IoT時代のスマート マーケティングについて考える(Adobe Summit 2016 レポート)

2016年04月26日



IoT(モノのインターネット)というという言葉をKevin Ashtonが提唱したのは1999年。今ではよく耳にするキーワードとなった。モノとモノとがインターネットで繋がり、それぞれが集めるデータを交換し合う、それがIoTの世界だ。デバイス(端末)同士が対話するIoTは、マーケティングの世界にも大きな変革をもたらしている。Adobe Summit 2016 のIoTセッションでは、デバイスが集積するデータを活用して消費者の体験を最適化し、マーケティングに活用する上でヒントになる知見を4人の専門家が語った。

ジョン メラー、ドニー オズモンド

(写真左) スーザン ミラー (AnyPresence CMO)
(写真左から2番目) リック ストレイダー (フォード Enterprise & Emerging IT ディレクター)
(写真左から3番目) トレゴン オーエンス (Aerial MOB CEO/共同設立者)
(写真右) シャンテル ベンソン (Adobe Photoshop 製品マネージャ)

コネクテッド家電の時代

エンタープライズ プラットフォーム、AnyPresense のCMOであるスーザン ミラー氏は、2016年1月のCES(Consumer Electronics Show)で発表されたハイアールのホームアプライアンス(白物家電)を例にあげ、IoTがどのように消費者の体験を変えるか解説した。IoTにより、販売された冷蔵庫や洗濯機をメーカーが遠隔モニタリングし、故障を検出したら保守チームに通知、修理に必要なパーツを判断して消費者のもとへ送り届けるといったことが可能になるという。

また、ワインセラー冷蔵庫の場合、「お気に入りのワイン銘柄」を登録しておき、最後の一本が取り出されたら自動的に追加発注されるようルールを設定したり、お気に入り銘柄に基づいた「おすすめワイン」情報を取得したり、IoTにできることがいろいろ考えられる。

IoT冷蔵庫は、普及するまでまだ少し時間がかかるかもしれない。しかし、IoTの活用がすでに商品の差別化要因となっている業界がある。自動車だ。

IoTによる顧客体験を先導する自動車

フォードのリック ストレイダー氏によると、以前の自動車メーカーは、機械的な性能に優れた自動車を作り出すことにだけ専念していればよかった。顧客体験といえば、「運転」つまり自動車の操作性に関する部分のみを意味していた。しかし、デジタル時代の自動車が提供する顧客体験には、これまでには考えらなかった広い守備範囲が求められる。リアルタイム データに基づくナビゲーション機能で渋滞を避け、空いている駐車場を見つけ、スマホやタブレットなどのコンテンツと同期できる車載インフォテイメント(情報と娯楽の融合)用コンソールを搭載しているのが現在の自動車だ。

また、車載センサーが取り込むデータは、駐車アシストなどローカルな機能から、自動運転へと至る技術にもつながっている。自動車まわりのデータの集積は、個人が所有する自動車だけでなく、公共交通機関での体験も大きく変えることになる。「クルマが必要なとき、人間がクルマに向かうのではなく、クルマのほうから人間の元にやってくるという体験が、IoTによって可能になる」とストレイダー氏(自動車関連のIoTについては、パネルディスカッションのレポート記事も参照してほしい)。

今後の活用が期待される空のIoTマーケティング

自動車がIoT対応を先導し、家電が追いかける中、世にあるデバイスのすべては、IoTのメンバーになる機会があると言えるだろう。IoTワールドの新参者でありながら、大きな可能性を秘めたデバイスとしてドローンがあげられる。ドローンを使用した撮影サービスを提供するAerial MOBのトレゴン オーエンスCEOは、大量のドローンを使ったAudi(アウディ)の広告や、イベントでの舞台演出など、マーケターの想像力を刺激する事例を紹介した。「空を舞台にしたマーケティングには、活用の余地が大いにある」とオーエンス氏は述べている。

また、ドローンも3Dデータの集積にうってつけのデバイスだ。人間が近づけない場所にカメラを搭載したドローンを飛ばし、3D写真データを集め産業用途に役立てることもできる。地上のデバイスと連携したさまざまな応用も可能となるだろう。

3Dデータ集積をクリエイティブに生かす

3Dデータの蓄積は、マーケターの伝統的な領域であるクリエイティブ方面にもインパクトをもたらしている。Adobe Photoshopのプロダクトマネージャ、シャンテル ベンソン氏は、マーケティング クリエイティブにおける3Dの重要性について触れた。

ベンソン氏によると、オンラインで商品を選定する際、製品画像を3Dですべての角度から見るオプションがあると、商品閲覧から購買へのコンバージョン率(CVR)が18%も上昇するという。エンゲージメントを上げる3Dのパワーは、これからますます活用が進むと見られる。

「3Dイメージの作成は、時間がかかり難しいものとされてきたが、Photoshop のようなツールでの3D作成技術は進化してきており、マーケターが手軽に利用できるようになっている」とベンソン氏は述べている。

エコシステムの重要性

エンタープライズ プラットフォーム ベンダー、自動車メーカー、ドローンのスペシャリスト、クリエイティブツールのプロバイダーという、異業種の4名が、IoTという共通項を軸にそれぞれの専門性が関わりあっていることを示したわけだが、ミラー氏は、IoT関連プレーヤーによる連携の重要性について訴えている。

IoTを活用するデジタル マーケティングの「目に見える部分」として、端末、アプリ、コンテンツなどが挙げられるが、実際には、実にさまざまパーツが消費者の目に見えない部分でIoTを支えるエコシステムを形成している。例として、データ統合、データセキュリティ、アクセス制御、個人認証、API開発などのテクノロジーがあげられるが、これらはごく一部にすぎない。IoT時代のマーケティングでは、「エコシステムのイネーブルメント(支援)に気を使うブランド企業が、成功するようになる」とミラー氏は述べている。

ミラー氏はさらに、イネーブルメントという概念は、競合である同業者にも向けられるべきであるとマーケターに訴える。それは「ベンダーロックイン」、つまり顧客をひとつのベンダーに縛り付けてしまう状況を防ぐことにもつながる。IoTの技術が流動的に変化する中、マーケターはフューチャープルーフ(将来的な拡張性)というキーワードを忘れてはならないとミラー氏は結んでいる。

 

UNITE編集部


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