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“優れた顧客体験の提供”は誰が担う? デジタルマーケティングを成功に導くための組織作りとリーダーシップ

2016年07月19日


【POINT】

  • 他企業との差別化の要因として、デジタルマーケティングの重要性が増している
  • CoE(Center of Excellence)のリーダーには、強い気概とエグゼクティブを巻き込む“根回し”または“調整”力が求められる
  • 初めから完璧さや大きな成功を追求するのではなく、早期にデジタルマーケティングの第一歩を踏み出し、経験/ノウハウを蓄積して競争力につなげることが大切である

今日、多くの日本企業の製品/サービスが激しい競争にさらされており、市場には同種の製品/サービスがひしめき合っている。しかも、多くの企業が事業の多角化に乗り出しており、結果として、業種/業態の境界線が希薄化し、特定のビジネスドメインに新たな競合が参入してくるケースも珍しくなくなっている。さらに、テクノロジーの進化とコモディティ化を背景に、製品そのものをはじめサービスの機能、性能、品質で他を圧倒すること、あるいは圧倒し続けることは非常に困難なのが現実だ。

こうしたなか、他社との差別化を図る手段として重視されているのが、「優れた顧客体験の提供」である。

例えば、現在、インターネット/Web、スマートフォン、ソーシャルメディアが人の生活やビジネスの中に深く浸透している。それらのテクノロジーを巧みに用いながら、顧客の快適さを追求した体験や、「幾度でも味わいたい」あるいは「他者と共有したい」と思わせるような体験を提供する。また製品、サービス、ひいては企業の競争優位を確立する──。そんな取り組みが必要とされているのである。

こうした顧客体験を提供するうえでは、「顧客が何を欲しているのか」「これから何をしたいのか」「自社や、自社の製品/サービスに何を求めているのか」を正確に、かつスピーディに捉えるが重要となる。とりわけ、スマートフォンの普及以降、人は「欲しい」、「見たい」、「行きたい」、「聴きたい」、「他者とつながりたい」といった欲求を、オンライン上で、しかもその欲求が生じた時点で充足しようする傾向が強まっている。

そんな変化に対応するには、顧客とのデジタルにおけるタッチポイントを通じて、「顧客の今」をとらえ、欲求を割り出し、欲求に合致した製品/サービスをすみやかに提案/提供することが必要とされている。

これまでも企業は、アンケート調査やCRM(顧客関係管理)の取り組みを通じて、顧客理解に努めてきた。だが、そうした取り組みの多くは、顧客の属性や過去の購買行動や嗜好といった静的な情報を頼りに顧客を理解しているにすぎなかった。

このような静的情報に基づいて顧客をセグメントし、販促メールを送付した場合、例えば、数日前に当該の商品を購入した顧客に同じ商品を勧めるといった無駄を生じさせかねない。顧客満足度を高めるどころか、結果的に優良顧客の離反を招きかねないのだ。その意味でも、リアルタイムに顧客の状況をとらえながら、適切な経路から適切なタイミングで、顧客のコンテクストに合ったメッセージを届けることが重要なのである。

デジタルマーケティングの大切さは分かっていても…

上述したような優れた顧客体験を提供すること、あるいは、それに向けてデジタルマーケティングを推進することの重要性は、多くの企業が認識し始めている。しかし一方で、デジタルマーケティングに向けた一歩が踏み出せていない企業も少なくない。大きな理由の1つは、デジタルマーケティングを主導する組織が不在であるためだ。

アドビのシニアコンサルタント安西敬介氏によると、経営戦略としてデジタルマーケティングを推進していくうえでは、全社的な視点から部門横断的に取り組みをリードする「中央専門組織「Center of Excellence(CoE)」を作り、そこに全社的な戦略策定/遂行の機能や知見(ナレッジ)、人材育成の機能を集約していくことが必要とされる(『デジタルマーケティングCoEの役割』参照)。というのも、さまざまなタッチポイントを通じて顧客体験の向上を目指す場合、例えば営業、マーケティング、ITなど、それぞれが独自のデータで顧客を理解するのではなく、部門をまたいで統合的に顧客を理解することが不可欠であり、そのためには部門を横断した、中央でのコントロールとガバナンスが不可欠だからだ。

ただ、CoEの必要性は分かっていても、実際にそれをどう組織するかを考えると、そこには相応の難しさがある。まずCoEのリーダーとして誰が適任なのかを判断するだけでも、デジタルマーケティングの経験が浅い、あるいは、ほとんどない企業にとっては難題なはずである。実のところ、「CoEのリーダーとして、どの部署のどの立場の人が適任か」に対する画一的な答えは存在しないのだ。

エグゼクティブスポンサーを得る

CoEの取り組みは社内的な「理解」と「協力」そして「投資」があって初めて成立するものだ。しかしデジタルマーケティングのコントロールやガバナンスを推し進める過程では、従来のビジネスフローを大きく変革させるケースがあるため、各事業部門からの反発や抵抗を受ける可能性がある。さらに会社からの投資を引き出すためには、エグゼクティブの理解も必要だ。

つまり反発を受けてもプロジェクトを推進する強い気概と、エグゼクティブを巻き込む“根回し”または“調整”力を持っていることがCoEのリーダーに求められる資質と言えるだろう。またエグゼクティブの理解と後ろ盾(エグゼクティブスポンサー)を得られれば、社内の理解も得やすくなる。

ちなみに、エグゼクティブスポンサーの主な役回りは、次の4つに集約することができる。

  1. Prioritization(プライオリティ付け):CoEのミッションと会社の目標とを擦り合わせ、一致させる
  2. Protection(プロテクション):CoEの戦略と各事業部門、あるいは部門間の利害関係が一致せず衝突が発生した際に、その調整役となる
  3. Problem-Solving(問題解決):人的リソースや予算上の問題など、CoEでは解決できない問題の解決に当たる
  4. Promotion(プロモーション):CoEの存在の周知と、成果に対する評価/表彰を行うなどCoEの社内的PR活動を展開する

エグゼクティブの協力をうまく得ることで、CoEの取り組みは円滑に進めていくことができるだろう。

CoEメンバーに求められる能力とスキル

一方、エグゼクティブスポンサーの獲得と併せて、CoEのリーダーは、CoEを構成する人材を集めなければならない。CoEのメンバーとして必要な人材は以下のとおりだ。

  1. マーケティングを理解している人
  2. 自社のビジネスを理解している人
  3. データに基づきマーケティング上の効果や間違いを正しく評価できる人
  4. クリエイティブ系の人材(デザイナー/制作プロデューサー)
  5. ITの技術/プラットフォームに関する知識を持つ人(開発者/ITエンジニア)

これらの人材は、デジタルマーケティングの施策立案から遂行、検証/改善に至るPDCAサイクルを回していくうえで必要とされるピースである。

とはいえ、上記の能力/スキルを持った人材がすべて社内に存在しているとは限らない。とりわけ、Webサイトのデザイン/構築/運用の実務を外部に委託してきた企業の場合、クリエイティブ系のスペシャリストが社内にいないのが一般的だ。このような場合、外部の企業に協力を仰ぎ、CoEの足りないピースを外注によって補う必要があり、実際にそうしている企業も多くある。ただし、デジタルマーケティングの施策は、仮説検証のサイクルを高回転で回すことが強く求められる。その観点から言えば、CoEのメンバーはすべて社内のスタッフで固めて、プロジェクトを迅速に回せるようにすることが理想である。

とにかく第一歩を踏み出す

CoEを組織し、デジタルマーケティングを推進するうえでは留意すべきことがもう1つある。それは初めから完璧さや大きな成功を追求せず、とにかく何らかの施策に早期に着手し、デジタルマーケティングの第一歩を踏み出すことだ。

デジタルマーケティングはあらゆる企業にとって新しいチャレンジであり、答えのない中で正解を探し当てる取り組みと言える。したがって、戦略やプランの完璧さを追い求め、その策定に長い時間を費やすのは得策ではない。大切なのは、実際の施策にいち早く着手し、失敗と成功の繰り返すことだ。それを通じてより経験やノウハウを積み上げていくことが、のちの競争力につながっていく。

同様にCoEの体制についても、かたちにこだわる必要はなく、部門横断型の小規模なプロジェクトチームで初めの一歩を踏み出すのも有効と言える。事実、デジタルマーケティングに成功している企業の中には、小さな勉強会からデータマーケティングの取り組みを始動させたところもある。

LOHACOの成功に学ぶ

最後にもう1つ、組織的な強化でデジタルマーケティングを成長の原動力にしている事例を紹介したい。それは、日用品のECサイト「LOHACO(ロハコ)」のケースだ。

アスクルとYahoo! JAPANの提携によって生まれたLOHACOは2012年10月のサービス開始以来、急成長を続け、サイト累計利用者も2015年7月時点で200万人を突破している。

そんなLOHACOでは、デジタルマーケティングチームとデータ分析チームを一体化させた組織がデータ駆動型のマーケティングを推進している。具体的には、このチームがサイト上の顧客行動を徹底的に分析しながら、施策のPCDAサイクルをスピーディに回し、同社の急成長を支えているわけだ。また、「自由」「オープン」「共創」をキーワードにアスクルが設置した「ECマーケティングラボ」の参加企業にもデータを公開し、商品開発などへの利用を促している。

デジタルマーケティングチームとデータ分析チームから成る組織は、LOHACOのデジタルマーケティングを支えるCoEと言えるが、LOHACOの立ち上げ当初から、このような組織が存在していたわけではない。以前は、商品系部門とIT部門、サイト運営部門がデジタルマーケティングを分担して担っていた。その後、データ駆動型のマーケティングを強化すべく、より適した組織のあり方を模索する中で今日の体制にたどり着いたという。

LOHACOの場合、トップマネジメント自体がデータに強い関心があり、データ駆動型のマーケティングの推進や組織作りは、そうした経営トップの意向/要求に沿うためのものでもあった。そうしたデータ重視の経営トップの考え方/姿勢は現場の隅々にまで波及し、LOHACOのすべてのスタッフが日々データをチェックし、それに基づき顧客へのアクションを決めている。

このような企業文化の定着/醸成には、経営トップの姿勢のみならず、データ駆動型のマーケティングが上げてきた成果も多分に影響している。

例えば、サイト内検索の「ゼロ件検索」を確認したところ、多くの顧客がLOHACOにまだ入荷されていない商品を探している事実を突き止めた。この結果を受けて当該の商品をトライアル導入したところ、今ではサイトでも上位に入る人気商品となったという。それ以降、LOHACOでは「ゼロ件検索」の定期確認フローを実施するようになった。

このように、CoEが中心となって、データをさまざまな確度から分析して仮説検証のPCDAを回し、実績を積み上げていく。またそれによってデジタルマーケティングを洗練させていく──そんなアプローチが、デジタルマーケティングの成功には不可欠だと言えよう。

安西敬介

アドビシステムズ
グローバルサービス統括本部 コンサルティング サービス本部 DMSコンサルティング部 シニア コンサルタント
安西敬介 (@ank

2001年に国内大手航空会社のシステム子会社に入社後、コンテンツディレクターとしてサイトリニューアルなどを手掛ける。その後、同社内のマーケティング戦略立案支援、ウェブ解析の導入・活用促進に携わった。2008年にオムニチュア入社(現アドビ システムズ)。2009年アドビ システムズによる買収にともない現職。エンドユーザーとしての経験を活かし、現在は企業のオンラインマーケティングを成功に導くためのコンサルティング業務を担当している。


UNITE編集部


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