業種: ITサービス
業務内容: IT・エンジニアリングの人材サービス事業、ITアウトソーシング事業、DX支援事業
- 導入製品:
- Adobe Marketo Engage
- 活用用途:
- メールマーケティング、システム連携
課題
- 個々のユーザーを特定するIDが存在せず、求職者が就業するまでの行動を把握することができなかった
- コロナ禍で、IT未経験の会員登録者が急増し、その対応のために多くの人手が必要となった
- 少ないマーケターのリソースでカスタマージャーニーの全ての改善施策を実行することが困難だった
成果
- オリジナルIDを自動生成し、社内の会員情報データベースや分析ツールと連携することで可視化に成功
- Marketo Engageの条件分岐によって、IT未経験者が登録した場合は、教育プログラムへ自動的に誘導し、作業者の負担を大幅に低減
- 現場を巻き込み、メールのABテストをMarketo Engageで実行して小さな成功体験を積み上げていった
「カスタマージャーニーマップの作成とAdobe Marketo Engage の活用によって、課題解決に結びつけることができました」
事業戦略室 マーケティング責任者
藤川 友紀氏
IT人材ビジネスと企業のDX支援を行う株式会社パソナは、コロナ禍で急増したサイトへのアクセスを就業者の増加に結びつけることができずにいた。そこでAdobe Marketo Engageを導入し、広告効果測定ツールのADEBiS(アドエビス)との連携を実現。ユーザー行動の可視化によって人材のマッチングを大きく改善した。
手書きの「カスタマージャーニーマップ」が改善活動の原点
株式会社パソナは、ITやエンジニアリング分野に特化した人材サービス企業として1998年に創業。昨今は人材サービスだけでなく、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)そのものを支援する事業に力を入れている。
同社の人材ビジネスは、まずITエンジニアとして働きたい人に会員登録してもらい、その会員と企業が出す求人をマッチングさせることで就業へとつなげている。
エンジニアの登録は、webサイトに広告を出したことでの流入が主な経路となっており、一般サイトに出すリターゲティング広告や求人専用の検索エンジンなど、さまざまなチャネルからの集客を行っていた。その後、登録した会員に対して求人情報をメールで送り、マッチングを図る流れとなる。
同社の事業戦略室 マーケティングの責任者である藤川友紀氏は、2018年にマーケターとして入社。そのとき、すでに同社には別のマーケティングオートメーション(MA)が2種類導入されていたが、それぞれ利用目的がはっきりしないまま活用が進んでいなかったという。藤川氏は入社と同時に、新しいMAであるAdobe Marketo Engageの担当にもなり、一から同社のマーケティングを再構築する任に就いた。
「入社したばかりで、サービスの具体的な流れやユーザーフローが不明確な中、どこから改善したらいいのか全くわからない。何人かの社員に聞いても、縦割り組織の分業体制のため全体を網羅して把握している人はいません。だったら自分で調べてみようということで、いろいろな部署の人に会いに行き、どんなことをしているかを詳しくヒアリングしていきました」
藤川氏は、各部署のヒアリングで仕入れた情報をもとに、多岐に渡る社内の業務プロセスを理解するため、「カスタマージャーニーマップ」を作成。各部署が行っている業務を聞いて回り、棚卸しして、それぞれの業務がどうつながっているかをまとめていったという。
「最初は、中途入社の社員が何をやっているのか、少し煙たがられたこともありました。しかし、少しずつ情報を集めて、それを図示して各部署をつないでいくと、逆に周りの社員から『どこが知りたいの?』と声をかけてもらえるようになりました。やがてA3用紙の3枚分にも渡るカスタマージャーニーの全体像が見えてくると、多くの人が興味を持ってくださり、どんどん情報が集まってくるようになりました」
多数のヒアリングによって完成したカスタマージャーニーマップにより、はじめて同社のマーケティングプロセスの全貌が目に見える形になったのだ。
「カスタマージャーニーマップで業務の関係が見えたことで、部署間で協力していきたいという気持ちが高まりました。これが、Adobe Marketo Engageの導入によってユーザーの行動全体を可視化して改善するという取り組みの原動力になったと思っています」
「Adobe Marketo Engage Engageは、外部連携が容易な拡張性と、細かい条件分岐が魅力です」(藤川氏)
コロナ禍で急増したサイトのアクセスが、就業につながらず
マーケティングの全体像は見えたものの、課題は山積み状態だった。「調べれば調べるほど、問題が出てくる。新規登録や求人の応募率、就業率など複数の指標がありますが、各タッチポイントで改善の必要があると感じました」と藤川氏は語る。
特にその問題点が大きく顕在化したのが、2020年からのコロナ禍だった。それにより、同社の人材事業にも大きな変化が起きる。「人材ビジネスの数字をどう改善していこうかと考えていた矢先の出来事でした。とくに緊急事態宣言が出た20年4月には、求人サイトのPV数は前年同月比で22倍にまで急上昇しました」
求人サイトへのアクセスが増えると同時に、会員登録者数も跳ね上がった。それはよかったのだが、問題は最終的に就業に至る人が横ばいだったことだ。
「新型コロナウイルス感染症の影響で、企業の求人案件が一時的に減少し、一方で、職を求める非IT分野からの転職希望者の登録が急増しました。IT未経験者の登録の増加により、求人内容とのミスマッチが起きてしまい、全体の就業者のスタート率は横ばいにとどまってしまったのです」
もちろん、最善の解決策は、求職者と求人内容のミスマッチを解消することだ。しかし、これは一朝一夕には解決できない。「マーケターとして、自分ができることは何だろうと、ユーザー行動のインサイトを可視化することから始めました。求人サイトへの初回接触から就業に至るまでの行動データを一気通貫で可視化し、ユーザーの状況を的確に理解することで、行動体験(CX)を最適化することが可能になります。その結果、少しでもミスマッチが改善できればと考えました」
オリジナルIDの生成で、ユーザーの動きをリアルタイムに可視化
藤川氏は、行動データの可視化によって、ユーザーと求人のマッチングを向上させると同時に、広告の貢献度評価も見直したいと考えていた。
「広告の評価はコンバージョンやCVR、CTRなど、一般的な評価指標に頼りがちですが、本当の貢献度はそこではありません。当社でいえば、どれだけ就業に結びついているかを知ることが重要でした。ですが当時は、どの流入経路が就業に貢献しているかを把握することができませんでした。そこでAdobe Marketo Engageと、広告効果測定ツールのADEBiSと連携させて、実際にどの広告が貢献しているかを可視化させることを思いついたのです」
だが、実現には課題があったと藤川氏は言う。そもそもとしてAdobe Marketo EngageとADEBiSを連携させるための、共通IDが存在しなかったのだ。そこで「なければ作る」という発想で、社内のエンジニアに協力してもらい、「Marketo Forms 2.0 API」を活用することで、固有のIDを自動生成し、連携させることに成功。
「カスタマージャーニーマップと、ユーザーIDの一元化によって、チャネルやタッチポイント別に遷移率が悪いところが可視化され、次のポイントにどれだけの数を送らなければいけないのか、そのためにはどう対策すればいいのかという具体的な検討が、部署を横断してできるようになりました」
広告貢献度の可視化で、最適な予算配分を実現
求人サイトを訪れているユーザーを特定できるようになったことで、さまざまなことが可視化された。とくに、懸案の広告の貢献度では驚くべき結果が出たという。「広告のコンバージョンやCVRと就業率は、全く相関性がないということがはじめてわかり、衝撃を受けました」と藤川氏は語る。
「コンバージョンが圧倒的に高かった広告が、じつはそこからのリードタイムが非常に長く、就業にあまり結びついていなかったのです。逆に、コンバージョンは低い広告でも、リードタイムが短く、確実に就業に結びついていることがわかり、本当の意味での広告貢献度(ROI)は、こちらのほうがいいということが明確になりました。これが一番大きな収穫でしたね」
それにより、従来は最もコンバージョンの高い広告に多くの広告費を投下していたが、広告貢献度に応じた予算配分を見直すことができたという。
また、最もコンバージョンが高い広告からの流入は、既存の会員が非常に多いということもわかった。新規会員獲得のための広告を既存会員に踏まれてしまうと、無駄打ちになってしまう。そこで、配信条件から既存会員を外すことで、広告予算を効率的に使いつつ、既存会員にはAdobe Marketo Engageメールの活用で、サイトへの誘導を強化する施策を実施した。
現場を巻き込んだ改善の積み上げで、マッチングが6倍にアップ
同社はデジタルマーケティングを中心に様々な施策で改善を続けているが、流入してきたユーザーの各タッチポイントでの改善は、マーケティング部門だけで全て実行するのは難しい。そこで藤川氏は、カスタマージャーニーマップ作りで社内を回ったときに築いた人脈を生かし、現場でAdobe Marketo Engageを使った施策も同時に進行中だという。
「現場にも協力してもらい、部署間連携でメールを活用した施策を行っています。最初は初心者でも始めやすく、短期間で効果がみえるメールのABテストから試してもらいました。これまでは経験と勘に頼ってメールの件名や文言を決めていた人も、実際に効果が数字で可視化されることで、自身の施策成果を実感できます。わかりやすい成功体験から一緒に作っていくことを心がけました」
こうした取り組みの結果、求人応募数のパフォーマンスは著しい改善が表れている。広告配信の最適化や属性別に自動分岐で配信するメールなどにより、求職者と求人のマッチング率が、従来の6倍に向上した。
また、プラスアルファの成果もあったと藤川氏は話す。かねてからの課題だったIT未経験の人の会員登録への対応だ。IT求人がおおよそを占める同社にとって、即戦力を求める経験者が必要な求人案件に対し、未経験者をそのまま就業に繋げることが難しい。その対応を社内のコーディネーターが行っていたが、非常に大きな負担がかかってしまっていた。
「Adobe Marketo Engageの機能の特徴に、高機能の条件分岐があります。それを使うことにより、IT未経験者の登録時は、当社の教育プログラム(ITエンジニアへの育成プログラム)への誘導を自動的に行い、社内リソースを大幅に低減することができました」
藤川氏は、Adobe Marketo Engageを使った改善活動を通じて、会社全体がマーケティング志向で課題解決に取り組む集団になる手応えを感じている。「感覚的な仕事のスタイルが浸透していた企業風土に、データの説得力が入ったことで、社内の文化が変わってきました」
同社のAdobe Marketo Engage活用は、今後も拡大していくと、藤川氏は話す。「これまでは、B2Cを中心に活用してきましたが、今後はB2Bでも活用したいと考えています。当社は現在、法人向けのDX支援事業に力を入れています。 “人とテクノロジーの力でより良い社会を実現する”というビジョンのもと、企業ニーズを掘り起こし、その解決に必要な人材が、既に多くのプロジェクトで課題解決に取り組んでいます。そのため、インサイドセールスにも、効率良くAdobe Marketo Engageを活用していきたいと思っています」
他にも、広告に頼らない認知集客への仕組みづくりとして、オウンドメディアを充実化している。「近年、自社のオウンドメディアを強化したことでPV数が飛躍的に上昇し、わずか1年半で30倍以上に成長しました。今後はAdobe Marketo Engage活用によるナーチャリングや、エンジニア採用と法人ビジネスへの受注にも繋げていく計画です」
同社のMA基盤として動き出したAdobe Marketo Engageに対し、藤川氏は「他のMAツールと比べて良かった点は、外部システムとの連携が容易な拡張性の高さと、細かい条件分岐ができる柔軟な機能性です。また、サポートやコミュニティも非常に充実していますので、これらの利点が今後利用を拡大していく際にも、非常に助けになると考えています」と評価。
藤川氏が自ら作ったカスタマージャーニーマップと、Adobe Marketo Engageという高機能ツールを手がかりに、同社のMAはまだまだ発展していくことだろう。
藤川氏は、「今後はAdobe Marketo Engage Engageを当社のオウンドメディアや、B2Bビジネスでも活用していきたい」と語る。
※株式会社パソナテックは、2022年10月1日より社名を株式会社パソナに変更
※掲載された情報は、2021年12月2日現在のものです。