MAの活用による営業架電ゼロの実現、営業効率を大幅に向上累積を続けるリードへのナーチャリング環境を整備
生活協同組合ユーコープ


最大150%
確度の低いリードから引き上げた会員化率
導入製品:
課題
- 広告キャンペーンで大量のリードを獲得したが、営業担当者自身で架電する運用だったためリソースが不足し、アプローチしきれていなかった
- 商談後、入会保留のリードはリソース不足によりそのまま放置され、その後のフォローは営業担当者任せになっていた
- 実質1名でのマーケティング運用だったため、シナリオ開発とコンテンツ作成にリソースを確保することが難しかった
成果
- 獲得したリードをAdobe Marketo Engageに取り込み、メールやSMSなどのデジタルチャネル施策によるアプローチを実施。営業は架電ゼロで顧客訪問が可能になり、対面セールスに集中できるようになった
- 保留リードは理由などの情報を追加し、Adobe Marketo Engageでコミュニケーションを継続。リードをナーチャリングおよびリサイクルできる仕組みを構築した
- 外部コンサルティング会社のサービスを有効活用し、ケース別のマーケティングシナリオを準備。webコンテンツも外部企業との共用、共同制作を実施
「人にしかできない営業活動に集中できる環境を作り、お客様と働き手の双方が幸せになれる未来を目指しています」
宅配営業企画部 宅配営業企画課 担当小出純氏
神奈川、静岡、山梨で店舗/宅配事業などを展開する生活協同組合ユーコープは、子育て世帯の会員獲得を狙った広告キャンペーンの成功で、多数の見込み顧客を獲得した。しかし、そのリストを成約につなげるまでに多くのリソースを必要とし、電話による営業スタイルからの脱却と、マーケティングの自動化が不可欠だった。現場出身でマーケティング未経験だった職員の挑戦を追った。
宅配会員獲得を狙った広告タイアップキャンペーンが成功
A ユーコープの宅配事業「おうちCO-OP」は、週に1回組合員の玄関先へ食材の宅配を行うサービスである。コロナ禍で利用者が急増した宅配サービスだが、生協の宅配は組合員の在宅を前提にしない「置き配」を古くから実施しており、この分野のパイオニア的な存在である。
同組合では、従来広告での会員獲得手法として、折り込みチラシによるプレゼントキャンペーンが集客の中心だった。また、年々進行する会員の高齢化が課題となっており、獲得手法と獲得したいターゲットとのかい離が生じていたという。
そこで、子育て世帯をターゲットにweb媒体でのタイアップ広告を実施。インセンティブもターゲットに則したものに変えたキャンペーンを展開した。妊娠中から子供が3歳になるまでの世帯では、宅配サービス料が無料になる優遇制度も訴求。その結果、狙い通りターゲット層からの応募が寄せられ、多数の見込み顧客(リード)の情報を獲得することに成功した。
得られたリードは地域別に各配送センターへ送られ、所属する営業職員が電話セールスと戸別訪問で会員化の勧誘を行った。だが、急増したリードに対して対応が追いつかず、アプローチができていないリードが累積を続けていたという。
同組合 宅配営業企画部 宅配営業企画課 担当の小出純氏は、宅配ドライバー(配送担当)出身。営業職を経て2017年から現職で、宅配事業の営業企画を担当している。小出氏が配送センター所属だったころからリードへの対応遅れは認識しており、マーケティング活動のオートメーション化の重要性を肌で感じていたという。
「同じ配送センターだった元上司が現職の部署へ赴任していて、マーケティング関連業務を強化すると聞いたとき、自分にやらせてほしいと手を挙げました」と小出氏は語る。
電話+訪問の営業スタイルに限界
本部に移るまで、マーケティングの経験はおろかPCをまともに触れる機会もあまりなかった小出氏だったが、営業戦略策定やデータ活用に興味があり、なにより営業現場の課題を熟知していた。「当時の営業担当は、リードのリストに対してとにかく順番に電話をかけていくしかありませんでした。当然つながらないお客様も多く、つながったとしても詳しい話に至らず、アポイントまでこぎつけても当然ペンディングや辞退となる場合も多々ありました」。
宅配営業企画部 宅配営業企画課 担当
小出純氏
営業は大量のリードを抱えながら、アポイントが取れた顧客への訪問営業をしながら隙間時間や帰着後に架電する業務に追われていた。その結果、徐々に架電できないリードが積み上がっていき、やがて情報の鮮度を保てなくなるまでになっていった。
一方、営業企画部門では、リード数の確保が数値責任として課せられており、リードの中身について、会員になる確度の高い人なのか、単にインセンティブ目当てなのかを分類できていないまま、リード情報を営業に送らざるを得なかった状態だったという。
営業の負荷低減だけでなく、リードの対応方法についても課題があった。従来の営業は、サービスをよく知らない状態(インセンティブ目的で応募されただけで検討段階に至っていない)の顧客や、様々な事情ですぐに会員になることを検討できない顧客に対しても、一律に「白黒つける」勧誘方法を取るケースが一般的だった。その結果、タイミングが違えば検討の余地が生まれる可能性があった顧客も、その場で決着をつけ再びアプローチできないまま、埋没してしまっていた。
こうした問題を解決するために、リードへの対応を機械化し、一時対応が済んだ状態で営業へ提供することと、コミュニケーションが滞り、何もできないまま累積を続けるリードへのナーチャリングを自動化できる仕組みが求められた。そこで営業企画部では17年、キャンペーンやリードマネジメントプラットフォームとしてAdobe Marketo Engageの導入を決めた。
「私が導入に直接関わったわけではありませんが、当時マーケティングオートメーション(MA)を本格的に活用するのであれば、Adobe Marketo Engage一択という状況だったと思います」と小出氏は語る。
Adobe Marketo Engageにリードを集約し、営業の架電ゼロへ
Adobe Marketo Engageを導入し、小出氏が最初に取り組んだのは、営業による架電をゼロにする仕組み作りだった。
「広告キャンペーンで得られたリードは、一度すべてAdobe Marketo Engageに集約し、それまで営業が担っていた架電作業によるアポイント取得を、MAにより自動化することを目指しました。営業には、訪問できる状態のリードだけを渡し、お客様への対面営業に集中してもらえる環境を作ることを第一義的目的として設定しました」(小出氏)
キャンペーン登録などで獲得したリードは、Adobe Marketo EngageによるSTEPメール施策によって、オンライン上で面談の約束を取り、その日時に営業が直接顧客を訪問して会員への勧誘を行う。当初、顧客に対して営業が一度も架電せずにいきなり訪問することは唐突ではないかという懸念もあったが、B2Bのマーケティングと異なり、B2Cの顧客はテックタッチなアプローチにむしろ慣れており、デジタル上のコミュニケーションのみで十分にエンゲージメントを高めることができると判断した。
基本的なステップメールによるアポイント獲得キャンペーンを構築し、18年の夏には2カ所の配送センターからテスト展開を実施。その結果、リードのアポイント獲得率は、Adobe Marketo Engageでエンゲージしたリードと、営業が事前に架電した場合とでほぼ変わらず、MAによって営業の架電を不要にできることが確認できた。
「アポイント率は、営業が最初から関わった場合の6割程度あれば十分と思っていたので、差がなかったことに驚きました。考えてみれば、元々webからエントリーいただいているお客様にとって、いきなり電話が来るよりも、オンラインチャネルによるコミュニケーションのほうが、違和感がないというのは当然のことなのかもしれません」(小出氏)
さらに、営業面談後、その場で成約に至らなかったり、不在だったりした際の「保留リード」についても、再度Adobe Marketo Engageでフォローを自動化し、営業が再度アプローチするまでの間のコミュニケーションの断絶を防ぐことに成功している。
施策のスケールに外部コンサルティング会社を効果的に利用
テスト施策が成功し、 Adobe Marketo Engage による施策を全センターへ拡大するにあたって課題となったのは、リード育成のためのシナリオ開発と、それに応じたメールやwebサイトのコンテンツの確保と制作だった。当初は内製化を試みたが、ほぼ小出氏1人で運用していたため、長続きせずすぐに行き詰まってしまう。そこで小出氏は、当時上司だった関水智氏(現、営業企画・コミュニケーション推進部 宅配営業企画課 課長)に相談。
営業企画・コミュニケーション推進部
宅配営業企画課 課長
関水智氏
「小出の管理下で回すMAの運用として、最適な方法は何かを相談しました。その結果、外部のマーケティングコンサルティング会社にコンテンツの作成や戦略策定も含めて依頼することに決めました」(関水氏)
小出氏は、最適なコンサルティング会社を選定し、ワークショップを通じて顧客の温度感やカテゴリーに応じたシナリオを検討。最終的に約180本のタイトル案(シナリオ)を揃えるに至った。
シナリオに応じたコンテンツ案を手に入れられたものの、180本ものコンテンツを1人で賄うのは現実的ではなく、ダメもとで広告タイアップを実施しているメディアの制作部門が執筆している記事の2次利用を掛け合ってみたところ、快く引き受けてくれたという。これにより、リード育成のためのシナリオとコンテンツ確保のメドが立ったのだ。
共働き、子育て世帯に向けたコンテンツは、妊娠~出産時の不安を解消する情報や、出産後は離乳食の時期に合わせた離乳食の紹介、試供品のプレゼントなど顧客の状況や状態に合わせた内容を詳細に設定。これによりコンテンツの制作スピードを劇的に早められ、リード育成に必要なアセットや環境が整い、リードナーチャリングの仕組みの完成に至った。さらに構築したプログラムにより、確度の低いリードからの会員化率を構築前から最大150%まで引き上げられたという。
Adobe Marketo Engage の活用が進む一方で、初期段階で展開していたアポイント獲得自動化施策では、一定期間が経過し成果が頭打ちになってきていた。そこで、検討の末、メールのみとなっていたコミュニケーションチャネルにダイレクトメール(DM)を加え、オフラインチャネルを織り交ぜてみると、テストでは想定以上の効果が得られた。「期せずして成果をあげられた一方で、DMを本運用に追加するとコストの大幅な増加が継続実施にあたって大きな障壁となりつつありました。オフライン系のコミュニケーションチャネルの混成は、リードへリーチする手段としても諦めたくなかったので、代替案としてショートメッセージ(SMS)を採用したところ、ほぼ同等の効果で追加コストを約4分の1にまで抑えることができました」(小出氏)。
こうした施策と結果の確認を繰り返しながら、22年までに営業成果につながるリードを育成できる態勢が整った。その結果が評価され、小出氏は「2023 Japan Adobe Advocates」を受賞。
小出氏は、「Adobe Marketo Engageの導入後、一人ではどうしても限界があり、納得できる成果を出せるまでに5年という長い時間がかかってしまいました。この間、何度も挫折しそうになりましたが、Adobe Marketo Engageユーザーコミュニティの活動やサポート、皆さんの悩みも含めた事例の共有/解決を励みに、その中から解決策を見出し、学び、何とか乗り越えてきました。それだけに、受賞は光栄であると同時に、苦労が報われたと感じています」と語る。
顧客と働き手がともに幸せになる未来を目指す
宅配サービスの市場は拡大しており、先駆者である生協も民間企業との競争が激化している。一方で、働き手の不足と共に労働時間の削減が命題となる中、営業の業務効率化がさらに求められる状況だ。「 Adobe Marketo Engage の活用によって、人間にしかできないことに集中/特化することで、顧客の満足度を下げることなく営業活動の効率を高め、対面だからこそ求められる顧客に寄り添った提案やコミュニケーションへより時間を割けるよう、営業支援を一層進めていきたいと考えています」(小出氏)。
また関水氏は「コロナ禍でオンライン施策への期待が高まったタイミングで、Adobe Marketo Engageをうまく活用できたと考えています。少ない人員で戦略を成功させるためには、外部の力も活用しなければいけません。組織としては、チャレンジの後ろ盾となり、マーケティング担当者の成長を支える仕組みを作りたいと考えています」と語る。
最後に小出氏は、組織内で孤軍奮闘するマーケターに対して次のメッセージを送った。
「自分の特徴を強みとして生かしていくことが一番重要だと思っています。実は私は自身の能力の中で、営業よりも作戦を練ったり戦略を立てたりといった思考力の部分に強みがあると捉えていて、マーケティングの中の業務で言えば、基盤を構築するような仕組み作りや、データを解析して最適化のPDCAを回すマーケティングオペレーションズ(Mops)のような役割はまさに自分に向いている職種だと考えています。自分の中で相対的に得意なことであればいくらでも集中してのめり込めますし、それが結果的に成果にもつながりやすくなると思っています。何か1つ、自身の性質の中で特徴を見つける機会を持ってみてはいかがでしょうか」
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