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フリープランユーザーの有料化促進に向けたアプローチにおいてMAを活用し、受注数が5倍以上に
Chatwork株式会社
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5倍
受注数が増加
導入製品:
課題
・フィールドセールス、インサイドセールス、マーケティングそれぞれのKPI管理が分断されており、各部門での意思疎通ができていなかった
・ユーザーのターゲティングができておらず、すべてのリードに対して一律のアプローチしかできていなかった
・リードを獲得するためのコンテンツ作成基準が曖昧で、必要な量もそろっていなかった
成果
・データを統合したCDPからデータを抽出し、スプレッドシートで一覧表示。KPIをリアルタイムに管理できるようにした
・外部からリードを獲得するSLGプロセスと、フリープランユーザーの活用度を上げるPLGプロセスを定義し、統合モデルを構築
・属性に基づくセールス、マーケティングが求めるコンテンツを量産し、Adobe Marketo Engageで適切なターゲティングが可能に
「Adobe Marketo Engageの主担当として2年。資格も取得し、自分のコアスキルになりました。今後も社内外でMAのメリットを伝え、導入を広げていきたいと考えています」
北川 峻氏
ビジネス本部 カスタマーエクスペリエンスユニット カスタマーマーケティング部 オペレーションチーム チームリーダー
国内利用者数No.1(※1)、導入企業37.6万社(※2)以上で使われている「Chatwork」は、口コミによる需要が一巡し、新規ユーザー、フリープランユーザーへのマーケティングアプローチが必要だった。B2C企業出身の新任マーケターが初めて挑んだB2Bマーケティングで実現した、新たな収益モデルとは。
※1 Nielsen NetViewおよびNielsen Mobile NetView Customized Report 2022年5月度調べ、月次利用者(MAU:Monthly Active User)調査。調査対象はChatwork、Microsoft Teams、Slack、LINE WORKS、Skypeを含む47サービスをChatwork株式会社にて選定
※2 2022年9月末日時点
ビジネスチャットの可能性
Chatwork株式会社は、「働くをもっと楽しく、創造的に」をミッションに掲げ、自社開発のビジネスチャット「Chatwork」を企業に展開。Chatworkは2011年のサービス開始以降、シンプルで分かりやすいUIで誰でも使えることが人気を呼び、現在37.6万社(※2)以上で利用されている。
Chatworkには無料で始められるフリープランと、フリープランの機能制限を解除した有料のビジネスプラン、エンタープライズプランの3種類のプランが存在。
19年1月に同社に入社した北川峻氏は、カスタマーマーケティング部に所属し、フリープランユーザーに対して有料プランの利用を促すマーケティング施策や、有料プランユーザーがいる企業に対してさらにアカウント数を増やすための取り組みを続けている。
北川氏は同社に入社する前、出版社やクラウドサービスの企業で広告営業担当を務め、その後プロバスケットボールリーグ「Bリーグ」のマーケティング担当としてリーグ開幕までのビジネス立ち上げに参画するなどの経歴を持つ。主にB2C向けマーケティングの分野でキャリアを積んでおり、Chatworkで初めてB2B分野のマーケティング担当として働くことになったという。
北川氏の入社当時、ビジネスチャットの市場全体の導入状況を見ると、従業員数が1万人以上の企業では73%であるのに対し、99人以下の中小企業へは16.5%しか導入されていないという実態があった(※3)。そのため、北川氏は中小企業の今後の普及に大きな可能性を感じたという。
※3 出典:Biz Clip調査レポート(第27回)企業のビジネスチャット利用実態調査2021
セールスとマーケティングで共有された危機感
入社後、マーケティング部門で体制の再確認を行ったところ、そこで分かったのは、マーケティングすべき顧客であるユーザーのセグメントができておらず、マーケティング施策やその効果計測など、ほとんどのものが未着手の状態だったことだ。「すでにAdobe Marketo Engageも社内に導入されていましたが、ほぼメール配信ツールとして使われているだけでした」と北川氏は話す。
例えば、ユーザーがChatworkの機能紹介など、有料プランになる見込みが高い資料をダウンロードした場合、本来であれば最優先で対応すべきである。しかし、マーケティングも営業も、そうした状況を注意して見ることはなかったという。
19年9月の上場も相まって営業目標も野心的な目標へと書き換えられた。その営業目標を達成するためには、マーケティング部門も当然数字を突き詰める必要がある。その結果、Adobe Marketo EngageやCRMなどのさらなる機能の活用が求められたのだ。
「マーケティング部門としても、見込み顧客をどれだけ創出したかだけではなく、パスから受注数までのセールス部門の目標も共に追う必要がありました。そこでAdobe Marketo Engageを用いたパイプラインの設計やカスタマージャーニーを構築する必要が生まれたのです」(北川氏)
だが、社内には北川氏を含めてAdobe Marketo Engageを専門的に使いこなせる人が誰もいなかった。そこでアドビのコンサルタントに支援を依頼し、一からマーケティングの仕組みを構築することにしたという。
部門横断のメンバーで、自社の強みを再確認
最初に実施したのは、改めてフィールドセールス、インサイドセールス、マーケティングの部門などが一堂に会し、製品の強みを再確認することだった。
「Chatworkの良さをどう言語化すればお客様に伝わるのかを徹底的に議論し、顧客のステージを定めました。このプロセスで、フィールドセールスとインサイドセールス、マーケティングが部門の壁を越えて共通の軸を持つことができました」(北川氏)
次に北川氏は、カスタマージャーニーの整理に着手。有料プランの顧客獲得をゴールと定め、顧客がビジネス上の課題を認識してから、その解決策としてChatworkの有料プランユーザーになるまでにたどる道のりを定義していった。
ここで北川氏は、Chatworkが持っている製品特性を生かしたマーケティング手法を発案。
「無料版がないB2B製品は、顧客に対して最初から直接売り込まなければいけません。しかしChatworkはB2B製品でありながら、フリープランも提供しています。多くのフリープランユーザーに対し、活用度に応じて製品の価値を改めて伝えることで、有料プランへの転換を図ることは、非常に有力だと感じていました」(北川氏)
SaaS製品などの場合、無料版を提供し、ユーザー自身が活用度を高めていくことで、有料版のメリットを理解し、アップグレードを図ることができる。これをPLG(Product-Led Growth)と言い、昨今注目されているビジネスモデルである。
だが、Chatworkのフリープランユーザーは、デジタルに関して詳しくない顧客も多く、ユーザー自身が使い込んで価値を理解することがなかなか難しい。そこで北川氏は、フリープランユーザーに対してもセールスがハイタッチで積極的にアプローチすることで、有料版のメリットを伝えていくことを考えた。
従来型の営業によるビジネスモデルをSLG(Sales-Led Growth)と呼ぶが、新たにPLGとSLGを統合したモデルを開発。これを北川氏は「PLS(Product-Led Sales)」と呼んでいる。
あらゆるデータをスプレッドシートに集約
例えば、製品に関連する資料をダウンロードしているユーザーがいたとしても、そのユーザーがChatworkのフリープランユーザーかそうでないかでは、製品に対する理解度が大きく異なる。それぞれに対して最適なコンテンツへの誘導を行うことで、目標数字の達成を目指していった。
もう一つ、北川氏が力を入れて取り組んだのが、KPIの管理だ。セールス、マーケティングの各部門で目標数値や効果測定の管理が別々になっている状態では、有料プランユーザーを増やすという共通目標に対して、どこで問題が起きているかを把握することができない。そこで、MA(マーケティングオートメーション)であるAdobe Marketo Engageをはじめ、CRM、web上のアクティビティ情報、Chatworkの活用情報などを1つのデータベースであるCDPに集約。そこからSQLを用いてデータを取り出し、スプレッドシートでダッシュボードを製作した。
「各ツールを直接操作すれば、レポートを出すことができます。しかしそれではレポートの内容が属人化してしまいます。共通の尺度でお客様の状態を知るツールとして、誰でも閲覧、編集することができるスプレッドシートでダッシュボードを作りました」(北川氏)
定期更新で自動的にSQLからのデータを更新できるスプレッドシートには、流入経路、リードソース、施策、属性などあらゆるデータが入っており、MAやCRMでは分析しにくい部分も一目で確認できるようになった。各部門で共通のシートを見て会話することで、個々で行っている活動にズレが生じなくなったという。
ビジネスモデルの統合で、受注数が5倍以上に向上
マーケティング部門では21年の後半から22年にかけて、PLGとSLGをミックスしたモデルの仕組みを構築し、22年4月から本格的に運用を開始。収益ステージに合わせたメール、web、ウェビナーなどのコンテンツも幅広く用意し、数百種類のコンテンツを運用する体制を構築した。
「ビジネスモデルを統合したことで、MAで属性の異なるリードに適したアプローチをすることができるようになり、受注までの効率が格段に上がりました」(北川氏)
さらに、インサイドセールスが受注に最もつながりやすいリードを、即座に知ることができる仕組みも構築した。「例えば、最もホットなリードが発生したときは、5分以内にChatworkでセールスに伝え、架電できる運用を始めています」(北川氏)。
ビジネスモデルの統合と、KPIの共通化の効果はすでに現れている。受注数は、年度初めと比べて5倍以上に拡大。パス率や商談率も同様に、大幅に向上している。
当初は効果に疑問を感じていたセールス部門も、数字の大幅な改善が確認されるとマーケティング部門へのフィードバックを多く返すようになった。「今では、セールスからお客様の課題に合わせたマーケティングコンテンツの提案があるなど、セールスとマーケティングの連携は非常に良くなったと感じています」と北川氏は話す。
B2Bマーケティングは再現性が重要
「初めてB2Bのマーケティングに挑戦しましたが、アドビの営業、CSM、コンサルタントの皆さんの力を借りて、当社としてのビジネスモデルを立ち上げることができました。また、Adobe Marketo Engageの思想を深く理解することでB2Bマーケターとしての成長につながりました」(北川氏)
北川氏は、B2Bマーケティングで重要なのは再現性だと語る。Adobe Marketo Engageを使ってデータを可視化することで、再現性を高めていくことができたという。
同社のこの取り組みと成果が評価され、北川氏は2022 Adobe Marketo Engage Championの「MarTech of the Year」を受賞。「すごくうれしく、光栄です。過去の受賞者は多方面で活躍されている方ばかりで、大きな自信になっています」(北川氏)。
北川氏は、社内のマーケティングをリードする傍ら、Adobe Marketo Engageを使った外部企業のマーケティングも支援している。Championの受賞は、その活動にも非常に良い影響を与えているという。Adobe Marketo Engageというコアスキルを得て、北川氏の社内外の活動はさらに勢いを増している。
(右から)Chatworkの北川氏、アドビの中野渡氏、谷口氏。
※掲載された情報は、2022 年10月現在のものです。