地方の中小企業にこそ、マーケティングが必要だ
株式会社トヨコン
受注率20%
課題
古い営業スタイルからの脱却
成果
問い合わせ数15倍、受注率20%
愛知県 豊川市に本社を構える株式会社トヨコンは、2019年に創立55周年を迎え、現在約150名の従業員を抱える総合物流商社だ。包装資材・倉庫管理・システム開発・省人化機器・包装設計・梱包業務の6つの事業を手がけており、愛知県を中心に7つの営業所と5つの事業所を持っている。
そんなトヨコンがマーケティングオートメーション(MA)のAdobe Marketo Engageを導入したのは2017年2月のこと。MAの導入に踏み切った背景には、何があったのか。導入から約2年の間に生まれた変化とは。株式会社トヨコン 営業部 物流企画課 ソリューション推進室 係長浦部将典氏、経営管理部 経営管理課 人事広報Gr. 主任 高柳 祐一朗氏、経営管理部 経営管理課 人事広報Gr. 永野 知沙子氏に話を聞いた。
古い営業スタイルからの脱却を図りたかった
トヨコンに中途入社した浦部氏は、医療機器の梱包作業を3年、包装資材の専用設計を7年、包装資材販売の営業を2年経験した後、2015年10月から始まった新事業プロジェクトにアサインされた。
「当時の営業スタイルは、飛び込み営業・定期訪問営業・押し売り営業といった昔ながらのものでした。他の営業は、1日10件くらい訪問するのが当たり前。だけど私は最初から、そんなやり方をする気はなかった。『ちゃんと売上目標を達成するから、自由にやらせて欲しい』と上司に頼みこみました」(浦部氏)
実際、浦部氏は月2件の訪問で目標を達成した。現在営業が不要なお客様へ押し売りするのではなく、顧客から入った問い合わせに、丁寧に対応する。お客様に会えるチャンスを最大限に生かすべく、顧客の現場を見ながら最適なオーダーメイドの商品を提案したり、潜在的なニーズも掘り起こしながらアップセル・クロスセルを図ったりするなど、全方位的な提案を実践したのだ。
「自分が事務所にいるときに、呼んでもいないのにメーカーさんが来て、『何かご用はないですか』と聞かれるのが、不自然に感じていたんですよね。ちょうどいいところに来て欲しいとずっと思っていた。だから自分もそういう営業をしたほうが、お客様にも絶対に喜んでいただけると確信していたんです」(浦部氏)
自宅に訪問販売が来るのが嫌われるのと同様に、飛び込み営業もいつか破綻するはず。お客様のニーズを察知する方法は、何かないものか----。新事業プロジェクトの企画を練る中で、Adobe Marketo Engageを活用して営業効率化を実現したという事例動画を見つけた。浦部氏は、その瞬間をこう振り返る。
「自分が営業のときに募っていた悶々とした思いと重なり、一気に霧が晴れたようだった。『自分がやりたかった営業スタイルは、まさにこれだ!』と。とはいえ、それまでデジタルの世界はまったく知らなかったので、何十回もその動画を見て勉強しました」(浦部氏)
険しかったAdobe Marketo Engage導入までの道のり
Adobe Marketo Engageに惚れ込んだ浦部氏。他のMAベンダーの話を聞いて比較・検討したが、その思いは変わらなかった。
「僕が重視していたのは、ベンダーの担当者が我々の事業にどれだけ興味を持ち、実際そのツールを入れたら、どう活用して、どんな成果を出せるのか、と想像できるかどうか。地方の中小企業がMAを使って何ができるのかを、素人の僕に教えてくれるような人と一緒にやらなければ、お金を捨てるだけになってしまうと思ったからです。それがマルケト(現アドビ)さんにはあった。『この人たちと一緒にやれば、必ず力になってくれるはずだ』と思えました」(浦部氏)
しかし、Adobe Marketo Engageの導入は、一筋縄にはいかなかった。当時はマーケティングのマの字もなかったトヨコン。浦部氏が経営層に稟議を上げても、「オンラインの追跡をして何になるのか?」「システムを導入することが新規事業なのか?」など、理解を得るまでに苦労を重ねたと当時を振り返る。
他にも問題は山積していた。見込み客の育成(リードナーチャリング)に必要なコンテンツの不足やコーポレートサイトの刷新、SFAやCRMのような顧客管理システムも導入されておらず、データを活用できる環境がまだ整っていなかった。
このままではMAの効果を最大限に活かせない、そう考えた浦部氏は、経営層も必要としていた顧客管理システムとして名刺管理ツールの「Sansan」を提案・導入し、メール配信に必要なデータの収集から始めることにした。その後、コンテンツ・マネジメント・システム(CMS)を導入し、ナーチャリングに必要なコンテンツの拡充を進めた上で、Adobe Marketo Engageの導入に決裁を通すことにしたのだ。
データを収集する上で、営業が多くを占めるトヨコンではSFAを導入する選択肢もあったのではないか。この疑問に対し、浦部氏は次のように返答した。
「SFAで営業活動を管理することも大事だと思いますが、私はまず『MAで案件と見込み客がどんどん生まれてくる状態を作る』ことに重きを置きたいと考えました。営業を経験したことがある身として、管理されるのではなく案件を作る支援がもらえるのは嬉しいことだと思いますし、より良い協力体制が築けると考えたんです」。
営業評価とも連動したデータが蓄積される仕組みづくり
浦部氏の熱意が経営層にも伝わり、2016年8月の「Sansan」導入を皮切りに新事業プロジェクトはスタート。CMS、MAと次いで導入を進めていった。
だが、実際に運用を始めてみると、名刺管理において2つの壁にぶつかった。
1. 営業が名刺を「Sansan」に入れてくれない
「Sansan」の導入から半年が経っても、営業の数に対し、登録された名刺の数が、明らかに少なかった。なぜ、登録しないのか。浦部氏が確認すると、「自分が知らないところで、勝手にメルマガが送られると困る」「メルマガを送ってお客様に怒られたらどうするんだ」という答えが返ってきた。
浦部氏は取組みの意義や目的、試行錯誤していくことの重要性を、各拠点に足を運び、地道に説得して回ったという。
2. タグ付けルールが統一できない
ゆくゆくはMarketo Engageでスコアリングやお客様の特性に合わせたパーソナライズメールを実施することを見据え、浦部氏は当初から「Sansan」に登録する名刺に「業種・企業規模・役職」など、数種類のタグを付けて管理することを目指していた。しかし、"同じ人の名刺なのにタグが違う""同じ会社なのにタグがバラバラ""そもそもタグが付いていない"など、精度を高めることには苦労したという。
浦部氏は、週に100枚くらいの名刺データのタグを付け直し、クレンジングしたデータをAdobe Marketo Engageにインポートするという手作業を地道に続けた。加えて、間違いを見つけたら、その旨を関係者に伝え、正しい情報に修正してもらった。
それぞれの問題に対し、根気強く対処していたが、より効率を高めていくために 導入したのが「名刺ポイント制」である。
名刺ポイント制とは、取り込んだ名刺の枚数、そしてその名刺に正しく付与したタグの情報がポイントとして営業の評価に反映される制度だ。
この実現には浦部氏の努力と取り組みに理解を示してくれた営業部長の決断が裏には存在していた。当時、Adobe Marketo Engage経由で、商談が徐々に生まれてきていた段階だったこともあり、「この流れを加速・維持させるために必要不可欠だ」と営業部長が判断してくれたことが、このユニークな取り組みの早期実現を大きく後押しした。
問い合わせ数15倍、受注率20%
Marketo Engageの導入以前、年に数件程度だったコーポレートサイトからの問い合わせは、本取り組み実施後に15倍と大幅に増加した。さらにその問い合わせ情報と販売実績を照らし合わせてみると、問い合わせからの受注率が20%と高い数値だったことも判明した。コーポレートサイトの刷新やブログ・e-book・他社事例・LPなどオンラインコンテンツの拡充、「Sansan」に登録された顧客情報をもとに、Adobe Marketo Engage経由でのメルマガ配信などリードナーチャリングの仕組みを整えたことが、このような大きな成果に繋がった。
これだけ大きな成果を上げていても、浦部氏はまだ満足していない。
「何を中心に営業をかけていて、どんな営業活動をしているのか。拠点によって異なる営業スタイルが見えてきたので、それぞれに合わせたコンテンツを用意して、出し分けたほうがいいのではないか、と現在考えています。
また、『売上を下げずに既存のお客様を引き継ぐにはどんなデータが必要なのか』など、若手を交えた議論も始まっています。この取り組みを通じて、営業がデータ思考に変わってきているのを感じますね」。
全社にマーケティング文化を根付かせたい
マーケティングの観点から営業プロセスの変革に挑んできた浦部氏。当初は「マーケティングをやらないなんて、信じられない」という感じで、自分の価値観を相手に押し付けていたという。
「だけど、それでは伝わらない。最近ではデータを過信しすぎて、せっかく培ってきた営業の経験や勘をないがしろにしてしまうのはもったいない、と思うようになりました。いつでも"自分の意見が100%正しいとは限らない"ということを互いに忘れないようにすることで、相手の気持ちを尊重しながら真剣に向き合えるようになる。マーケティングが顧客視点を大切にするのと同様に、社内でも『相手視点』を持つことが大切です」(浦部氏)
これに対し、採用・広報を担う高柳氏、永野氏も強く同意した上で、今後の展望について次のように語った。
「東京では、うちのようなBtoBの中小企業でも、マーケティング思考を取り入れることが当たり前になっているかもしれませんが、地方にいると、まったくそうではありません。マーケティングの重要性に気づいた浦部のような人間がいるのは、本当に心強いです。会社全体に顧客視点に立って物事を考える、マーケティングの思想・文化を根付かせていきたい。それがトヨコンの次の競争力になっていくと思っています」(高柳氏、永野氏)
「とことん、トヨコン」を合言葉に、徹底した顧客視点を追求するトヨコン。愛知県豊川市で巻き起こったムーブメントは、これからどんどん加速度を増していきそうだ。