三井住友カードのデジタルマーケティングを支える組織とは?(前編)

2016年05月24日


三井住友カードは、積極的にデジタルマーケティングに取り組んでいる企業だ。2012年から2013年にかけてAdobeのソリューション(Adobe Marketing cloud)を導入し、既存会員の利用機会拡大と新規会員獲得に着手。トップページやカード入会サイトのリニューアルなど、データに基づいた仮説の組立てやテストの実施により、訪問者の行動を把握しユーザビリティを向上させるとともに、One to Oneマーケティングを実現している。

今回は、三井住友カードのデジタルマーケティングを支える、ネットビジネス事業部 佐々木丈也部長に、デジタルマーケティング躍進の裏側にある、組織にあった出来事や考え方について聞いた。

(聞き手:アドビ グローバル サービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 安西 敬介)

三井住友カードのデジタルマーケティングを支える「ネットビジネス事業部」

三井住友カードのネットビジネス事業部は、「顧客基盤の拡充」と「新事業領域の開拓」を中心に行っている。前者はオンラインでの新規会員獲得や既存会員のリテンション強化、後者はネットとリアル店舗の融合などだ。

なかでも分析やテストの実施など、アクセス解析に関することはマーケティンググループ、特にWebマーケティングチームが担っていると言う。最近では、関係部門への改善の提案や、必要に応じてツールのトレーニングなどもこのチームで行っているとのこと。

ソリューション導入前後の比較


驚くことに、2012年のAdobeソリューション導入当時、このチームはまだ存在せず、アクセス解析を行っていたのは非専任で1名だけだった。しかし2段階のチーム編成を経て、現在ではマーケティンググループの1チームとなり、4名体制でサイトの運営にデータを利用することを推進している。

まずは、このWebマーケティングチームのあり方やツール導入後の変化について、佐々木氏に聞いた。

組織の変化~「受け身」の部署から「発信」する部署へ

佐々木 丈也部長(左)、安西 敬介(右)

(左)三井住友カード ネットビジネス事業部 佐々木 丈也部長
(右)アドビ グローバル サービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 安西 敬介

(安西)現状の組織体制を見ると、2012年から徐々に中央組織化が進んでおり、Webマーケティングにおいてネットビジネス事業部がCenter Of Excellence(CoE)になりつつあると感じますが?
 

(佐々木)CoEとしての役割を担うことの重要性は強く感じております。当社の事業ドメイン拡大のために、デジタルデータの分析を行い、分析に基づくアクションプランを策定するなど、組織横断的な横串のサポートが重要だと感じています。
 

(安西)ツールを導入した前後で、組織にはどのような変化があったでしょうか?

(佐々木)もともとは過去の経験と勘に頼っていた部分に、データ重視型のテストマーケティング施策をAdobeさんにサポートしてもらったのがきっかけで、データに基づいたプロモーション施策やWebページのリニューアルにチャレンジできるようになりました。その成果が出つつあるのが、今の状況と考えています。
 

(安西)組織としてもビジネスとしても非常に良い方向に進んでいるのですね。

(佐々木)結果につながってきていることで、チームのモチベーションが非常に上がりました。このモチベーションの向上により、さらに次にやるべきことが見えるようになってきました。結果として当事業部のマーケティングチームが主体となり、関係部門の課題を吸い上げて、プライオリティをつけて施策を実施する形になってきています。まだリソースが限られていますが、プライオリティを付けて、やれることを広げていき、このプライオリティ付けやPDCAをまわしていくために、取得しているデジタルデータを更に深く理解していくことが重要と考えています。
 

(安西)関係部門との仕事の回し方も変わってきましたか?

(佐々木)PDCAという言葉はもちろん理解はしていましたが、細かい実践には至っていませんでした。PDCAを実践するために、ナレッジをアーカイブし、それを関係部門に共有し、各部の理解を得ることが当事業部の役割だと考えています。以前の当部は、関係する部署が作った施策シナリオをそのまま実施するだけでした。しかし、Webサイト内の行動履歴を見ていくことで、関係部署が気づかないポイントを発見し、各施策にフィードバックできるようになってきました。
 

(安西)関係部署との関係が受け身であったところから、働きかけができるように変化したのですね。
 

(佐々木)まさにその通りです。
 

(安西)非常に大きな変化だと思うのですが、この変化のターニングポイントはどのようなものだったのでしょうか?

(佐々木)ツールを導入後、改革の第一歩として実施したWebサイトのトップページのリニューアルが大きなポイントだったと感じています。それまでのトップページは自社の営業的なニーズを優先させ、ユーザーが何を求めているかという目線が不足していました。しかし、顧客行動のデータを通し、これまで我々の感覚で「良いであろう」としていた部分の改革に乗り出したことで、目的ページへの到達率の向上、直帰率の低下といった結果が成果として現れました。これまでは勘に頼ってWebサイトの改修を行っていました。しかし、データを裏付けとし、仮説やテストの結果に基づいて改修を進めることの必要性に気づいた、というのが一番のターニングポイントになっているのかもしれません。

エグゼクティブとの強いリレーション

そのような成功体験はモチベーションの向上と関係者とのコミュニケーションを円滑に進めるために非常に役立つ。
しかし成功体験を得続けるためには、組織だけではなく、その裏側でサポートをするエグゼクティブの役割も大きい。その辺りについても聞いてみた。

 

(安西)「会員様専用トップページ」のリニューアルについては弊社(アドビ)もお手伝いしましたが、その際、当時の担当役員から直々にオーダーをもらいました。御社はエグゼクティブとのリレーションが非常に強いと感じています。
 

(佐々木)実は、その「会員様専用トップページ」に先んじて「総合トップページ」のリニューアルを行ったのですが、その時はデータに基づくデザイン設計は行わず、勘に頼って作成した新しいデザインと古いデザインでA/Bテストのみ実施しました。その際、担当役員からリニューアルの影響(良し悪し)を判断する指標(基準)を策定するよう指示がありました。
そこで、実際にA/Bテストを実施して、そのテスト結果をフィードバックし、こんな風に(テストが)できるんだということを担当役員に理解してもらいました。共通の理解を得たことによって、次の改修の「会員様専用トップページ」では、担当役員も「データに基づくデザイン設計をしたい」という思いを持つことができ、あのようなオーダーにつながったと思います。
 

(安西)データを利用することで指標が明確化し不安を解消できるということを、エグゼクティブが実際に感じられたことが大きかったわけですね。
 

(佐々木)そうですね。(ツールを導入したことで)自分たちがこれまで取得できていなかったデータが取得できるようになり、ユーザーが何を求めているのかテストをするための因子が、いくつも見えるようになってきました。
これまでの「手探り」が、分析/テストといったデータを通して「確信」に変わり、さらに一つひとつテスト施策を行って学んできたことで、自分たちでやれることをはっきりと見出すことができるようになったんだと思います。テストを通して、自分たちが作った仮説が正しいのかどうかを確認し、仮説が正しいことが立証できることがわかったので、その後の大きなリニューアルや改革に踏み込んでいけるようになりました。
そういう意味では施策のPDCAだけではなく、仕事の仕方のPDCAのようなものが根付いてきたのかもしれません。
 

(安西)リニューアルを行った背景に、データに基づく判断があったことやテストを行ったことなどは、どのように社内に伝えていったのですか?
 

(佐々木)改定したポイントを社内でわかりやすく周知し、リニューアルによって狙える効果をオープンにしてきました。この内容については担当役員から役員会議などで発表してもらうことで、(データによって)ビジネスや組織が変わりはじめた、という雰囲気を役員の中にも作ってもらえました。
Webマーケティングチームは、これまでホームページ管理部とも言われていたこともありました。しかし、現在は社内から「質問をすれば(データを含めて)何か答えを導き出してくれる部署」という認識を持ってもらうことができ、相談も増えてきています。
 

(安西)エグゼクティブからの周知もあって社内に広まり、各部門との接し方が変わってきたということですね。
 

(佐々木)そうですね。担当役員のバックアップは大きかったと感じています。また、他の要因として、インターネットやスマートフォンの台頭により、全社的にWebサイトを顧客コンタクトチャネルの中心にしていくという空気があったという背景もあります。
これまでコールセンター、ダイレクトメール、ステートメントなどが顧客との接点でしたが、インターネットの普及により、顧客との接点が変わりました。全社的にも、それに合わせて顧客サービスを提供していきたいという動きがありました。
先ほどのような改革が、社内の事例としてその流れにうまく乗ることができたことが、成功した要因だと思います。
 

(安西)非常に良い方向に進んできていますね。
 

(佐々木)まだ、CoEという役割までは辿りついていないかもしれませんが、目指すとしたらそこかもしれません。各部門のプロモーション効果をあげるために、ガバナンスを効かせ、戦略に基づきよりタイムリーな対応ができるようになることが必要です。
我々の事業部がCoEになるのかどうかは別としても、その役割が担えるように組織を大きくしていくことに取り組んでいます。

 

インタビューの前半である今回は、Web解析ツール導入に伴う組織の変化やエグゼクティブとの関係などについて聞いた。これまで行っていた勘に基づく施策を、データ重視型に変えたことで、部門としての立場も変わり、また、チームのモチベーションに良い影響を与えているのは非常に興味深い話だ。
また、エグゼクティブとのリレーションの強さが印象的だった。このリレーションシップを基点に社内の文化も変わってきているように感じる。社内全体にデータ重視型の雰囲気ができあがることは、デジタルマーケティングを推進していく上で非常に重要なポイントとなる。
三井住友カードの躍進はこういった社内文化が形成されてきていることも背景にあるのだと感じることができた。
インタビュー後編では、チームの統合や他部門との関係、人材や今後の展望などについて聞いてみたいと思う。

安西敬介

アドビ
グローバルサービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 シニア コンサルタント安西敬介


2001年に国内大手航空会社のシステム子会社に入社後、コンテンツディレクターとしてサイトリニューアルなどを手掛ける。その後、同社内のマーケティング戦略立案支援、ウェブ解析の導入・活用促進に携わった。2008年にオムニチュア入社(現アドビ)。2009年アドビによる買収にともない現職。エンドユーザーとしての経験を活かし、現在は企業のオンラインマーケティングを成功に導くためのコンサルティング業務を担当している。

 

UNITE編集部


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