コンテンツとマーケティングのプラットフォームを連携させ、世界の強豪と競う
旭化成エレクトロニクス株式会社
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2倍
案件化数前年比
課題
- 製造する電子部品のターゲット市場が海外に移行し、コンテンツ配信とマーケティング基盤の整備が急務となった
- コンテンツマーケティングの拡大に伴い、マーケティング施策の設計と運用負荷が増大
- 営業が活用できる確度の高い見込み顧客(リード)を増やすことが難しかった
成果
- Adobe Experience ManagerとAdobe Marketo Engage の導入で、コンテンツの多言語対応の効率化とデジタルマーケティングの推進を実現
- Adobe Marketo Engage の導入で施策の複製が容易になり、急な案件依頼にも余裕を持って対応。余裕時間で新しい施策の検討も可能に。案件化数は前年比2倍に
- 営業部門とリードスコアの基準を擦り合わせ、顧客属性のスコアを追加。確度の高いリードを渡すことで商談に確実につなげる
「回路設計の経験を活かし、コンテンツの内容を理解した上で最適な施策に落とし込み、お客様にとって有益な情報を分かりやすくかつタイムリーに提供することを心掛けています」
マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 第二グループ 井上 望氏
スマートフォンに内蔵する磁気センサー、電子コンパスや自動車などの各所で利用される半導体部品を開発する旭化成エレクトロニクス株式会社。EV(電気自動車)化などの流れを受け、海外メーカーとの取引を拡大している。各国の競合メーカーと戦うためのコンテンツ配信を起点にしたデジタルマーケティング基盤の構築が急務だったという同社。ハイエンドのマーケティングツールの採用で目指す世界基準のマーケティングへの挑戦に迫った。
グローバルマーケティングの強化が課題
旭化成エレクトロニクスは、旭化成グループの3つの事業領域(マテリアル、住宅、ヘルスケア)の中のマテリアル領域に属しており、半導体をはじめとした電子部品を開発、販売する企業である。
同社が担う電子部品事業の製品特性とマーケティングの課題について、同社マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 部長の鈴木 岳氏は次のように語る。
「当社の電子部品はICやセンサーなどが中心で、アナログ/デジタル混載回路など、大手メーカーがあまり手を出さないニッチな分野の製品を得意としています。そのため、お客様である電子機器や自動車などのメーカーに、使い方を提案する形の営業スタイルを強みとしています」
マーケティング&セールスセンター
デジタルマーケティング部 部長
鈴木 岳氏
競合は海外企業が中心で、その多くがすでにデジタルマーケティングで先行していた。同社の海外売上比率も上昇を続けており、グローバルな情報発信、マーケティング活動は不可欠な状況だった。「海外の新規取引先開拓は最重要課題でした」(鈴木氏)。
また、新型コロナウィルス感染症の世界的な流行により、従来の対面式のセールスが困難となったため、デジタル接点の重要性がより高まった。そこで同社では、2020年にマーケティング部門の再編を行い、デジタルマーケティング部を発足。2023年には、鈴木氏の下に、各拠点に渡すリード創出を担当するフィールドマーケティング部門とインフラ周りの構築を担当するマーケティングオペレーション部門の2つのグループを作った。
このマーケティングオペレーション部門でマーケティングオートメーション(MA)のオペレーションを担当する井上望氏は、もともと電子回路のエンジニアとして無線デバイスなどの設計を担当していたが、2019年に当時のマーケティング部門に異動し、コンテンツ制作や解析担当を経て、MAを担当することとなった。
「当社は今後、webを中心としたコンテンツマーケティングに力を入れると聞き、自分たちが作る製品のことをお客様に分かりやすく伝える仕事だということで興味を持ちました」と井上氏は話す。
従来のMAツールでは機能が不足していた
マーケティング部門の再編後、同社ではwebサイトからの製品情報の発信にアドビのAdobe Experience Manager(AEM)を導入し、コンテンツの運用管理を開始した。それを起点にしたB2Bのデジタルマーケティングを行うために、当初は比較的安価なMAツールを導入していたのだが、それでは機能面で不足している部分があったという。
「最初は、製品情報等のコンテンツをダウンロードするフォームやニュースレター(メルマガ)登録のフォームを設置し、お客様の情報を登録していただく仕組みを作りました。その運用に慣れてきた頃、さらに顧客管理システム(CRM)との連携など、高度な活用を進めていこうと考えましたが、MAツールの機能面で実施が難しいことが判明。そこで、高機能なMAツールの導入に向け、検討を開始しました」(井上氏)
マーケティング&セールスセンター
デジタルマーケティング部 第二グループ
井上 望氏
コンテンツマーケティングによって獲得できたリードの情報も、精度が低かったために営業に渡すまでにマーケティング部門で精査する必要があった。グローバル化への対応や、リードの精度向上、社内の他ツールとの連携などを考えると、より高機能なMAツールが必要だという課題感は、チームの共通認識だったという。
検討の結果、同社ではAdobe Marketo Engageを採用。
「Adobe Marketo Engage は、すでに導入していたAEMと同じアドビの製品で、共通のプラットフォームであることにメリットを感じました。また、当社ですでに利用しているCRMとの連携が容易で、多くの実績があったことも選定の決め手の一つになりました」(鈴木氏)
当初、Adobe Marketo Engage はハイエンド製品だけに、それまでのツールより価格が高いことが懸念された。しかし旭化成グループ全体でAdobe Marketo Engage を導入することを視野に入れ、各社で費用を按分できる見込みが立ったことで、負担増加を抑えることができた。
「AEMに続いてAdobe Marketo Engage を導入するにあたり、経営層に対し、デジタルマーケティングを推進していく意志をはっきり示しました。コンテンツマーケティングの基盤としてAEMを用いたコンテンツの内製化。その情報を最大限生かすプラットフォームとしてのAdobe Marketo Engage。これらをどのように活用していくのか、社内に丁寧に説明したことで、導入の了承を得ることができました」(鈴木氏)
ユーザーコミュニティから知識と刺激を受ける
同社のマーケティングは、AEMで管理されるwebページを中心としている。同社マーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 第二グループ グループ長の中川 剛氏は、「製品情報ページでは、AEMと社内の製品データベースを連携し、自動的に情報をピックアップして、webコンテンツに生成し公開しています。また、webサイトは日本、欧州、米国、中国、韓国、その他の6サイト。言語は日、英、中の3カ国の言語を使用しています」と説明する。
マーケティング&セールスセンター
デジタルマーケティング部 第二グループ グループ長
中川 剛氏
Adobe Marketo Engage導入後に行っているマーケティング施策は多岐にわたる。「ニュースレターは毎月1本以上出しています。それ以外に、ウェビナーの実装が2カ月に1回程度、ターゲットメールやイベントのサンクスメールの実装が月1、2回程度、新製品のドキュメントをダウンロードするためのフォームの実装が月に数件あります。また、製品別のエンゲージメントプログラムなども拡充しています」(井上氏)
現在はAdobe Marketo Engage の運用担当として数多くの施策実装や調査、検討をこなす井上氏だが、開発部門から異動した直後は、ツール操作も含めてマーケティングはまったくの未経験だった。知らない用語をその都度webで検索しながら覚えていくところからスタート。そんな井上氏が頼りにしているのが、Adobe Marketo Engage のユーザーコミュニティだ。
「私がコミュニティに参加し始めたのが2022年の6月頃ですが、何も分かっていない自分がこんなことを聞いても良いのかというようなことも、まったく気にせず教えていただけるウェルカムな雰囲気があり、安心しました。また、2020年からのコロナ禍でユーザー会がオンライン化された頃のコンテンツが多数アーカイブされており、それらを端から見て、自分の仕事にあてはめて試行錯誤を繰り返しました」(井上氏)
こうした基盤整備と取り組みの結果、同社のデジタルマーケティングは大きな前進を見せた。まず、メール施策の件数が増え、効率も向上。「Adobe Marketo Engage のダイナミックコンテンツ機能を使い、お客様の属性に合わせた言語でニュースレターを送り、そのリンク先も地域に合わせた6種類のwebサイトに振り分けることが可能になりました。これによって、お客様のメールに対する違和感を減らし、反応を高めることができました」(井上氏)
営業案件の数が前年比約2倍に増加
このような取り組みによって、2023年3月には前年同月比で営業案件の創出数が2倍に増加。井上氏の上司にあたるマーケティング&セールスセンター デジタルマーケティング部 第二グループの重田啓介氏は次のように話す。
「コンテンツを短時間で大量生産できる柔軟性と拡張性が、Adobe Marketo Engage の優れた点だと思います。当社には年間のマーケティングカレンダーがあるのですが、実際にはそこに載ってこないイレギュラーな案件が突発的に発生することが、しばしばあります。そうしたときにも、過去の施策を複製して、微調整すれば新たな施策が実施できるため、少ない人員でも無理なく対応できるようになりました」
マーケティング&セールスセンター
デジタルマーケティング部 第二グループ
重田 啓介氏
さらに、リードのスコアリングについても、大きく改善。従来はスコアが高くても本当に営業に渡せるリード(Marketing Qualified Lead=MQL)なのかをマーケティング部門で精査しなければいけなかったという。
「そこで、営業部門とスコアの基準について協議を重ねました。その結果、双方が納得した形でスコアの閾値を超えたリードを渡せるようになりました」(重田氏)
具体的には、リードスコアの判断項目として行動情報に加え、属性情報を加味するなどで、スコアの精度を向上。MQLの確認工数は従来の1/10~1/20に激減した。加えて、「スコアがリードの熱量を正しく反映するようになり、営業が確実に対応できようになったことが大きな進歩でした」(井上氏)。
井上氏は、こうしたAdobe Marketo Engageの活用によるマーケティング改善活動が評価され、23年の「Japan Adobe Advocates」を受賞した。「Japan Adobe Advocates に選ばれたことは大変うれしく思います。そのおかげで、社外のマーケターの方と交流できる機会が格段に増えました。また、当社グループ内のAdobe Marketo Engage ユーザーからも問い合わせが増え、旭化成グループ独自のユーザー会もできました」(井上氏)。
Adobe Marketo Engage の柔軟性と拡張性によって、施策の実装について効率化が進んだこともあり、井上氏は新たなマーケティング施策のアイデアを練る時間が増えてきているのをうれしく思っているという。「今後はCRMとの連携を強化し、収益まで含めたマーケティング施策の効果測定を行い、改善サイクルを見直し、より一層の営業活動のサポートや売上に貢献していきたい」と意欲を語る。同時に、webサイトのアクセス分析やABテストを繰り返しながら、多数のツールを使いこなし、広範囲にマーケティング施策の確度を高めていくことも見据えている。
また鈴木氏は「ようやくグローバル標準のマーケティング基盤を整えることができました。ここから当社としての勝ち筋を議論し、この基盤の上で戦っていきたいと思います」と語る。同社のマーケティングが、世界を舞台にさらに大きな成果を上げることは間違いなさそうだ。
※掲載された情報は、2023年12月現在のものです。