コミュニケーションロスが売上損失に直結。アドビ「消費者行動調査2016」に見るデジタル時代の消費者意識とは

2016年03月14日


【POINT】

  • 商品認知のきっかけの場として、テレビの影響はいまだ大きいが、伸びているのはデジタルメディアのみである
  • 消費者の8割以上が、企業のWEBサイトや電子メールから受けとる情報をノイズと感じている。
  • 商品購入段階で、欲しい情報にたどり着けないなどの「困った体験」をした場合、6割以上が商品購入やそれ以上の情報検索を中断している

リアル、ネットを問わず、膨大な情報があふれる中、消費者の情報源はテレビや新聞、雑誌といった従来のメディアから、デジタルメディアへと広がっている。

消費者があらゆる手段で情報収集をするようになった今、単に認知を得るだけで購買意欲を高めることは大変難しくなっている。消費者といつ、どこで、どのようなコミュニケーションをとれば、購買意欲を高めることができるのか、苦心している企業は多いのではないだろうか。その答えを知るには、まず現在の消費者行動の実態をつかむことがマストだろう。

アドビでは前回(2014年10月)に続き、一般消費者の購買行動における意識調査を実施した。そこから見える、デジタルメディア時代の消費者行動はどのようなものなのだろうか。

商品認知の手段として存在感を増し続けているのは、デジタルメディア

日本は、海外と比較してテレビの影響力が強いと言われて久しい。人種や言語が多様のためにメディアが細分化している欧米諸国と比べると、日本では地上波テレビが大きなシェアを占めてきた。企業は、自社商品の拡販施策において、まず商品認知を得ることを第一義とし、一斉リーチしやすいマスメディアに対する広告への投資を重要視してきた。

今回の調査結果においても、消費者における商品認知のきっかけになるメディアとして、いまだに強いのはテレビであった。消費者の80.6%が、テレビから商品認知のきっかけを得ていると答えている。

商品認知のきっかけおよび、5年前と比べたメディア別DI

しかし、ここで注目するべきは、デジタルメディアの伸びだ。5年前と比べ、消テレビ、新聞、雑誌といったマスメディアは、その増減DI(※)スコアを減少させている。それに対し、「ニュース/ポータルサイト」「企業(メーカーや販売店)のWebサイト」「ソーシャルメディア」「企業(メーカーや販売店)のメルマガ」といったデジタルメディアは、その影響力を伸ばし続けている。今後ますます、企業がデジタルメディアを効果的に活用して情報発信を行う必要があることが読みとれる。

先述のように、これまでの日本企業はマスメディアを重視し、テレビ、新聞などの広告に投資を集中してきた。経済が成長している時期ならば、マス広告に投資し認知を上げれば商品は売れた。しかし、いまや国内市場は成熟化しており、商品認知だけでは購買意欲を高めることはできない。

調査の結果からわかるように、消費者が商品認知の場をデジタルメディアに移行しつつあることが明らかな今、企業はマスメディア偏重を改め、多様なチャネルへと機動的に投資配分することが求められるだろう。

※増減DIスコア:5年前に比べて「増加」と答えた回答者比率(%)から「減少」と答えた回答者比率(%)を引いた数字

6割もの消費者が、店頭で気になった商品をWeb検索している

店頭で気になった商品があった場合の行動

さらに上のグラフを見て欲しい。

店頭で気になった商品があった場合、消費者は次にどう行動するのか。今回の調査において興味深い結果が出た。

「その場でスマホなどからWebで調べる」「後からWebで調べる」と答えた人は、合わせると60.2%に達し、前回調査との比較では7.9%も増加している。しかも、「その場で」調べる消費者が10ポイント以上も伸びている。「いつでもどこでも使えるスマホで自分に必要な情報を調べる」という習慣が定着してきていることを示しているだろう。

また逆に「その場で店員に聞く」という割合は下がっている。商品に関心を持った消費者は、より詳しく商品を知ろうとして、情報源をデジタルメディアに求める傾向が見える。商品の詳細な情報、口コミ、友人の声など、あらゆる情報をデジタルメディアで取得、比較検討し、納得した上で購入したい、という意識が一般化していると推察できる。

企業が消費者のこうしたニーズに応えるためには、店頭施策とデジタル施策を連動させた戦略が必要となると言えるだろう。従来、店舗とオンラインの施策は、個別の部門で別々に運用されがちだった。しかしこれからは、例えば両部門の共通指標として予算や売上を共通化させるなど、一貫した戦略と、それを実現させる体制を整えることが求められているのではないだろうか。

分かりやすく、満足のいくデジタル体験ができなければ、消費者は離れてしまう

デジタルメディアの存在感が増しているからといって、企業は単純に情報拡充を目指せば良いかというと、それは違うと言える。例えば、さまざまな企業から届く大量のメールを、邪魔に感じたことはないだろうか。いかに企業がターゲット層に合うだろうと想定して情報を提供したとしても、消費者が求めているタイミングや内容、つまりニーズに合致した情報でないと、消費者にはノイズと捉えられてしまう。

実際、今回の調査では、消費者の約8割以上が「企業のWEBサイトや電子メールから受けとる情報をノイズと感じる」と答えている。

Webサイトからの情報は関心から遠いものと感じるか

企業と消費者の間にある認識のギャップを埋めないと、消費者にとって不要な情報が、企業から一方的に送られているという状況になる。それは消費者の企業に対する感情に、ネガティブものを生み出しかねない。だからこそ、企業は、不特定多数の消費者に画一的な情報を提供するのではなく、個々の消費者のニーズや文脈を理解し、適切な情報を提供する仕組みを確立する必要性があるだろう。

もちろん、「自社では既に顧客のパーソナライズを行っている」と考えている企業もあるかもしれない。例えばメールマガジンでも、全ての登録者に同じ内容の情報を配信するのではなく、WEBサイトでの購入経験者か否か、またはWEBサイトへの訪問回数などによって、情報の出し分けを行っている企業は多いだろう。

しかし今、求められているのは真のパーソナライズ化である。商品に興味を持ったのは検索であるのか、広告であるのか、または実店舗への来店であるのか。商品に対して興味関心段階なのか、比較検討段階なのか、リピート購入をうながすべき段階なのか。それぞれの消費者にとって、最適な情報は違うはずだ。

まず企業は、オンライン/オフラインを問わず、消費者との一貫したカスタマージャーニーを設計すべきだ。そして、適切なコミュニケーションを図りながら、その消費者のさまざまな情報を蓄積する必要がある。WEBサイト訪問時にどのページを閲覧したのか、どんなキャンペーンに反応し、どの店舗を訪問しているのかなど、蓄積したさまざまな情報によって、消費者を一人の人間として明確にとらえ、より適切なカスタマージャーニーにチューニングしていくことができる。

それを実現するためには、従来の日本企業にありがちな縦割りの部門ごとではなく、企業全体で一貫した情報収集・施策を行う体制が必要だろう。

 

最後に、以下の調査結果を見てほしい。

問題があるWebサイトが消費者の行動に与えた影響

購入検討段階において「探している情報が見つけにくい」「詳細な商品情報がリンク切れを起こしている」等、求めている情報にたどりつけない「困った体験」をした消費者の62.6%が、商品の購入または情報収集のいずれかを中断したと答えている。つまり適切でないコミュニケーションが売上損失に直結していたのだ。

これは前回調査から一貫しており、普遍的な傾向であることがうかがえる。これまで見てきたように、消費者がデジタルメディアを介して積極的に企業と関与する機会が、今後さらに増えることは明らかだ。イニシアチブは企業ではなく、消費者にある。自分のペースで情報を取得/検討し、納得してから購入したいという消費者の行動に応え、購買行動へと導くために、企業に問われていることは、Webサイトで望まれる体験を提供するためにどれだけ投資するかである。それは、その企業の未来を左右すると言っても、過言ではないだろう。

情報の取捨選択の主導権は、ますます消費者のものに

商品認知の場としてのマスメディアの影響力は、すぐに衰えることはないと思われる。しかし消費者とのコミュニケーションの場として、デジタルメディアがさらに活用されるようになることは間違いない。そうなれば情報の取捨選択の主導権も、ますます消費者が握ることになる。

デジタルメディアが普及したことで、消費者の行動も明らかに変化したが、今回の調査結果によって、企業側の対応はいまだにその動きに遅れをとっている状況が見えた。企業は、過去の成功体験に捕らわれることなく、消費者の期待に基づいたデジタルマーケティングの実践へと組織を変革させることが急務だろう。

今回の調査結果を、消費者に提供するエクスペリエンス設計の見直し、さらには、それを実行するための戦略見直しのきっかけとして欲しい。

 

UNITE編集部


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関連資料

日本国内の消費者を対象とした消費者行動調査の2016年版です。調査によると、「6割は知りたい情報をWebサイトで調べる」、「8割以上が電子メールなどの情報をノイズと感じる」といった傾向が明らかになっています。

 


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