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- 1 マーケティング戦略の今後を左右する3つの分析トレンド
マーケティング戦略の今後を左右する3つの分析トレンド
2016年07月05日
【POINT】
- データ周りのインフラ整備よりも重要なのは、分析などのデータサイエンスへの投資
- コンテクストベースのマーケティングが2016年から伸びるだろう
- IoTによる未来予想図を実現するには、プライバシーに関する懸念を払拭することにある
フォーチュン500企業(※)のある戦略担当役員(CSO: Chief Strategic Officer)に話を聞いたところ、彼は「今年はデータ周りのインフラ整備よりも、分析などのデータサイエンスの分野に注力する」と言っていた。
また、ある通信大手のCEOは、データベースの統合やデータマイニングツールの導入など、ビッグデータ関連に投資するよう指示したものの、まだ投資の成果は見えてきていないという。
最近の調査によると、データ分析を担当する経営幹部の4分の3が、ビッグデータに関するプロジェクトのROIは1%以下だと報告しているらしい。
これは一体どういうことなのだろう?
※フォーチュン誌が年一回発行する全米企業売上ランキングの上位500社
データインフラ? いや、データサイエンスだ!
われわれは今、「ビッグデータ黎明期」の終わりに立っている。この「黎明期」というのは、私の見立てでは、19世紀中盤に起きたゴールドラッシュの初期段階に相当する。
企業はいつも、本業での真っ当な成長と採算の両立というプレッシャーに直面している。だから、ビッグデータ分野への投資をするときには「自分たちが持っているデータのなかには、予想外の利益をもたらしてくるものがあるだろう」という希望を持っているのだ。
しかし実際には、そううまくはいかない。
「このデータとこのデータを結びつけたら利益になるかもしれない」と思っていたものが、実は期待はずれだった、あるいは、最初はうまくいったのに次はダメだったなどというように、当てにならない可能性もある。
だから私は、このような現状を、ゴールドラッシュのようだと感じるのだ。
「あの砂漠に金脈がある」という噂が広まると、シャベルやつるはしを持った人々が大挙して押し寄せ、活気にあふれた町ができあがる。しかし「もう掘りつくされた!」とか「結局、金脈なんて全然見つからないじゃないか!」という声があがるにつれ、ゴーストタウンとなってしまう町も出てくる。その後、このような失敗や失望を経て、人々の関心はゴールドラッシュで成功した人の話と、いかにその成功談を応用するかに向いていく。そして、ここにいたってようやく「こうすればうまくいくのかもしれない」という、根本的に必要なものが見えてくる。
ビッグデータ活用というゴールドラッシュは、今まさにこの段階にあるのだ。
それを踏まえていうと、冒頭で紹介したフォーチュン500企業のCSOのノウハウを学ぼうとするCMOには、成功のチャンスがあるだろう。つまり、こういうことだ。
- データ周りのインフラ整備よりも、分析などのデータサイエンスを優先すべき
- CMOにとって価値のあるデータを見出すには、高度な数学の知識が必要である
- 関連技術への投資をする際には、事前に入念な準備や調査を怠らない
こうしたことを、きちんと実践しなければならない。
リアルタイムな「動的」マーケティングに勝機あり!
いくつものマーケティングのテクノロジーにより、リアルタイムで「動的」なマーケティングが実現している。マーケターにとって、モバイルのパワーを活用して消費者とコミュニケーションを取ることは、いまや当然のことだ。
このような状況にあって、モバイルを利用する消費者と企業が接点を保つための技術が、テクノロジー企業から提供されている。しかも消費者のセキュリティとプライバシーは保護される。一方で消費者は、全体的にセキュリティは重視しているが、若い世代ほどプライバシーより利便性を重視する傾向にある。
これらを見てみると、コンテクストベースのマーケティングが2016年から伸びると思われる。その典型的な例が位置情報技術の広がりだ。この技術を利用すると、消費者がある場所を通過するタイミングに合わせて、モバイル端末におすすめの商品やサービスの特価情報を表示させることが可能になる。つまりマーケターは、消費者のタイミングとコンテクストを活かしたプロモーションを、リアルタイムに実施できるようになるのだ。
わかりやすい例をあげてみよう。
たとえば、位置情報と連動するビーコンが空港ターミナルに設置されているとする。そうすれば、搭乗が始まってからでも、航空会社のマイル交換や現金決済により、その場でファーストクラスやビジネスクラスの残席をオークションにかけることができる。
また、ドーナツチェーンのように、賞味期限が短い食品を扱うレストランであれば、登録済ユーザーが店の近くを通りかかったとき、賞味期限が迫っている商品を安い価格で紹介することができるだろう。
もっとも、こうした新しいビジネスが普及するには、リアルタイムでサービスや価格が変わっていくというサービス形態に、消費者にも慣れてもらわなくてはならない。
すでに、モノやサービスは同じでも均一価格とは限らないという実例はある。航空会社がそれだ。
飛行機を利用する場合、同じクラスのシートであっても、全員同じ料金を支払っているということはあり得ないし、乗客の誰もがそのことはわかっている。しかし不思議なことに、隣に座っている乗客と「いくらでチケットを買いましたか?」と話題になったという話は聞いたことがない。チケットの価格はみんな違っていて当然であり、それを不公平だとは思わないからだ。
今後は、この飛行機のケースのように、得意顧客用のロイヤルティプログラムに加入しているかどうかに関わらず、一人ひとりが違う価格と条件で購入する製品やサービスが急激に増えていくだろう。
すべては、人間の感情や行動と同じように、常に変化を続けるようになる。リアルタイム分析という最新のデジタルテクノロジーによって、人間らしい接客ができるようになったというのは、皮肉なことだ。
現実に近づくIoTで成功するポイント
もうひとつ、2016年のトレンドとして、IoT(モノのインターネット)があげられる。「IoT? 何を今さら! ここ何年もトレンドリストにのっているじゃないか。なにも今年だけが特別ではないだろう」と思うかもしれない。
まあ落ち着いて聞いてほしい。
今やネットにつながっているのはモバイル端末やコンピュータだけではない。テレビ、自動車、エアコン、人に反応するセンサーライト、そして家電ですらネットにつながっている。そうした「スマート」機器は、ネットを通じて自動的に作動する。
うかうかしていると、そのうち冷蔵庫が勝手に夕食の献立を考え、必要な食料を注文するようになるだろう。冷蔵庫が「冷蔵」という本来の仕事を忘れないことを願うばかりだ――。
と、こういう未来予想図的な話はもう何度も聞いている気がする。それなのに、なぜその未来はまだ実現していないのだろう?
ここでまた、セキュリティの問題に戻ることになる。プライバシーに関する情報を安心して提供できる相手は誰なのか? スマート端末やスマート家電を開発したメーカー? 商品を販売した小売業者? それとも政府?そのどれもがセキュリティに関しては前科持ちなので、答えは「NO!」だろう。
ミレニアル世代なら、ほかの世代にくらべてプライバシーの保護にはあまり厳しくはないものの、まだ市場の大多数を占めるにいたっていない。その他の世代の理解を得るためにセキュリティ問題の解決は必須なのだが、ミレニアル世代以外の人々にとって、安心してプライバシーに関する情報を預けられる相手は、残念ながらまだ存在しないのだ。
現在、IoT技術の専門家は、分散データセキュリティの枠組みを通して、この問題に懸命に取り組んでいる。ビットコインやiPhoneのことを考えてみよう。
パスコードは一種類しかない。そしてそれは、モバイル端末のなかにあり、中央で管理されている記録のなかにはない。別のコピーがあるとしたら、それはユーザーの脳のなかだ。このシンプルな原則に基づくセキュリティシステムが、IoT商機の要となっている。
リアルタイム分析の観点から言えば、消費者の日常的な行動をより深く理解できる情報がIoTによって得られるだろう。膨大な数の端末がデータをやりとりすることにより、データの収集、保管、分析のニーズも増大している。
企業は、消費者による自社製品の使用頻度をリアルタイムで知ることができるようになるだろう。たとえば、コーヒーメーカーや家電の利用状況などだ。
しかしさらに劇的な変化は、人々が、職場以外の場所で、どこでどのように時間を過ごしているかがわかる点だ。
もちろん、ネットにつながったデバイスが増えるにつれ、消費者はプライバシーの侵害を懸念するようになるだろう。そこで大切なことは、まず初めにこのようなサービスを試そうという人々に安心感を与え、まるで人と機械の戦い(あるいは、個人と企業の戦い)のような印象をもたれないようにすることだ。それが、このプライバシーに関する問題を回避するうえでの一助となるだろう。
(2016年4月4日 CMO.comの記事より)
John Kelly(Berkeley Research GroupのPredictive Analytics 部門の責任者)
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