上の重要なデータを真のシングルソースに完全に統合する方法かです。多くの上級管理職(57%)は、段階的に連携するアプローチのほうが自社に適していると回答しています。一方、43%が、完全統合のアプローチを採用していると回答しています。

前者の漸進的なステップは、短期間で成果を上げることも可能ですが、連携性、相互運用性、拡張性のために構築された統一プラットフォームを完成させる後者は、複合的な利益のサイクルが生まれます。完全統一のプラットフォームにおいては、AI主導のツールがアプリケーション間をシームレスに移動できるようになり、詳細にパーソナライズされた顧客体験を推進できます。そして効率性と影響力を長期的に増大させるイノベーションの基盤が構築されるのです。

セクション2で解説したように、上級管理職の半数以上(55%)が、統合データエコシステムの構築が今後12~24か月間の技術的意思決定を形成すると回答しています。

カスタマージャーニーの分散オーナーシップの定義

企業はデータの統一に向けて前進しているかもしれませんが、カスタマージャーニーの所有者をめぐるコンセンサスの欠如は難点です。本調査では、多くの企業が、このジャーニーの責任を次の3つの主要分野に分散させています。CXチーム、技術者、マーケティングです。

しかし、この分断はしばしばチーム間の摩擦を引き起こし、組織の目標達成能力、つまり規模に応じたパーソナライゼーションを阻害します。

図16に示すように、マーケターは、カスタマージャーニーの所有権をCXチーム(42%)とマーケティング(32%)が共有し、IT/テクノロジー部門は最低限の役割(6%)を果たすにすぎないと考えています。しかし、彼らの視点はテクノロジー担当者とは大きく異なっています。テクノロジー担当者は、55%が自分たちが第一の責任を負っていると考え、CXチーム(25%)、マーケティング(3%)という結果になっています。

カスタマージャーニー管理の責任に関するマーケティング部門とテクノロジー部門の上級管理職の見解を比較した表

しかし、希望もあります。CXチームは、これらの分野の共通基盤として台頭してきているのです。マーケターの42%、テクノロジー担当者の25%が、カスタマージャーニーの主要な責任を担っていると認識しているわけですから。

エージェンティックAIが普及し、組織の境界を越えた複雑なタスクに取り組むようになれば、コラボレーションの促進が不可欠となります。チームやシステム間の連携を強化することは、規模を拡大したパーソナライゼーションを現実的かつ達成可能なものにする鍵なのです。

顧客体験とマーケティングにおけるAIの役割:マーケティング部門とテクノロジー部門の連携

明らかな優先順位の違いとして、技術部門はスケーラビリティとインフラに重点を置き(43%が予測AIを優先、38%がプロセスの合理化)、マーケティング部門はAIをクリエイティブ部門に振り向けています(42%がコンテンツ制作を重視、37%がアイデア創出)(図17)。

AIがCXやマーケティング活動に与える影響に関する、マーケターとテクノロジー担当者の見解を比較した棒グラフ

前向きに考えれば、これらは競合する優先事項ではなく、顧客エンゲージメントを変革できる補完的な強みです。本当のチャンスは、サイロを埋めることにあります。技術部門はマーケティングの創造的革新の基礎を築き、CX部門はすべての取り組みが顧客のニーズと期待に沿ったものであることを確認します。

生成AIの導入は、オーナーシップの分断といった企業の課題を明らかにすると同時に、解決策を与えてくれます。こうした課題をチャンスに変えることで、企業は顧客エンゲージメントの未来に向けた、強固な基盤を築くことができます。統一されたデータ戦略、明確な目標、統合されたシステムを優先する企業は、パーソナライズされたエクスペリエンスを提供し、有意義なイノベーションを推進する道を切り開くことができるでしょう。一歩先を行く決意を固めた者にとっては、今が行動の時です。

推奨事項

#D4F4F7

持続可能な価値を提供するAIの能力を創造しましょう。

そのためにはまず、AIの専門知識と、質の高いデータおよび堅牢なインフラへのアクセスを兼ね備えたチームを編成することから始めます。コンテンツ制作の効率化など、明確で測定可能な成果を伴うプロジェクトに集中することで、信頼を築き、迅速に効果を示すことができます。このような初期の成功は、単に投資の妥当性を示すだけでなく、波及効果を生み出します。パーソナライズされたプロアクティブなエクスペリエンスが企業を際立たせ、より野心的な目標への道を開いてくれます。

#D4F4F7

ダイナミックで行動主導型のパーソナライゼーションを可能にするテクノロジーに投資しましょう。

コンテキストを認識し、チャネル間で適応するパーソナライゼーションを提供します。それによって、顧客とのつながりを深め、エンゲージメントを高め、絶えず変化するニーズに先手を打つことができます。エージェントシステムとの連携はこれをさらに一歩進め、顧客が何を望んでいるかを予測し、タスクを自律的に管理してくれます。このレベルのシームレスで直観的なインタラクションを提供することで、信頼とロイヤルティを育みながら、優れた顧客体験を生み出すことができるようになります。

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データを一元化し、シームレスなチームワークと卓越した顧客体験を実現しましょう。

分断されたシステムはコラボレーションの障害となり、技術革新と効率性を妨げます。連携と相互運用性のために設計された統一プラットフォームは、より深いインサイトを引き出し、プロセスを合理化し、創造性を育みます。高品質でアクセス可能なデータにより、企業ではチームがより効率的に作業し、顧客のプライバシーを保護できるようになります。そして、心に響く深くパーソナライズされたエクスペリエンスが提供されます。

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戦略を統合し、取り組みを調整するために、責任者を任命しましょう。

エグゼクティブスポンサーは、マーケティング、テクノロジー、顧客体験の各チーム間の断絶に対処する上で重要な役割を果たします。共通の目標に向けた連携を促進し、コラボレーションを奨励することで、チームは実験と革新を行えるようになります。適切な指導があれば、AIは孤立した試験導入の域を出て、測定可能なROIを伴うスケーラブルなソリューションを提供するものとなります。好奇心、創造性、継続的な学習に根ざした文化は、継続的な進歩を保証し、企業の潜在能力を最大限に引き出します。

調査方法

経営陣調査

本レポートは、クライアント側(3,270人)と代理店(130人)の上級管理職を対象に実施されたオンライン調査にもとづいています。調査は2024年11月11日に始まり、2024年12月4日に終了するまで、3,400件の有効回答を得ました。

  • 属性と市場: 回答者の39%がバイスプレジデント、シニアバイスプレジデント、エグゼクティブバイスプレジデントまたはそれ以上の役職に就いている経営者層(「上級管理職」)で、61%が「実務担当者」(ディレクター、マネージャー、ジュニアエグゼクティブ)です。ターゲット市場については、回答者はB2B企業(33%)、B2C企業(23%)、B2BとB2Cの両方に対応する企業(43%)に分散しています。
  • 地域と業種: 回答者は世界各国から選定されており、日本を含むアジア太平洋地域が最も多く(37%)、次いでヨーロッパ(32%)、北米(31%)の順となっています。回答者の主な業種は、小売(24%)、B2Bテクノロジー(23%)、金融サービス(20%)、ヘルスケア(17%)、メディア&エンターテインメント(10%)となっています。
  • 部門: 回答者は様々な部門に広がり、IT部門(25%)、マーケティング部門(13%)、広告部門(12%)、デジタル/テクノロジー部門(8%)が多くを占めています。

生成AIの導入

上級管理職と実務担当者を対象に、マーケティングと顧客体験における生成AIの導入の現状について調査を実施しました。回答にもとづいて、回答者を導入レベル別に分類しました。

  • 正式に導入していない: 生成AIの使用を抑制している/個人またはチームレベルにおける非公式な導入にとどまっている。
  • 試験中: 多くのプロジェクトが試験段階にある。
  • 導入済み: AIソリューションを導入し、その効果を評価している。
  • ROIを実証済み: AIソリューションを導入し、ROIを実証できている。

部門

回答者を、3つの部門に分類しました。

  • マーケティング: マーケティング、コンテンツ/編集、製品管理、広告、デザイン、クリエイティブサービス
  • テクノロジー: IT、デジタル/テクノロジー、webまたはアプリ開発、プライバシー/セキュリティ
  • その他: 事業運営、カスタマーサービス、eコマース、分析、コンサルティング、人事、製品管理、研究開発

顧客調査

本レポートは、顧客を対象に実施されたオンライン調査にもとづいています。調査は2024年11月に始まり、2024年12月に終了するまで、8,301件の有効回答を得ました。

  • 性別: 女性(51%)、男性(49%)
  • 年齢層: 18~34歳(31%)、35~54歳(36%)、55歳以上(33%)
  • 地域: ヨーロッパ(35%)、アジア太平洋地域(31%)、北米(23%)、南米(12%)
  • 業種: 回答者は様々な業界に広がり、小売、金融サービス、ヘルスケア、メディア&エンターテインメント、旅行/観光、通信が多くを占めています。また、デジタルコミュニケーションに関与している回答者のみを対象に調査を実施しました。