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- 1 小売企業変革のヒント:デジタルマーケティングの価値を引き出すには
小売企業変革のヒント:デジタルマーケティングの価値を引き出すには
2016年07月12日
【POINT】
- モバイルは、デジタル体験と実店舗をつなげる重要な役割を担う
- 一流のブランド企業は、アセットとコードを再利用することにより、チャネル全体で一貫したマーケティング手法を展開する
- 成功する小売企業は、目まぐるしく変わるデジタル環境において、データを利用して変革をさらに推進する
大多数の小売企業は、ビジネスをデジタル化する必要があることを認識している。しかし、デジタルマーケティングの価値を正確に理解することは難しく、企業はデジタル戦略やリソース、予算配分において正しい選択ができなくなってしまうケースが多い。
小売企業ならば、以下に示す(1)~(4)の要点について対応を進めていくことが、デジタルの価値をしっかりと理解し、デジタル化に注力するきっかけになるだろう。
(1)顧客のモバイル化に対応する
イギリスのコンサル会社IPA TouchPoints5(英文)によると、イギリスでは、1週間のオンライン滞在時間の42%をモバイルデバイスが占めているという。
ご存知のとおり、大部分の成人はスマートフォンを所有しているため、モバイル向けのコンテンツや、モバイルデバイス向けに最適化したサイト、また適切なマーケティング予算をともなうモバイル戦略を実行することが重要ということがわかる。
しかし、モバイルデバイス上で開封されるメールの割合は過去3年間(2014年時点)で180%上昇した(EmailMonday 英文)にも関わらず、半数以上の企業は自社のモバイルメール戦略について、「基本的なことしか行っていない」(39%)または「戦略が存在しない」(22%)と回答している(EconsultancyおよびAdestra 英文)のが現状だ。
いま、モバイルメールを通じて消費者とつながる機会の重要性は、かつてないほど高まっている。さらにモバイルは、デジタル体験を実店舗と連動させるうえでも重要な役割を果たす。たとえば、次のようなことが考えられる。
- 消費者の位置情報に基づいたターゲティング
- 店舗にいる消費者に対するオンラインレビューの提供
- 実店舗の店員がスマートフォンを使い、製品や消費者に関する知識をCRMデータや在庫データなどから得ることで、店頭販売を促進
(2)一流のブランドになる
小売企業のマーケティング予算がますますオンラインに集中するなか、消費者の目を自社のブランドに向けることは、難易度を増している。
しかし、デジタルマーケティングツールをうまく使うと、マーケティングリソースを最大限に活用でき、次のようなことを実現できる。
- キーワード入札管理を最適化する
- 顧客獲得率を高める
- より魅力的なデジタル体験を提供する
- 顧客獲得率だけでなく顧客維持率も高める
愛されるブランドになるとともに、顧客生涯価値などの指標を改善するためにも、デジタルマーケティングツールが役立つのだ。
しかも顧客は、しっかりとオンラインに対応している小売企業を好み、探している製品や情報がすばやく見つかる、適切で魅力的な体験を期待している。一流のブランド企業は、蓄積したコンテンツを再利用するとともに、既存/新規の顧客データを活用して意思決定やターゲティングを最適化することにより、チャネル全体で一貫したマーケティングを展開している。
(3)顧客の力を活用して他の顧客に販売する
ソーシャルマーケティングにおいて、ユーザーのエンゲージメントと支持を高めるチャンスは膨大だ。
TwitterやFacebookに限らず、ブロガーにとって使いやすいPinterestやTumblrなど様々なプラットフォームが成長している。小売企業は、こうしたプラットフォームを自社サイトやマイクロサイトベースのコンテンツマーケティングと組み合わせることで、興味深い記事やコミュニティブログ、コラボレーションツールに消費者を関与させることができる。そして、消費者が関与すればするほど、ソーシャルコンテンツがさらにシェアされることとなる。
たとえば購買などの意思決定の過程では、消費者はすでに、企業の発信する情報などよりも消費者同士のレビューや評価の方に大きな信頼を置くようになっている。こうしたユーザーの変化をうまくとらえられれば、適切な訪問者をさらに獲得して、リーチを拡大したり、ソーシャルでの支持者やコンバージョンを増やしたりすることができるはずだ。
また顧客サービスの問題に対しては、ソーシャルメディアを通じて企業に問い合わせる顧客が増えており、こうした問い合わせにすばやく対応(苦情の場合は慎重に対処)することで、一貫したブランドメッセージや良質な顧客サービスを提供できる。
ちなみに2014年時点で、Twitterを通じて寄せられる顧客からの問い合わせにTwitterで直接回答できる企業は、イギリスの大手100社のうちわずか39社に過ぎないという。小売企業においては、このようなしかるべきところに重点を置いて投資することで、顧客の獲得率やロイヤルティを高められる絶好の機会だといえるだろう。
(4)自らのチャンスを理解する
データは、すべてのデジタル戦略の成功を支える基盤だ。
正確なデータが欠けていたり、データから意思決定に用いるビジネス上の知見を引き出すことができなかったりすると、「顧客の獲得」「リピート客とのやり取り」「顧客ロイヤルティ」「問い合わせプログラムの管理」まで、小売企業のあらゆる領域にマイナスの影響が及んでしまう。
さらに不正確なデータは88%の企業の利益に直接的な影響を及ぼしており、平均的な企業では結果として売り上げの12%が失われているという調査結果もある(Econsultancyが引用したExperian Data Qualityの調査 英文)。
理想として、1人の顧客のあらゆる側面に関するデジタルの知見(もちろんそれが実行可能である必要がある)と、データドリブン型組織の実務的サポートがあれば、小売企業が戦術的または戦略的なレベルでビジネスを成長させる大きなチャンスを見逃すことはない。 しかし、セールスおよびマーケティングリーダーの88%は、情報が不十分だったために機会を逃したことがあると認めたという(CSO Insights調査 英文)。
成功する小売業者は、目まぐるしく変わるデジタル環境においても、データをうまく使うことで、変革をより強く推進している。そうした体制が、デジタル戦略を進化させ、新しいツールやスキルへの投資価値を理解し、売り上げを最大化する新しいアプローチを導入する際の重要な意思決定に役立っているのだ。
もちろん、ここで紹介した(1)~(4)の要点は、それぞれが単独で価値をもたらすわけではない。すべての手法や考え方は、より大きな「デジタル」という車輪を構成するスポークなのだ。
小売企業がこうした時代に成果を挙げるには、チャネル全体でマーケティング活動を統合して進めるべきだろう。そうすることによって、顧客とのコミュニケーションをさらに合理化し、機動的かつ主体的なアプローチによって顧客に価値を提供できるのだ。さらに、その結果として、コスト削減や利益増加などの恩恵も得られるだろう。
(2014年9月30日 CMO.comの記事より)
Alison Evans(Adobe, Senior Business Architect, Business Value Consulting, EMEA)
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