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- 1 コンテンツ創出を加速せよ:消費者に届ける体験を最適化するために、企業がすぐできること
コンテンツ創出を加速せよ:消費者に届ける体験を最適化するために、企業がすぐできること
2016年06月27日
現代社会を生きる私たちは、日常的に膨大な量の情報に接している。テレビ、広告、店頭ポップを通して届く情報はもとより、デジタル化の加速によりweb、動画、ソーシャルメディアなどを通して、情報に触れる機会は格段に増えた。
デジタル化が進むにつれ、消費者は自身の興味にぴったり合った情報だけを欲しいと考えるようになっている。しかし、企業がその期待に応え、パーソナライズされたサービスを用意するには莫大なコストや労力、時間がかかってしまう。そのため多くのブランド企業がコンテンツ開発の壁にぶつかっているのが実情だ。事実、デジタルコンテンツの重要性が増す中75%の企業が、ここ3年間で同じ予算と人材でコンテンツを作ることにプレッシャーを感じており、91%の企業が自社のデジタル戦略が果たして効果があるのかが分からないと感じている。
また、コンテンツ提供において同じく重要なのがスピードだ。消費者が欲しい情報をタイムリーに用意できなくては、コンテンツ開発に時間をかけても意味がない。顧客が求める質の高いコンテンツをスピーディに提供するために企業は何をすべきなのか。
デジタル化は急速に進んでいる
では、実際に消費者の生活は、どこまでデジタル化しているのだろうか。調査結果を見てみると、消費者1人が1日当たりに利用するデバイスの数は2.3個。そして、1社が顧客とコミュニケーションをとる顧客接点はwebサイトとモバイルアプリを通じて、268にも及ぶ。企業があらゆるスクリーンを通じて顧客とつながるためには、この膨大な量の顧客接点を通じた継続的な顧客体験を提供しなくてはならない。
このような状況を苦しいと感じる企業は少なくない。85%の企業がコンテンツと施策の制作においてスピード向上を求められていると感じている。また、コストの負担も増えている。チャネルの多様化により71%の企業が、これまでと比較して10倍以上ものコンテンツ制作を強いられている。
このように、いまだに多くの企業が、最適なコンテンツを最適なタイミングで消費者に届けることの重要性を理解しつつも、実行に移すのに苦戦しているのだ。
Content Velocityの実現のためには
「いま企業に必要なのは、より多くのコンテンツを迅速に作り出し、適切なターゲットに届け、パフォーマンスの結果につなげること。アドビではこれを、Content Velocityと呼んでいます」と話すのは、Adobe Experience Manager部門を率いる、プロダクト&インダストリーマーケティングディレクターのロニ スターク氏。デジタル化が進む市場環境の中でContent Velocityの重要性はもはや無視できないものだと言う。

消費者のデジタル体験を豊かにするために、1人1人にパーソナライズされたデジタルコンテンツを届けるには、webとモバイルアプリのデータ、店舗内の顧客の動向を観察して得たデータなど、あらゆる顧客接点を横断した統括運営が必要となる。そのためにはCEO、CMO、マーケティング、ITなど、組織全体で取り組むようなアプローチが不可欠だ。従来の縦割り組織でコンテンツ開発を行っていては、Content Velocityは実現できない。
「その実行の鍵となるのは、デジタル基盤の整備です」とスターク氏は言う。企業がしっかりしたデジタル基盤を作ることで、会社が持つ全顧客データをつなげ、顧客に一番ふさわしいコンテンツを届けるための一貫したデジタル施策を打つことができるのだ。
例えばグローバル企業として名高いインテルの場合、デジタル基盤としてAdobe Marketing Cloudを導入している。ここで特筆すべきは、インテルがマーケティングコンテンツだけでなく、商品情報などの技術的なコンテンツもデジタル基盤に集約していること。消費者は常に最新のコンテンツを求めており、商品の発売のペースが速くなれば、それに合わせてその商品の最新情報もスピーディに届けなければならない。しかしAdobe Marketing Cloudを活用することで、コンテンツを効率的に管理し、消費者が求めている情報を瞬時に届けることが可能になったという。また、顧客の商品購入データも取り込むことで、購入された商品の情報だけでなく、他に勧めたい商品も効率よく紹介できる。
またアメリカのスターバックスコーヒーでは、誰でも持っている「朝にコーヒーを飲みたい」という欲求に対し、クレジットカード支払い機能やポイント制度、さらに事前にドリンクを注文しすぐにテイクアウトできるという機能がついたモバイルアプリ(※)で応えた。つまりコンテンツにより、朝のコーヒータイムをより満足度の高い顧客体験に繋げることに成功したのだ。
(※日本でも一部機能を持ったアプリが2016年5月にリリースされた)
さらにデジタル基盤を整えることは、最適な情報を最適なターゲットに届けることも可能にする。スポーツウェアを販売するUnder Armourは、カタログをデジタル化することでパーソナライゼーションを可能にした。
営業担当が店舗に出向く際、以前は共通の印刷物のカタログを持って訪問をしていた。しかしいまはデジタル化したカタログに置き換えている。これを使うことで、各地域に適したラインアップを提案している。例えば、海に近い地域の店舗向けにはカタログに水着のラインアップを増やし、スキー用品を省く。このように地域によって異なるコンテンツを用意し、適切な商品情報を顧客に届けることを実現したのだ。
もちろん予算の確保などの問題から、まだ理想的な形でのデジタル基盤の導入まで実現できない企業も多いかもしれない。その場合、まず顧客のデジタル体験がどこで起きているかを測るなど、小さなステップから始めるべきだとスターク氏は言う。例えば、Adobe Experience Managerなどで得られる基礎的なデータ分析ツールを使用し、ユーザーの行動を分析する。そこでモバイルアプリの使用頻度が低いとすれば、それは「使いにくいから」といった理由をいくつか推測できるだろう。そうした気づきから、企業は顧客の視点に立って顧客体験を改善することができ、効果的なContent Velocityへの一歩を踏み出せる。
組織のチームワークを効率化させる「教育」の必要性

「車が発明される前、主な交通手段として使用されていたのは馬でした。しかし馬で『時速100kmを出せ』と命じられても、その実現はなかなか難しいでしょう。つまり馬の乗り方しか知らなければ、対応ができないのです。しかし車ならば可能。車の乗り方を知っている社員は時速100kmを実現できるのです」とスターク氏。つまりContent Velocityを加速させるには、デジタルテクノロジーという「車の乗り方」を学べばよいのだ。
またスターク氏はこうも続ける。
「Content Velocityを実現するためには、組織全体での取り組みが不可欠。組織内外のマーケティング、クリエイティブ、商品開発、セールス、システム、顧客対応など『違うスキルを持つ人同士』が会社の未来を担う仮想チームを作れるよう、リーダーは教育と研修を実施するべきです」。
Content Velocityを通じ、顧客に一貫した顧客体験を提供するためには、各部署がバラバラに動くのではなく、一体となってコミュニケーションをとっていくことが必要だ。共通認識を持つために、上述の「車の乗り方」をメンバーが学べるような教育プログラムは欠かせない。例えばアドビでは、Adobe Marketing Cloudのようなツールを活用できるように、デジタルマーケティングのコースや教育研修を企業に提供している。そうした制度を積極的に活用することも、Content Velocityに向けて組織の成長を早める1つの手だろう。
「必ずしもリーダーシップをとるのがマーケティング担当者である必要はありません。それよりも、組織の中で顧客に一番近いのが誰かを中心に考えることが大切です。これまでは企業のCMOが、広告をはじめとする部署を配下に持っていましたが、ソーシャルメディアの普及などにより、消費者のブランド認知はひとつの窓口からだけではなくなりました。消費者の声を理解できる素養のある人を立てることも、企業が成長するための手です」(スターク氏)。
デジタルを利用することで、グローバルな存在感を増すことができる
デジタル化へ積極的に取り組む企業と、そうではない企業の差はこれから5〜10年で明らかになってくる。いま、企業は一刻も早くデジタル化に向けて動き出さなくてはならない瀬戸際に立っていると言えるだろう。
スターク氏は、「日本のような島国では特に、デジタル化こそが企業がグローバルな存在感を増やすための良い手段」であると語る。
例えばある企業は、進出を検討している地域での存在感を高めるために、進出前にその地域向けのwebサイトを制作。サイトを通してヴァーチャルに進出することで、事前に現地のデータやメールアドレスの収集が可能となり、新店舗を出すにあたっての判断基準とすることができた。
既に、ブランド認知度の威力だけに頼っていられる時代ではない。企業は市場の変化のスピードに合わせるか、あるいはそれ以上に変化しなければ、顧客を満足させることができないだろう。
その企業変革の重要性を、スターク氏は自身の経験として実感している。
「アドビのCEOが5年前に『これからの時代はクラウドが主流になる』と言い始めた時、社内の賛成者はごくわずかでした。既にデスクトップのソフトで成功していたのに、クラウドという真逆のものをなぜやりたいのか、と社内でも反対意見が出ましたが、結論としてCEOは正しかったのです」。
5年前、まさかクラウドがここまで主流になるとは、誰も予想していなかっただろう。しかし、より迅速に行動することが成功につながることの大切さをアドビのCEOは証明したのだ。
一見、Content Velocityの実現はハードルが高いものに感じる。しかし、企業は尻込みをしている場合ではない。統計によると2020年に企業と顧客の間のコミュニケーションに人が介在しない確率は85%であり、2016年現在、顧客体験によって競争に優位性が生まれる確率は89%である。アプリによるトランザクションは現在41兆にものぼり、躊躇(ちゅうちょ)していては手遅れとなる。
スティーブジョブズは、「まずは顧客体験の向上からスタートし、そこにテクノロジーを合わせなくてはいけない。その逆ではだめだ」と言った。最適な顧客体験を提供することを最優先にした企業が競争を勝ち抜いていく。正しいツールを正しく取り入れれば、人材と予算を適切に配分しながらデジタル化を推進し、Content Velocityを実現することは可能だ。デジタル化はまだ多くの人にとって新たな分野だが、まずはデジタル基盤作りから始め、学びながら体験していこう。
UNITE編集部