テクノロジーをテコとする「仕組み化」で、アポ獲得数30件→230件を実現
株式会社i-plug
課題
法人向け(toB)マーケティングの強化
成果
インサイドセールスによるアポ獲得数が月30件から230件に増加
担当者着電率が30%から67%へ増加
アポ取得率が25%から44%へ増加
近年、日本の採用市場のなかでも主流となりつつある「ダイレクトリクルーティング」。そのプラットフォームとして、新卒に特化した「OfferBox(オファーボックス)」を展開し、注目を集めているHRテック企業が株式会社i-plug(アイプラグ)です。
従来のエントリー型といわれる採用法との違いは、企業が「OfferBox」上で登録学生の情報を自ら検索し、会いたい学生にコンタクトを取れることです。特に同社では、人工知能や緻密な適性診断を取り入れるなど、高精度なマッチング、採用活動の効率化にこだわり、第一回HRテクノロジー大賞でも、グーグルなどと並び奨励賞を受賞。
企業には「待っていても会えない学生」、学生には「自分では見つけられない企業」の出会いの可能性を広げることで、雇用のミスマッチ解消を担うサービスとしても業界の期待を集めています。
2015年6月には、法人向け(toB)マーケティング強化のため、Adobe Marketo Engageを導入。"質"にこだわったマーケティング施策により、直近1年で約,1000社もの利用企業数を増やし、現在、利用企業数は2300社に到達。7万人の登録学生向け(toC)の施策でも、Adobe Marketo Engageの活用をスタートしています。
今回は、toB、toC、両者へのマーケティングを統括する同社取締役・CMOの田中 伸明氏に、Adobe Marketo Engage導入の経緯、活用シーン、そのポイントについてうかがいました。
アポ獲得数1日1件の「暗黒の時代」から景色が一変したワケとは?
競合がひしめく人材サービス業界で生き残るには、より戦略的に認知度を高めていく必要がある。そんな問題意識から、田中氏含め2名体制でマーケティング部を立ち上げたのが14年のこと。まずはtoCの施策として、FacebookやTwitterといったSNS広告で、前年5500人だった学生数を2万人に伸ばしました。
toCの施策の成功を受け、15年3月には法人向けマーケティングにも着手。
同様にリスティングやGoogle AdWords、Facebook のカスタムオーディエンスなどを使ったweb広告を駆使し、「予定では、リードをどんどん獲得できるはずだったのですが......」と田中氏は明かします。
ところが、目論みに対し、反応はほぼゼロ。まれに問い合わせがあっても、受注までにはなかなか結び付かない状況が続きます。
また、web広告と並行し、テレアポチーム(後のインサイドセールス)で顧客リストへの架電攻勢をかけるも、こちらも3人体制でアポ獲得数は、月30件ほど。つまり1日当たり1件しかとれない状況でした。
「リードもとれなければ、アポもとれない。自社主催セミナーを開いても、参加者は5名前後というありさまでチーム全体の疲弊感が増すばかり。といっても、成果が出ない理由もわからない。まさに暗黒の時代でした」と、田中氏は振り返ります。
こうした八方ふさがりの状況をいかに打破するか。うまくいかない原因を探り、解決に導くツールとして、創業メンバーで取締役の山田 正洋氏から提案をもらったのがマーケティングオートメーション(MA)でした。数社を検討するなか、既に活用していたSalesforceとの相性の良さや、担当コンサルタントの手厚いフォロー体制などが決め手となり、15年6月、Adobe Marketo Engageを導入します。
実際の施策は、以下の5ステップで進行していきます。
- Salesforceの顧客リストをAdobe Marketo Engageに反映
- Adobe Marketo Engageからコンテンツやメールを一斉配信
- 開封したリードに対し、さらにニーズを探るためのメールを複数回配信
- リードのフェーズを整理し、フェーズに適したコンテンツを提供
- リードが資料DLなど、一定のアクションを起こしたホットなタイミングでインサイドセールスチームが架電し、アポを獲得
一連の施策を地道に続けていくなかで、15年秋以降、就活スケジュールの後倒しの影響により、企業のニーズが顕在化したことも追い風となり、問い合わせが急増。コンバージョンの獲得数も増え、「見える景色が一気に変わった」と田中氏は振り返ります。
16年の3月時点で、インサイドセールスによるアポ獲得数は月30件から、なんと230件にまで増加。担当者着電率も30%から67%、アポ取得率は25%から44%に大幅に改善し、サイトコンバージョン数も380件に上昇。閑古鳥が鳴いていた自社主催セミナーも、毎回100名超の満員御礼が続くようになります。
実はこの間、人員を増やすどころか、インサイドセールスチームだけを見ても、一人が産休に入り、当初、田中氏を含め2人で回していたとか。なぜ約半年ほどで、ここまでに高い成果を挙げるに至ったのか。田中氏によると、ポイントは大きく3つあります。
ムリに顧客の距離を詰めず、まずは相手にとって心地よい距離感を知る
一つが、量より質にこだわり、個々の採用担当者との距離感に合わせたコミュニケーションを実施したこと。
まずはターゲット企業に対し、「HR業界のビジネスリーダーの対談記事」といった、採用担当者が思わず読みたくなるようなコンテンツをAdobe Marketo Engageから一斉配信。いわゆるドリップマーケティングを実施しました。その結果を受け、「自分が思っていたより、顧客と当社との距離は遠いことに気づきました」と明かす田中氏。
たとえば、営業色が一切ない読み物記事や新卒採用動向レポートを送るのか。あるいはセミナー情報や実際のトライアル版をご紹介するのか。採用担当者の状況、関心事によって、提供するべき情報、コンテンツは変わってくるもの。
こうして、「新卒採用の新しい情報には興味があるが、ダイレクトリクルーティングはまだ認知していない」という層から、「ダイレクトリクルーティングに興味を持っている」「オファーボックスに関心がある」「すでに導入検討中」といったフェーズに合わせたコミュニケーション、コンテンツ配信を実施していきます。
「自戒の念を込めて振り返るならば、とかく人材業界の営業は"狩猟型"で、お客様の状況お構いなしに、かたっぱしから電話攻勢をしがち。しかし、当社がそうであったように、それでは顧客には迷惑がられ、電話をかけるインサイドセールスも、疲弊してしまうのがオチです」と振り返ります。
ムリに顧客との距離を詰めようとするのではなく、まずは相手を知り、適切な距離感を知る。その観点でも、「必要とされるときに、必要な情報を提供する」の自動化、視覚化が効率的に実現可能なMAをうまく活用し、自社ブランドの認知を上げていくことが肝要だといいます。
さらに、二つ目としては、より刺さるメッセージを作成することに注力したこと。
コンテンツ改善の施策として、成功確度を高めるべくA/Bテストも実践。「ひとつのメッセージで、全顧客に響かせることはムリです。Adobe Marketo Engageのスマートリスト抽出、絞り込み機能も活用し、誰に何を実行するか。PDCAをしっかり回しながら、相手の状況に合わせたコミュニケーション、メッセージの質向上に注力するようにしました」(田中氏
Adobe Marketo EngageとChatWorkの連携で、業務効率向上、意思決定もスピードアップ
3つ目には、テクノロジーを使って、ホットリードの可視化を実践したことが挙げられます。
同社では社内コミュニケーションのプラットフォームとして、 ChatWork を導入。企業や学生からの問い合わせも一元管理するほか、Adobe Marketo Engage、Salesforceとも連携し、顧客情報やスコアも自動で通知できるようにしています。
さらに、営業の企業訪問スケジュールを管理しているGoogleカレンダーとも同期させることで、スケジュールもChatWork上で調整、可視化が可能な仕組みにしています。
こうした仕組み化による各部門の円滑な連携により、顧客がアクションを起こしたタイミングでアポ入れなどを実施するなどで担当者着電率もアップ。
「全社員がChatWorkを確認するだけで必要な情報が把握できるようになり、手間やストレスも軽減。必要な時に瞬時にコミュニケーションをとれることで、あらゆる数値が約2倍で改善、高速化しました」と田中氏。
特に、同社は東京と大阪に拠点があり、かつ子育て中で在宅勤務の社員も多い。こうした距離の壁を超え、コミュニケーションの質を上げるとともに、業務効率アップ、生産性向上も実現しています。
「当社のような企業が、競合大手に打ち勝ち、お客様の期待をも超えていくには、属人的なものに頼ってはいけません。テクノロジーの力を最大限に活用し、価値を高めていける、しっかりとした仕組みを作ることが必須です」と語る田中氏。
MAは、限られた経営リソースで成長のレバレッジを利かせるための最強の武器になりうると言います。
また、現在は登録学生向け(toC)に、利用活性化を図る施策として、プロフィールの入力状況やオファー獲得といった状況に応じたメールを送信しているのに加え、「今後は登録後、休眠状態の企業へもフォローしていくようなCRMの分野にも利用範囲の拡大を予定しています」(田中氏)