顧客に向いた組織づくりのために、CMOは何をすべきか

2016年07月07日


【POINT】

  • 顧客が望むものを望むときにタイミングよく提供するには、適切なテクノロジー基盤が必要であり、また組織のあり方も大きく変わらなくてはならない
  • 様々な困難が待ち受けているが、顧客を知るマーケターこそが組織変革の原動力となるべきだ
  • マーケターの結束を強めるのは、顧客に愛されるブランドをつくりたいという情熱だ

CMOにとって重要なことは「顧客を満足させること」である。これに異論のあるCMOはいないだろう。そしてその実現のために必要となるのは、より早く、よりよいサービスを、より顧客に合うように提供できる組織的な能力だ。

これを実現するためにネックとなるのは、テクノロジーではない。本当に難しいのは、古いしがらみにとらわれた、社内のしくみを変えることにある。そしてCMOに求められているのは、こうした組織変革の原動力となることなのだ。

リサーチ会社のEconsultancyとAdobeでは、マーケターを対象に2016年の優先事項を尋ねる調査を行った。その結果、上位を占めた回答は「顧客体験の最適化」だった。

大多数のマーケターは、現代の消費者を満足させるためには、製品のみならず良質な顧客体験を提供することが重要だということをはっきり理解している。ただ、そこで問題になるのは、求められる顧客体験のレベルが高くなり続けていることだ。

少し前までは、待ち時間が少なかったり、接客態度が快適だったりと、ごく当たり前な期待に応えていれば(もちろん、価格が適正であることもそこに含まれている)、すばらしい顧客体験を提供できているとされていたものだ。しかし、この調査の結果わかったのは「顧客は、よりパーソナライズされた顧客体験をも望んでいる」と多くのマーケターが感じていることだ。

もっとも、これは特に驚くべきことではない。ごく普通の消費者の1日を考えてみれば、すぐにわかるだろう。自動車を運転していて、あたりが暗くなると車は自動的にライトをつけてくれる。行きつけのレストランへ行けば「いつものエスプレッソですか?」と、自分の好みをわかっているウェイターがいる。そしてアマゾンにログインすれば、すぐに閲覧履歴が表示される。

顧客は、望むと望まないと関わらず、ブランド企業と日々やり取りを続けているわけだが、その態度にも変化が起こりつつある。数年前なら、何度も届く銀行からのダイレクトメールに対して「またか……」と我慢していた顧客も、現在では「私は融資の案内なんか要らないのに。まだ分かっていないのだろうか?」と反応するようになっているのではないだろうか。

そう、つまり企業にとって、「自分のことをわかってくれていると顧客に感じてもらうこと」が重要なのだ。

パーソナライズされた顧客体験を実現するのは簡単なようにも思えるが、実はそうではない。顧客が望むものを望むときにタイミングよく提供するには、ふたつの変革が必要となる:

  • 適切なテクノロジー基盤を整備すること
  • 組織のあり方を大きく変えること

前述の調査で「最適な顧客体験を提供するために必要なことは?」と聞かれたマーケターたちがこう回答しているのも、もっともなことだ。

「何が必要かって? それは、戦略、長期的なビジョン、計画、そして経営幹部によるしっかりしたサポートだ」。

これらのキーワードをよく見れば、最適な顧客体験を産み出そうという取り組みがどのようなものかわかるだろう。その影響は広範囲にわたり、中長期の時間軸を必要とし、そして経営トップによる支えが必要となる全社的な計画なのだ。

組織を変えるリーダーとなるために

私は最近、マーケターによる自社の変革推進とその問題解決をテーマとした、異業種間CMOワークショップを開いた。そこでのCMOたちは誰もが、変革を進めることは難しいと感じていた。その理由として以下のようなことが挙げられた。

  • 顧客体験の向上が会社の業績アップにどう関係するのかを証明するのが困難
  • マーケティング部門に権限がない
  • CMO自身がいくつもの優先度の高い課題に追われている(たとえば、常に進化を続けるテクノロジーに追いつくための勉強など)

こうした困難を抱えている一方で、マーケターが組織変革の原動力となるべきだという点については、多くの業界のCMOで一致している。

しかしもったいないことに、CMOの多くが、変革を進めるためのリーダーとして自らが持つ可能性の大きさに気づいていない。私たちのチームでは、今秋出版予定の「マーケティングリーダーが持つ12のパワー(The 12 Powers of a Marketing Leader)」のなかで、CMOを対象にした詳細な調査を行った。その中から、マーケターが組織変革を成功に導く秘訣として、3つのヒントを紹介しよう。

変革へのヒント1:変革を促す説得力のあるデータを用意する

何よりも重要なのは、顧客データだ。当然のことだが、顧客の意見を無視する経営幹部はいない(たとえ顧客の声に耳を傾けないような幹部だとしても、いつまでも無視を決め込むわけにはいかないだろう)。ただし、変革を進めるための根拠として顧客データを使うには、忘れてはいけないことがある。それは、顧客データが、幹部が関心を持つ重要事項(例:売り上げや利益)と明確に関連があると理解してもらうことだ。説得力のあるデータがあれば、変革の必要性をトップに納得してもらうことは、ずっと容易になる。

変革へのヒント2:自分たちが変わることで顧客に何を提供できるようになるか、ビジョンを語る

マサチューセッツ工科大学のジョージ・S・デイ教授によると、自社の将来的なビジョンを示すことがCMOの使命であるという。より優れた顧客体験を実現するためには、まず社員自らが変わっていくことが必要だ。しかし、変わるべき社員の多くは、営業やコールセンターなど、顧客接点となるマーケティング以外の部署で働いている。たとえCMOであっても、部署が異なる彼らに対して、上から変革を強いることは難しい。しかし、だからといってあきらめることはない。マーケターには、変革を強制する権威よりも有効な武器がある。それは、「顧客を主人公とする説得力のあるビジョン」を語る力だ。たとえば「〇〇を提供して顧客の食生活をより健康的なものにしたい」「我われが〇〇をすれば、子供たちにより明るい未来を残すことができる」などのビジョンを展開したCMOは、社内的な賛同を得ることに成功している。

変革へのヒント3:自らの情熱で人の心を動かし、組織変革を進める

組織変革を進めていく道のりは、困難なものになるだろう。華やかな仕事のように見えて、実際には、果てしなく続く難しいミーティング、さまざまな障壁、そしてときには真っ向からの拒絶にも直面する。このようななかで忍耐強く変革を推進していくには「理想の未来を実現する」という夢をあきらめないリーダーが必要だ。マーケターの結束を強めるのは、顧客に愛されるブランドをつくりたいという情熱なのだ。

組織変革を進めるためには、CMOが示すデータの説得力ももちろん大切なことだ。しかし結局のところ、真の意味で人を動かす力があるのは、顧客を喜ばせたいというCMOの情熱なのだ。

提供すべき顧客体験は、常に変わっている。だからこそ時代のニーズに合った対応をするには、CMOが先頭に立って、必要な組織変革を進めていかなかければならない。CMOにはそれだけの力があり、また、それを推進するのがCMOという地位にある者の役割なのである。

 

(2016年4月29日 CMO.comの記事より)
Thomas Barta(CMO Leadershipソート リーダー、基調講演者、作家)


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