この記事を共有する:

- 1 三井住友カードのデジタルマーケティングを支える組織とは?(後編)
三井住友カードのデジタルマーケティングを支える組織とは?(後編)
2016年05月26日
前編では三井住友カードのデジタルマーケティングを支える、ネットビジネス事業部の佐々木丈也部長に組織の変化やエグゼクティブとの関係について聞いた。
その続きとなるこの後編では、組織編成の意図や部門間のコミュニケーション、また人材について伺う。
(聞き手:アドビ グローバル サービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 安西 敬介 )

三井住友カード ネットビジネス事業部 佐々木 丈也部長
(安西)組織を編成していくなかで、「Webマーケティングチーム」とメール配信を行う「プロモーションチーム」を同じグループにしましたが、その意図はどんなところにあったのでしょうか?
(佐々木)プロモーションチームは、これまで営業からの要望によってメールを出しているチームでした。
(安西)当初のマーケティングチームと同じ「受け身」の組織だったわけですね。
(佐々木)そうです。しかし、これにより顧客からのメールへの反応低下が進んでしまったんです。Webの明細閲覧を増やして、紙の明細を見る人を減らしていくことや、メールを増やしてコールセンターへの問い合わせも減らしたいという方針があったにも関わらず、プロモーションのメールだけが送られてしまっていました。
そういったなかで「なぜメールが開封されないのか?」「なぜサイトに誘導できないか?」を改めて考え、ただメールを送るのではなく、そのパフォーマンスを上げ、各部門の施策が効果的になるようにしていかなければならないと考えました。
私たちがマーケティングをしていくために、メール配信においても当事業部の意思を入れられるようにしたかったんです。
(安西)マーケティングチームと一緒になることで、相乗効果を期待したのですね。
(佐々木)そうですね。今後、良い形で影響を与えてくれればと考えています。ツールの導入により、顧客がメールから流入した後のサイト行動が追えるようになったので、それをきちんとメール配信にも活用していきたいと考えています。早く各営業部に「違うよ、データはこうだよ」と言えるようにしたいですね。
(安西)メールチームに変化はあったのでしょうか?
(佐々木)以前、当事業部は、メール配信は行うものの、プロモーションの中身を企画する権限や、各部門が実施したいことの優先度などを決める権限を持っていませんでした。
しかし、データに基づき判断を行うという能力を各部門に還元し、全社的なパフォーマンスを上げることを目的に、このチームを組成し直したことで、Webチャネルでのプロモーション施策の決定権限を保有するようになりました。
ここ数年、メールプロモーションは非常に見直されており、マーケティングオートメーションという単語によって、統合的なコミュニケーションの中核の1つとして位置づけられるようになってきた。
三井住友カードにおいてもマーケティンググループとして、Webサイトやモバイルを見ているチームとメールの配信を行うチームが一緒になったことは、まさにこの流れにそっていると言える。
「提案型」になった部署間のコミュニケーション
次に、これまでの話の端々に見えていた部門間のコミュニケーション、組織を支える人材について聞いてみた。
(安西)マーケティンググループを通して、社内での部署間のコミュニケーションや関係は変わってきているのでしょうか?
(佐々木)以前はあまりなかったのですが、私たちの事業部から各関係部門に提案できるようになってきています。
例えば、別の部門が運営しているサイトに対しても実施できる施策の提案を行っています。経験が増えたことで、ネットビジネス事業部のナレッジを提供できるようになり、部門間連携もできるようになってきています。
(安西)経験値がたまったことが大きいのでしょうか?
(佐々木)これまでは「この仕事は◯◯部がやることがだから…」となっていたものが、「こんなことやらない? あんなことやらない?」と他部署に提案できるようになりました。これはまさに経験値が増えてきたからだと思います。
また、Webから得られるデータを、きちんとマーケティングデータとして活用するということを各部門が考えるようになってきました。その活用のために当事業部と共存していく必要性も感じてもらえているかもしれません。
立ち上げ期に求められる人材とは
(安西)人の部分について質問をさせてください。ツールの導入から2013年までは1名から2名でチームをまわされています。やはり、その方のスキルも現在の状況を作り上げる上で重要だったのでしょうか?
(佐々木)最初に担当になった人は、異動したばかりということもあり、リソースに少し余裕があったというのが正直なところです。しかしながら、その担当者がもともとテクノロジー的なバックグラウンドやWebに関する感度が高かったということは大きいかもしれません。
(安西)感度とは情報感度でしょうか? テクノロジー感度でしょうか?
(佐々木)どちらも必要だと感じています。どんなに忙しくても外に情報を取りに行くことが大切ですし、同時にテクノロジーの話もある程度、理解できることが求められます。これが両立できる人材は他にいなかったかもしれません。
(安西)「この担当者だったからこそ、ここまで部署が成長できた」と感じているスキルや人柄はありますでしょうか?
(佐々木)現在の担当者はもともとコールセンターの運営企画を担当していました。それによって培われたものの考え方、ネットの感度、業務知識などがうまくあいまって、現在の部署の業務に転換できていると考えています。
(安西)コールセンターの業務が「顧客視点」という意味でも役立っているのでしょうか?
(佐々木)その人はコールセンターで顧客の生の声を聞いていたわけではないのですが、顧客の声を反映していきたいという気持ちがあったので、直接顧客の声を聞く受電担当者から意見を集めやすかったのだと思います。
(安西)立ち上げ期に関わる人は非常に重要ですね。
(佐々木)ツール導入時は、システムまわりに苦手意識がないという部分が非常に役立っていたようです。また、導入後は関係者を巻き込むリーダーシップをとれる、という部分が非常に大きかったと感じています。
(安西)チームメンバーを増やすなかで、欲しい人材像というのはどのようなものでしょうか?
(佐々木)ネットビジネス事業部では、カード業務の知識よりも、Webマーケティングの経験や分析ツールを使ったことがある人材を中途で採用しました。
当時の担当役員も人事部に働きかけを行っており、Webの知識があれば、カード業務は入社後に覚えていけば良いという方針を伝えていたようです。スピード感が必要となるこの業界においては、外部から専門知識を持つ人材を入れていくのが良いかもしれません。
CoE(Center Of Excellence)を作っていくために、どのようなスキルを持っている人間をアサインするかはとても重要だ。特に、テクノロジーもある程度理解し、顧客の立場にもなって考えられる人材やリーダーシップをもって社内の調整を行える人材はキーパーソンになるだろう。
三井住友カードの場合もしかり、このようなバックグラウンドを持った担当者がいたことで、プロジェクトの推進、関係部署とのコミュニケーションが進んできたと言える。
今後について
(安西)最後に、佐々木さんが考える、理想的なネットビジネス事業部の今後とは、どのような形なのでしょうか。
(佐々木)マーケティングチームで企画していることを、きちんと業務に落とし込めるようになるということが重要だと考えています。
今後、Webサイトのリニューアルなども検討しています。リニューアル後については、マーケティンググループがデータを理解し、活用することを通じて、我々の事業のさまざまな箇所で貢献していくことが重要と感じています。
(安西)データを活用した組織を作っていくのですね。
(佐々木)そうですね。顧客の状況にあわせて、案内やプロモーションを実施していくといった、人それぞれに合わせた出し分けをしていくことが重要と考えています。そのためにデータマーケティングに関わる人を増やすこと、在籍している人材のスキルを高めることで組織を強くしていくことが重要だと考えています。
これまでの活動を通して、お客さまが当社に何を求め、何を期待されているのかということが少し見えてきました。企業サイドの理論で商品やサービスを提供するのでは無く、顧客の視点に立ち、顧客の期待に応えていくことの重要性を改めて感じています。そのため、今後は弊社のWebサイトを通じて、お客さまが真にやりたいことを「楽しく」、「心地よく」実現できるかどうかを重視し、顧客体験価値を提供し続けることを注力目標としています。
また、現在の取り組みが自社ドメインのどこに寄与しているのかを、もっと定量的効果で可視化できるようにしていきたいですね。Webサイトをリニューアルしたことで「収益効果がこのぐらいあった」などの明確化できたら良いなと考えています。
担当役員はもちろんのこと、当社トップから現場で働く社員まで、もっとWebの重要性を理解してもらうために、事業ドメインに紐づいた指標を整理していきたいですね。
(安西)本日は非常に勉強になる話を聞きました。ありがとうございました。
(佐々木)ありがとうございました。
話を聞いていくなかで、佐々木さんは社外的・社内的に非常に明確なビジョンを持っていることを感じることができた。さらには、それを実現するためにご自身のリーダーシップを大いに活用している。
また、エグゼクティブスポンサーの重要性を改めて感じた内容でもあった。関係部署が多くなりがちなデジタルマーケティングの分野において、三井住友カードにでは、エグゼクティブに理解してもらい、サポートしてもらうことで、戦略的に大きな決定、部門間の調整、人材の確保などを実現している。
既出の記事で、デジタルマーケティングを進めていくために重要なL3PS(Leadership/People/Process/Product/Strategy)について触れたが、三井住友カードはまさにこれをバランスよく持ち、進めている。それによって組織として非常に成長しているのを感じることができた。
インタビューの前半である今回は、Web解析ツール導入に伴う組織の変化やエグゼクティブとの関係などについて聞いた。これまで行っていた勘に基づく施策を、データ重視型に変えたことで、部門としての立場も変わり、また、チームのモチベーションに良い影響を与えているのは非常に興味深い話だ。
また、エグゼクティブとのリレーションの強さが印象的だった。このリレーションシップを基点に社内の文化も変わってきているように感じる。社内全体にデータ重視型の雰囲気ができあがることは、デジタルマーケティングを推進していく上で非常に重要なポイントとなる。
三井住友カードの躍進はこういった社内文化が形成されてきていることも背景にあるのだと感じることができた。
インタビュー後編では、チームの統合や他部門との関係、人材や今後の展望などについて聞いてみたいと思う。

アドビ
グローバルサービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 シニア コンサルタント安西敬介
2001年に国内大手航空会社のシステム子会社に入社後、コンテンツディレクターとしてサイトリニューアルなどを手掛ける。その後、同社内のマーケティング戦略立案支援、ウェブ解析の導入・活用促進に携わった。2008年にオムニチュア入社(現アドビ)。2009年アドビによる買収にともない現職。エンドユーザーとしての経験を活かし、現在は企業のオンラインマーケティングを成功に導くためのコンサルティング業務を担当している。
UNITE編集部
関連資料